1日目
レスト「フォルテさん?」
フォルテ「このままではいけませんよね……。」
フォルテ「でも、つい色々と考えてしまって……。」
フォルテ「…………。」
フォルテ「っは!!!いやいやいやこれはまだ早い!!!」
レスト「あの……?」
フォルテ「しかし……。……いや、でも……。」
レスト(一人で何かいそがしそうだ……。)
フォルテ「……やはり、このままではいけませんよね……。」
フォルテ「この前はビシュナルさんにも心配されてしまいましたし……。」
ビシュナル「最近、フォルテさんの様子がちょっとおかしいんですよね。」
ビシュナル「どこか上の空というか……。」
ビシュナル「クローリカさんも心配してましたし、大丈夫かな……。」
クローリカ「あ、そうでした~。レストくん。」
クローリカ「最近、フォルテさんと何かありましたか?」
レスト「え?どうしてですか?」
クローリカ「お仕事中に、ぼうっとしてることが多いので、」
クローリカ「なにか悩み事でもあるんじゃないかな~って。」
クローリカ「……あれ?もしかして、それも夢だったのかも?」
クローリカ「フォルテさん、この頃、なにをしていても上の空なんです。」
クローリカ「……という夢を見てたんでしたっけ?」
フォルテ「…………。」
レスト「フォルテさん。」
フォルテ「…………。」
レスト「フォルテさん!」
フォルテ「レストさん!?」
フォルテ「す、すみません!その、ちょっと考え事をしてまして。」
レスト「考えごと?」
フォルテ「は、はい。その、なんと申しますか……。」
フォルテ「未来予想図というか、将来の展望といっても……いやいや。」
フォルテ「とにかく、料理くらいはできるようになっていたいなと……。」
フォルテ「いや!特に深い意味はなくて!?」
レスト「……?」
フォルテ「と、とにかく!そんなに大変なことではないので!」
フォルテ「とにかく、料理くらいはできるようになっていたい……、」
フォルテ「いや!だから!特に深い意味はないですから!?」
2日目
フォルテ「…………。」
レスト「フォルテさん?」
フォルテ「す、すみません!少し考えごとをしていました……。」
レスト「その……大丈夫ですか?」
レスト「最近ずっとなにか悩んでるって、クローリカも心配してましたよ?」
フォルテ「……たしかに、職務中にまでこんなことではダメだ。」
レスト「え?」
フォルテ「分かりました。」
レスト「あの……。な、なにがですか?」
フォルテ「しばらく町から離れて、修行することにします。」
レスト「ええ!?」
フォルテ「それでは!」
レスト「あの、フォルテさん?」
フォルテ「そうと決まれば色々と準備が……ブツブツ。」
レスト(聞こえてないみたいだ……。)
フォルテ「し、失礼します。」
レスト「フォルテさん!?」
フォルテ「…………。」
レスト「ど、どうしたんですか?」
フォルテ「いえ、そ、その、実は……。」
フォルテ「今からしばらく、町を離れて修行することにしました。」
レスト「え!?……って、今からですか!?」
フォルテ「はい。雑念が消えるまで。」
レスト「雑念?」
フォルテ「と、とにかく!もう決めたことです!」
レスト「でも……。町の外に一人だなんて、危ないですよ。」
レスト「せめて僕も一緒に……。」
フォルテ「え……?」
フォルテ「そ、それは、夜の修行場で二人きりという……。」
フォルテ「って、なんだそれは!?」
フォルテ「何を考えてるんだ私のバカー!?」
レスト「ちょ、ちょっとフォルテさん!?」
フォルテ「と、とにかく!私は修行場に行ってきますので!」
レスト「だから、その修行場ってどこ――」
レスト「行っちゃった……。」
レスト(結局、修行場ってどこなんだろう……。)
レスト(とりあえず、町の人に聞いてみようか……。)
ヴォルカノン「フォルテが修行のために町を離れたいと言ってきましたぞ。」
ヴォルカノン「許可は出しましたが、騎士としての腕に申し分はないはず。」
ヴォルカノン「本人はただ、心の問題と申しておりましたが……。」
ヴォルカノン「ふむ……。」
ヴォルカノン「後でクローリカやビシュナルに事情を聞いてみるとしますかな。」
クローリカ「あ、レストくん。」
クローリカ「フォルテさん、修行先でちゃんと眠れてますかね~。」
クローリカ「キールくんに場所を聞いて、陣中見舞いに行ってみましょうかね~。」
ビシュナル「フォルテさんの行動力は、本当にすごいですね!」
ビシュナル「僕もあれくらい全力で、色々なことにいどめるようになりたいです!」
ビシュナル「あ、フォルテさんの行き先なら、キールくんに聞くといいですよ。」
キール「レストくん。お姉ちゃんを探してるの?」
キール「それなら……ええとね、
黒曜館の近くに小屋があるでしょ?」
キール「きっと、その小屋の周辺にいると思うよ。」
キール「小さい頃、あそこでよくお父さんと修行してたから。」
レスト「フォルテさん。」
フォルテ「な!?レストさん!?」
フォルテ「どど、どうしてここに!?」
ここにいるって聞いたんだ ・ がんばって探したんだ
▼ここにいるって聞いたんだ
▼がんばって探したんだ
フォルテ「え……?」
フォルテ「し、しかし、私はただいま修行中で……。」
レスト「うん。分かってる。」
レスト「でも、ちょっと顔を見に来るくらいならいいよね?」
フォルテ「それは、その……。」
フォルテ「――……困ります……。」
レスト「え……?」
フォルテ「いや、会いに来てもらえるのはうれしいんだけど!」
フォルテ「これはそもそも、そういう気持ちをどうにか制御するためというか!」
レスト「?」
フォルテ「つまり、うれしいけど困りますけどうれしいなあという二律背反が……!」
レスト「???」
フォルテ「う……。」
フォルテ「も、もういいです……。ちょっとだけですよ!」
レスト「うん。」
フォルテ「…………。」
フォルテ「あ、あの……えーと。」
レスト「?」
フォルテ「あ、危ないので……、す、少し離れていてください。」
レスト「あ、はい。」
レスト(それにしても、本当になんにもない場所だなあ……。)
レスト「あの、フォルテさん。」
フォルテ「ひゃ、ひゃい!」
レスト「え?」
フォルテ「す、すみません。ちょっと緊張してしまって……。」
レスト「緊張?何にですか?」
フォルテ「い、いえ!」
フォルテ「と、ところで、どうかしましたか?」
レスト「あ、うん。」
レスト「フォルテさんは、どうしてここを修行場所に選んだのかなって。」
レスト「静かな場所だったら、もう少し町に近くてもいいと思うんだけど……。」
フォルテ「それは……。」
フォルテ「……なんとなく、母の言葉を思い出してしまって。」
レスト「え?」
フォルテ「レストさん。」
フォルテ「その……少しだけ、昔話をしてもいいですか?」
はい ・ いいですよ
▼はい
▼いいですよ
フォルテ「母がまだ生きていた頃。」
フォルテ「なにかあるたびに、自分の日記を読みかえしてたんです。」
フォルテ「気になった私は、今と同じようにたずねてみました。」
フォルテ「母は、いつものように私の頭をなでて、教えてくれました。」
フォルテ「『ここに、私の1番があるからだよ』って。」
レスト「1番……?」
フォルテ「はい。」
フォルテ「それから母は、私に教えてくれたんです。」
フォルテ「『何をするべきか迷ったら、まず振りだしに戻りなさい』」
フォルテ「『何かをはじめたきっかけは、いつも、一番最初にあるんだから』」
フォルテ「『人はその位置からしか、生きていかれないんだから』って。」
フォルテ「ここは私が、騎士を目指すと決めた場所です。」
フォルテ「だから、ここが私の「1」なんです。」
レスト「…………。」
「ガサ!」
フォルテ「なにやつ!」
レスト「
モンスター!?」
フォルテ「……囲まれたか。」
フォルテ「レストさん!私から離れないでください!」
フォルテ「レストさん!私から離れないでください!」
フォルテ「あの場所へ戻りましょう!」
はい ・ どこですか?
▼はい
フォルテ「モンスターの群れを放っておくわけにはいきません!」
▼どこですか?
