一日目
ヴィヴァージュ邸 執務室
ビシュナル「あ、姫……!」
ビシュナル「その、おち、おち着いて、き、きき、聞いてもらいたいんですけど……!」
フレイ「……まずは
ビシュナルくんがね。」
ビシュナル「え!?あ、そ、そっか……。」
ビシュナル「そ、それで、その……。」
ビシュナル「もしかしたら……。」
ビシュナル「……王子交代の件が、バレてしまったかもしれません。」
フレイ「え……!?」
ビシュナル「町にも王国からの調査員が送られてくるかもしれないとか……。」
ビシュナル「あ!あくまでウワサですよ?」
ビシュナル「ただ、
アーサーさんの様子もおかしいみたいですから……。」
フレイ「
アーサーさんが?」
ビシュナル「はい。」
ビシュナル「まとまりかけていた商談を、急に取りやめてしまったり、」
ビシュナル「そのせいか、色々なウワサも広まり始めてるみたいで……。」
フレイ「ウワサ?」
ビシュナル「
アーサーさんが、実は側室の子だとか、」
ビシュナル「彼がセルフィアに来たのは、その母親とも関係があるだとか。」
フレイ「…………。」
ビシュナル「なにがどこまで本当なのかはサッパリですけど、」
ビシュナル「王都から調査員が来ている可能性も考えて、」
ビシュナル「しばらく、目立つ行動はひかえた方がよさそうですね!」
フレイ「……そうですね。」
ビシュナル「いまさっき、伝言は残しておきましたけど、」
ビシュナル「念のため姫からも
アーサーさんにお伝え頂けますか?」
フレイ「分かりました。」
ビシュナル「助かります。」
ビシュナル「それでは、よろしくお願いしますね!」
アーサーが執務室に移動後話しかける
「…………。」
フレイ「
アーサーさん?」
「フレイさん?どうして……。」
フレイ「何を見てるんですか?」
「あ、これは……。」
フレイ「――メガネ?」
「……はい。」
「以前、あなたに見つけていただいたメガネですよ。」
フレイ「ああ、あのときの……。」
「…………。」
「今だから白状しますが、」
「実はあの時から、あなたのことが気になりはじめたんです。」
フレイ「え……?」
「ふふ。二度は言いません。」
「ところで、フレイさんはどうして私の部屋に?」
フレイ「あ……そうだった。
ビシュナル君からの伝言があって。」
「ああ、ウワサの件ですね。それなら心配ありませんよ。」
フレイ「そう……なんですか?」
「はい。」
「それより、珍しいお茶が手に入ったんです。
「フレイさん。明日の予定はどうなっていますか?」
フレイ「え?えっと……。」
「よろしければ、私の家で、一緒にお茶でもしましょう。」
いいですね・明日は用事があるので
▼いいですね
「ふふ。よかった。」
「では、明日になったら、私の家に来てください。」
「楽しみにしていますから。」
▼明日は用事があるので
「そうですか……。」
「では、またお時間が空いたときにご一緒しましょう。」
「明日は私の家でお茶をしましょう。」
「楽しみにしていますからね。」
二日目
ヴィヴァージュ邸 執務室
「ああ、フレイさん。お待ちしていましたよ。」
「では、こちらにどうぞ。」
フレイ「……ということがあったんです。」
「それは面白そうですね。」
(じーっ)
フレイ「あと、他にはですね。」
「はい。」
(じーっ)
フレイ「…………。」
「…………。」
(じーっ)
フレイ「あの、
アーサーさん?」
「はい?」
フレイ「あの、私の顔に、何か付いてますか……?」
「ああ、いえ、そんなことはないですよ。」
「ただ、ちょっと見とれていたみたいですね。」
フレイ「え……?」
「ところでフレイさん。このお茶、どう思いましたか?」
いい香りですね・独特の風味ですね
▼いい香りですね
「気に入っていただけたようで何よりです。」
▼独特の風味ですね
「ええ、めずらしいものなんですよ。」
フレイ「でもなんだか落ちつきます。」
「そうですか。」
「気に入っていただけたようで何よりです。」
フレイ「はい。」
「では、その気持ちをもっと多くの人と共感できるとしたら、どう思います?」
フレイ「え?」
「自分がステキだと思うものを、より多くの人に広めること。」
「交易というのは、本来、そういうものだと思うんですよ。」
「実はこのお茶も、新しい取引先のものなんです。」
「親子二人で、たんせいこめて作った自慢の一品だそうで。」
「とても気に入ったので、ぜひ、あなたにもと思いまして。」
フレイ「そうだったんですか。」
「はい。」
「色々な人に、気持ちを共有させること。」
「より多くの人を想像すること。そして、より多くのものと出会うこと。」
「様々な国の、色々なものを見て、折々にその文化にふれ、」
「そうして私たちは、世界を想像するんです。」
「次は何を買おうか。どれを誰に売り出そうか。」
「私たちは、ものを通して、人の心に触れていく。」
「いや、自分の心に、世界を近づけているのかもしれません。」
フレイ「自分の心に、世界を……?」
「はい。」
「だから、どれだけ多くの人が、その商品を手に取ってくれるのか。」
「言葉や雰囲気を作り出して、相手の興味を引くことができるか。」
「それが、とても大事なことなんですよ。」
「興味を引くということは、それだけ魅力があるということですから。」
「興味があれば、もっと知りたいと思うはずです。」
「そうでしょう?」
フレイ「なるほど……。」
「だから、」
「私もあなたのことを、もっと知りたいと思うんです。」
フレイ「え……?」
「ダメですか?」
フレイ「あ、いえ……。」
「よかった。」
フレイ「…………。」
フレイ「じゃあ、私にも教えてもらえますか?」
フレイ「……
アーサーさんのこと。」
「ええ、モチロンです。何でも聞いてください。」
フレイ「えっと、それじゃあ……。」
王子様ってどんな感じですか?・メガネについて教えてください
▼王子様ってどんな感じですか?
「王子、ですか?」
フレイ「はい。」
「そうですね……。」
「実は自分が王子だということはあまり意識したことがないんですよね。」
「この国のことも、あなたに任せてしまいましたしね。」
フレイ「あはは。そうでしたね……。」
「昔から、王子らしくないと、兄弟にもよくしかられていました。」
フレイ「兄弟というと、他の王子さまたちに?」
「はい。」
「みな、いい方ばかりですよ。」
フレイ「そうなんですか。」
「でも、私はたぶん、王子という立場がいとわしいのです。」
フレイ「え……?」
「とにかく、」
「私に王子らしさは期待できないということですよ。」
フレイ「えっと、自分で言っちゃうんですか?」
「はい。自分で言っちゃうんです。」
「さて、他に質問はありませんか?」
▼メガネについて教えてください
「メガネがどうかしましたか?」
フレイ「いえ、どうしてそんなにメガネが好きなのかなって……。」
「それは……。」
「…………。」
フレイ「
アーサーさん?」
「やめておきましょう。」
フレイ「え?」
「この理由を話したら、私がもだえ死んでしまいますので。」
フレイ「もだえ……え?」
「さて、他に質問はありませんか?」
選択肢追加
▼家族のことを教えて下さい
「え……?」
フレイ「
アーサーさんの、家族の話が聞きたいなって。」
フレイ「私には、その、そういう記憶がないので……。」
「…………。」
「知っての通り、父はノーラッドの国王ですよ。」
フレイ「あ、そうでしたね。じゃあお母上も……。」
「いいえ。私に母親はいません。」
フレイ「え……?」
「ジョウダンですよ。」
「ああ、すみません。そろそろ仕事に戻らないと。」
フレイ「あ……。」
「今日は本当に楽しかったです。」
「よろしければ、また付き合ってくださいね。」
「それでは。」
フレイ「
アーサーさん……?」
「今日は本当に楽しかった。」
「よろしければ、また付き合ってくださいね。」
フレイ「あの、
アーサーさん――」
「それでは。」
飛行船通り
キール「え?
