日が傾きかけている夕方、部活に燃える生徒達を横目にレインは気だるそうにバイクのエンジンをかけた。ヘルメットはつけていない。面倒だからである。
「レイン先生っ、ノーヘルはまずいですよ。死にますよ?!」
「だいじょうぶです、石頭なので。」
「だいじょうぶです、石頭なので。」
同僚の忠告をさらっと受け流してバイクにまたがり、さっさとスピードを上げて道路を飛ばしてやった。チッと舌打ちをして、今日の授業を振り返る。ああ忌々しい、悔しいが一応3-Sは選ばれた生徒達。どんなにぎゃあぎゃあと騒いでいようと当てられた問題にはしっかり答えてしまうのが悔しい。担任をまかされて数ヶ月、仕方ないが彼らの頭脳を評価し、自分とほぼ同等の能力をもっていると認めざるを得ないだろう、レインは頭の隅で考え始めていた。視界のスミに、交通整備の赤いステッキを機械的に振り回すヴァイスが入ったのも気づかずに。
一台のバイクがもの凄いスピードで通り過ぎたのを見て、やれやれとヴァイスは肩を落とした。
「ったく…レインのやつ放課後暴走族はやめろよなー…。」
ホイッスルを口から離し、後ろを振り返る。工事現場の親方がやかんをもって休憩しようと声をかけてくれたからだ。声は出さずに大きくうなずいて他のアルバイトたちの所へ向かう。
「お疲れーッス。」
「ヴァイス君、今日のお手当てね。」
「あざーっす。いや、ホント助かりますよー…来週もうちょっと多くバイトいれてもいいですかね?」
「いいけど、だいじょうぶなの?キミ受験生でしょ。」
「まあ、勉強はなんとかしますんで。」
「ヴァイス君、今日のお手当てね。」
「あざーっす。いや、ホント助かりますよー…来週もうちょっと多くバイトいれてもいいですかね?」
「いいけど、だいじょうぶなの?キミ受験生でしょ。」
「まあ、勉強はなんとかしますんで。」
やかんから注がれた熱いお茶で喉を潤し、配られたおにぎりをほおばりながらヴァイスは少し考える。自分の進学のこと、アリアの学費のこと。今の自分の学費は全額免除されているので当面の間心配は無い。しかし、アリアは半額免除の対象。最終学年にならねば、全額免除の選考試験がない。両親の残してくれた遺産も少しはあるが、それに頼ってばかりいれば生計が立たなくなってしまう。
スケジュール帳を開いた。来週は毎日バイト。うち3日はかけもちだ。幸いなことに、体力にも自信があるからなんとかなるだろう。しかし、疲労がたまることは事実であって。
「キッツぅ・・・」
愚痴の一つも零したりしてしまう。幾度か、エルネストの両親から援助の申し出はあった。しかし、ヴァイスは丁寧に断っている。公的な補助も受けているし、友達関係の人から金銭の貸し借りはするなというのが両親の教えでもあった。
「やっぱ大学やめよっかな・・・」
給料袋をかばんにしまい、同僚達に別れの挨拶をするとヴァイスは帰路に着いた。腕時計の文字盤は、違う日付を指している。さっさと帰ってアリアの用意してくれた食事を流し込み、疲れを取るべく眠りにつきたいところだが、宿題があったような気がする。
「あの先公~っ!・・・ま、いいや。当てられたらその場で答えたろ。」
それくらいの頭脳はあると自負している。いざとなったら、エルネストにノートを借りるなり、レオンのノートを盗み見するなりすればいい。プリアラは・・・後が怖い。そんなことを考えながら歩いて通り過ぎようとしていた工事現場から、ガシャンという何かが割れる音、鉄パイプのかすれる金属音、そしてドサリとなにかが落ちる音、怒鳴り声。怪訝そうな顔をして工事現場を覗き込む。
「ん?なんだなんだ、ケンカかぁ?」
その場には数人の高校生が鉄パイプ片手に立っていた。高校生達の囲んでいる中心には小学生くらいだろう少年が倒れている。少年のめがねは割れていて、踏み潰された形跡がみられた。
「おいオメーらぁ!ガキんちょ相手になーにやってんスかっ」
こんな状況で助け舟を出さないわけには行かない。相手の数は7人。7対1はやはり少し不利ではあるが、ここで逃げては男が廃る。鉄パイプが足元に転がっているが、手に取るつもりは無かった。人は素手で戦えば、ケンカをする理由も見えるはずだと、ヤンクミのマネをしつつ言っていたレインの言葉を思い出したのだ。
「けっ、あんなセンセーでもヤンクミの言葉を言えばそれなりじゃん。」
「なーにごちゃごちゃ言ってんだよガキが!」
「このガキの仲間か?」