フォルテ「私の修行場です!」
フォルテ「黒曜館の近くの小屋の前です!」
フォルテ「……ふう。」
フォルテ「どうやら、撃退したようですね。」
フォルテ「大丈夫でしたか?」
レスト「フォルテさんこそ大丈夫?」
フォルテ「問題ありません。」
レスト「でも、こんなところに一人でいるのはやっぱり危ないよ。」
フォルテ「いえ、私なら大丈夫ですから。」
レスト「でも――」
フォルテ「やはり、帰ることはできません。」
レスト「どうして……。」
フォルテ「…………。」
フォルテ「私は、弱くなってしまいました。」
フォルテ「精神の集中が、うまくいかないのです。」
フォルテ「ある一つの事柄に、その……心を奪われて……。」
レスト「え?」
フォルテ「と、とにかく!このままではマズイのです!」
フォルテ「私は、もっともっと強くならなければいけないのに……!」
レスト「……どうしてそこまで強さにこだわるんですか?」
フォルテ「それは……。」
フォルテ「…………。」
フォルテ「『お前は何も守れない』と。」
レスト「え……?」
フォルテ「私が騎士として認められた日、父に言われた言葉です。」
フォルテ「それが間違いだと証明する前に、父は亡くなりました。」
フォルテ「だから……、私は強くならなければいけない。」
フォルテ「その言葉が間違いだったと、そう胸を張れるそのときまで。」
フォルテ「立ち止まるわけには、いかないのです。」
レスト「フォルテさん……。」
フォルテ「……それに、母との約束もありますから。」
レスト「え?」
フォルテ「いえ、こちらの話です。」
フォルテ「とにかく心配はいりませんよ。レストさん。」
フォルテ「私はすべてを守ってみせますから。」
レスト「…………。」
フォルテ「私はまだ、町に帰ることはできません。」
フォルテ「ささいなことで、心乱さぬ修行が必要ですから。」
バド「おお、レスト。」
レスト「バドさん。どうしてこんな所に?」
バド「いや、ちょっとフォルテを探しててナ。」
バド「そういえば、どうダ?アイツとは仲良くやってるのカ?」
はい ・ それなりに
▼はい
▼それなりに
バド「そっかそっカ。」
バド「じゃあ、これからもよろしくたのむゾ。」
バド「ああ、ところで、フォルテがどこに行ったか知らないカ?」
レスト「今は町の外で修行中です。」
バド「ああ、いつもの修行場所カ。」
バド「じゃあ知らせに行かないとナ。」
レスト「なにかあったんですか?」
バド「キールが寝込んでるんダ。」
バド「まあ、ちょっと風邪をこじらせただけなんだけどナ。」
バド「今は病院で休んでるから、とりあえず知らせておこうと思っテ。」
レスト「そうですか。良かった……。」
バド「…………。」
レスト「バドさん?」
バド「なあ、レスト。」
バド「今の話、代わりにフォルテに伝えてきてくれないカ?」
レスト「え?あ、はい。それはかまいませんけど……。」
バド「じゃ、よろしくたのむゾ。」
バド「キールのこと、フォルテに伝えてくれたカ?」
バド「まだだったら、よろしく頼むヨ。」
ジョーンズ「キール君、よほど疲れていたんでしょうね。」
ジョーンズ「まったく……。この姉弟は無理をしすぎです。」
ナンシー「キールくんったら、倒れるまでムリしちゃなんて……。」
ナンシー「ツライときはツライって、口にしないとダメなんだから!」
キール「…………。」
レスト(ぐっすり眠ってるみたいだ……。)
レスト「フォルテさん!」
フォルテ「レストさん……。」
フォルテ「い、言ったはずです。町にはまだ帰らないと――」
レスト「キールが倒れたんだ。」
フォルテ「え!?」
レスト「ちょっと風邪をこじらせただけらしいんだけど――」
レスト「あ、フォルテさん!?」
レスト「…………。」
ナンシー「さっきからずっとああなのよ。」
ナンシー「でも、ちょっとなつかしいかもね。」
レスト「え?」
ナンシー「キール君がケガをしたり、病気をしたりすると、」
ナンシー「その隣にはフォルテちゃんがいたわ。」
ナンシー「私が看護師になる前から……、子供の頃から、ずっとらしいけど。」
ナンシー「立派なお姉ちゃんよね。」
レスト「…………。」
キール「う……ん。」
フォルテ「気がついたのか!?キール!!」
キール「おねえ……ちゃん?」
フォルテ「ああ、よかった……。」
キール「ただのカゼだよ。大げさだなあ……。」
フォルテ「大げさなものか!」
フォルテ「お前にもしものことがあったら……。」
キール「お姉ちゃん……。」
キール「ホントに、大したことないから……。」
フォルテ「でも――」
キール「それより、こんなところにいていいの?」
キール「町を守るのが、お姉ちゃんの仕事なんでしょ?」
フォルテ「……うん。」
キール「じゃあ、いつまでもこんなところにいたらダメだよ。」
キール「騎士になるのが、お姉ちゃんの夢だったんだから。」
フォルテ「…………。」
キール「ほら、はやく行かないと……。」
フォルテ「キール……。」
フォルテ「……分かりました。」
フォルテ「でも、あまり無理はしないように。」
キール「うん……。分かってる。」
フォルテ「すみません。お騒がせしました。」
ナンシー「いいのよ。気にしなくても。」
フォルテ「レストさんも、ご迷惑をおかけしました。」
レスト「いや、そんな……。」
フォルテ「それでは、私はお先に失礼します。」
フォルテ「弟のこと、よろしくお願いしますね。」
ナンシー「うん。任せておいて。」
ナンシー「フォルテちゃん、大丈夫かしらね……。」
レストレスト「え?」
ナンシー「昔から、キール君のことになるといつも以上に考えすぎちゃうから。」
ナンシー「あんまり背負い込みすぎないといいんだけど……。」
レスト「…………。」
ナンシー「キールくんのこと、ちょっと心配だわ。」
ナンシー「ほら、ツライこととかそういうこと、ぜんぜん口にしない子だから……。」
ナンシー「あの年の子だったら、もっと簡単に弱音を口にして当たり前なのにね。」
キール「あ、レストくん……。」
キール「ごめんね。色々めいわくかけちゃったみたいで……。」
レスト「ううん、気にしないで。それより大丈夫?」
キール「うん。大丈夫……。」
キール「……ありがとうね。」
レスト「…………。」
ジョーンズ「キールくんのこと、ナンシーが心配してましたよ。」
ジョーンズ「私も、実は少し気になっているんです。」
ジョーンズ「最近のキール君は、どこか無理をしているように見えるので。」
フォルテ「レストさん……。」
フォルテ「キールのこと、知らせてくれてありがとうございました。」
フォルテ「ああ、バドさんにもお礼を言っておかないと……。」
バド「おお、レスト。」
バド「キールとフォルテのこと、ありがとうナ。」
バド「それで、どうだっタ?」
レスト「なにがですか?」
バド「フォルテのヤツ、キールのこと以外、なんにも見えなくなってただろウ?」
レスト「まあ、弟のことですからね……。」
バド「それだけじゃないヨ。」
レスト「え?」
バド「あの二人はサ、普通の姉弟じゃないんダ。」
バド「しばらく世話をしてみて、そう思ったヨ。」
レスト「どういうことですか……?」
バド「フォルテの母親はな、あの子が10歳の頃に亡くなっタ。」
バド「それから4年後に父親もナ。」
バド「オレはあの子らの父親と知り合いでサ。」
バド「二人の面倒を、しばらく見ることになったわけダ。」
バド「でも、いざ一緒に暮らしてみたら、驚いたヨ。」
バド「あいつらは、二人できちんと暮らしてたんダ。」
バド「二人きりだけど、ちゃんと家族としテ。」
バド「それぞれの役割をこなしてサ。」
レスト「…………。」
バド「親代わりなんていうのも、肩書きだけだヨ。」
バド「むしろオレなんて、フォルテに怒られてばっかだったしナ。」
レスト「バドさん…………。」
バド「それで、どうするんダ?」
レスト「え……?」
バド「キミにも分かっただろウ?」
バド「フォルテは、キールのことを一番に考えてル。」
バド「それでもレストは、フォルテを好きでいられるのカ?」
