羽根あり道化師

語り部は終焉を告げる

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終章・語り部は終焉を告げる





 ――さて皆様、今宵の物語はいかがでしたでしょうか?
 嗚呼、かくも儚き物語。
 憂いの月が良く似合う。

 切。

 語り部は小弦を爪弾く。
 まだ明け遣らぬ空に、残月が浮かぶ。
 儚き調べは風に乗り、有明の月にじわりと溶ける。

 スタンダールの言葉に、『恋とは甘い花のようなものである。それを摘むには恐ろしい断崖の端まで行く勇気がなければならない』というものが御座います。ああ、全く言い得て妙。あの二人の恋物語を表すかのよう。
 あぁ、そうだ。
 皆様はご存知でしょうか?
 清らで可憐な白き薔薇、『フィオナ』の花言葉。

『恋の吐息』と言うそうです。

 愛しい人に想いを寄せて零れる吐息。
 儚いものです。
 さて皆様、これでわたくしめの物語はお終いに御座います。わたくしめの持つ小さな小さな物語の壷は、この通り、もう空っぽになってしまいました。
 月もそろそろお休みのご様子。
 ほら皆様、ご覧下さい。
 東の空がじんわりと、紅く色鮮やかになって参りました。
 有明の月も真白で鮮やか。あぁ、実に美しい。薄紅く染まったたゆたう雲も風流なもので御座います。
 さて、お次はきらきらと眩しい太陽に相応しい、爽やかで晴れやかな物語でもいかがで御座いましょう?
 わたくしめのこの頭の中には、物語の壷が百も二百も御座います故。
 んん?なんと、もう眠たい?
 ああ、これはこれは。気付きませんで、大変な失礼を致しました。お美しいお嬢さんに、気高き紳士殿。
 皆々様の静かな夜、眠りの時間は、わたくしめのささやかな物語に姿を変えたのでしたね。
 確かに確かに。
 皆々様の瞳は、もううつらうつらと扉を閉じようとしていらっしゃる。
 さすがにもうお疲れで御座いましょう。
 月夜に物語を紡ぐのと同様、朝日に身をゆだねるのもこれまた一興。
 朝日と共に眠りに就く。
 そんな贅沢をするのもたまには良いもので御座います。今日はもう、小鳥たちの子守唄に身を任せると致しましょう。
 それではまた、いつかどこかでお会いできることを祈りつつ、これでお別れと致しましょうか。


 それでは皆々様、良い夢を…。






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