羽根あり道化師

外伝3章 俺サマと王子サマとヒーローごっこ

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vice2rain

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あのとき俺たちはありえない状況に陥っていた。
俺たちのパーティの中で(悔しいけど)最強の攻撃魔法使いのプリアラが(攻撃魔法だけだ!白魔法なら俺の右に出る者なんざいねーからな!)姿を消したのだ。



外伝3章 俺サマと王子サマとヒーローごっこ



こんな事態に陥ったのは少し前のこと。
宿でのんびり休んでいた時のことだった。
途方もなく長い道のりを歩いてやっと辿り着いた場所だったから全員ちょっとだらけていたんだろう。
その時だ。外で悲鳴が上がる。その声に反応したレオンが駆け出すのを見て俺とプリアラも付いて行った。

外ではロングヘアーの女性がひとり倒れていて、その前にはやたら派手な格好をした魔法剣士が立っていた。そのまわりをとりかこむように野次馬がいる。女性を助けようとしたのだろうか、何人かの戦士と思われる男たちが血を流して倒れている姿も見えた。しかたねー、ムサイ男はやる気がでないけど助けてやるか。
そう思って俺はすぐに白魔法をそいつらに掛けたわけなんだが。

「む…そこの君、なかなか魔法を使う才能があるじゃないか。私のもとで修業させてあげよう。上手になったら私のボディガードにしてあげてもいいぞ!」

派手な魔法剣士がこともあろうか俺サマにそんなことを言ってきやがった!ふざけんな。こめかみに青筋が浮かぶ。俺の後ろで魔力がはじけたような音がして、まがまがしい気配が突如現れたが、特には気にしない。

「ちょ、ちょっとヴァイス。後ろにサタン召喚してるよ!しまってしまって!」

おっと俺としたことがうっかり魔物を呼び寄せてしまったか。しかしな、俺サマの怒りが収まるとでも思ってんのか?!

「ふざけんじゃねー!テメ、この俺サマに向かってなんつーことを!そういう馬鹿には聖イリアナの名において俺が!俺様が!神に代わって3分の2殺しにしてもいいっつー律法があんだよオォォォォォオオラアァァァァァァ!」
「ありませんからね!?まわりの皆さん!ありませんよ!この子僧侶じゃないと思ってください!ちょっと怒っちゃってるだけなんです!」
「…はぁ、この女の子眠っているだけね?ヴァイス。そいつの始末が済んだら眠りの魔法を解除してあげて。」
「な、何をするんだ君!ボディガードが主君に手を挙げるとは!そんなことをすると私の世界一美しい顔がゆがむじゃないか!」
「ゆがんでいいんだよ!この世で最も美しい存在は俺において他ならねぇ!ミューズの代弁者俺サマがそう決めたーーーー!」
「違いますからね!?この子美術神の代弁者とか違いますからね!ちょっと怒っちゃってる子供なだけなんです!」
「誰が子供か!」

ついでにレオンにも一発蹴りをくらわせ、そのまま地面に倒れたレオンの背中の上に乗ってやった。そしてカンチガイ魔法剣士に指をさして高らかに宣言をするのだ!

「やいっテメ…」
「おおおお!」

俺サマの邪魔をまたしてもするか!

「いやいやいや、それ君悪役の思うことだよ!?」

ほう、ついにレオンが俺の考えていることを読んでツッコミを入れ始めたか。

「なんという可憐な少女!おとなしい雰囲気でありながらもミニスカート!ネコ耳!すばらしい…すばらしいぞ!」
「はぁ?!」
「これはなんという高いMP…」
「MP?」
「マジックポイントのことか?おいおいそんなドラ●エみたいな…。たしかに俺が3でプリアラ作ったときMPかなり上がったぜ。でもな、俺様の足もとにも及ばなかったんだけどな…。そうそうレオンは勇者にしてやったが死亡回数一番高かったぞ。」
「なんと!」
「外野とボディガード君、黙っていたまえ!MPとは萌え・ポイントのことだ!」

その場の空気が凍った。地面に倒れている女性を担いで、野次馬たちはぞろぞろとその場を後にし、日常生活に戻って行った。女性を助けようとしていた戦士たちも首を横に振ったりいろいろ愕然としながらその場を後にする。俺達だけが寒すぎてその場を動くことすらままならなかった。

2,3秒遅れて俺が反論すべきことを思い出す。大きく息をすいこみ、そして叫んでやった。

「テメッ…わかっていねーらしいなぁ。そーいうMPの強さなら俺様のほうが断然高いわっ!永遠の少年!ハーフエルフッ!僧侶なのにわがまま最強!そーいうところがいとおしいんだろうがー!さらには暗い過去もおつけして!」
「ふふん、青いな…ボディガード君…。私はもはやそのような中二設定などお腹いっぱいなのだよ…」
「何この気持ち悪いオタク談義!とりあえずそこの魔法剣士さんお引き取り願えますか!」
「うるさいなぁ、外野君。君はありきたりすぎるんだ。MPをもう少しのばして出直してくれたまえ。とりあえず、シルエットだけで誰かわかるようにしてもらわなければ困るよ?私は君のような人をよく見かける。」
「王子なのにこの扱い!」

レオンの主張?そんなの関係ねぇ!
とりあえず気に食わないこの魔法剣士をぶっ倒す!