アーサーさんのこと?」
怪しい旅人「ええ。教えてくんないッスかね?」
キール「いいけど、どうしてそんなこと聞くの?」
怪しい旅人「いや、どうしてって……。」
怪しい旅人「ほら、ここらじゃちょっと有名な人なんでしょう?」
怪しい旅人「『貿易商』として。」
キール「そりゃあ――」
フォルテ「
キール!」
キール「あれ?お姉ちゃん。」
フォルテ(しばらく
アーサーさんのことは、町の人以外の人に話したらダメだ。)
キール(なんで?)
フォルテ(いいから!たのむからたのむ!!)
キール(お姉ちゃん、言葉がおかしいよ?)
フォルテ(う、うるさい!)
怪しい旅人「あのー……。」
フォルテ「すみませんが、私たちはこれで失礼しますね。」
怪しい旅人「あ、ちょっと!」
怪しい旅人「あの、すんませんッス。」
怪しい旅人「貿易商会の
アーサーさんって……。」
知らないです・わかりません
▼知らないです・わかりません
怪しい旅人「そうッスか……。」
フレイ「その人がどうかされたんですか?」
怪しい旅人「ああ、いや、知らないならいいッス。」
フレイ「…………。」
フレイ(
アーサーさんに、しらせたほうがいいかな……。)
フォルテ「
アーサーさんのことで、王都から調査員が来るという話は聞いています。」
フォルテ「おそらく、あの旅の男が……。」
フレイ「…………。」
フォルテ「なんとかこのまま、ごまかしきれるといいのですが……。」
はい・いいえ
うそだよ・だめだよ
セルフィア広場
フレイ「
アーサーさん。」
「フレイさん。どうしました?」
フレイ「町で
アーサーさんのことを、聞き回ってる人を見たんですけど……。」
フレイ「もしかしたら、例の調査員の方かもしれません。」
「その方はどちらに?」
フレイ「もしかして、会いに行くつもりですか?」
「はい。少し聞きたいことがありますので。」
フレイ「じゃあ私も――」
「いえ、私一人で十分ですから。」
フレイ「でも……。」
「大丈夫ですよ。心配しないで下さい。」
フレイ「…………。」
フレイ「あの、
アーサーさん。」
「はい。」
フレイ「その……。」
あなたのことを信じてますから・私の事を信じてますか?
▼あなたのことを信じてますから・私の事を信じてますか?
「え……?」
フレイ「あ……。ご、ごめんなさい。突然。」
フレイ「でも、
アーサーさん、全部自分一人で解決しようとして、」
フレイ「私にはなにも相談してくれないから。」
フレイ「なんだか、それが、ちょっとモヤモヤして……。」
フレイ「だから、せめて私の気持ちを伝えておきたいなって。」
フレイ「……そう思ったんです。」
「…………。」
「『人間なんて信用するものじゃない』」
フレイ「え?」
「私の母が、私を捨てる時に言い残した言葉です。」
フレイ「捨てるって……。」
「くわしい話は、また今度にしましょう。」
「それより、フレイさん。一つ伝言をたのまれてくれますか?」
フレイ「伝言?」
「
ビシュナル君に。作戦開始だと伝えてください。」
フレイ「へ……?」
「それでは、よろしくお願いします。」
「
ビシュナル君に。作戦開始ですと伝えてください。」
「よろしくお願いします。」
▼忙しそうだね
ビシュナル「はい。ちょっとお仕事が立て込んじゃってて……。」
ビシュナル「あ、すみません!急がないと!」
ビシュナル「それじゃあ、また!」
▼
アーサーさんから伝言なんだけど
ビシュナル「
アーサーさんから?」
主「はい。『作戦開始です』って。」
ビシュナル「あ、はい!分かりました。」
主「ねえ、作戦って……。」
ビシュナル「さあ?なんなんでしょう。」
主「え?」
ビシュナル「僕も詳しくは聞いてないんです。」
ビシュナル「ただ、この手紙を
フォルテさんに届けるように頼まれてます。」
主「手紙?」
ビシュナル「はい。」
ビシュナル「でも、まだ仕事が残ってて……。」
主「じゃあ、私が代わりに届けてこようか?」
ビシュナル「本当ですか!?」
主「うん。」
ビシュナル「助かります!じゃあよろしくお願いしますね!」
うん・いや
▼うん
ビシュナル「よろしくお願いします!」
▼いや
ビシュナル「ええ!?」
フレイ「ゴメン。ちょっとからかってみたかっただけ。」
ビシュナル「もう……。」
ビシュナル「それじゃあ、よろしくお願いしますね!」
フォルテさんへ
埋まった洞窟前まで、犯人を追いかけてきます。
フォルテさんも準備ができ次第、合流して下さい。
マーガレット「犯人って……。」
フォルテ「何を考えてるんだ!?」
マーガレット「うわあ!?」
フォルテ「犯人というからには、凶暴な相手に違いありません!!」
フォルテ「とにかく、すぐに後を追わないと!」
フレイ「ま、待って!」
フォルテ「なんでしょう?」
フレイ「私も連れて行ってください!」
フォルテ「…………。」
フォルテ「分かりました。」
フォルテ「ですが、私のそばを離れないようにお願いします。」
フレイ「うん、分かった!」
フォルテ「どうして埋まった洞窟前になんて……。
フォルテ「とにかく、急ぎましょう!城を出て、東に向かいます!」
聞かない・聞きたい
▼聞かない
マーガレット「そんなの聞かなくても、信用してるって顔だね!」
フレイ「え!?そ、それは……。」
マーガレット「なんかいいなあ。そういうのって。」
フレイ「…………。」
▼聞きたい
マーガレット「すごく優秀な人で。」
マーガレット「でも鼻にかけてなくて、いつもおだやかで、」
マーガレット「けど甘いわけじゃなくて、すごくしっかりしてて頼りになるし、」
マーガレット「一緒に仕事ができるのが本当にほこらしいってさ!」
フレイ「そ、そっか……。」
マーガレット「でも、メガネに対する態度はちょっとどうかと思うって。」
フレイ「……そ、そっか。」
埋まった洞窟前
「く……っ!」
フレイ「
アーサーさん!」
戦闘
怪しい旅人「あわわわ……!」
アーサー「すみません、この場をお願いします。」
アーサー「私はこの人を見張ってないといけないので。」
フレイ「大丈夫ですか!?
