魔道と剣の双面
レオナルドが鏡の魔法にかけられてから、数日が経った。
ここでは王子だというヴァイスと、そのお付だというプリアラに拾われ、彼らに助言しつつも西を目指して旅をしている。
そのなかで、かすかな異変が彼の中で生じつつあることに、レオナルドは気づくはずも無かった。
ここでは王子だというヴァイスと、そのお付だというプリアラに拾われ、彼らに助言しつつも西を目指して旅をしている。
そのなかで、かすかな異変が彼の中で生じつつあることに、レオナルドは気づくはずも無かった。
「なあ、レオン。」
「はい、なんでしょう?」
「お前、家族とか、やっぱ俺と同じなのか?その、ほら。こっちの世界の話じゃなくてさ、お前のいたっていう…俺は、兄貴のほかに、妹がいるんだけどさ。」
「妹、ですか…ええ、私も妹がいました。」
「はい、なんでしょう?」
「お前、家族とか、やっぱ俺と同じなのか?その、ほら。こっちの世界の話じゃなくてさ、お前のいたっていう…俺は、兄貴のほかに、妹がいるんだけどさ。」
「妹、ですか…ええ、私も妹がいました。」
微かに笑って答えたものの、レオナルドはどことなく寂しい思いが胸にこみ上げてくるのを感じていた。一体、何故なのかはわからない。自分の知らない世界に放り込まれたさみしさではないと思うのだが…
「へーっ?!って…いた、ってどういうことだよ。まさか…?」
「…えっと、…あれ?」
「…えっと、…あれ?」
空白の時間が流れた。プリアラが心配そうな瞳でレオナルドを見つめているのにも気づかず、思考をめぐらせたが思い当たらない。あれほど鮮明に思い出せたはずなのに、今は全く検討も付かない―
「…名前は、サラといいます。ただ…ちょっと。」
「ご、ごめん!俺、そんなつもりで言ったんじゃなかったんだ。悪かった…。」
「ご、ごめん!俺、そんなつもりで言ったんじゃなかったんだ。悪かった…。」
レオナルドが口をつぐんだのは、決して聞いて欲しく無い事を聞かれたからというわけではない。ただ、答える言葉が見つからなかった。忘れられた想い出を見つけることも出来ず、ただ戸惑っただけなのだ。
「レオン…だいじょうぶなの?」
「あ、はい。だいじょうぶです。ごめんなさい。」
「いえ…」
「じっ、じゃあさ!俺の妹の話でもしようか?」
「ちょっと、王子!」
「いや、してもらってもいいですか。聞いてみたいです。」
「おう!」
「あ、はい。だいじょうぶです。ごめんなさい。」
「いえ…」
「じっ、じゃあさ!俺の妹の話でもしようか?」
「ちょっと、王子!」
「いや、してもらってもいいですか。聞いてみたいです。」
「おう!」
プリアラの制止の言葉を否定して、話の続きを促した。
ただ純粋に、この世界のヴァイスの話が聞きたいと思っただけで、特に他の意味は無い。
ただ純粋に、この世界のヴァイスの話が聞きたいと思っただけで、特に他の意味は無い。
「俺の妹はアリアっていうんだ。」
アリア、たしかにその名前を聞いた記憶はあった。しかし、それをどこできいたのかをレオナルドはもう思い出すことが出来ない。
「姫のくせに、男勝りでさー。あいつは、魔法が得意なんだぜ。城の外壁を魔法で飛び越えて、よく外に遊びに出てた。」
「へえ、か、活動的なんですねぇ…」
「でも、なかなか優しいトコもあるんだぜ。俺は西の森に生えてるコノハイチゴが好きでさー、修行修行でろくに遊びに出られない俺のために結構採ってきてくれたりしてさ。」
「コノハイチゴ?僕も好きですよ。」
「へえ、か、活動的なんですねぇ…」
「でも、なかなか優しいトコもあるんだぜ。俺は西の森に生えてるコノハイチゴが好きでさー、修行修行でろくに遊びに出られない俺のために結構採ってきてくれたりしてさ。」
「コノハイチゴ?僕も好きですよ。」
小さな実ではあるものの、数が多くなる苺の実。普通のものよりも桃色にちかく、その姿からも人気がたかい果物だ。ミルディアン近郊に自生しているものが多く、ミルディアンの郊外の農家はこれを輸出して利益を多く上げている。
「そうね、あなたの世界でもコノハイチゴはミルディアンの特産品なのかしら。」
「…えっ?」
「おいおい、レオン!お前は…お前は?」
「…えっ?」
「おいおい、レオン!お前は…お前は?」
