日常を記す
――にっき――
『日常』というものは実に愉快で奇っ怪で、ありとあらゆる不思議に溢れている。
「御免下さいまし」
私は妹と連れだって玩具屋を覗きに行った。
「はいよ、いらっしゃい。おや、珍しいね。今日は妹さんも一緒かい」
穏やかで人好きのする笑みを浮かべるこの主人が、私のことを可笑しいと思っていることは分かっている。
「えぇ。ほら、ご挨拶は?」
こんにちは、と妹はぺこりと頭をさげて懐っこい笑みを浮かべる。だけどこれが愛想笑いだということは分かっている。
「はいこんにちは。それで、今日は何をお求めだい?」
笑顔を作るのは苦手。だから私は表情を変えずに答える。
「剣玉が欲しくって」
「もう五つ目のね」
私の言葉のすぐ後に、妹が呆れたように口をはさむ。
玩具店巡りの好きな十八の姉と、読書好きな十の妹。表情の乏しいおっとりとした姉と、表情豊かなしっかりとした妹。逆ならそれらしいのにね、という言葉は、何度となく聞かされた。
「赤いのが欲しかったの。昨日、お給金をもらったから買っちゃおうと思って」
「…娘義太夫の花形がこんなだって知れたら贔屓にしてくださってる人たちが泣くよ」
「良いのよ。舞台に居る時の私と今の私は違うもの」
言いながら主人にお金を渡し、店を出た。歩きながら剣玉をする私と並んで歩くのは恥ずかしいと、妹は私の少し後ろを歩く。
嗚呼、実に人の心とは愉快で奇っ怪。
かわり映えのしない毎日の中にも、ありとあらゆる不思議が其処此処に転がっている。私は剣玉をしたかった。遊びながら歩くことの何がいけないのか。人のいない通りだ。だれに迷惑を掛けるわけでもないのだから、別に良いではないか。
皆は私を可笑しいという。普通じゃないと。
だけど人に迷惑をかけない限り、人の言う『普通』の中に居る必要などないではないか。
…この考えは、『可笑しい』のだろうか。
カン、コン、カンと調子の良い音を立てて剣玉をやりながら、私はそんなどうでもいいことに思い悩むのだ。
私は妹と連れだって玩具屋を覗きに行った。
「はいよ、いらっしゃい。おや、珍しいね。今日は妹さんも一緒かい」
穏やかで人好きのする笑みを浮かべるこの主人が、私のことを可笑しいと思っていることは分かっている。
「えぇ。ほら、ご挨拶は?」
こんにちは、と妹はぺこりと頭をさげて懐っこい笑みを浮かべる。だけどこれが愛想笑いだということは分かっている。
「はいこんにちは。それで、今日は何をお求めだい?」
笑顔を作るのは苦手。だから私は表情を変えずに答える。
「剣玉が欲しくって」
「もう五つ目のね」
私の言葉のすぐ後に、妹が呆れたように口をはさむ。
玩具店巡りの好きな十八の姉と、読書好きな十の妹。表情の乏しいおっとりとした姉と、表情豊かなしっかりとした妹。逆ならそれらしいのにね、という言葉は、何度となく聞かされた。
「赤いのが欲しかったの。昨日、お給金をもらったから買っちゃおうと思って」
「…娘義太夫の花形がこんなだって知れたら贔屓にしてくださってる人たちが泣くよ」
「良いのよ。舞台に居る時の私と今の私は違うもの」
言いながら主人にお金を渡し、店を出た。歩きながら剣玉をする私と並んで歩くのは恥ずかしいと、妹は私の少し後ろを歩く。
嗚呼、実に人の心とは愉快で奇っ怪。
かわり映えのしない毎日の中にも、ありとあらゆる不思議が其処此処に転がっている。私は剣玉をしたかった。遊びながら歩くことの何がいけないのか。人のいない通りだ。だれに迷惑を掛けるわけでもないのだから、別に良いではないか。
皆は私を可笑しいという。普通じゃないと。
だけど人に迷惑をかけない限り、人の言う『普通』の中に居る必要などないではないか。
…この考えは、『可笑しい』のだろうか。
カン、コン、カンと調子の良い音を立てて剣玉をやりながら、私はそんなどうでもいいことに思い悩むのだ。
END
学祭の帰り、シャボン玉をしながら帰ったことがあります。
その話をしたら兄に可笑しいと言われました。…別に可笑しくないよねぇ?
その話をしたら兄に可笑しいと言われました。…別に可笑しくないよねぇ?