………… ・ 当然です
▼…………
▼当然です
バド「ああ、答えなくてもいいヨ。」
レスト「え……?」
バド「その答えは、オレじゃなくて、フォルテにちゃんと伝えてくレ。」
バド「オレはもうけ話を考えるのでいそがしいからサ。」
バド「それにしてもサ。」
バド「あの姉弟はどうしたもんかネ。」
バド「いつまでも今のままってわけにはいかないしナ……。」
レスト「…………。」
3日目
フォルテ「ああ、レストさん」
フォルテ「おかげさまでキールももうすっかり良くなりました。」
フォルテ「ありがとうございます。」
キール「あ、レストくん!」
キール「この前は色々とありがとうね!」
キール「おかげさまでもうこの通り元気いっぱいだよ♪」
4日目
フォルテ「あ、レストさん……。」
フォルテ「…………。」
レスト「……なんだか疲れてるみたいですね。」
フォルテ「い、いえ!そんなことは……。」
フォルテ「……というのは、少しウソですね……。」
レスト「やっぱり、なにがあったんですか?」
フォルテ「実は、キールが……。」
フォルテ「……その、私に何か、隠しごとをしているみたいなんです。」
レスト「え?」
フォルテ「でも、何を聞いても答えてくれなくて。」
フォルテ「それがどうにも気になってしまいまして……。」
レスト「なるほど……。」
フォルテ「ビシュナルさんも一枚かんでるようなんですが……。」
フォルテ「二人でいったい、何を隠しているのか……。」
フォルテ「キールが何か、隠しごとをしてるようなのです。」
フォルテ「ビシュナルさんも一枚かんでいるようなのですが……。」
キール「え?かくしごと?」
キール「うーん、ないっていったらウソになるけど……。」
キール「でも、大丈夫だよ!大したことじゃないから♪」
キール「かくしごとなら、もちろんあるよ!」
キール「でも、大丈夫。大したことじゃないからね♪」
ビシュナル「あ、王子。どうかしたんですか?」
ビシュナル「え?」
ビシュナル「隠しごと……ですか?キール君のことで?」
ビシュナル「と、とんでもない!何もかくしてませんよ!」
ビシュナル「ほ、本当ですよ!やだなあ、もう!」
ビシュナル「あ、王子。ど、どうかしましたか?」
ビシュナル「僕は隠しごとなんてしてませんよ。ええ、もちろん!」
5日目
フォルテ「だから、何をしてるんだと聞いてるんだ!」
キール「だから『言えない』って、言ってるでしょ!?」
フォルテ「ビシュナルさんと一緒に、なにかを隠してるんじゃないか!?」
キール「そうだよ!それがどうしたの!?」
フォルテ「この……っ!」
フォルテ「…………。」
フォルテ「……いいですか、キール。」
フォルテ「ウソをつくということは、相手をだますということでしょう。」
キール「だからって……仕方のないウソもあるじゃないか!」
フォルテ「だとしても、それを誰かにも強いるというのは、」
フォルテ「その重荷を誰かにも背負わせるということです。」
フォルテ「それを申し訳ないとは思わないのですか?」
キール「それは……。」
キール「……でも、ウソはついてないよ。まだ言えないっていってるだけで……。」
フォルテ「そんなのはヘリクツです!」
キール「ヘリクツでも何でも、お姉ちゃんには関係ないよ!」
フォルテ「な……!」
キール「ボクだってもう子供じゃないんだ!」
キール「秘密の一つや二つ、あるに決まってるじゃないか!」
フォルテ「子供じゃないなんて口にする内は、まだまだ子供だ!!」
フォルテ「それに私には、騎士としてお前を守る責任が――」
キール「そんなの、お姉ちゃんの都合じゃないか!」
フォルテ「……っ!」
キール「もうたくさんだよ!」
キール「お姉ちゃんだって、お母さんとの約束があるから――」
フォルテ「キール……。」
キール「あ……。」
キール「とにかくもう、ボクのことはほっといてよ!」
フォルテ「キール!」
キール「あ、レストくん……。」
キール「…………。」
キール「あ、レストくん……。」
キール「……ごめんね。今はちょっと一人になりたいんだ……。」
レスト「あの……。」
フォルテ「レストさん……。」
フォルテ「情けないところをお見せしてしまいましたね……。」
フォルテ「あの子とこんな風にケンカするなんて、何年ぶりだろう……。」
レスト「フォルテさん……。」
僕に手伝えることはありませんか? ・ がんばってください
▼がんばってください
フォルテ「そうですね……。」
フォルテ「こんなことで落ち込んでいては、騎士失格ですから……。」
<<無限ループ>>
▼僕に手伝えることはありませんか?
フォルテ「え?」
レスト「フォルテさんの力になりたいんです。」
フォルテ「レストさん……。」
フォルテ「いや、でも、こんなこと相談するわけには……。」
レスト「そんなことないです。」
レスト「恋人が困ってるなら、何かしたいと思うのは当然じゃないですか?」
フォルテ「レストさん……。」
フォルテ「では……。」
フォルテ「そうですね。少し気分転換に付き合ってもらえますか?」
レスト「ええ、喜んで。」
フォルテ「それじゃあ、私が修行していた場所に行きませんか?」
レスト「え……?」
フォルテ「……ダメですか?」
レスト「いえ、そんなことは。」
フォルテ「そうですか。……良かった。」
フォルテ「なんというか、今ならちょっとだけ分かる気はするんです。」
レスト「え?」
フォルテ「昔の日記を読みかえしてたときの、母の気持ちが。」
フォルテ「母はきっと、そうやって気持ちを整理してたんだなって。」
レスト「フォルテさん……。」
フォルテ「付き合っていただけますか?レストさん。」
レスト「はい。もちろんです。」
バド「あレ?」
バド「おお、なんダ?今から二人でお出かけカ?」
フォルテ「ええ。ちょっと修行場まで。」
バド「ふーン……。」
レスト「バドさんは?」
バド「オレは見ての通り、町にもどるところダ。」
バド「とりあえず、手頃な材料は見つかったしナ。」
フォルテ「めずらしく働いていたんですね。」
バド「ははハ。本当にたまにだけどナ。」
フォルテ「胸を張らないでください!」
バド「それにしても、なるほどなア。うんうん、青春ダ。」
フォルテ「なんですか?その含みありげな笑顔は……。」
バド「そんなつもりはないけどなナ?」
フォルテ「ウソです。ふらちなモウソウは止めてください。」
バド「例えばどんなダ?」
フォルテ「そ、それは……。」
フォルテ「……って、何を言わせるつもりですか……!」
バド「ははハ。」
バド「まあ、ちょっとは元気が出てきたみたいで安心したヨ。」
フォルテ「え?」
バド「とにかくダ。」
バド「2人とも、羽目を外しすぎないようにナ!」
フォルテ「だから何の話ですか!」
バド「おおっと、こわいこわイ。それじゃあまたナ!」
フォルテ「まったく。逃げ足だけは速いんだから……。」
フォルテ「では、行きましょうか。」
レスト「はい。」
フォルテ「…………。」
レスト「フォルテさん?」
フォルテ「ああ、いえ。なんでもありません。」
フォルテ「……バドさんが変なことを言うから。」
レスト「え?」
フォルテ「い、いえ……。なんでも……。」
レスト「……?」
フォルテ「では、行きましょうか。」
フォルテ「目的地は黒曜館の近く。以前、私が修行をしていた場所です。」
キール「ボクはね、みんなが幸せになるなら、それが一番なんだ……。」
キール「だから……。」
キール「……大丈夫だよ。レストくん。」
レスト「着きましたよ。フォルテさん。」
フォルテ「はい。」
レスト「さてと。どうしましょうか?」
フォルテ「そうですね。」
フォルテ「とりあえず、叫んでもいいですか?」
レスト「え?」
フォルテ「キールのバカーーーーーーーっ!」
レスト「……!」
フォルテ「……よし。」
フォルテ「ちょっとスッキリしました。」
レスト「…………。」
フォルテ「レストさん?どうしました?」
レスト「えっと……。」
びっくりしました ・ ……その、大丈夫ですか?