目を見合わせるレオナルドとヴァイス。言葉を振ったプリアラも驚いた顔で二人に声をかける。
「え…?二人とも、どうしたの?私何か言ったのかしら?」
「あ…いや、何をいったんでしたっけ。」
「ん?たしか妹の話を…?」
「…なんだか、気味が悪いわね。ヘンよ、私も何を言ったのか思い出せないわ。」
「気にするだけ無駄だって、今日はかなり歩いてる。疲れてるだけだろ?そろそろ街に着くだろ?ゆっくり休めばだいじょうぶだ。」
「あ…いや、何をいったんでしたっけ。」
「ん?たしか妹の話を…?」
「…なんだか、気味が悪いわね。ヘンよ、私も何を言ったのか思い出せないわ。」
「気にするだけ無駄だって、今日はかなり歩いてる。疲れてるだけだろ?そろそろ街に着くだろ?ゆっくり休めばだいじょうぶだ。」
不安げな二人とは対照的にニッと笑ってマントを翻し、超特急!と叫びつつ走りつつヴァイスにプリアラが呆れ顔で従った。重そうな鎧を身につけ、剣を二つも持っているのに走ることの出来る体力は素晴らしいものだ。
「ま、まってくださいよーっ!」
早くこい、と笑いながら叫ぶ、もう随分先に進んでしまったヴァイスに向かい、レオナルドは走ったのだった。
「…ぐぅっ……ぐああッ!」
「口ほどにも無いですね。」
「口ほどにも無いですね。」
黒龍が唸った。黒い霧に包まれた空間の中で血まみれになり、横たわっているそれは、本来の威厳を失うほどに傷ついている。その竜の傍らで必死に叫び声を上げる鼠もまた、血を浴びていた。
「……っ、き…貴様、何しやがった…!なんで、貴様が…?!」
黒龍のもとに、火龍が降り立つ。不気味なほどにギラギラと光るマグマの瞳は残忍な色をたたえていた。
「さあ?その頭脳で考えてはいかがでしょう?もっとも…あなたの頭脳はこれから少しずつ崩れていく運命なのですよ。」
「………フン、見くびられたもんだぜ。俺サマを誰だと思ってるんだ。その言葉でわかった。単に俺に復讐がしたかったわけじゃあなさそうだな。」
「ええ。そうです。少し相手をしてあげてもよいのですが、あなたが死んでは何もならないので…抵抗することができなるくらいまで大怪我させようと思っています。」
「そんなことはさせないッ!」
「………フン、見くびられたもんだぜ。俺サマを誰だと思ってるんだ。その言葉でわかった。単に俺に復讐がしたかったわけじゃあなさそうだな。」
「ええ。そうです。少し相手をしてあげてもよいのですが、あなたが死んでは何もならないので…抵抗することができなるくらいまで大怪我させようと思っています。」
「そんなことはさせないッ!」
鼠が突如青年の姿に変わった。鋭い銀の弓を構え、火龍の眉間に向かってすばやく射る。
「ベルク!やめろ!」
「小ざかしい鼠ですね。」
「!」
「小ざかしい鼠ですね。」
「!」
火龍がつめを振りかざすと、それだけでベルセルクは勢い良く飛ばされ、ヴァイスに打ち付けられた。もう大怪我を負っていたヴァイスには、普段ならばなんてこともないこの衝撃にもうめき声を上げる。
「ぐっ…」
「す、すみませんヴァイス様!ここは俺に任せて逃げてください!」
「んなこと出来るかよ!…くそっ……。…ベルク!逃げる時は一緒だぜ!」
「!…は、はい!」
「逃げる?この状況で…ふふ、おかしなことを言いますね。その魔力の減りよう、わかっているはずですが?」
「さあな。俺は不可能を可能にする奇跡の男だぜ?」
「す、すみませんヴァイス様!ここは俺に任せて逃げてください!」
「んなこと出来るかよ!…くそっ……。…ベルク!逃げる時は一緒だぜ!」
「!…は、はい!」
「逃げる?この状況で…ふふ、おかしなことを言いますね。その魔力の減りよう、わかっているはずですが?」
「さあな。俺は不可能を可能にする奇跡の男だぜ?」
ニヤリと笑ったヴァイスは突如元の姿に戻る。青年の姿から鼠の姿へと変化したベルセルクを鷲づかみにすると、その瞬間黒い霧の空間から二人は消えていた。
「…なるほど、エレメンティアマウスの能力か…。まあいいでしょう。あれでは暫く動き無いでしょうからね。」
つぶやくと、火龍は―イシュナードは、指を鳴らす。と、何事も無かったかのようなミルディアン城のテラスから空を仰いだ。