「ンナァァァア!てめぇ!どこが仲間に見えるんだよ!ガキっつーな!来年大学生だよ!こいつ小学生だろ、どう見ても!俺サマがそんなガキに見えんのか!ああもう容赦しねー!」
「なーにごちゃごちゃ言ってんだよガキが!」
「このガキの仲間か?」
「ンナァァァア!てめぇ!どこが仲間に見えるんだよ!ガキっつーな!来年大学生だよ!こいつ小学生だろ、どう見ても!俺サマがそんなガキに見えんのか!ああもう容赦しねー!」
数分かかった。ヴァイスにしてはかなりの苦戦を強いられたほうだろう。手のひらには血が滴っている。腕にも、足にも痣ができたがまぁそれは仕方ない。それよりも、小学生の少年の安否を確めなければならなかった。
「おい、だいじょうぶかよ。」
「・・・あ。」
「あんた、どこの小学校のコ?ていうかこんな時間になんでウロついてんだよ。俺送ってくぜ。家どこ?」
「あ、ありがとうございました・・・。でも、俺平気です。あ、あの。名前は・・・?」
「俺?俺はヴァイスだ。」
「ヴァイス様ですね。その制服・・・召喚高校、ですよね?」
「・・・あ。」
「あんた、どこの小学校のコ?ていうかこんな時間になんでウロついてんだよ。俺送ってくぜ。家どこ?」
「あ、ありがとうございました・・・。でも、俺平気です。あ、あの。名前は・・・?」
「俺?俺はヴァイスだ。」
「ヴァイス様ですね。その制服・・・召喚高校、ですよね?」
集団に殴られていたにもかかわらず、少年は案外元気そうである。質問攻めにあっている状況が面倒でその場からさっさと去ってしまいたい。
「俺、ヴァイス様についていきますよ!」
「あ・・・あっそう・・・。とにかく送らなくても平気なんだろ?俺帰るから。」
「あ・・・あっそう・・・。とにかく送らなくても平気なんだろ?俺帰るから。」
視線をあわせずに手を振って、その場を後にした。なんだか妙な小学生だったと首をかしげて。
翌日のことだ。眠たげな目をこすって家のドアを開き、学校へ向かう。アリアは大慌てで時間割をそろえていたので置いてきた。どうしてあんなに準備に時間がかかるのかがまるで理解できない。通学路の途中にあるエルネストの家によって、迎えに行こうか。と、自分のすぐ隣をもの凄いスピードのバイクが駆け抜けていった。朝っぱらからうるさいなと思ったら、自分の担任だった。ダメ教師め、って人のことをいえないか。ヴァイスは薄く笑いながら少しだけスピードを上げて走り出した。
「エルゥゥゥ!遅刻すんぞー!」
「わかってますーって!」
「わかってますーって!」
いつもの朝が始まる。変わらない日常が。
そう そう信じていたのに。
そう そう信じていたのに。
「転校生がいます。」
心底面倒だと物語っているような口調でレインが言う。その隣に立っているのは背が高い、つんつんと尖った金髪の少年。めがねをかけており、知的な印象を受けた。気になるのは、彼がずっと穴が開くほどヴァイスの方を見ていることなのだが。
「どうもっ!俺、ベルクです!そちらにおられるヴァイス様に憧れて無理やり転校してやりました!これからよろしくお願いします!」
「無理やり?!」
「無理やり?!」
レオンが何か突っ込みを続けたそうにしていたが、レインが話を打ち切ったが為にそれは失敗に終わる。ベルクは自己紹介をするやいなやヴァイスの隣に机を置き、にこにこと恐ろしいほどの笑みを浮かべてどっかりと座った。その様子にやや驚いて、というよりも数歩引いてしまいたいような気持ちを抱いて、ヴァイスは口を開く。
「あ、あんた・・・なんでさっきから俺のこと見てんだよ。」
「やだなぁ、昨日助けてもらったじゃないですかっ。あの時から決めたんですよ。俺、ヴァイス様みたいにカッコイイ人になろう!と・・・」
「昨日?・・・だって、俺は。」
「やだなぁ、昨日助けてもらったじゃないですかっ。あの時から決めたんですよ。俺、ヴァイス様みたいにカッコイイ人になろう!と・・・」
「昨日?・・・だって、俺は。」
昨日助けたのは、たしか随分年下の幼い少年だったはず。
ヴァイスは首をひねる。遠くから、レインが新しいバイクを自慢している話が聞こえてきたが、それもあまり頭に入らない。
その日、ぼんやりとしたまま放課後を迎えたヴァイスは、なんとなく誰にもこの話を言えずにアルバイトに向かったのだった。
ヴァイスは首をひねる。遠くから、レインが新しいバイクを自慢している話が聞こえてきたが、それもあまり頭に入らない。
その日、ぼんやりとしたまま放課後を迎えたヴァイスは、なんとなく誰にもこの話を言えずにアルバイトに向かったのだった。