▼びっくりしました
フォルテ「すみません。つい……。」
レスト「そ、そうですか……。」
▼……その、大丈夫ですか?
フォルテ「え……!?」
フォルテ「だ、大丈夫です!おかしくなったわけじゃありませんから!」
レスト「でも、いきなり叫んだりして……。」
フォルテ「そ、そういう気分だったんです!」
レスト「はあ……。」
フォルテ「あ!まだ疑ってますね!?」
フォルテ「なんというか、これは子供の頃からのくせで……!」
フォルテ「こ、こう見えて、昔はちょっとやんちゃだったんですよ?」
レスト「フォルテさんが?」
フォルテ「はい。」
フォルテ「小さい頃は、キールの手を引っ張って色んなところを駆け回ったものです。」
フォルテ「今でも、無性に走り出したくなることがあるくらいで……。」
レスト「あ。」
フォルテ「え?」
レスト「もしかして、町を走り回ってるのも、見回りってわけじゃなくて……。」
フォルテ「…………。……そういう側面もなくはないです。」
レスト「じゃあ、今までは猫をかぶってたんですね?」
フォルテ「ね、猫って……。」
フォルテ「……まあ、そうですね。そうかもしれませんね。」
フォルテ「私だって普通の人間ですから?羽目をはずしたくなるときだってあります。」
レスト「なるほど……。」
フォルテ「さ、さすがに今みたいなことはしないですけど……。」
フォルテ「なんだかここに来たら、つい昔のことを思い出して。」
レスト「…………。」
フォルテ「小さいころは、ここでよく父とケイコをしたんです。」
フォルテ「ここに私が立って、向かいに父が剣を構えて、」
フォルテ「父にほめられたい一心で、がんばって練習を続けました。」
レスト「小さい頃のフォルテさんですか。」
レスト「……ふふ。」
フォルテ「なにがおかしいんですか?」
レスト「いや。想像したら、つい……。」
レスト「きっと、今と同じで、ガンコで聞き分けが悪かったんだろうなって。」
フォルテ「し、失礼なっ!」
レスト「でも、とても優しかったんでしょうね。」
フォルテ「うぐ……!」
フォルテ「ほ、ほめるかけなすか、どちらかにしてください……。」
レスト「あはは。」
フォルテ「もう……。」
フォルテ「でも、ガンコではありましたよ。父と同じくらいには。」
レスト「お父さんも?」
フォルテ「ええ。」
フォルテ「父は本当にガンコで厳しくて、おまけに無口な人でした。」
フォルテ「でも、必死でがんばって、ようやく目標を達成したとき、」
フォルテ「いつも、そっと頭をなでてくれたんです。」
フォルテ「ちょっと不器用に、岩のようにゴツゴツとした大きな手で。」
フォルテ「私はそれがうれしくて、もっともっと頑張ろうとはりきってました。」
レスト「…………。」
フォルテ「でも、それはキールが生まれるまでの話。」
レスト「え……。」
フォルテ「キールは長男ですからね。」
フォルテ「父はあの子を自分の跡取りにしたかったのだと思います。」
フォルテ「当然です。」
フォルテ「女性が神竜の騎士になるなんて前代未聞ですから。」
フォルテ「でも……。」
フォルテ「どうしても、納得はできなかった……。」
レスト「フォルテさん……。」
フォルテ「私はそのときに一度、剣を捨てようと思ったんです。」
フォルテ「でも――」
バド「フォルテ!」
レスト「バドさん?どうしたんですか?」
バド「キールがまた倒れタ!」
フォルテ「え……!?」
バド「早く町に帰ってやレ!」
フォルテ「は、はい!」
フォルテ「モンスター!?」
バド「ここはオレたちに任せロ!オマエは早く行ってやレ!」
フォルテ「でも――」
レスト「いいから行ってあげて!フォルテさん!」
フォルテ「……!」
フォルテ「……すみません!よろしくお願いします!」
バド「気を抜くなヨ、レスト!」
バド「うまく引きつけてから逃げ出せたナ。」
バド「キールも心配だが、まずはフォルテに顔を見せよウ。」
バド「オレたちの無事を知らせてやらないとナ。」
バド「ふウ。片付いたナ。」
レスト「はい。ありがとうございました。」
バド「オレたちも町に戻ろうカ。」
レスト「はい。」
バド「キールも心配だが、まずはフォルテに顔を見せよウ。」
バド「オレたちの無事を知らせてやらないとナ。」
レスト「……眠っている。」
フォルテ「レストさん!」
フォルテ「よかった。無事でしたか……。」
レスト「はい。バドさんも手伝ってくれましたから。」
レスト「それで、キールの方は?」
フォルテ「こちらもたいしたことはありませんでした。」
フォルテ「疲労から熱が出たらしく、しばらく寝ていれば治るそうです。」
レスト「そうですか。よかった……。」
フォルテ「ご心配おかけしました。」
バド「ならオレはそろそろ帰るヨ。」
バド「キールが起きたら、よろしく伝えておいてくレ。」
フォルテ「はい。ありがとうございました。」
フォルテ「……。」
レスト「……フォルテさん?」
フォルテ「レストさん。」
フォルテ「私は、このままでいいのでしょうか?」
レスト「え?」
フォルテ「キールを守ると決めたのに、あの子の変化に気付いてやれず、」
フォルテ「あなたを守るといいながら、あなたを置いてキールの元へ……。」
フォルテ「結局のところ、私は何も守れていない……。」
レスト「そんなこと――」
フォルテ「…………。」
フォルテ「……すみません。つまらないグチでしたね。」
フォルテ「では、私は仕事が残っているので、お先に失礼します。」
レスト「あ――」
レスト「フォルテさん……。」
バド「いやいヤ。キミがいてくれて助かったゾ。」
バド「あの場でアイツを説得できるのは、キミくらいのものだからナ。」
レスト「え?」
バド「アイツは騎士だなんだと、肩書きにこだわりすぎるんダ。」
バド「なんでそこまで、あんなものにこだわるのカ……。」
バド「そんなめんどくさそうなモノ、オレなら頼まれたって嫌だけどナ。」
バド「やっぱり、父親のことを意識してるのかネ。」
レスト「…………。」
バド「こういう時、オレは親じゃないんだって実感するナ。」
レスト「え?」
バド「ほら、子供のころって、自分の周りが世界のすべてだっただろウ?」
バド「だから、その親にほめてもらいたくて、子どもは頑張るわけダ。」
バド「でも、オレがもう充分だって言っても、今のアイツらには届かなイ。」
レスト「バドさん……。」
バド「まあ、難しい話はこのくらいにしておこうカ。」
バド「とにかく、今日は助かったヨ。あちがとうナ。」
フォルテ「キールもしばらくしたら目を覚ますと思います。」
フォルテ「よかったら、顔を見にいってやってください。」
ジョーンズ「心配ですね……。」
ジョーンズ「キールくんはもちろんですが、フォルテさんも。」
ジョーンズ「キールくんは、無理に元気にふるまおうとしていますし、」
ジョーンズ「フォルテさんは、そんなキールくんを過保護なほどに心配している。」
ジョーンズ「二人のかみ合わない姿を見ていると、まるで呪いでもかけられているようだ。」
ジョーンズ「私は、二人の体より、心の方が心配ですよ……。」
ナンシー「キールくんとフォルテちゃん、心配よね……。」
ナンシー「大丈夫かしら……。」
レスト「ビシュナルくん。」
レスト「キールのお見舞い?」
ビシュナル「王子……。」
ビシュナル「…………。」
レスト「ビシュナルくん?」
ビシュナル「あの……!」
ビシュナル「……………………ごめんなさい。」
レスト「え?」
ビシュナル「……っ!」
レスト「……?」
キール「ん……。」
ビシュナル「秘密を守ることは執事として重要なことです。」
ビシュナル「ですから、今日1日は喋らない特訓です!」
ビシュナル「……………………。(今日1日は喋らない特訓です!)」
ビシュナル「……………………。(絶対しゃべりません!)」
レスト「キール。」
キール「レストくん……。」
キール「そっか、ボク……。」
レスト「大丈夫?」
キール「……うん。もう大丈夫。」
レスト「良かった。じゃあ、フォルテさんに――」
キール「あのね、レストくん……。」
キール「ありがとう……。お姉ちゃんのこと。」
レスト「キール……?」
キール「お姉ちゃん、最近よく笑うようになったんだ……。」