アーサーさん。」
「はい。大丈夫です。」
「でも驚きました。フレイさんも一緒だなんて。」
フレイ「え?」
フォルテ「
アーサーさん!」
フォルテ「どうしてこんなことになってるのか……。」
フォルテ「ご説明いただけますよね?」
「ええ。もちろんです。」
怪しい旅人「ひ!?」
「この人と少しお話したあと、町の前で別れたフリをして、」
「その後をつけてみたところ、この場所にたどりつきました。」
怪しい旅人「…………。」
「それから、彼は突然、ハンマーを取り出して、」
「どうくつのかべを思いっきりたたいたんです。」
フォルテ「……は?」
「その結果。」
「その音に驚いて出てきた
モンスターに囲まれてしまって、」
「まあ、あとは見ての通りですね。」
怪しい旅人「…………。」
「フレイさんこそ、どうしてここに?」
フレイ「私は……、」
フレイ「……
アーサーさんのことが心配で、何か少しでも手伝えることはないかなって。」
「私のために、ですか?」
フレイ「……はい。」
「どうして?」
当たり前じゃないですか・……分かってください
▼当たり前じゃないですか
「え?」
フレイ「大事な人の力になりたいって思うのは、」
フレイ「普通のことじゃないんですか?」
▼……分かってください
「え?」
フレイ「恋人、なんですから、それくらい……。」
「……?」
フレイ「だ、だから……。」
フレイ「大事な人の力になりたいって思うのは、」
フレイ「普通のことじゃないんですか?」
「あ……。」
「なるほど。」
「言われてみれば、当たり前のことですね。」
「でも、なんででしょう。」
「あなたが私を心配してくれて、」
「……なんだか、とても嬉しいです。」
フレイ「
アーサーさん……。」
「フレイさん……。」
フォルテ「……こ、こほん。」
フレイ・
アーサー『あ……』
フォルテ「そ、それで、話を戻したいのですが……。」
「そ、そうですね。」
フレイ「あはは……。」
フォルテ「えーと、話をまとめますと……。」
フォルテ「その旅の方が、急にどうくつのかべをたたいたと。」
フォルテ「ハンマーで。後先考えずに。」
フォルテ「その結果、
モンスターに囲まれていたということですね?」
「はい。」
怪しい旅人「うぐ……。」
「それで結局、あなたはなにをするつもりだったんですか?」
怪しい旅人「…………。」
怪しい旅人「ちょっとだけ、入り口をこわすつもりだったんス。」
「何のために?」
怪しい旅人「そ、それは……。」
「聞くまでもないですよね。」
「あなたが私に売った情報を、でっち上げるためだ。」
従業員「う……。」
フォルテ「どういうことですか?」
「彼の売り物は『情報』なんです。」
「私も、いまさっき、彼から情報を買いました。」
「このどうくつが、近いうちにくずれるかもしれないと。」
「その後、彼はなぜか、この場所に来たわけです。」
「ハンマーを片手に。」
フォルテ「まさか……。」
従業員「…………。」
「では、もう一つ確認させてください。」
「数年前、ここで起きたラクバン事故。あれもあなたのしわざですか?」
従業員「そ、そんなわけないッス!」
従業員「オレはただ、情報を売ろうとして、それで……。」
「ウソの情報を売りつけた後、真実をでっちあげていたと。」
従業員「うぐ……。」
フォルテ「……許せませんね。」
従業員「あ、アンタら交易商人だって、同じじゃないッスか!」
フレイ「え……?」
従業員「アンタらは、商品のウワサを、金とコネで流しまくって、」
従業員「とにかく自分に都合の良い商品だけを売りつけようとしやがる!!」
従業員「オレのやったことと、アンタら交易商人のしてることと、」
従業員「どこが違うっていうんッスか!?」
「…………。」
従業員「どんだけ良いものをつくっても、話題にならなきゃ売れやしない……。」
従業員「けど、その話題ってヤツを、商人がにぎっちまってる!!」
従業員「そうやって目先の利益ばかり考えるバカどものせいで……!」
従業員「オレの親父は……。」
従業員「オレの親父の畑は、すっかり荒れ果てちまったんだ!!」
従業員「だからオレは……。」
「……なるほど。」
従業員「今はもう、より良いものが売れるんじゃない!」
従業員「話題性を金で買ったものが売れる。そんな世の中になっちまった!!」
従業員「それをいいことに……。」
従業員「あんな値段で買いたたかれたら、生きてけるわけがねえッス!!」
「…………。」
従業員「どこが違うっていうんスか……。」
従業員「金とコネの力で、話題性ばっかり売ってるコイツらと……。」
従業員「そうやって情報をねじ曲げているコイツらと!どこが違うって言うんッスか!?」
フォルテ「そ、それは……。」
「まったく違いますよ。」
従業員「な……。」
「一番の違いは、買い手が満足しているかどうかでしょう。」
「少なくとも、今の私は、あなたの情報に満足していない。」
従業員「…………。」
「それに、一つ訂正させてもらいますが。」
「私は目先の利益のために、情報をねじ曲げたりはしません。」
従業員「え……?」
「商品はすべて、作る人間と買う人間が存在します。」
「その間に立って商売をするのが、私たち売る人間です。」
「ものを作れる人がいて、それをほしいと思う人がいて、」
「初めて商売は成り立つんです。片方だけでは意味がない。」
「だからこそ、」
「より多くの人に、その商品の価値を広めること、」
「ほしいと思った人に、適切な価値でその商品を渡すこと。」
「それこそが、私の考える交易のありかたです。」
フレイ「
アーサーさん……。」
「それと、もう1つ。」
「このお茶の葉、ご存じですよね?」
従業員「コイツは……。」
従業員「オレと親父が、あの畑で作ってた……。」
「すばらしい出来でした。今後、ウチでも取り扱わせてもらいます。」
従業員「でも、親父はもう、こんなもの作らないって……。」
「その取引相手から、伝言も預かっていますよ。」
従業員「え?」
「『もし、俺のバカ息子にあったら、どうか伝えてやってくれ』」
「『人出が足りないんだ。早く帰ってこい』――と。」
従業員「……!」
従業員「なんで……。」
従業員「あの時は、気づいてほしくても、誰も見向きもしなかったのに……。」
従業員「だからすべてを捨てて、こんなこと始めちまったっていうのに!」
従業員「なんで、今さらになって、こんなもの……。」
「良かったじゃないですか。」
従業員「え……?」
「過去のあなたが、今のあなたを止めてくれた。」
「あなたの努力はムダではなかった。」
「つまり、そういうことでしょう?」
従業員「…………。」
従業員「変わってるッスね、アンタ。」
「そうですか?」
従業員「…………。」
フォルテ「……さて。」
フォルテ「それでは、そろそろ町にもどりましょう。」
フォルテ「そこのあなたは城まで来て下さい。色々と説明してもらいますから。」
従業員「……はい。」
「私たちも行きましょう。」
フレイ「はい。」
「せっかくですから、手をつないで。」
フレイ「はい。」
フレイ「…………。……え?」
「ダメですか?」
フレイ「あ、いえ……。」
「じゃあ、はい。」
フレイ「…………。」
セルフィア:広場
フレイ「……あの、
アーサーさん。」
「なんでしょうか?」
フレイ「どうして
ビシュナルくんに、あんな手紙を渡したんですか?」
「先ほどの話ですね。」
フレイ「はい。」
「あれは単なる時間かせぎです。」
フレイ「え?」
「
ビシュナル君は真面目ですから。」
「彼にお願いしておけば、絶対に届けてくれるだろうと思いまして。」
「手紙の内容も同じです。」
「
フォルテさんなら、アレを見たらかけつけてくれると考えていました。」
「私が彼の犯行をおさえた、ちょうどいい頃にね。」
フレイ「それって……。」
フレイ「最初から全部、計画通りだったということですか?」
「はい。」
「あとは、彼がすぐに犯行に及ぶようにうまく誘導しただけです。」
フレイ「どうしてそんな回りくどいこと……。」
「…………。」
「私はただ、直接、確かめたかったんです。」
「あの日、あの時、なぜ、ラクバン事故が起きたのか。」
「私が母との
思い出を確かめようとしたあの時に限って。」
フレイ「え……?」
「ウワサには聞いているかもしれませんが、」
「私は正妻の子ではなく、側室の子供なんです。」
フレイ「そくしつ……?」
「兄弟の王子たちとは、別の母親の子供ということです。」
「そして母は、私を置いて姿を消した。」
「『人間なんて信用するものじゃない』」
「そんな言葉を残してね。」
フレイ「そんな……。」
「もちろん、あんな人を母親だとは思っていませんが、」
「あの人が、どんなつもりで、そんな言葉を残したのか、」
「それだけは、ずっと気になっています。」
