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万華鏡皇華園_01:美邏迷光-Villa Straylight- AM02:11

■美邏迷光-Villa Straylight- AM02:11

部屋の隅でふたつ重なる洒落たレトロ・テレヴィジョンの半分には、どろりと引き伸ばされたような陶酔感に溢れる音楽と共に、ひたすら荒いドットで描かれた熱帯魚が右往左往に泳いでいる。
もう片方は安宿にありがちなアドバタイズ・モニタで、消すことの出来ない広告を延々と垂れ流している。
そのふたつの光源に照らされて、ベッドの上では大きな肉の塊が乱暴に縺れていた。

厚い舌を絡ませ、獲物の身体をその重量で捩じ伏せ、猛る自身を埋め込みながら、まるで脈動する器官の如く生々しい反復を幾度も繰り返す。
ふたりは行きずりの関係で、この場所ではそう珍しい事でもない。
彼はそういう関係を、行き場のない感情を発散する対象を求めてこの場所を訪れていたし、その為にこの肉体を“買った”。
そして誘われるがままにこの部屋を訪れ、求めるがままにひとつになった。
そして事が済めば別れるだけの、そういう関係だった。



アレックスは汗でぬらつく身体をそのままベッドに投げ出し、ただ天井をぼんやりと見つめながら下腹部に残る余韻を味わっていた。
牛頭鬼(ミノタウロス)型の屈強な肉体(アバター)はこの界隈では受けが良いようで、隣に寝そべる男も彼の肉体目当てで近づいてきたのは事実だった。
アレックスもそれとわかってこの男と身体を重ね、その体内にしっかりと欲望を吐き捨てた。
なのにアレックスの胸中には、その充足が得られるほど、不思議と空虚な隙間が空いたようなむなしさが込み上げてくる。

少なくとも、現実(Boot)では得ることの叶わなかった充足であるはずなのに。
この場所では、望みが概ね叶うようになっている。
そのための仮想現実(Intervarse)であり、そのためにアレックスはここに居る。
だが、飽くまでもここが擬似的に作られた認識空間でしかないと言う事実を、アレックスはまだ捨て去る事が出来ない。
それさえ忘れることが出来たら、この胸の空虚は埋まるのだろうか。

ただ、どろりと陶酔した音楽だけが、その胸の虚ろを通り過ぎていた。



はじめは、プレイボーイを気取るのに抵抗は無かった。
そのためにアレックスは、そこそこの貯金を切り崩して、この肉体(アバター)を手に入れたのだから。

現実でどれほど努力しても、理想との溝は深まるばかりだった。
アレックスが望む、何不自由無く欲望を満たせるような姿かたちは、こうでもしなければ手に入らなかった。
なのに今、アレックスは欲望を自由に満たすことが出来るのに、満たされるほどに空虚になっていくのだ。

その胸の虚ろを埋めるために、滞在中、彼は行きずりのセックスを幾度となく繰り返した。
この肉体はその望みに十分答え、望む者全てとあらゆる繋がりをもたらした。

なのに、何故。

胸中の淋しさ抑える様に、自らの胸板に指を這わせる。
理想の肉体。
現実ではまず骨格から取り替えなければ叶うことのない、分厚い肉の鎧。
自分がそれを纏っている、それを確かめるように、筋肉の隆起に併せて指を滑らせていく。
即物的な欲望が再び胸の虚ろの中に灯り、下腹部に熱が集まってゆく。
そして、まるで自分のものと思えぬ自身を愛でながら、その淋しさを慰める。
結局のところ、その快楽はひとりでもふたりでも同じことのように感じられた。
無論、ふたりが三人四人と増えようと、同じなのだろう。

小さく声が漏れると共に、絶頂が訪れた。
その後は、やはり空虚だった。

アレックスは、汚れた指を胸板で乱雑に拭い、顔を覆う。
行きずりの相手は、目覚める様子もなく背を向けている。
そして、事が済めば、知らぬ間に消えているのだ。

ここは、そう言う世界なのだ。


最終更新:2021年01月07日 03:48