キール「決まってレストくんの話をしてるときにさ……。」
レスト「僕の前では、キールの話ばっかりしてるよ。」
キール「そうなの……?」
レスト「うん。」
キール「……そっか。」
キール「ボクのことは……、心配ないって言ってるのに……。」
キール「……くやしいな。」
レスト「キール……?」
キール「……やっぱりうれしいんだ。」
キール「もう一人で平気だって……。大丈夫だって言ったのに。」
キール「ボクはやっぱり、お姉ちゃんの弟なんだ……。」
キール「……いつまでも、ボクのお姉ちゃんなんだ。」
レスト「キール……。」
キール「…………。」
レスト「……ごめんね。」
キール「え……?」
レスト「ごめん。」
キール「……変なの。」
キール「なんでレストくんが謝るのさ……。」
レスト「キミのお姉ちゃんを、僕が取っちゃったから。」
キール「…………。」
キール「……じゃあ、ボクに返してくれるの……?」
返せない ・ 返すよ
▼返せない
レスト「……ううん。それもできない。」
レスト「ボクも、お姉ちゃんのことが大好きだから。」
レスト「だから、ごめん。」
▼返すよ
キール「……ダメだよ、レストくん……。」
キール「いまさらなかったことになんてできないでしょ?」
キール「もう、お姉ちゃんの中には、レストくんがいるんだから。」
キール「レストくんの中にも、お姉ちゃんがいるんじゃないの?」
レスト「…………。」
キール「あーあ!もう、やけちゃうなあ!」
レスト「…………。」
キール「やっぱり病院は苦手だよ。弱気になっちゃうからさ……。」
キール「……昔のことを思い出しちゃうんだ。」
キール「ボク、あんまり体が丈夫じゃなくって……。」
キール「小さいころも、よくこうやって病院に運ばれたんだよね。」
キール「そのたびに、家族みんなにメイワクかけちゃって……。」
キール「あのころから、ボクはお姉ちゃんに守られてばかりでさ……。」
キール「泣いてるボクを、いつもお姉ちゃんがなぐさめてくれたんだ……。」
キール「いつも、いつも……。」
キール「お母さんが亡くなった、あのときだって……。」
レスト「キール……。」
キール「本当は、お姉ちゃんだって泣きたかったはずなのにね……。」
キール「お母さんがいなくなるって知って悲しかったのは、」
キール「ボクだけじゃなかったはずなのにね……。」
レスト「…………。」
キール「あのね……レストくん……。」
キール「お姉ちゃんが騎士になったのは、ボクのためなんだよ……。」
レスト「え……?」
キール「ボク、見ちゃったんだ……。」
キール「ここでお母さんとお姉ちゃんが約束するのをさ……。」
キール「お姉ちゃんが、騎士になるのをやめようとしたとき……。」
キール「お母さんが、お姉ちゃんの手をにぎって、たのんだんだよ……。」
キール「『キールの騎士になってほしい』って。」
キール「ボクを守るために、お姉ちゃんに騎士になってくれって……。」
レスト「…………。」
キール「ボクもね、二人が喜ぶなら、そうしようって決めたんだ……。」
キール「誰かが悲しむのは、もうたくさんだから。」
キール「だから、いつも……どんなときでも笑ってようって。」
キール「そう、決めたんだ。」
キール「だから――」
キール「大丈夫だよ。レストくん。」
キール「ボクはね、みんなが幸せになるなら、それが一番なんだ……。」
キール「ずーっと……そのためにがんばってきたんだから……。」
キール「大丈夫……。」
レスト「キール……。」
キール「ボクはね、みんなが幸せになるなら、それが一番なんだ……。」
キール「だから……。」
キール「……大丈夫だよ。レストくん。」
フォルテ「レストさん……。」
フォルテ「…………。」
レスト「フォルテさん……?」
フォルテ「私は……キールを守らないといけないんです。」
フォルテ「母とそう約束して、あの場所で、父にそう約束したんです。」
レスト「……うん。」
フォルテ「だから私は、あの子を守らなければなりません。」
フォルテ「たとえ、他の何をギセイにしても……。」
フォルテ「……それであなたを、失ったとしても。」
レスト「フォルテさん……。」
フォルテ「…………。」
フォルテ「……失礼します。」
レスト「ビシュナルくん?」
フォルテ「どうされました?もしや……何か事件でも?」
ビシュナル「いえ、その……。」
ビシュナル「――すみませんでした!」
レスト「え?」
フォルテ「なにを……。」
ビシュナル「僕が……僕が悪かったんです!」
ビシュナル「僕が、キールくんのことをお二人にだまっていたから……!」
レスト「それって……。」
ビシュナル「……。」
フォルテ「ビシュナルさん。くわしく聞かせていただけますか?」
ビシュナル「……はい。」
ビシュナル「はじまりは、王都からの手紙でした。」
ビシュナル「その内容は、神竜の騎士の働きを問うもの……。」
ビシュナル「つまり、フォルテさんの騎士としての素質を問うものでした。」
レスト「それって……。」
フォルテ「……続けてください。」
ビシュナル「僕たちは、きちんと理由をそえて、問題はないと返信しました。」
ビシュナル「しかし、そこでキール君の話が持ち上がったのです。」
レスト「キールの?どういうことですか?」
フォルテ「キールは、もう騎士の地位を継承するのにふさわしい年齢ではないのか。」
フォルテ「そう問われたのですね?」
ビシュナル「……はい。」
レスト「ちょっと待ってください!」
レスト「それじゃあフォルテさんが、キールの代わりみたいな……。」
フォルテ「その通りです。」
レスト「え……?」
フォルテ「私が騎士の役目を果たせるのは、キールが一人前になるまでの間。」
フォルテ「そういう約束で、私は神竜の騎士になることを許されたのです。」
レスト「どうしてそんな……。」
フォルテ「私が女性だったからです。」
レスト「え?」
フォルテ「女性である私は、事実、男性よりも騎士には向いていない。」
フォルテ「だから、同じ条件や待遇では騎士になれないのは仕方がありません。」
レスト「そんな……。」
フォルテ「父が亡くなったとき、この地には別の騎士が遣わされる予定でした。」
フォルテ「しかし、私がそれに待ったをかけた。」
フォルテ「それを、
セルザウィード様と、お城の方々が支援してくれたのです。」
フォルテ「家の格式と、キールの存在を盾にして。」
フォルテ「ですから、相手の言い分は間違っていません。」
フォルテ「私が父の位を継ぐことができたのは、キールがいたおかげですから。」
レスト「…………。」
ビシュナル「それでも、今までは黙認されてきました。」
ビシュナル「ただ、最近のフォルテさんのことで、よくないウワサが流れてるんです。」
ビシュナル「町の中でゾウを暴れさせたとか、職務に集中できていないだとか……。」
ビシュナル「神竜の騎士は名誉ある仕事ですから、そこに目を付ける人間も多い。」
ビシュナル「だから、これを機に、未熟なキール君をまつりあげて……。」
レスト「その地位を奪おうとしている?」
ビシュナル「……かもしれません。」
フォルテ「……なんにせよ、スキを見せた私の責任です。」
フォルテ「それで、ビシュナルさん。」
ビシュナル「はい。」
フォルテ「その手紙にはどう答えたのですか?」
ビシュナル「それが……。」
ビシュナル「キール君に話したら、なんとかすると言って、」
ビシュナル「それからフォルテさんには内緒にするようにたのまれていました。」
ビシュナル「そんなことを知ったら、フォルテさんが悲しむからって……。」
レスト「じゃあ、キールがかくしてたことって……。」
ビシュナル「そのことなんです……。」
フォルテ「…………。」
フォルテ「……どうして、相談してくれなかったんだ。」
フォルテ「どうして……!」
レスト「フォルテさん……。」
ビシュナル「キール君は……。」
ビシュナル「……キール君は、一人でずっと戦っていたんです……!」
フォルテ「え……?」
ビシュナル「とにかく色々な文献を集めて、寝る間も惜しんでまとめあげて、」
ビシュナル「相手が納得するだけの資料を作ろうと、1人で必死に頑張っていたんです!」