フレイ「…………。」
「だから、今回の事件は、自分の目と耳で確かめたかった。」
「あのどうくつにあったかもしれない真実を閉ざしてしまったあの事故に、」
「あのラクバン事故に、何か関係しているかもしれないと思ったから……。」
「いや、あるいは……。」
「ただ、本当の親子のキズナというものを、思いしりたかったのかもしれません。」
フレイ「…………。」
「ともかく、色々とご心配をおかけしました。」
「でも、これで事件は解決です。」
フレイ「え?」
「どうしました?」
フレイ「いや、まだ王子交代の件が――」
「ああ。」
「町に調査員が入っているという、あのウワサの件ですね。」
フレイ「はい。」
「気づきませんでしたか?」
フレイ「何がですか?」
「彼が名乗ってた職業。情報を売っているお仕事の名前です。」
フレイ「はい?」
「彼の仕事は『情報調査員』なんですよ。」
「王子のことではなく、その地域のことを調べる人。」
「だから、彼も同じ『調査員』なんです。」
フレイ「じゃあ、あのウワサって……。」
「ふふふ。」
フレイ「もうっ。心配して損しちゃいました。」
フレイ「交代の件が原因で、
アーサーさんが連れ戻されちゃったらって……。」
「あはは。すみませんでした。」
「でも……。」
「……もしそうなったら、あなたは悲しんでくれますか?」
フレイ「え……?」
「なんて、ちょっと聞いてみただけです。」
フレイ「
アーサーさんっ!」
「ふふ。」
フレイ「本当に心配してたんですからね!」
「ええ。心配させてたんですね。」
「……ありがとう。」
フレイ「そこは『ごめんなさい』です。」
「そうでしたね。うれしかったので、つい。」
フレイ「もう……。」
「すみません。でも……。」
「…………。」
フレイ「どうしました?」
「いえ。」
「ありがとう。フレイさん。」
フレイ「どういたしまして。」
「ありがとう、フレイさん。」
「こんな気持ちになれたのは、あなたのおかげです。」
三日目
3日後 執事の部屋
「あれから、父からの手紙は届きましたか?」
ヴォルカノン「いえ……。」
「そうですか。」
「みなさんにだまっているのも、さすがに限界ですよね。」
ヴォルカノン「……そうですな。」
ヴォルカノン「ですが、本当にいいのですかな?」
「なにがですか?」
ヴォルカノン「王都に帰られるという話です。」
フレイ「え……。」
「私には、どうしてもやりとげたいことがあるんです。」
ヴォルカノン「お母君のことですな。」
「…………。」
「あの人は関係ありません。」
ヴォルカノン「そうでしたな。」
ヴォルカノン「ですが、姫のことは、どうするおつもりですかな?」
「それは……。」
「フレイさん……。」
ヴォルカノン「なんと……。」
「…………。」
フレイ「あの、
アーサーさん――」
「……すみません。仕事がありますので、これで。」
フレイ「あ……。」
フレイ「…………。」
執務室 ムービー
フレイ「
アーサーさん……。」
「…………。」
「……あなたが見つけてくれた、このメガネ。」
フレイ「え?」
「実はこのメガネ、一度もかけたことがないんですよ。」
フレイ「そう……なんですか……。」
「でも、こんなボロボロのメガネを、捨てる気にもなれない。」
「……どうしてだか分かりますか?」
メガネが好きだから・特別なものだから・分かりません
▼メガネが好きだから
「レンズの壊れたメガネは、もうメガネではありませんよ。」
「でも……、このメガネは捨てられない。」
「なぜなら、」
「このメガネが、私の母のものだからです。」
▼特別なものだから
「そうです。」
「特別な物なんです。……残念なことに。」
フレイ「え?」
「なぜかと言えば、」
「このメガネが、私の母のものだからです。」
▼分かりません
「このメガネが、私の母のものだからです。」
フレイ「あ……。」
フレイ「…………。」
「もちろん、私は今でも、あの人のことが大キライです。」
「私には、あの人に抱きしめられた記憶がありませんから。」
「それどころか、にくまれていたと言ってもいい。」
フレイ「そんな……。」
「事実ですよ。」
「あの人は、いつも苦しそうな顔で、私を見つめていました。」
「その理由が分かったのは、何年か後のことですが。」
「側室だった母には、城の生活が苦痛だったようで、」
「『ここには私の居場所がない』と、よくこぼしていたそうです。」
「でも、何も知らなかった私は、城の生活に簡単に溶け込んで、」
「そして、私たちは、別々の場所で暮らすことになった。」
「母は城の外。私は城の中。」
「それが私たちの、親子の距離だったのです。」
フレイ「…………。」
「父は私に言いました。」
「それでも母は、私のことを愛しているのだと。」
「けれど、」
「しばらくして、私は母の本心を痛感することになった。」
回想
その日は、朝から雪が降っていました。
鉄格子の大きな門の外。
一台の馬車が止まって、そこから母が現れました。
母が呼んでいると聞いて、私は息を切らして石段を降りた。
はきだした息は白く、吸い込んだ空気は冷たくて、
それでも私は、雪景色の中を駆け抜けていった。
ただ、あの人に会いたくて。
鉄格子の内と外。
向かい合ったあの人は、ふと、つぶやいた。
「ああ、よく見えない・・・」と。
そして、鉄格子の間からのびた細い手が、私の顔に触れたとき。
呼気にかすむ景色の向こう。
メガネを外した彼女が、なぜか。
ひどく苦しそうな顔で、私をにらみつけていたから。
降りしきる雪の中。
その手の冷たさと、
その心にすむ、闇の深さを。
私は、思い知った。
「それからも、母は私の元に、たびたび顔を出しました。」
「いつも、どんなときでも、このメガネを外してね。」
「よほど私の顔が見たくないのだろうと城の誰もがうわさしていましたよ。」
「そして、」
「ついにあの人は、私の前から姿を消しました。」
「『人間なんて、簡単に信用するものじゃない』」
「そんな言葉を残してね。」
フレイ「…………。」
「それが、私の中にある母との記憶です。」
「そんな人が、私を愛していたと思えますか?」
「そんな人を、愛していたなんて言えると思いますか?」
「……言えるはずがないじゃないですか。」
フレイ「
アーサーさん……。」
「でも……、」
「そんな仕打ちを記憶していてなお、」
「あの母親のモノを、私は捨てられずにいる……。」
「……交易に興味を持ったのも、メガネを集め始めたことも。」
「全ては母の手がかりを追い求めてのことでした。」
「そして、今もまた、」
「私はそのために、城に戻りたいと思っている。」
「……あなたをこの町に残してでも。」
フレイ「…………。」
「……あとの話は
ヴォルカノンさんに聞いて下さい。」
「私は……少し、頭を冷やしてきます。」
フレイ「あ……。」
フレイ「
アーサーさん――」
「あとの話は
ヴォルカノンさんに聞いて下さい。」
「私は……少し、頭を冷やしてきます。」
町の人に話しかける
キール「
アーサーさんが、王都に帰るかもって……。」
キール「ねえ、フレイさん、本当なの?」
フレイ「…………。」
ダグ「誰かが国に帰るとかって話題になってるみたいだナ。」
ダグ「どこの旅人の話だヨ?」
ナンシー「あきらめるしかないことって、やっぱりあるのよね。」
ナンシー「子供でも大人でも、それぞれに、それぞれの理由で。」
ナンシー「でも……。やっぱり、つらいわ。」
バド「なんか色々とバタバタしてるみたいだなア。」
バド「もうけ話だったらいいけど、そんな感じでもないみたいだシ。」
フレイ「…………。」
▼
アーサーさん、王都に帰るの?
ヴォルカノン「今のところは、まだそうなると決まったわけではありません。」
ヴォルカノン「ただ、ご本人も、迷ってらっしゃるご様子ですな……。」
フレイ「…………。」
ヴォルカノン「
アーサー殿の考えは分りませんが、」
ヴォルカノン「国王様からの言葉なら、預かっておりますぞ。」
ヴォルカノン「なぜ、
アーサー殿を、王子として寄こしたのか。」
フレイ「え……?」
ヴォルカノン「『人を率いる者として、人を信用できる人間とするため』」
ヴォルカノン「『アレは母との過去にずっととらわれている』――と。」
フレイ「それって……。」
ヴォルカノン「国王陛下は、気づいておられたようですな。」
ヴォルカノン「
アーサー殿が、お母君の記憶にとらわれていたこと。」
ヴォルカノン「そのせいで、人を信用できないということに。」
フレイ「…………。」
ヴォルカノン「しかし、王子交代の件が知れてしまい……。」
ヴォルカノン「……いや、過ぎたことは、もう仕方がありませんな。」
ヴォルカノン「他に聞きたいことはございますかな?」
▼
アーサーさんの母親ってどんな人?
