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万華鏡皇華園_02:DREAM CYCLE ROTATION

――今、世界に対して、人類は増えすぎてしまった。

資源の枯渇だとか、経済の均衡だとか、理由付けはいくらでも出来た。
それよりも遥かに問題だったのは、人間同士の摩擦だった。

もはや、理由は何でも良かった。
器に注がれる水の量には限りがあるように、人々は自らの存在を保つために他者を蹴落とすしかなくなってしまった。
過去を遡れば、長引く紛争も社会構造の変化も、ある視点ではこの状況の予兆だったと言うものも居た。

望むものは行き渡らなくなった。
低きより高きへ、何もかもが流れていた。
誰も彼もが行き場を失い、立場を失い、付和雷同するようになった。
そうすれば自ずと、あらゆる物事が退廃的な宗教のような様相を呈するようになった。

いくつかの国家が滅び、国の名前が減った。
それでも、人々は減らなかった。
難民たちに職は無く、命とカネの均衡は崩れかけている。

奇しくも、時代は合法的に口減らしを行う方法を編み出していた。



――インターバース(Intervarse)。
仮想現実を直接意識に送り込む技術が完成し、ヒトの精神をひとまず仮想の世界へ疎開させる。
人々は、一年の約半分を仮想現実で過ごすことを義務付けられた。
人類の総数を三分割し、ローテーションで現実と仮想現実とを行き来する。
処置は非常に簡単で、対象者は事前に旅行代理店への予約よろしく希望のワールドへのチケットを持参し、最寄りのプロバイダセンターを訪れる。
簡単な手続きを済ませ、個室に通された後は、指示の通りに衣服を脱ぎ、ベッドに横たわる。
やがて麻酔ガスで眠ってしまい、次に気づいたときにはすでに仮想現実世界のホテルの一室だ。

その間、意識の無い肉体はベッドごとカプセルに入り、ナノマシンに満ちた保護ゲルの中で保全される。
そしてプロバイダセンターの最奥にて、立体駐車場の如く整然と収まったまま約一ヶ月間を過ごす。
トリップを終えた対象者が次に目覚める時には、センターのリカバリールームのベッドの上だ。
そこで長くて三日ほど仮想現実とのギャップを埋めるリハビリテーションを経て、また現実の世界へ帰ってゆく。

この施策の為に、仮想現実世界はなるべく享楽的に作られた。
現実世界での摩擦、摩耗を抑えるために。
そしてなにより。

“仮想現実という理想郷に手が届く”という幻想こそが、その時代をやり過ごす為に必要だったのだ。



――今や、仮想現実をバーチャル・リアリティと呼称することはナンセンスとされている。
人々にとって、インターバースは“現実のひと側面”として認知され、それは最早ひとつのリアルであるからだ。
あるスラングでは現実世界を自らが“起動”した側の現実という意味合いでブート(Boot)と呼んでいる。

人々にとって、現実(Boot)は今や、次のインターバース・サイクルでより良い想いを“買う”為に、産まれ持った肉体を引きずって労働する場所でしかない。
人々は、次の幸福の為に新たな経済を回し続ける。

こうして人々は、長らく失っていた“大きな物語”を再び手に入れたのだ。


最終更新:2021年01月07日 03:48