ビシュナル「今回のことは、自分がふがいないせいでもあるから……。」
ビシュナル「だからどうしても、自分1人でやらせてほしいんだって……!」
フォルテ「キールが……そんなことを……?」
ビシュナル「……はい。」
ビシュナル「ネイティブドラゴンとは何か。それを守る騎士の役目とはどういうものか。」
ビシュナル「いかに自分の姉が、騎士として資質を備えているか。」
ビシュナル「そして、それを自分が、どのように支えていけるのか。」
ビシュナル「僕らもできあがった資料を見て、これなら問題ないと思いました。」
ビシュナル「でも、王都から返信が届いて……。」
フォルテ「……なんて書いてあったのですか?」
ビシュナル「『主張は理解した。』」
ビシュナル「『ならば、それを御前試合にて証明してみせよ』と。」
レスト「……ゴゼンジアイ?」
フォルテ「裁定者の見守る前で、戦って証明しろということです。」
レスト「戦うって、誰と誰が……?」
フォルテ「……私とキールが、ですね?」
ビシュナル「……はい。」
レスト「そんな……!」
フォルテ「キールはこのことを?」
ビシュナル「ええ。」
ビシュナル「それを知ったとたんに、気を失ってしまったんです。」
ビシュナル「きっと、今までの疲れが、一気に出てしまったんだと思います。」
フォルテ「そうだったんですか。」
ビシュナル「……すみません。」
ビシュナル「僕が、もっと早くこのことを伝えていたら……!」
フォルテ「いえ、ビシュナルさんが謝ることではありません。」
ビシュナル「でも……!」
フォルテ「……もういいんです!!」
フォルテ「あ……。」
フォルテ「……申し訳ありません。どうやら私も疲れているみたいですね……。」
フォルテ「少し、風に当たってきます。」
ビシュナル「…………。」
レスト「ビシュナルくん……。」
レスト「フォルテさんは、自分を責めてるんだと思う。」
ビシュナル「……はい。」
ビシュナル「……でも…………。」
レスト「……僕たちも、ひとまず帰ろうか。」
ビシュナル「そう、ですね……。」
ビシュナル「では、試合の日程は、また追ってお知らせします。」
ビシュナル「フォルテさんにも、そうお伝えいただけますか?」
ビシュナル「僕が伝えるより、きっとその方がいいと思いますから……。」
レスト「……分かった。」
ビシュナル「すみませんが、よろしくお願いします。」
ビシュナル「フォルテさんに、言づけをお願いします。」
ビシュナル「試合の日程は、また追ってお知らせしますと。」
ビシュナル「……すみません。」
クローリカ「フォルテさん……。キールくん……。」
クローリカ「さすがに心配で、眠れませんね~……。」
ヴォルカノン「御前試合ですか……。」
ヴォルカノン「……力及ばず、申し訳ありませぬ。」
レスト「フォルテさん……。」
フォルテ「…………。」
フォルテ「修行場に行きたいのですが、少し付き合ってもらえますか?」
レスト「え?」
フォルテ「お話ならそこで。」
フォルテ「……お願いします。」
レスト「……分かりました。」
レスト「フォルテさん。」
フォルテ「…………。」
レスト「ビシュナルくんからことづけです。」
レスト「試合の日程は、また追って知らせるって。」
フォルテ「……試合、ですか。」
フォルテ「いくら試合とはいえ、弟に剣を向けることに変わりないですよね。」
レスト「…………。」
レスト「キールから聞きましたよ。」
レスト「キールの騎士になってくれって、お母さんに言われたんですよね。」
フォルテ「…………。」
フォルテ「やはり、あの子は知っていましたか……。」
フォルテ「以前もお話しましたよね。」
フォルテ「父がキールを跡継ぎにするつもりだと気付いたとき、」
フォルテ「私は一度、剣を捨てたんです。」
フォルテ「でも、母はそんな私の手をとり、言いました。」
フォルテ「『キールを守って欲しい』と。」
フォルテ「何かを守ることが、騎士の仕事なんだから――」
フォルテ「どうか、あなたの弟を守って欲しいと。」
フォルテ「骨張った手が、びっくりするほど強く私の手を包み込んで。」
フォルテ「……そして、それが母との最後の約束になりました。」
レスト「…………。」
フォルテ「私はその約束を守るために、ここで父と約束をしました。」
フォルテ「弟の騎士になることを。」
フォルテ「それが、私の一番だったんです……。」
フォルテ「一番、大切なものだったのに……!」
フォルテ「……おかしいですよね。」
フォルテ「私は、キールを守るために騎士になったはずなのに。」
フォルテ「その立場を守るために、キールはあんなになるまで頑張って……。」
フォルテ「弟を守るために騎士になったのに、」
フォルテ「それが弟を傷つけていただなんて。」
フォルテ「そのうえ……、」
フォルテ「騎士であり続けるためには、キールと戦えだって?」
フォルテ「大切なものを守るために!」
フォルテ「その大切なものを、私に切り伏せろというのか……!」
フォルテ「そんなの、バカげてるじゃないか!」
フォルテ「理不尽すぎるじゃないか……!」
フォルテ「そんなことのために、私は騎士になったわけじゃない……。」
フォルテ「私はキールを守りたくて!」
フォルテ「町のみんなを!」
フォルテ「あなたを守りたくて!」
フォルテ「私の大切なものを守りたくて、この剣を取ったのに!」
フォルテ「私は……!」
フォルテ「私は……。」
フォルテ「…………もう、どうしたらいいのよ……。」
レスト「フォルテさん……。」
フォルテ「……結局、父の言った通りだ。」
レスト「え……?」
フォルテ「本当に、私は何も守れない……。」
フォルテ「……っ。」
フォルテ「…………。」
レスト「あの、バドさん……。」
バド「あア。」
レスト「その……。…………。」
バド「どうしタ?何か話があるんじゃないのカ?」
世間話をする ・ フォルテとキールのこと
▼フォルテとキールのこと
バド「まあ、そうだろうナ。」
バド「こうなることは、最初から分かってたしナ。」
レスト「え……?」
バド「前にも言ったロ?あの2人はただの姉弟じゃないっテ。」
レスト「…………。」
バド「二人の両親の話は聞いたカ?」
レスト「……はい。」
バド「オレは二人の父親と、ちょっとした縁があってナ。」
バド「二人の子供の話も、アイツからよく聞いてたんダ。」
バド「とことん気マジメで、本当につまらないヤツだったけド、」
バド「子供のことを話してるときだけは、にあわない顔をしてたなア。」
レスト「……いいお父さんだったんですね。」
バド「あア。いい父親だっタ。」
バド「しばらくして、アイツの嫁さんが亡くなってサ。」
バド「……今でもよく覚えてるヨ。」
バド「真っ白な顔をしたアイツが、そこのドアをくぐってきて、」
バド「それから、くたっとここに腰かけて言ったんダ。」
バド「『一日だけ、ここを貸してくれ』ってナ。」
バド「朝まで、二人で酒を飲んダ。」
バド「アイツが酔っ払うところを見たのは、後にも先にもその時だけダ。」
レスト「…………。」
バド「その時に、アイツからたのまれたものがあル。」
色あせた手紙を受け取った。
レスト「僕に……?」
バド「いつか、フォルテとキールの関係が、お互いを苦しめる時がくるかラ、」
バド「そのとき、二人のそばにいる人に、どうかこれを渡してくれってサ。」
バド「親友のたのみダ。受け取ってくレ。」
レスト「……はい。」
バド「……で、なんて書いてあるんダ?」
レスト「え!?読むんですか!?」
バド「読んでほしくなけりゃ、アイツはそう言って渡すだろウ。」
レスト「……じゃあ、あけますよ。」
バド「あア。」
「この手紙を君が読むとき、娘と息子は苦悩していることだろう。」
「それは、私の妻が、私の子供にかけた呪いのせいだ。」
「そして、それを解くことをためらったおろかなこと父親のせいでもある。」
レスト「呪いって……。」
バド「……とりあえず、続きを読んでみないカ?」
レスト「……はい。」
「この手紙を読む君へ。」
「どうか、二人を助けてやってほしい。」
「今の君たちなら、全てを受け入れられると信じている。」
バド「それと、このカギも一緒に預かっタ。」
レスト「これは……。」