ヴォルカノン「吾輩も、詳しくは存じませんが……。」
ヴォルカノン「お姿を目にしたことなら、一度だけございますぞ。」
ヴォルカノン「たしか、流行のおまじないに興味を持たれてご来訪されたときでしたな。」
ヴォルカノン「陛下や、まだ幼い
アーサー殿と一緒にいらっしゃいましてな。」
ヴォルカノン「その時のお姿は、幸せなご家族にしか見えませんでしたぞ。」
ヴォルカノン「しかし……、それから数年後のことでしたか。」
ヴォルカノン「
アーサー様のお母君は、お一人で城を出られたと聞きました。」
ヴォルカノン「なんでも、自分の子供につらく当たり城を追いやられたとか。」
ヴォルカノン「イヤなうわさばかりが、耳に入ってきたのを覚えております。」
ヴォルカノン「吾輩には、とてもそのような方には見受けられませんでしたが……。」
ヴォルカノン「……実際のところは、吾輩には分かりませんな。」
ヴォルカノン「他に聞きたいことはございますかな?」
選択肢追加
▼おまじないって?
ヴォルカノン「ああ、家族円満とか、恋愛成就とか、確かそんなおまじないですぞ。」
ヴォルカノン「この地域に昔からあるもので、何年かに一度、流行するのです。」
ヴォルカノン「たしか、
アーサー殿のお母上が来られた後、十数年後にも流行っておりましたぞ、」
ヴォルカノン「あれはたしか……。」
ヴォルカノン「ああ、そうです。あのラクバン事故の時でしたな。」
フレイ「……!」
ヴォルカノン「あの時も同じようなおまじないが流行っておりましてな。」
ヴォルカノン「まぁ、そのウワサについてなら、我輩よりも
キールの方が詳しいでしょう。」
フレイ「……なるほど。」
ヴォルカノン「我輩の知っていることといえば、大体これくらいですが……。」
ヴォルカノン「……ううむ。」
フレイ「……?」
ヴォルカノン「……主が困っているのに、この程度しかお手伝いできないとは……。」
ヴォルカノン「……いやしかし、若者の問題に年寄りが口うるさく言うのも……。」
ヴォルカノン「……うぅぅうむ……っ!」
フレイ「あの、
ヴォルカノンさん……?」
ヴォルカノン「フレイ殿っ!」
フレイ「は、はい!」
ヴォルカノン「この
ヴォルカノン!フレイ殿の執事として……。」
ヴォルカノン「今はとにかく、色々とうまくいくように心から願っておりますぞ!!」
フレイ「え、えっと……。」
ヴォルカノン「それではっ!ご武運をお祈りします!!」
フォルテ「あ、フレイさん。」
フォルテ「そそ、その、
アーサーさんのこと、ええと……。」
フォルテ「……すみません。もう何がなにやら……。」
▼おまじないについて聞いてみる
フォルテ「え?おまじない?」
フォルテ「そういうことなら、
キールが詳しいかと思います。」
フォルテ「しかし……。」
フォルテ「……誰かを守ってこその騎士なのに、ふがいないです。」
シャオパイ「
アーサーさんの件、聞いたが。」
フレイ「…………。」
シャオパイ「キミの顔からするに、本当のようだな。」
▼おまじないについて聞いてみる
シャオパイ「おまじない?」
シャオパイ「ああ、確かに流行っていたぞ。」
シャオパイ「ワタシはそういうのに見離されてるから行ってないが……。」
シャオパイ「そういうものにでもすがりたくなる気持ちは分かるようだ。」
ビシュナル「その、
ヴォルカノンさんから、話は聞きました……。」
ビシュナル「あの、何とか……!何とか、ならないんでしょうか……?」
▼おまじないについて聞いてみる
ビシュナル「おまじないですか?」
ビシュナル「僕はちょっと聞いたことがないですね……。」
フレイ「そうですか……。」
ビシュナル「すみません。お役に立てなくて……。」
キール「あ、フレイさん。」
キール「どうしたの?」
▼おまじないについて聞いてみる
キール「町で流行ってたおまじない?」
キール「えっと、流行ってたのは、ラクバン事故が起きたころだね。」
キール「だったら、家庭円満のおまじないだと思うよ。」
キール「そこに名前を書いた人たちは、幸せな家族になれる――」
キール「そんなウワサが広まってて、当時はちょっと有名だったんだよね。」
キール「ボクは行ってないから、実物は見てないんだけど……。」
キール「たしか、
ポコリーヌさんは言ったことあるって聞いたよ。」
ダグ「おウ。フレイ。」
ダグ「……なんか、顔色わるいナ。大丈夫なのカ?」
▼おまじないについて聞いてみる
ダグ「おまじないって……。いや、オレに聞かれてもしらねえヨ。」
ダグ「そんなことより、
アーサーのヤツ、国に帰っちまうって本当なのカ?」
ダグ「オマエ、それでいいのかヨ?」
ダグ「いや、いいわけねえカ……。」
ジョーンズ「あのラクバン事故のとき……。」
ジョーンズ「あの時の
アーサーさんは、本当にひどいケガでしたよ。」
ジョーンズ「ギリギリまでどうくつに残っていて逃げ遅れたと聞きましたが……。」
ジョーンズ「そこまでして、見つけたいものがあったのかもしれませんね。」
リンファ「あらあら。なんだか町がさわがしいですね。」
リンファ「シャオちゃん、道の真ん中で倒れたりしてないですよね?」
▼おまじないについて聞いてみる
リンファ「おまじない?ラクバン事故の時に流行ってた?」
リンファ「そんなこともあったような、なかったような……。」
リンファ「でも、そういうお話は、バドさんが好きそうですよね?」
ポコリーヌ「おまじない?」
ポコリーヌ「ああ、メグと一緒にいきマシタ。なつかしいデスね。」
ポコリーヌ「あの頃にフレイさんもいたら……。」
フレイ「なにも変わらないと思いますけど。」
ポコリーヌ「アレ?」
ポコリーヌ「そういえば、王様がワタシのキッチンを訪ねてくれたのも、」
ポコリーヌ「そのおまじないのウワサを聞いたからデシタね。」
フレイ「え?」
ポコリーヌ「よーーく覚えていマス。」
ポコリーヌ「どこからか、例のおまじないのウワサを聞いたらしく、」
ポコリーヌ「家族で一緒に、ワタシのお店にいらっしゃいマシタ。」
ポコリーヌ「王サマと奥方サマ、それと和子(わこ)サマが一人。」
どんな感じでした?・和子(わこ)って?
▼和子(わこ)って?
ポコリーヌ「エライ人の子供は、そう呼ぶのデス。」
ポコリーヌ「ワタシもきのう知りマシタ。」
フレイ「…………。」
▼どんな感じでした?