「テメェ!とにかく教えてやるぜ!この俺様が最強かつ最も萌え萌えな存在だってことを叩きこんでやる!」
「ボディガード君…君にもMPがそこそこあることは認めてあげるよ。だが、ネコ耳にはかなわんのだよ!ハァーッハッハッハ!」
「うるせぇ!ネコミミだってありきたりだろうが!」
「ねぇヴァイス。この人ただの変態なんじゃ…?」
「きゃあっ!」

カンチガイがプリアラに指をむけた。とたん、プリアラはその場にたおれる。あれは睡魔の魔法。黒魔法の一種だ。と、変態がプリアラを担ぎあげ高らかに笑う。
こんな奴にもどうやら特技はあったらしい。眠りの魔法が得意ってわけか。

「フフフ…ボディガード君…君にはそのうち私にしたがってもらおう!外野君はもうすこしMPをのばしたまえ!」
「プッ、プリアラをどうする気です!」

レオンが必死で叫ぶ。変態はただ口の端を釣り上げて笑い、マントをはためかせて背を向けた。

「もちろん私の花嫁にするのだよ!そして毎日具の違う味噌汁をつくってもらって3時にはおやつを用意してもらうんだ!」

空気が再び凍った気がした。こいつは強力な冷却の呪文を魔力消費なしで使うことができるらしい。

「ここまでくると恐ろしいな…」
「のんきに言っている場合ですか!プリアラを取り戻さなきゃっ!」
「おいおいレオン…プリアラなら起きるなり暴れまわって戻ってくるだろ…」
「そんなのまってられませんよ!とにかく僕は追いかけますからね!」

こいつ、レオンはプリアラのことになると途方もなく熱血…いや、いつも熱血だったけど、とにかくアツくなる。惚れた弱みか?しかたねぇな。

「ま…俺サマもあいつにきちんと教えてやらなきゃならんこともあるからね…イリアナ教の教えをなぁ…」
「それ本当にイリアナ教の教え?」

そんなわけで、プリアラがパーティにいないのだ。そして、彼女を取り戻すべく俺達はカンチガイ剣士の行方を追っている。目撃情報があったから、行かなきゃならねー場所はわかっていたが結構きつい。魔物がそこそこいるし、沼だから足元が安定しない。

「あいたっ」

木の枝が俺の髪に引っかかった。さっきからもう何度目だ。

「ヴァイス~・・・髪切ったら?」
「バカッ!俺のMP下げようとしてんな?!テメっレオンのくせにっ」
「ちょっとキミもヘンタイに侵食されかかってるよ?!」
「あっ、見ろよレオン!あそこの屋敷!なんか怪しくね?プリアラあそこにいんじゃね?」

俺たちの目の前、数百mほどの所に屋敷が見えた。まぁ基本基本。大体こんな沼地に他に家があるとも思えないし、十中八九あそこにプリアラがいるんだろう。
レオンがうなずいたのを見て、俺達は少々スピードを上げた。
裾が汚れちまうとか、そんなのはもう開き直っている。とりあえず、さっさとプリアラを連れ帰って旅の続きをしなければ。

と、ようやく屋敷の門にたどり着いた。レオンは結構疲れたんだろう、肩で息をしているがプリアラが近くにいるからという理由で結構頑張ろうとしていた。

「まぁレオン、あせんなって。ちょっと突撃の前に俺も準備しなきゃならねーコトがあるんでな。少し休め。」
「え?準備・・・?あの剣士、そんなに強そうではないですが・・・」
「いいからいいから。」

俺の言葉を純粋に親切と取ったんだろう、レオンはありがとう、と礼を言うと腰を下ろした。だが、真意は違う。俺は別にレオンのために休憩を取ったんじゃない。あのカンチガイに、俺サマがどれだけ偉大かつ最強であるかを教えてから地獄の底に叩き落し、そして従わせなければならない。そのための準備に決まってる。

「よし、完璧!いくぜ!」
「なにやってんのキミイィィィィ!」

レオンに声をかけた瞬間突っ込みが入った。おい、いくらなんでもそれはやりすぎだ。せっかくボケとツッコミのテンポがあってきたと思っていたのにこの失態!全く、これだからレオンはレオンのままなんだ。

「いや、ほんとうにキミなにがしたいの!?」
「まぁ、この俺サマのMPは既に最大値なわけだが、装備を変える事でMPを微力ながら増やすことも出来るかと思ってな。」
「キッツいよ!これはいくらなんでも本当にキッツいよ?!」
「バカ、男のうさ耳なんてなかなかねえだろう?!」
「珍しさ追求しすぎて純粋にキモイ!」
「ったく、酷いやつだな。自分の姿をよーく見てからそういうことを言えよ。」
「な・・・」