バド「なんのカギかは聞いてなイ。けど、家のカギにしては小さすぎるナ。」
レスト「なにかもっとちいさいもののカギなのかな……。」
バド「まあ、持ち主はあの家の人間だったんダ。」
バド「とりあえず、あの二人に聞いてみたらいいんじゃないカ?」
バド「呪いネ……。」
レスト「どうして自分の子供に、そんなものを……?」
バド「……答えを知るには、カギの使い道を調べないとナ。」
バド「とりあえず、フォルテとキールに聞いてみるしかないんじゃないカ?」
キール「あ、レストくん……。」
カギのことを聞く ・ なんでもない
▼なんでもない
キール「そう……。」
キール「ゴメン。今はあんまり、話をする気分じゃないから……。」
<<無限ループ>>
▼カギのことを聞く
キール「このカギ、お母さんのオルゴールの……!」
キール「こ、これ、どこにあったの!?」
レスト「えっと、バドさんが持ってたんだ。」
レスト「キールのお父さんから預かったものだって……。」
キール「……そっか。」
キール「このカギはね、オルゴールのカギだったんだ。」
キール「お母さんは、そこにいつも日記を入れてて、」
キール「そのカギをお父さんに預けてた。」
キール「大人になったら、ボクがそのカギをもらえる約束だったんだけど……。」
キール「……結局、もらいそびれちゃったんだ。」
レスト「そう……。」
キール「オルゴールもね、気がついたら家から消えちゃってたよ。」
キール「でも、そのカギをお父さんが持ってたのなら、」
キール「オルゴールも、お父さんが持ってたのかもしれない。」
レスト「じゃあ、このカギ……。」
キール「いいよ、今さらだもん。もらっちゃって。」
キール「……ボクが持ってても、つらくなるだけだからさ……。」
レスト「キール……。」
キール「そのカギは、お母さんが持ってたオルゴールのカギだよ。」
キール「でも、オルゴールは、もうウチにはないんだ。」
キール「もしかしたら、カギと一緒にお父さんが持ち出したのかもね。」
二人に話を聞いた後:
レスト(……とりあえず、バドさんに話してみようかな。)
フォルテ「…………。」
レスト「フォルテさん?」
フォルテ「あ……。」
フォルテ「すみません。ぼんやりしてしまって。」
フォルテ「どうかしましたか?」
カギのことを聞く ・ なんでもない
▼なんでもない
フォルテ「そうですか。」
フォルテ「では……私は少し考えたいことがありますので……。」
<<無限ループ>>
▼カギのことを聞く
フォルテ「え?このカギですか?」
フォルテ「あ、これ……秘密基地のカギじゃないですか。どこでこれを?」
レスト「え……?」
フォルテ「あれ?違いましたか?」
レスト「いえ……えっと、知ってるんですか?」
フォルテ「はい。いつも父が持っていたカギです。」
フォルテ「それは父が持っていた、秘密基地のカギですね。」
フォルテ「そういえば、どこでこの話を聞いたんでしょう……。」
フォルテ「それに、なにか忘れているような……。」
二人に話を聞いた後:
レスト(……とりあえず、バドさんに話してみようかな。)
レスト(秘密基地のカギ。オルゴールのカギ……。)
レスト(普通のカギにしては小さすぎるけど……。)
レスト(……とりあえず、バドさんに話してみようかな。)
バド「秘密基地?」
バド「あア。それなら心当たりがあるゾ。」
レスト「本当ですか!?」
バド「ほら、黒曜館近くに小屋があるだろウ?」
バド「あの辺りに、アイツがよく使ってた修行場があるんダ。」
バド「そこら一体が秘密基地だったって聞いたことがあるゾ。」
レスト「修行場……。」
バド「ああ、間違いないヨ。」
バド「その秘密基地に宝物を埋めて、宝の地図を作ったりしたとか話してタ。」
バド「キールの言ってるオルゴールも、もしかしてそこに埋まってるんじゃないカ?」
レスト「…………。」
バド「黒曜館近くに小屋があるだろウ?」
バド「あの辺りに、アイツがよく使ってた修行場があるんダ。」
バド「秘密基地っていうのは、そこら一体のことだろウ。」
バド「その秘密基地に宝物を埋めて、宝の地図を作ったとか話してたし、」
バド「キールの言ってるオルゴールも、もしかしてそこに埋まってるんじゃないカ?」
レスト「ん?」
レスト「なにか埋まってる……。」
レスト「これは……オルゴール?」
レスト(もしかして、これってキールの言ってた……。)
レスト「このオルゴール、小さな引き出しとカギ穴がついてる。」
カギを入れる ・ そっとしておく
▼そっとしておく
<<無限ループ>>
▼カギを入れる
「――カチャ。」
レスト「開いた……。」
レスト「これは……。」
春の月 26日
病院にて、私の命があとわずかだと知らされる。
しばらく言葉を失ってると、岩のような手がそっと頭をなでた。
涙は、出なかった。
春の月 27日
今日は雨だった。
お見舞いにきた子供たちが、部屋の中を走り回っている。
夫が、そんな子供たちを、厳しい顔でしかりつける。
昨日までと、何一つ変わらない風景だった。
こんな毎日が、ずっと続けばいいのにと思った。
フォルテ「これは、母の日記……?」
レスト「このオルゴールの中にあったんです。」
レスト「修行場の地面に埋まってました。」
フォルテ「え……?」
レスト「見つけるキッカケをくれたのは、お父さんからのお手紙です。」
フォルテ「…………。」
フォルテ「先を読ませてもらってもいいですか?」
レスト「……はい。」
夏の月 1日
夫が子供たちを連れてきた。
これから水浴びに行くんだって。
うらやましいというと、子供たちは顔を見合わせて笑った。
早く元気になって、それから一緒に行こうって。
ほほ笑んでうなずいてから、ふと考えてしまった。
私の「それから」は、あとどれくらい残されてるんだろう。
春の月 30日
その日は、夕暮れの空が綺麗だった。
時間を見つけて、夫が会いに来てくれた。
私たちはしばらく無言で、窓の外の夕暮れをながめていた。
日が落ちきる前に、私はポツリとつぶやいた。
あの子たちにも伝えなきゃね、と。
不器用なあの人は何も言わず、ただ無言で肩を抱いてくれた。
その温もりが、なんだか無性に悲しくて。
私は彼の胸にすがりついて、しばらく泣いた。
すまない、と。
一言だけ、かすれた声が聞こえた。
夏の月 1日
子供たちにも、私の病気のことを話す。
その後のことは、あまりよく覚えていない。
ただ、想像していたよりもずっと静かな反応で、
私は……知らない間に、忘れてたみたいだ。
悲しみというのは、こんなにも静かで深いものだったなんて。
忘れてしまうほど、私は幸せだった。
フォルテ「…………。」
フォルテ「……母も怖かったんでしょうか。」
レスト「え……?」
フォルテ「思い出したんです。」
フォルテ「小さい頃、父によく、あの洋館に連れて行かれました。」
フォルテ「父が子供のころ、秘密基地にして遊んでいたからと。」
フォルテ「そこで怖い話をたくさん聞かされて、変な目にもあって……。」
フォルテ「それから私は、そういうものが苦手になったんですよ。」
フォルテ「……そんな臆病な自分が、今日までずっとキライだったのに……。」
フォルテ「……でも、そっか。」
フォルテ「母も怖かったんだ。」
フォルテ「そんな素振り、1つも見せなかったのに……。」
レスト「フォルテさん……。」
フォルテ「…………。」
フォルテ「……続きを読みます。」
夏の月 13日
今日、フォルテが、暗い顔で病院に来た。
話を聞くと、騎士になるのをあきらめるという。
理由は、なんとなく、見当がついていた。
夏の月 14日
夫にフォルテの話をする。
騎士をつがせるのは、キールじゃなければいけないのか。
たずねると、彼はひどく苦しそうな顔をした。
悩んでいるのはフォルテだけじゃない。
それを知っても、私には何もできそうにない。
私には、残された時間があまりになかった。
夏の月 15日
また夕暮れに目覚める。
お見舞いに来てくれたフォルテに、私は1つお願いをした。
――キールの騎士になってほしい、と。
レスト「フォルテさん……。」
フォルテ「この手記を隠したのが父なら、 母との約束は知られていたのですね。」