ポコリーヌ「奥方様は、和子サマと、楽しそうにおしゃべりをして、」
ポコリーヌ「奥のタルに書かれた小さな文字を、どちらが多く読めるか競ったり、」
ポコリーヌ「遠くにあるピアノのふめんを和子様に読み聞かせたりと、」
ポコリーヌ「ワタシに負けないくらい、お茶目な方だったと記憶してマス。」
ポコリーヌ「そして、料理を食べ終えたお二人はワタシにこう言ったのデス。」
ポコリーヌ「『最後に素晴らしい食事が食べられて本当に良かった』と。」
フレイ「最後……?」
ポコリーヌ「ハイ。旅行の最後ということデショウ。」
フレイ「…………。」
ポコリーヌ「それにしても、本当に仲の良さそうなご家族デシタね。」
ポコリーヌ「もう、思い出すだけで胸キュンなのデス!」
フレイ「…………。」
バド「王都の知り合いどもに、お茶に誘われてるんだよなア。」
バド「もののついでだし、
アーサーの話を聞いてきてやるカ。」
フレイ「え?」
バド「昔の知り合いの集まりでナ。」
バド「城で働いてるヤツも多いし、ちょっとは話も聞けるだろウ。」
バド「ま、
アーサーのおかげで、前より楽に働けてるしなア。」
フレイ「バドさん……。」
バド「そんなわけだかラ。」
バド「あんまり期待せずに待っててくレ。」
フレイ「……はい。ありがとうございます。」
フレイ「……地震?」
バド「みたいだナ。」
バド「大丈夫だったカ?フレイ。」
フレイ「あ、はい。」
バド「まあ、こっちの地方は、たまに大きいのがあるんだヨ。」
バド「とりあえず、商品に防災グッズでも追加するかア。」
フレイ「…………」
アーサーに話しかける
フレイ「
アーサーさん……。」
「…………。」
フレイ「
ヴォルカノンさんから、話を聞いてきました。」
フレイ「小さい頃、
アーサーさんたちが、みんなでここに来てたって。」
フレイ「とても、仲がよさそうに見えたって。」
「…………。」
「……そうですか。」
フレイ「
アーサーさん。もしかして、
アーサーさんのお母さんは……。」
「……私も昔、あなたと同じことを考えました。」
フレイ「え?」
「だから、思い違いをしたんです。」
「もしかしたら母は、私のことを嫌いではなかったのかもしれないと。」
「それでも、あの人は私を愛していると。」
「私は信じていた。」
「……信じていたかったんでしょうね。」
フレイ「
アーサーさん……。」
「ラクバン事故の後、」
「あの暗闇の中に、真実がうもれてしまってから。」
「私は、どこかホッとしていました。」
「もう、真実を知る術はない。」
「もう、無理して確かめる必要はないと。」
「そして、」
「あの日から、見えなくなりました。」
「見えると信じていた、何もかもが。」
「……ずっと。」
フレイ「…………。」
「でも……。」
「あなたを見ていると、なぜか思い出してしまう。」
「あの日に忘れてきた、昔の自分のことを。」
フレイ「え……?」
「さて、と。」
「すみませんが、今日はもう休みます。」
「明日は早朝から仕事が入っていますので。」
フレイ「あ……。」
ヴォルカノン「……ふむ。」
ヴォルカノン「では、フレイ殿は、どうされたいのですかな?」
フレイ「え……?」
ヴォルカノン「誰かのために、何かをしてあげたいと思うのなら、」
ヴォルカノン「まずは自分がどうしたいのか、それを考えるといいですぞ。」
フレイ「私が、どうしたいか……?」
ヴォルカノン「そうです。」
フレイ「私は……。」
▼
アーサーさんと一緒に居たい・
アーサーさんの笑顔を見ていたい
ヴォルカノン「なるほど。」
ヴォルカノン「言いづらいことですが、それはかなわぬ願いかもしれませんぞ?」
フレイ「それでも、あきらめたくないです。」
フレイ「私があきらめたら、」
フレイ「きっと、なにもかも、終わってしまうような気がするから。」
ヴォルカノン「……そうですか。」
フレイ「なんで走っていったんだろう……。」
フレイ「でも……、そうだよね。」
フレイ「あせったり不安になっても、なんにもできないんだ。」
フレイ「今はとにかく、きちんと体を休めよう。」
四日目
バドに話しかける
バド「おお、フレイ。」
バド「
アーサーの話、王都の知り合いから聞いてきたゾ。」
フレイ「え!?」
バド「まあ、ここじゃあなんだし、場所を変えようカ。」
バド「付いてきてくレ。」
フレイ「あ、はい。」
ヴィヴァージュ邸 執務室
フレイ「え……?」
バド「さて、連れてきたゾ。」
フレイ「え?あの……。」
ヴォルカノン「まあ、混乱するのも無理はありませんな。」
フレイ「あの、ええと、これは……。」
ナンシー「みんな心配してたのよ。」
ナンシー「フレイちゃんと
アーサーさんのこと。」
ジョーンズ「それで、バドさんが王都に行くと聞いたので、たのんでおいたのです。」
ジョーンズ「なにか役に立ちそうな情報があれば、集めてきて欲しいと。」
フォルテ「
キールは夜遅くまでおまじないについて調べていましたよ。」
バド「まあ、そういうことダ。」
フレイ「みんな……。」
ヴォルカノン「それで、バド殿。結果はどうだったのですかな?」
バド「ああ、それハ……。」
バド「で、
アーサーの母親だガ……。」
バド「なんでも、すごく穏やかで優しくて、センサイな人だったらしイ。」
フレイ「……え?」
バド「まあ、そんな人だったからこそだろウ。」
バド「他の誰よりも、側室という立場を気にしてたらしいゾ。」
バド「この城に自分がいていいのかって、ずっと悩んでたそうダ。」
リンファ「……なんだか、さみしい話ですね。」
シャオパイ「ああ。」
シャオパイ「……だが、その気持ちは、なんとなく分かるようだ。」
バド「自分の子供をさけてたのも、そういう理由かもナ。」
フレイ「どういうことですか?」
バド「
アーサーと自分は、違う立場の人間だと思わせるためニ。」
バド「わざとそれを見せつけようとしたんじゃないカ?」
バド「子供には、自分と同じ思いをさせないためにサ。」
フレイ「…………。」
ドルチェ「でも、確証はないのよね?」
ドルチェ「つまり、本当にそうとは限らない。」
ピコ『ルーちゃんは夢がないですわねえ』
ドルチェ「……そんなんじゃあ、信じたくても信じられないって言ってるだけよ。」
バド「まあ、簡単には信じられないカ。」
バド「じゃあ、
アーサーの母親が、本当は目なんて悪くなかったとしたら、」
バド「どうダ?」
フレイ「え……?」
バド「彼女、
アーサーが生まれるまでは、眼鏡をかけてなかったんだってサ。」
バド「
アーサーが大きくなり始めた頃、急にメガネをかけ始めたそうダ。」
ポコリーヌ「そういえば……。」
ポコリーヌ「ワタシのキッチンに来たときは、メガネなんてしてませんデシタ!」
バド「モチロン、その後に目が悪くなったこともありうるし、」
バド「そこら辺は具体的な証拠でもない限り、やっぱり想像でしかないけどナ。」
フレイ「証拠……。」
バド「
アーサーの母親が、本当は目が悪くなかっタ。」
バド「例えば、そう言える証拠があればナ。」
証拠はある・証拠はない
▼証拠はない
バド「まあ、そうだよなア。」
バド「当時かけていたメガネでもあれば、なんとかなるんだろうけド。」
バド「そんなもの、誰かが持ってるはずもないシ……。」
▼証拠はある
バド「どこにダ?」
フレイ「すぐ近くです!」
フレイ(たしか、あのメガネはあそこに……!)