レオンは荷物から手鏡を取り出す。それを慌てて覗き込んだ瞬間叫び声が上がった。

「おい、どーよ?プリアラとおそろいにしておいてやったぜ。」
「ちょ・・・何やってんのオォォ!何時の間に?!」
「今。魔法を使って。よかったな、これで多少シルエットが変わったぞ。あと、お前の剣な、バカでかい花咲かせておいたから。これでもう完璧シルエットでわかるだろ。」

得意げに俺が指をさしてやると、レオンは振り返った。大剣の柄に一輪のデカイひまわりを咲かせてやっておいたのだ!これでもうレオンはレオンだと気づいてもらえるぜ。よかったな、レオン。

「うわ、ホントにやりやがった!」
「王子サマの言う言葉遣いじゃねーな。」
「って、キミの右手エェェェ!」
「ん?サイバーキャノンがどうかしたか?」

少し懐かしい感覚を右手に感じている。どこかで、こんな姿になっていたような…。とにかく、このボタンを押せば町ひとつなぎ払えるだけのレーザービームを発射できる!…と思いたい。

「ああもうグダグダだよ!こんなん!プリアラに大爆笑されるか冷笑されるかのどっちかだよ!」
「まあ俺に任せとけよ。突撃するぞ!」

顔が真っ赤なレオンのことはおいといて、頑丈な門にサイバーキャノンをぶっ放してやり、俺は突入した。残念ながら、町ひとつブッ飛ばせるような威力はなかった。崩れた門を飛び越える俺の後ろからレオンが続く。あのカンチガイの手下とは思えないような屈強そうな男達が俺達を邪魔するべく武器を手にゾロゾロ追ってきた。面倒だから、あのカンチガイと同じ要領で眠りの魔法をかけながら先へ先へと走っていく。レオンは耳を引きちぎろうとしていたようだが、無駄だぜ。それはもはやお前の耳だ。あきらめろ。


「なんなのよ、あなた。放しなさいよ。離さないと8分の7殺しにするわよ。」
「ふふふ、乱暴なお嬢さんだ。そんなことされたら私8分の1しか生き残らないじゃないか。ははははは」
「もう、本当に困ったわね…本当に8分の7殺しにしちゃおうかしら…」
「プリアーラアァァァ!正義のヒーローが助けに来てやったぜーィ!」

肝心なのはここからだ。
決してまだ、姿は見せてはいけない。逆光をうまく利用し、シルエットだけでの登場が基本!煙を巻き上げるのも効果的!ここで効果音とBGMを忘れちゃいけない。

「乙女のピンチは逃さねー!MPをあげて応戦しよう!そんなわけでウサミミつけろって俺の相棒に言われた!仕方ねーからウサミミプリースト参上っ!」
「何気に僕のせいにすんなぁぁぁあ!」
「まぁ落ち着けよネコミミプリンス。」
「何この気持ち悪い会話!やめてえ、僕をそっちの世界に引きずり込まないで!」

ここで煙が晴れる。と、まず最初に俺達が目にしたのは目前にせまるプリアラの鉄拳だった。

勢いよく吹っ飛ばされ、壁に頭を思いきりぶつけ、勢いあまって腰もやられるところじゃねぇか。まったくあいつ、人が助けに来てやったというのになんてことをしてくれるんだ。これ、並の人間なら死んでるぞ。あ、ヤベェ。レオンって普通の人間だった。

「何しやがんだよ、ネコミミマージ!」
「私を馬鹿の仲間にしないでちょうだい!あんたたちが来なくたってひとりで帰ったわよ!」
「い…いたい…」
「おう、すげぇなレオン。おまえ生きてたんだ。」
「ふ…ふふふ…素晴らしい…素晴らしいよ…!」

とうとうおいでなすったか、カンチガイ魔法剣士!こいつには礼をたっぷりとくらわせてやらねばならん!俺はずんずんと前に進み出た。腕を組んでダンッ、と地面を踏みつけてやると、その部分だけストーンタイルがへっこんだ。

「MP測定不能…素晴らしい、ボディガード君、君は一体何者なんだ!」
「フフフ、遅れたとはいえ俺サマの魅力に気づいたらしいな。だが許さん!貴様さっきから無礼なんだよ、この俺サマをこともあろうことかボディガードだとオォォォ!!テメェにはイリア教の教えを骨の隋を構成してる細胞に行き届くまで叩き込んでくれるわ!」
「堂々と残虐非道!主人公がこれでいいのかな…外伝だからってはしゃぎすぎだよ。プリアラ、何かひどいことはされなかった?」

俺がヤツにありとあらゆる手段で報復をしている時、レオンがプリアラに安否を気遣う言葉をかけていた。プリアラの目線が落ちる。それをみたレオンも怪訝そうな顔でプリアラの顔を覗き込んだ。そして、プリアラがかすれるような声で一言。

「すごく…怖いことをされたわ……」


その日、沼地に悪魔、いや大魔王が降臨した。愛の奴隷などという小粋な文句に縛られ封印されていた鬼神、そう。俺による神の裁き代行サービスなんぞよりも数百倍は恐ろしい―
止めなきゃあいつはずっとあのままだったに違いない。

レオンは狂戦士の称号を 手に入れた。




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