フォルテ「その上で、騎士になると言い出した私を止めなかったのは……。」
フォルテ「私が……その約束の中に、母の姿を見ていたことを……、」
フォルテ「母との約束を守ることで……本当は母に守られていたことを……、」
フォルテ「その悲しみを……忘れようとしていたことを……。」
フォルテ「父は……分かっていたから……っ。」
レスト「…………。」
フォルテ「……情けないな。」
フォルテ「私はずっと、守られていたのか……。」
フォルテ「それに、思っていよりもずっと……っ。」
フォルテ「ずっと……愛されていたんだ……!」
フォルテ「愛されて……っ。」
フォルテ「…………っ!」
フォルテ「ありがとうございました。レストさん。」
フォルテ「父の言葉の意味が、今になってようやく分かりました。」
フォルテ「私は、約束を守ろうとするばかりで、守られていることに気付かなかった。」
フォルテ「そんなことにも気付けない人間に、誰かを守れるはずがない……。」
フォルテ「それを知っていながら、」
フォルテ「父は私に、それを伝えることができなかった。」
フォルテ「あのときの私がそれを知ったら、生きがいをなくしてしまったから。」
レスト「…………。」
フォルテ「でも、もう大丈夫です。」
フォルテ「私にはこの町の人がいる。」
フォルテ「キールがいる。」
フォルテ「そして、レストさんがいる。」
フォルテ「私はもう、守るべきものを間違えません。」
ビシュナル「失礼します。」
ビシュナル「御前試合の日程ですが、明日に決まりました。」
レスト「明日って……。」
ビシュナル「今まで結論を先送りにしたせいで、向こうも警戒しているようです。」
ビシュナル「交渉次第でいくらか遅らせることはできるでしょうが――」
フォルテ「いえ。明日で大丈夫です。」
レスト「フォルテさん……。」
フォルテ「大丈夫です。」
フォルテ「私の守るべきものは、もう決まってますから。」
フォルテ「明日の御前試合、ぜひ見に来てください。」
フォルテ「大丈夫ですよ。もう、守るべきものは見間違えません。」
ビシュナル「……すみません。結局、こんな形になってしまって……。」
ビシュナル「……キールくん、大丈夫かな」
キール「明日かあ……。」
キール「……大丈夫だよ、レストくん。」
キール「どうせボクには、勝てっこないんだから……。」
ヴォルカノン「いよいよ明日ですな……。」
ヴォルカノン「……今日はきちんと休んむよう、フォルテとキールに伝えて頂けますかな?」
クローリカ「ビシュナルくんも、ヴォルカノンさんも、とってもつらそうです……。」
クローリカ「どうにかならないものなんでしょうか……。」
6日目
フォルテ「御前試合は竜の間で行われます。」
フォルテ「私は少し準備がありますので、先に向かっていてもらえますか?」
フォルテ「……大丈夫です。信じて待っていて下さい。」
キール「今日、ボクが負ければ、全て解決だよね?」
キール「……それでいいんだよね?」
ヴォルカノン「…………。」
ヴォルカノン「判断は公平に行わせていただきますぞ。」
ヴォルカノン「……でなければ、誰に対しても失礼ですからな。」
ビシュナル「いよいよですね……。」
ビシュナル「……なにも出来ない自分が、……もどかしいです……。」
クローリカ「どうなってしまうんでしょうね~……。」
夏の月 16日
深夜に目が覚める。
不思議と、体が軽い気がした。
きっと、これが最後の日記になると思う。
夢の中で、大人になった子供たちを思い描いた。
ヴォルカノン「はじめ!」
二人はこれから、あんな風に大きくなっていくのだろう。
でも、忘れないでほしい。
何をするべきか迷ったら、まず、振りだしに戻ること。
何かをはじめたきっかけは、いつも一番最初にあるんだから。
それにね。
一番最初に願ったことは、心の真ん中につながってるの。
そこがあなたの心の位置。
人はその位置からしか、生きていかれないんだから。
だから、
それが全部正しいとは限らないけれど、
私たちはいつも、そこから生きてくしかないのよ。
だから――
キール「う……。」
ヴォルカノン「……しょ、勝負あり!」
フォルテ「キール。」
キール「お姉ちゃん……。」
フォルテ「受け取ってくれ。」
キール「え……?」
フォルテ「父さんと母さんの手紙だ。」
キール「手紙……?」
キール「え?どういう……こと……?」
フォルテ「すまない。今まで隠してて。」
フォルテ「これを読んだら、きっとお前は、私と戦ってくれないと思った。」
フォルテ「でも、私はお前と、きちんと決着を付けたかったから。」
キール「お姉ちゃん……。」
フォルテ「……ごめんね。」
キール「…………。」
キール「……読んでも、いいかな?」
フォルテ「……うん。」
――キールの騎士になってほしい。
もしも、この約束が、二人を苦しめる呪いとなったとき。
二人がまだ、自分たちの気持ちを見失っているときは、
どうか、私のこの言葉を、二人に届けてください。
フォルテ、キール。
生まれてきてくれて、ありがとう。
あなたたちのおかげで、お母さんは幸せでした。
……ありがとうね。
私の一番の子供たちへ
母より
キール「…………。」
キール「……お父さん、お母さん。」
フォルテ「…………。」
キール「ボク、ずっと怖かったんだ。」
キール「お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんばかり見ている気がして。」
キール「ボクは、本当は誰からも愛されてないんじゃないかって、」
キール「そんな風に、勝手に、思い込んでてさ……。」
キール「もう、誰にも嫌われたくないから、笑ってようって……。」
フォルテ「…………。」
フォルテ「キール。」
フォルテ「もう一度、1から始めよう。」
キール「え……?」
フォルテ「父さんのためでも、母さんのためでもなく、」
フォルテ「私たちがいま、一番に守りたいと思うもののために。」
フォルテ「心から、守りたいと思うもののために。」
フォルテ「1から――」
フォルテ「この位置から、もう一度。」
キール「…………。」
キール「……うん。」
バド「呪いはすっかり解けたみたいだナ。」
バド「あの二人には、もう必要ないってことカ。」
キール「レストくん。」
キール「……お姉ちゃんのこと、よろしくね!」
ヴォルカノン「よもや、このような美しい姉弟愛がこの世に存在していたとは……。」
ヴォルカノン「…う………。」
ヴォルカノン「うおおぉぉーーーーんっ!!」
ビシュナル「お二人の決意に……ひぐ……、僕、感動しました……っ!」
ビシュナル「僕も1から出直す気持ちで、頑張ろうと思います!!」
クローリカ「本当によかったです~。」
クローリカ「安心したら、ちょっと眠たくなってきちゃいました……。」
フォルテ「レストさん。ありがとうございました。」
フォルテ「今回の事件で、私は色々なことに気づかされました。」
フォルテ「でも、それを乗り越えられたのは、」
フォルテ「あなたが、私の隣にいてくれたおかげです。」
フォルテ「……ありがとう。」
レスト「どういたしまして。」
フォルテ「最後に1つだけ、訂正させてもらえますか?」
レスト「え?」
フォルテ「たとえ、あなたを失ったとしても、私はキールを守る。」
フォルテ「以前、私はそう言いましたよね?」
レスト「……はい。」
フォルテ「ですが……。」
レスト「あの、フォルテさん?」
フォルテ「あれは真っ赤なウソです。単なる強がりでした。」
レスト「え……?」
フォルテ「で、ですから、ここで訂正します。」
フォルテ「私は……あなたを失ってまで、何かを守ろうと思えないかも知れません。」
フォルテ「だから……。」
フォルテ「もう、何があっても、私からあなたを手放そうとは思いません。」
フォルテ「……い、以上です。」
レスト「…………。」
レスト「あの、今のって……。」
フォルテ「に、二度は言いません……。」
レスト「え?いや、あの……。」
フォルテ「そ、それでは!」
レスト「あ……。」
レスト「あの、フォルテさん――」
フォルテ「に、二度は言いませんから!」
レスト「あ……。」
最終更新:2020年11月12日 12:12