フレイ「ちょっと待ってて下さい。すぐ持ってきますから!」
アーサーの部屋
フレイ「同じ場所にしまってあるなら、たぶんここに……。」
フレイ「……あった!」
ヴィヴァージュ邸 執務室
フレイ「……やっぱり、度は入っていませんでした……。」
バド「
アーサーが大事にしてたメガネ……。」
バド「まさかこれが、母親の形見だったなんてナ……。」
クローリカ「でも、
アーサーさんは、どうして気づかなかったんでしょう?」
クローリカ「このメガネに、度が入ってなかったってこと。」
フレイ「たぶん、一度もコレをかけてないからだと思う……。」
クローリカ「どうして……。」
レオン「捨てられもしなければ、掛けられもしなかった、か。」
レオン「……アイツの気持ちを考えれば、分からないでもないな。」
エルミナータ「その気持ち、とてつもなくミステリーね!!」
コハク「難事件なの?」
ディラス「いや、男のロマンだ。」
エルミナータ「え?」
ディラス「……な、なんでもない」
ダグ「なに自分で言って赤くなってんだよ、オマエ。」
ディラス「うるさいだまれ。」
ダグ「な……!テメエ、やるかコラァ!?」
バド「まあ、それはともかくダ。」
バド「
アーサーの母親は、目が悪いフリをしてたわけだヨ。」
バド「メガネなしには前も見えないって、わざわざ触れ回ってまでサ。」
バド「どうしてだと思ウ?」
ダグ「あー、周りくどいゼ!」
ダグ「つまりどーいうことなんだヨ!?」
フレイ「……そっか。」
ダグ「オ?」
フレイ「
アーサーさんのお母さんは、」
フレイ「目が悪いのに、いつもメガネを取って子供に会いに来てた。」
フレイ「そんないやがらせをしてると、みんなに思い込ませたかったんだ。」
フレイ「彼女としては、そうするしかなかったから……。」
フレイ「子供をねたんだ母親のいやがらせっていう建前を演じることでしか、」
フレイ「彼女は、
アーサーさんに近づけなかったから。」
ヴォルカノン「なるほど……。」
ヴォルカノン「『メガネがなくて見えないから』と子供を近くに呼んでいたのは、」
ヴォルカノン「より近くで、子供の顔を見るためだったんですな。」
ナンシー「自分の子供の幸せを願いながらも、」
ナンシー「その子供に近づけない母親が、それでも、子供の顔をより近くで見るために。」
ナンシー「それで、その息子にうらまれることも覚悟の上で……。」
リンファ「……なんて、……切ない願いでしょうね……。」
フレイ「…………。」
ダグ「なんだよそレ……。」
ダグ「相手のためにやったことで、その相手にうらまれるなんテ……。」
ダグ「フツウ、ガマンできねえだロ!?」
ダグ「そんなんでいーのかヨ!?納得できるのかヨ!?」
フレイ「ダグ……。」
ブロッサム「……仕方がないんだよ。」
ブロッサム「子供の幸せを一番に願うのが、親っていうものなんだから。」
ブロッサム「あたしだって、同じ立場なら、同じコトをしたかもしれないよ。」
ダグ「ばあさン……。」
ダグ「……クソッ!」
ダグ「そろいもそろって、バカばっかりだナ!!」
ディラス「おい!」
ダグ「そんなの、悲しすぎるじゃねえカ……!」
ダグ「そんなの結局、誰1人、むくわれてねェじゃんかヨ……。」
ディラス「オマエ……。」
ディラス「…………。」
マーガレット「……どんな気持ちだったんだろうね。」
フレイ「え……?」
マーガレット「
アーサーさんのお母さん。」
マーガレット「このメガネ越しに、なにを見てたのかな。」
マーガレット「どんな気持ちで、子供の顔を見つめてたんだろう……。」
はい・もちろんです
▼はい・もちろんです
ヴォルカノン「うむ!良い返事ですな!」
ヴォルカノン「では、ご命令くだされ。」
フレイ「え?」
ヴォルカノン「我輩は、
セルザウィード様と、この王国に仕える身。」
ヴォルカノン「ですから、姫のご命令とあれば、」
ヴォルカノン「その願いをかなえるため、全力で働きましょうぞ!」
フレイ「
ヴォルカノンさん……。」
ヴォルカノン「さあ!」
ヴォルカノン「姫としてご命令下され!フレイ殿!」
フレイ「…………。」
▼命令しない
ヴォルカノン「な……!?なんですとおおお!?」
フレイ「だって、これは私の願いだから。」
フレイ「この国のためじゃなくて、」
フレイ「ただ私が、そうしたいと思ってるだけだから。」
フレイ「だから、」
フレイ「姫として、そんな自分勝手な命令はできません。」
ビシュナル「行っちゃいましたね……。」
フレイ「う、うん……。」
キール「あれ?みんなポカーンとして、どうしたの?」
バド「
ヴォルカノンさんはアツイ人だよナ~。」
キール「え?
アーサーさんなら、さっきそこで会ったよ?」「これから埋まった洞窟前に行くって言ってたけど……。」
ヨクミール森 入口
地震
フレイ「うわっ!」
フレイ「すごい揺れたなあ……。」
フレイ「昨日の地震は、この前兆だったのかも……。」
フレイ「っと。とにかく今は、
アーサーさんのところに急がないと!」
埋まった洞窟前
フレイ「
アーサーさん!」
地震
フレイ「また地震……?さっきの余震かな……。」
フレイ「それにしても、
アーサーさん、どこに行ったんだろう?」
洞窟を調べる
フレイ「あれ……?」
フレイ「ここ。よく見ると、人が通れそうなスキマがある……。」
フレイ「この前の事件と、最近の地震で出来たのかな……。」
とりあえず呼びかける・先に進んでみる
▼とりあえず呼びかける
フレイ「おーい!」
フレイ「誰かいませんか――!?」
フレイ「…………。」
フレイ「
アーサーさん!中にいるんじゃないですか!?」
フレイ「…………。」
フレイ「返事はないけど……。」
地震
フレイ「こんな状態じゃあ、いつまたくずれるか……。」
フレイ「…………。」
▼先に進んでみる
フレイ「中を確認してみよう。」
フレイ「きっと、
アーサーさんと、お母さんの名前があるはずだもん!」
「う……。」
「……ああ、フレイさん。」
「……っ。」
フレイ「大丈夫ですか!?
アーサーさん!」
「ええ……。」
「……そうか。中に入ってから、また地震が起きて……。」
「それから……。」
フレイ「名前の確認はしたんですか?」
「名前……?」
フレイ「お母さんと
アーサーさんの名前です!」
フレイ「それを確かめに入ったんでしょう!?」
「……いえ、まだです。」
フレイ「それじゃあ――」
地震
「く……。」
「もう、もちそうにありませんね……!」
フレイ「……!」
「フレイさん!?」
フレイ「くずれる前に、名前を確認しないと――」
地震
「……!」
「いいから、すぐにココを出ましょう!このままだと危ない!!」
フレイ「……ぜんぜん、よくないです!」
「え……?」
フレイ「せっかく真実が見つけられそうなのに……!」
フレイ「あなたが、何十年も探してたものが、やっと手に入るかも知れないのに!」
フレイ「そんな簡単に、あきらめないでください!!」
「フレイさん……。」
地震
「……!」
「……やはりダメだ!すぐに出ましょう!!」
フレイ「でも――」
「いいんです!もう昔の話は!」
フレイ「え……?」
「今の私は、過去を失うことより――」
「あなたを失うことの方が、ずっと怖い……!!」
フレイ「
アーサーさん……。」
「行きましょう!」
埋まった洞窟前
フレイ・
アーサー「はあ……。はあ……。」
フレイ「
アーサーさん、ケガは!?」
「フレイさん、ケガは!?」
フレイ・
アーサー『「あ……」』
「どうやら、大丈夫みたいですね。」
フレイ「は、はい……。」
「ああ、でも、おでこにキズが……!」
「……ん?」
「ああ、良かった。ドロがついてただけですね。」
フレイ「そ、そうですか……。」
「フレイさん?どうしました?」
フレイ「ええと、その、顔が近い……です。」
「ああ、すみません。メガネが壊れてしまったみたいで。」
フレイ「ああ。そ、それで……。」
「ところで、どうしてここにいると分かったんですか?」
フレイ「えっと、
キールくんに
アーサーさんのことを聞いて……。」
「ああ。なるほど。」
フレイ「
アーサーさんは……。」
フレイ「お母さんの名前を、確かめに来たんですよね?」
「私は……。」
「そうですね。確かめにきたんです。」
「あの人が、私をどう思ってたのかではなく、」
「私が、あの人のことを、どう思ってたのか。」
フレイ「
アーサーさんが……?」
「…………。」
「フレイさん。」
フレイ「はい?」
「今朝、例の彼から、新しいお茶が届いたんです。」
あの『調査員』さん?・例の彼って?
▼あの『調査員』さん?
「はい。」
▼例の彼って?
