序幕:「とある時、とある街のとある場でとある人物が紡ぎ出したとある詩(うた)」
――――いやはや、参った参った。
どうやら今日はとことん、そうまさに行き着く所まで徹底的についてないらしい。ああ全くもってついてない、少なくとも今日という日を「厄日」と称したところで寸分違いない位には。
やれやれ、近頃の世の中はどうも物騒でいけない。まぁこれからは外だけじゃない町の中でだって気を引き締めておかなきゃならないって事、か。尤も、巣食っている魔物の種類は随分と違うようだけれど。
そのうえ、人が今これ程不機嫌だって時に天候は有ろう事か突き抜ける程の快晴ときてる。はぁ、雲1つないこの晴れ渡った青空が恨めしい位だよ、まったく。
そのうえ、人が今これ程不機嫌だって時に天候は有ろう事か突き抜ける程の快晴ときてる。はぁ、雲1つないこの晴れ渡った青空が恨めしい位だよ、まったく。
―――――ん?
おや、これはどうも。まだ名も知らぬ旅の御方。隣?もちろんいいですとも。
え?それで何があったのかって?いやだな、聞いてたんですか?さっきの話。
なに、人様の前でお話するには少々忸怩たるものがある程のまるで取るに足らない話ですよ。それでも聞きたい?うーん。
え?それで何があったのかって?いやだな、聞いてたんですか?さっきの話。
なに、人様の前でお話するには少々忸怩たるものがある程のまるで取るに足らない話ですよ。それでも聞きたい?うーん。
・・・・・・実はつい今し方の事なのですが、丁度・・・ほら、そこの通りを歩いていたんですよ。それでまぁ、やはりといいますか、流石は本通りという事だけあってすっごく人が多いでしょう?途中で人にぶつかってしまいまして。ついでを言うとその拍子に僕は尻餅をついた訳ですが。
そのぶつかった人というのが、これがまた如何にも紳士そうな風貌の男でおっと失礼、お怪我はありませんか、なんて手を貸し下さったものですから、その心遣いに感謝しつつ、僕もそれに答えた訳です。いえいえとんでもない、此方こそ申し訳ないと。
そのぶつかった人というのが、これがまた如何にも紳士そうな風貌の男でおっと失礼、お怪我はありませんか、なんて手を貸し下さったものですから、その心遣いに感謝しつつ、僕もそれに答えた訳です。いえいえとんでもない、此方こそ申し訳ないと。
ところがそれから暫くしてあれ、と思ったら・・・・・・なんと財布が無いじゃあないですか!ええ、早い話がスられたんですね、その人に。
はぁ、何処が紳士なものですか。裏で何考えてるかなんて分かったものじゃないですよ。まぁ、それにまんまと騙されてあっさりスられた僕も僕なんですが。
はぁ、何処が紳士なものですか。裏で何考えてるかなんて分かったものじゃないですよ。まぁ、それにまんまと騙されてあっさりスられた僕も僕なんですが。
―――――おっと。
いけない、もうこんな時間だ。お会いしたばかりで少々名残惜しいところですが、そろそろ僕もおいとましないと。
何せほとんど盗られてしまったものですから、陽が暮れる前にぼちぼちお金を稼ぎ出さなければならない訳でして。今の僕にとって、問題なのは寧ろ此方の方ですからね、過ぎ去った過去の事よりも。
何せほとんど盗られてしまったものですから、陽が暮れる前にぼちぼちお金を稼ぎ出さなければならない訳でして。今の僕にとって、問題なのは寧ろ此方の方ですからね、過ぎ去った過去の事よりも。
とは言っても僕の場合、基本的それなりに人さえいれば何処でも出来るものなので特に移動する必要も無いんですけどね?そうだ、良ければちょいと見てって下さいな。少なくとも先程の話よりは楽しんで頂けると思いますよ。
――――――うん?何をするつもりかって?さてさて、何で御座いましょう?
空はよく晴れていた。ここ数日では稀に見る好天である。
風はよく吹いていた。髪を撫ぜていく軟風が心地良い。
風はよく吹いていた。髪を撫ぜていく軟風が心地良い。
メインストリートの片隅で、街行く人々はふと足を止める。群がる群衆の合間からヒョイと顔を覗かせてみれば、ぐるりと半円を描いたその中心には1人の少年が。
小奇麗に整えられた赤毛は陽に透けて、その上にちょんと載せられた濃紺に銀の刺繍が施された洒落たベレー帽。少年が被るにしては少々大きめなそれをくいっと右手で押さえ、隠れていた鮮やかな翠緑色の瞳が笑む。
そして1度ぺろりと口端を舐めると、良く徹る声を大空に響かせた。
小奇麗に整えられた赤毛は陽に透けて、その上にちょんと載せられた濃紺に銀の刺繍が施された洒落たベレー帽。少年が被るにしては少々大きめなそれをくいっと右手で押さえ、隠れていた鮮やかな翠緑色の瞳が笑む。
そして1度ぺろりと口端を舐めると、良く徹る声を大空に響かせた。
「青い青い空は飽くまで何処までも青く、果たして何処まで続くのか?考えてみた所で私如きの下賤な者には何1つ見出す事は疎か、この自慢の長い長い舌をもってしてもこの青さはとても言い表す事すら出来ますまい。ならばいっその事、この空に見合うような話でも1つ、しましょうか。・・・さて、余暇をどう過ごそうかお悩みの方がいるようであれば、よければこの卑しい青二才めの詩にちょいと耳を傾けて下さいませ。
舞台は遥か遥か遠く、海を越え山を越え谷を越えた先のある王国――――と申し上げたい所ですがしかし残念な事に、今からお話しする物語は勇敢なある剣士の物語でも、月夜に舞う小さな妖精達の物語でも、麗しい姫君の悲しき恋の物語でも御座いません。まぁその話はまた後日という事にでもしておきましょうか。
・・・おや?おやおや、そこの可愛らしいお嬢さん。そんなに気を落とさないで下さいな。ではお尋ねしますが、この大陸が何と呼ばれているか御存じで?――――そう、クノーラ。又の名を《夢を追う者達の大陸》。隠された神秘、眠る財宝、夢を見て若者達は旅に出る。はてさて、わざわざ遠い国まで行かずとも興味深い話なら沢山落ちているではありませんか、そこらへんにゴロゴロと。なに、近くにあるもの程見落としてしまうものですよ。んん?小さなレディの御機嫌は直りましたか、それは良かった。
皆様もここまで来ればもうお分かりでしょう?さて、そろそろ焦らすのも仕舞にしましょうか」
そこまで言って少年は、リュートの弦を指で強く弾く。
「奏でまするは冒険者の物語」
そして優雅な仕草で頭を垂れた。
「紡ぎ手は私、まだまだ未熟な吟遊詩人、エルリア・ディ―ゼルに御座います」
―――――――それでは、皆様。
旅出の準備は宜しいでしょうか。
なんちゃって次回予告
灼熱地獄、南の最果て《テスタム》の町外れにある小さな料理店で起こるひと騒動。舌打ちする不良店員に生意気なガキ。――――――そこへ勢い良く開け放たれた扉!
ラブストーリーは突然に!?次回第1幕「冷製(パスタ)と蒸熱の間」!!
ラブストーリーは突然に!?次回第1幕「冷製(パスタ)と蒸熱の間」!!