羽根あり道化師

ストーリー

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Ver.Leon


世界にはかつて6つの王国があった。
神に祝福されし聖イリア正教国ガンダーラ。
灼熱の地に住まう大地の民の国ライーダ。
冒険者をいざなう深緑の国サザンターム。
はるか高原を見上げる高嶺の国ガネティア。
大いなる英知を操る魔術の国メギド。
そして誇り高き剣術の、海を見据える国ミルディアン。

平和と均衡を保ちつつ穏やかな時の流れを過ごしていた諸国にとって、メギドの世界統一宣言はまさに青天の霹靂であった。
賢王として名高かったメギド王アルフォギアのその頭脳が災いし、各国が宣言を退けた時には戦準備の整っていたメギドは諸国へと進撃を開始していったのである。
メギド本国にいながらにして敵国を追い詰めてしまう破滅の魔法を操るメギド魔術騎士団の脅威は世界を闇へと閉ざす。
まず初めにサザンタームが落ちた。島国とはいえメギドの隣国であったサザンタームは、その魔力の強さをまざまざと見せつけられた形で陥落。
次に、ライーダが落ちた。もともと物資の乏しいライーダが戦うにはあまりにも不利な戦況であったことは否めない。
そして、次にガネティアが陥落した。武術に長けたガネティアはメギド本国へと進撃する用意をしていたのであるが、武人にとって魔術は相性が悪い。その力を発揮することなく、無残な大敗となってしまった。
そして、メギドの魔の手がガンダーラへと向けられた時である。
最後の国、ミルディアンの王子が剣をメギドへと向けた。
名をアルバートという若き王子は大剣ホーリーセイントを携えて若干名の騎士と共にメギドへと赴く。魔力を打ち消す不思議な力を宿したその剣の前に、メギド軍のなすすべはなく魔術騎士団は壊滅。最終手段を講じたアルフォギア王は、不確定要素を用いたがためにその身を滅ぼした。メギド本国領土の沈没である。
かくて、世界統一が見果てぬ夢と終わったメギドはその後暗黒の歴史として語られており、ミルディアンは英雄の国として今もなお栄華を誇っている。
これが、魔剣戦争である。

時が流れ、現在。古代の対戦後国王に即位したアルバートの代より受け継がれる儀式として、ミルディアンの王子が旅に出ようとしていた。
名はレオナルド。先の大戦にてその力を示した聖剣ホーリーセイントを探し出し、それを国に持ってくることが第一の試練。そして、国王に就任した際にホーリーセイントを誰の目にもつかぬ場へと隠すのが第二の試練。
彼は第一の試練へと旅立とうとしていたのである。
期待に胸をふくらませ、彼は城を後にする。この先に待っている悪夢の再来を予期することもなく…。


Ver.Vice


少年は紅色の瞳を閉じて目の前の墓標に祈りをささげた。
もう何百年になるのだろう、彼は一度たりともこの日課を忘れたことはない。
光魔術の研究をする傍ら、イリア教の聖司祭としての仕事もこなしている。都合により、業務はすべて書状にて行っているのだが。
このところ、彼は夢を見る。彼の奥底に眠る記憶が再びよみがえるような夢であった。
そして、誰かの声が自分の名を呼ぶのである。
しかしそれは妙なことである。ガンダーラから届けられる書状は全て自分の忠実な部下である鼠が秘密裏に行い、それを届けている相手も誰かを知らせぬよう万全を期している。自分の住処であるこの家も、森全体に魔力をかけて決して見つからぬように工作していた。
ゆえに、現在自分の名を知る者はいない筈である。そう、偽名である「ヴァイス」という名前をのぞいては。
墓参りを済ませて部屋に戻ってペンをとるも魔術研究の論文を書く手が止まったことに気づき、少年は小さくため息をついた。集中力が散漫な状況においては思考も意味をなさないに違いない。
寝台へと足を向け、瞳を閉じると浅い眠りへと身を預ける。
そして今日も聞こえてくる自分を呼ぶ声。名前を呼ぶのは光か闇か。
…答えは、闇であった。声が途切れたところで目を見開く。
足早に家を飛び出すと、再び墓へと足を向けて彼は一時の別れを告げた。
彼が探し求めるのは光。闇の淵を彷徨っていた自分を導いた光の再臨を求め、彼はミルディアンへと足を向ける。
彼の物語の終焉に待つものは一体、なんなのだろうか。


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