「この前、ここでラクバン事故を起こそうとした、調査員の彼です。」
「『大切な人と楽しむティータイム』だそうですよ。」
フレイ「え?」
「送られてきたお茶のイメージです。」
「ぜひ、大切な人との時間を、ゆっくり楽しんで下さいと。」
フレイ「そうですか……。」
「私の頭には、真っ先にあなたの顔が浮かびました。」
フレイ「……!」
「そのときにね、気が付いたんですよ。」
「今の私は、母のことを追いかけていたかったわけじゃない。」
「それを追いかけている自分を、失うことが怖かったんだって。」
「私が交易を始めた理由も、それを続けている理由も、」
「メガネが好きなことさえも。」
「すべて、あの人のせいだったから。」
「だから、」
「今さら母を追うことを止めたら、」
「それと一緒に、すべてを失いそうで、怖かったんです。」
「……怖かったらしい。」
フレイ「…………。」
「ここに来たのは、そんな自分と決別するためでした。」
「でも、あのどうくつに続く切れ目を見つけてしまったとき、」
「……やはり、どうしても、確かめずにはいられなかった。」
フレイ「…………。」
「結局、なにを見つけたかったんでしょうね。」
「あの人も、私も。」
フレイ「
アーサーさん……。」
フレイ「私は、何となく分かる気がします。」
「え……?」
フレイ「あのメガネ、度が入ってなかったんです。」
「お母さんの形見のメガネ。」
「どういう……ことですか?」
フレイ「本当に目の悪い人が、あんなものを掛けてるはずがない。」
フレイ「
アーサーさんのお母さんは、目が悪くなんてなかったんです。」
「そんな……。」
「ありえない。じゃあ、どうして目の悪いフリなんて……。」
フレイ「『メガネがなくて見えないから』と子供を近くに呼んでいたのは、」
フレイ「より近くで、子供の顔を見るためです。」
フレイ「きっと、あなたの顔を、より近くで見るためだったんですよ。」
フレイ「お母さんは、
アーサーさんと、あまり親しくはできなかったから。」
フレイ「立場上、そうした方が良いと思ってたから。」
「それは……どういう……?」
フレイ「側室という立場から、居場所がないと苦しんでいたその人が、」
フレイ「母親として、子供のためを想いながら、」
フレイ「一番近くで子供を見るためには、」
フレイ「それが、たった一つの方法だったから……。」
「…………。」
「……それじゃあ、あの人は……。」
フレイ「嫌ってなんかいなかったんです。」
フレイ「愛していたんです。
アーサーさんのこと。」
「…………。」
「……私の方だったのか。」
フレイ「え…?」
「いつも、私に会いに来るあの人を、ひどい顔でにらみつけていたのは。」
「私の顔をはさんで離さなかった、あの人の手を、」
「こちらをじっと見つめていた、あの人の顔を――」
「にらみつけることしかできなかったのは。」
「……私の方だった。」
フレイ「
アーサーさん……。」
「あの人じゃない……。」
「何もかも見えているつもりで……っ!」
「そのせいで、何一つ見えていなかったのは!」
「全部……!」
「全部、私の方だったのに……っ!」
フレイ「…………。」
「ボロボロのメガネだから、かけたことがなかったんじゃない……。」
「本当は、かけようとしても、かけられなかったんです……。」
「あの人とどう向き合ったらいいか、分からなかったから……。」
「でも……、」
「…………。」
「……何を見ていたんでしょうね、私は。」
「あのメガネは、いつも真実を映してたのに。」
「なんて……、……ムダな遠回りをしてきたのか。」
フレイ「ムダなんかじゃないですよ。」
「え……?」
フレイ「その遠回りがあったから、
アーサーさんはここにいるんだもん。」
フレイ「過去のあなたが、」
フレイ「今のあなたを、ここに連れてきてくれたんです。」
「フレイさん……。」
フレイ「ありがとうございます。」
フレイ「私に出会ってくれて、ありがとう。」
フレイ「私は、これからも、
アーサーさんの笑顔を見ていたいです。」
「フレイさん……。」
「その言葉、信じても良いんですか……?」
フレイ「もちろんです。」
フレイ「あなたが信じてくれるのなら。」
「…………。」
「……いま、分かりました。」
フレイ「え?」
「『人を簡単に信じるな』という言葉の意味です。」
「信じるということは、相手に誓うことじゃない。」
「その相手なら信じていいと、自分の心に誓うことなんです。」
「だから、その心を大切にしろと。」
「そういう意味だったんだと。」
「……今は、そう信じたい。」
フレイ「
アーサーさん……。」
フレイ「……はい。」
「しかし、どうせ信用するなと言うのなら、」
「その方法を教えてくれたらよかったのに。」
フレイ「え……?」
「人間なんて、こんなにも簡単に、相手を信用してしまうのに。」
「君にならだまされてもいいと、」
「こんなにもたやすく、思えてしまうのに……。」
フレイ「…………。」
「フレイさん。」
「ありがとう。」
フレイ「え……?」
「今までは、ずっと見えていなかったんです。」
「母の気持ちが、自分の気持ちも、」
「あなたを誰よりも大切だと思う、このどうしようもない気持ちも。」
「でも、」
「見えないだけで、全部そばにありました。」
「それが私にも、ようやく見えた……。」
フレイ「……よかったですね。」
「……はい。」
「あなたと出会えて。」
「あなたを信じられて、本当によかった……。」
「これから、父に手紙を書こうと思います。」
「王子のこと。交易のこと。」
「それから、母のことについて。」
「それに……。」
「フレイさん。」
フレイ「はい。」
「もっと近くで、顔を良く見せてくれますか?」
フレイ「え……?」
「メガネが壊れていて、よく見えないんです。」
「お願いします。」
フレイ「えっと……、こうですか?」
「いえ、もう少し。」
フレイ「じゃあ、このくらい……?」
「いえ、このくらいです。」
フレイ「あ、
アーサーさん……?」
「フレイさん。」
「私と結婚してください。」
フレイ「え……?」
「これが私の答えです。」
「あなたが望んでくれるのなら、」
「私はずっと、あなたのそばに居ます。」
「だから、今度はあなたの答えを聞かせてください。」
フレイ「
アーサーさん……。」
そ、その……・……はい。結婚しましょう
▼そ、その……
「……私ではダメですか?」
フレイ「いえ、その……。」
お願いします・……少し考えさせてください
▼お願いします・……はい。結婚しましょう
「…………。」
「……良かった。」
フレイ「え……?」
「私にも、ようやく見えましたよ。」
「一つだけ、大切なことが。」
「あなたのことを、どうしようもなく好きだっていう自分の気持ちが。」
フレイ「……よかったですね。」
「はい。」
「幸せにします。フレイさん。」
「……絶対に。」
フレイ「…………。」
フレイ「……はい。」
→手紙へ
▼……少し考えさせてください
「そう……ですか。」
「…………。……分かりました。」
セルフィア:広場
「では、これからも、今まで通りということで。」
フレイ「……はい。すみません。」
「いえ……。」
手紙
前略、父上殿――
王都へ帰る件につきまして、ご連絡いたします。
ただ、結論を述べる前に、1つ話を聞いていただけますか?
私は、たいそう目が悪いのです。
この手紙も、メガネを掛けて書いております。
最初にメガネを掛けたときのことは、今でも記憶に新しく思えます。
全てのものがキレイに映り、なんでも見えるような気がしました。
しかし私は、いささかこのメガネに頼りすぎていたようです。
このメガネがこわれて、私はようやく気がつきました。
この目には、見えないものがあると。
特に、人の心というものは見えづらい。
とても複雑で、あいまいで、心もとないものです。
でも、だからこそ、信じることに価値がある。
信じると決めることが、その人への証となる。
メガネを外した景色の中で、私はようやくそれを見つけました。
私はやはり、交易という仕事が好きです。
色々なものを通して、世界を見ることが楽しくてたまらない。
色々な場所を旅して、色々なものを見てみたいとも思います。
だからこそ、
私には、帰る場所が必要なのです。
そして、その場所を、私はようやく見つけました。
ですから、王都に帰ることはできません。
私の帰る場所は、この町の、この人の中にこそあるのですから。
願わくば、
私の母もまた、その場所を見つけられたのだと、
今は、心から信じたく存じます。
――草々
最終更新:2022年04月25日 22:21