「つまりだ、お前は…いや、お前もミルディアンの王子?」
小さな町のカフェで、フルーツパフェをむさぼりつつ、ヴァイスはスプーンの先をレオナルドに向けた。がっくりと肩を落としながら、答える。
「ええ。いや…正しくは僕は王…2年前に即位しました。君が今している、旅の試練を受け、僕はミルディアンを出て、東の森で修道士の君に助けられたんだ。プリアラにはミルディアンの街のはずれで出会って…。と、とにかく!ここは…2年前?しかも、その上…いろいろ改変されている?」
プリアラが驚きを隠せない瞳でレオナルドを見た。そして、紅茶を置くと、目線を落として離し始める。
「あなたの話だと、その鏡でこんなことが起こったみたいだけど…そんなこと、絶対にムリよ。そんな魔力、普通の魔導師にあるわけないわ。時間をゆがめ、事実をゆがめるなんて…。ねぇ、その鏡、今ここにあるの?」
「は、はい。これです。」
「は、はい。これです。」
水晶の鏡が机に置かれると、光が再び乱反射した。しかし、それだけで今回は何も起こらない。ヴァイスは完全にわからない顔で二人のやりとりを眺めているだけだった。
「ああ…せめて、僕の知っているヴァイスがいたならなあ…」
「…悪かったな、役立たずで。その…お前が知ってる俺って魔法が得意だったのか?」
「うん。得意なんてものじゃなくて、彼よりも強い魔法使いなんていなかったんじゃないかな。…あっ!」
「何?」
「も、もしかしたら。ヴァイスと僕の立場が入れ替わっているなら、僕にも魔法が使えるかもしれない…」
「…たしかに、あなた魔法は使えるみたいだけど。」
「…悪かったな、役立たずで。その…お前が知ってる俺って魔法が得意だったのか?」
「うん。得意なんてものじゃなくて、彼よりも強い魔法使いなんていなかったんじゃないかな。…あっ!」
「何?」
「も、もしかしたら。ヴァイスと僕の立場が入れ替わっているなら、僕にも魔法が使えるかもしれない…」
「…たしかに、あなた魔法は使えるみたいだけど。」
プリアラは一旦ここで言葉を切った。その後に続く言葉はレオナルドにもおおよそ予想が付く。だめか、と肩を落としてため息をついて、コーヒーを一口飲んだが、全然落ち着く気配は無かった。
「これからどうすればいいんだろう…」
「とりあえず、俺についてこいよ!俺が目指すのはサガルマータ。あんたの話によれば、なんでも願いを叶えられるんだろ。それに、経験者がいれば怖いものなしじゃねーか。てっぺんまで登って、願えばいい。」
「…そうですね、それしかない。そうしてもいいですか?プリアラ。」
「王子の言葉に逆らう気は無いわ。よろしくね、レオン。」
「とりあえず、俺についてこいよ!俺が目指すのはサガルマータ。あんたの話によれば、なんでも願いを叶えられるんだろ。それに、経験者がいれば怖いものなしじゃねーか。てっぺんまで登って、願えばいい。」
「…そうですね、それしかない。そうしてもいいですか?プリアラ。」
「王子の言葉に逆らう気は無いわ。よろしくね、レオン。」
にこりと笑うプリアラは、やっぱり可憐だった。魔法にかかってから、あまり黒いオーラをまとっているプリアラを見ていない。嬉しくもあるが、なんとなく違和感を感じ、レオナルドは苦笑するしかなかった。
「サガルマータは、封印されていて普通に行ったら頂上までたどり着けません。星界の封印をもっていなければ、いけないんですよ。…たしか、それを持っているのは西の魔女ですが…」
「西の魔女、か。砂漠にいるって噂だな。…と、レオン。助言はこれくらいにしてくれ。ありがたいが、これじゃあフェアじゃない。兄貴と戦うのなら、フェアにいこうと思ってる。」
「変わらないな。」
「?」
「いや…なんでもないです。わかりました。」
「じゃあ、とりあえず西を目指しましょうか!レオン、あなたどうせ魔法があんまり上手につかえないでしょ?今まで剣しか振っていなかったものね。出発の前に少し、コツを教えておいたほうがいいかしら。」
「是非。」
「おい、プリアラ。どうせだったら実践しながらのほうがいいんじゃないか?」
「もう、魔法はそんな簡単にいかないのよ。」
「いえ、先を急ぎましょう。僕も努力しますから。」
「西の魔女、か。砂漠にいるって噂だな。…と、レオン。助言はこれくらいにしてくれ。ありがたいが、これじゃあフェアじゃない。兄貴と戦うのなら、フェアにいこうと思ってる。」
「変わらないな。」
「?」
「いや…なんでもないです。わかりました。」
「じゃあ、とりあえず西を目指しましょうか!レオン、あなたどうせ魔法があんまり上手につかえないでしょ?今まで剣しか振っていなかったものね。出発の前に少し、コツを教えておいたほうがいいかしら。」
「是非。」
「おい、プリアラ。どうせだったら実践しながらのほうがいいんじゃないか?」
「もう、魔法はそんな簡単にいかないのよ。」
「いえ、先を急ぎましょう。僕も努力しますから。」
杖を握り締め、レオナルドは決意する。先のたびで、あれほど渇望した魔道の力が今、あるのだ。魔法を使うという経験を得られるなら、努力は惜しまない。にっこりと笑い、二人の後を追った。
「ま、いざとなったら俺の双剣が光ってうなって大騒ぎ!俺の剣に敵は無いぜ?」
「はい。ヴァイスは強いですからね。でも、剣だったら僕のほうがきっと強かったんじゃないかな…」
「あら、そこまで言うなら剣でも持っていたほうがいいんじゃないの?」
「はい。ヴァイスは強いですからね。でも、剣だったら僕のほうがきっと強かったんじゃないかな…」
「あら、そこまで言うなら剣でも持っていたほうがいいんじゃないの?」
そういえば、そうだ。あたりまえのことを言われて、顔を赤くする。
「俺一刀流でもOKだし、これ、使うか?」
「ありが…うわ?!」
「ありが…うわ?!」
剣を持ったとたん、体が傾いた。よろよろと数歩よろけた後、盛大に転んで、レオナルドは頭を強く打った。これくらいでは全く痛くもかゆくも無かったはずなのに、とてつもなく痛い。頭がぐらぐらして、気持ちが悪い。魔導師になると腕力が落ちる上、体力もなくなってしまうらしい。想像していたよりも厳しい魔導師の条件に改めて、レオナルドは驚いた。
「う…む、ムリになってしまったみたいですね…。ヴァイスはすごいな、こんなに重い剣を二本も持つんだね…」
「はぁ?かなり軽いほうなんだけどな…。ま、しかたねぇだろ。行こうぜ二人とも。剣は俺が扱えれば十分だ。」
「はぁ?かなり軽いほうなんだけどな…。ま、しかたねぇだろ。行こうぜ二人とも。剣は俺が扱えれば十分だ。」
マントを翻してヴァイスは行く。その後を小走りで追うプリアラ―
(なんか…)
僕よりも王子らしい…
どことなく屈辱感に襲われつつも、レオナルドは歩き出した。街を出れば魔物がいる。もう気を抜いているわけには行かないだろう。
「…はあ、はあ…」
一方、ベルセルクとヴァイスはミルディアン城の中を駆け回っていた。
後ろから追ってくるのは大量のミルディアン兵である。
後ろから追ってくるのは大量のミルディアン兵である。
「ヴぁ、ヴァイス様…まずいっす!このままだと挟み撃ちにされる…」
「魔法ぶっぱなすわけにもいかねえしな…。は、早くレオンがかけられた魔法の道具を見つけねえと…。ベルク、とりあえずこの部屋へ隠れるぞ!」
「魔法ぶっぱなすわけにもいかねえしな…。は、早くレオンがかけられた魔法の道具を見つけねえと…。ベルク、とりあえずこの部屋へ隠れるぞ!」
部屋へ半ば転がり込むように入ると、ドアを閉め、今度は魔法でドアのまわりを石に変えた。これで部屋に入るのはもはや容易なことではなくなるだろう。息を整えつつ次の行動を頭の中で考えていたヴァイスに、後ろから声がかけられた。勿論、ベルセルクの声ではない。
「ふふ…お探しなのはこれですか。」
「!…い、イシュナード…」
「今この国では、かつての英雄ヴァイスもただの反逆者…。ミルディアンをのっとるために国王に魔法をかけて失踪させた罪を負っているのですよ。」
「テメーがそう仕組んだんだろ!…それを貰うぜ、イシュナード。俺はあいつのために、魔法をといてやる必要がある。いくら俺に恨みがあるからって、ダチに手ぇだされちゃ黙ってられねえよ!」
「面白い。できるならば、やってみるといい。私はあのころの私とは違いますよ!」
「!…い、イシュナード…」
「今この国では、かつての英雄ヴァイスもただの反逆者…。ミルディアンをのっとるために国王に魔法をかけて失踪させた罪を負っているのですよ。」
「テメーがそう仕組んだんだろ!…それを貰うぜ、イシュナード。俺はあいつのために、魔法をといてやる必要がある。いくら俺に恨みがあるからって、ダチに手ぇだされちゃ黙ってられねえよ!」
「面白い。できるならば、やってみるといい。私はあのころの私とは違いますよ!」
まばゆい閃光が部屋を多い、鋭い雷の音が響いた。その雷の間を縫うように炎が踊り、ヴァイスとベルセルクを襲う。と、今度は頭上からマグマが流れ込み、ヴァイスは急いで結界を張った。ベルセルクは弓を構えるが、イシュナードにはまったく隙が無い。まったく当てることもできずに、悔しさに唇をかみ締めた。
「ベルク!危険だ。ポケットの中にでも入って隠れてろ!」
「い、嫌ですよ!ヴァイス様だけ危険な目には―」
「うっせぇな!テメーが足手まといなんだよ!ごちゃごちゃ言わんで言うことを聞け!」
「では足手まといが消えたところで、私も本気の力を出しても?」
「うお!」
「い、嫌ですよ!ヴァイス様だけ危険な目には―」
「うっせぇな!テメーが足手まといなんだよ!ごちゃごちゃ言わんで言うことを聞け!」
「では足手まといが消えたところで、私も本気の力を出しても?」
「うお!」
いつの間にか背後に回っていたイシュナードの手から熱波が繰り出され、ヴァイスは壁に打ち付けられた。全身を打ちつけ、頭がぐらつくが、よろよろと立ちあがり、ヴァイスも笑みを返して挑発する。
「ああ。俺も少し暴れたくなってきたぜ…」