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羽根あり道化師
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羽根あり道化師

手紙

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ayu

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手紙




 良き夫、良き父である私の主人へ

 こんにちは、お久しぶりです。
 今回、私の近況をお知らせしようと思って、お手紙しました。
 私は今も、幸せに暮らしています。以前はよく痛んだ腰も、今ではもうすっかり良くなって、背筋を伸ばしてしゃきしゃき歩くことも出来るようになりましたよ。
この間、子どもたちが孫を連れて遊びに来てくれました。とっても美味しいお菓子も頂きましたよ。孫たちは少し見ない間にずいぶん大きくなっていて、びっくりしちゃいました。でもみんな良い子で可愛くて、とても楽しいひと時を過ごしました。前の日曜日に海に言ったんだ、って元気に報告してくれましたよ。
 あぁ、そうそう。海って聞いて、昔はよく行ったなあって、とても懐かしくなりました。覚えていますか?学生時代、二人で自転車に乗って海に行ったこと。私はいつもあなたの自転車の後ろに乗って、あなたの背中に抱きついていました。そのたびに、頬が赤くなってやしないかって、緊張していたんですよ。二人で制服のまま海に飛び込んだり、砂に寝転がったりしましたね。びしょ濡れで砂まみれになったお互いを見て、一緒に笑いましたね。あの時は本当に楽しかった。
 そういえば、あなたにこうしてお手紙を出すのは、学生の時以来ですね。あの時はあなたの顔を見るたびにどきどきしていたように思います。あなたに恋文を渡したのが、初めてのお手紙でした。その後あなたから 僕もあなたとお付き合いがしたいです とお返事を貰ったときは、本当に、心臓が口から出てくるんじゃないかと思ったほどです。今でも良く覚えています、顔を真っ赤にしながら、返事を早口で言いながら、あなたはそれと同じ内容のお手紙を私にくれました。私ね、私の主人は素敵な人なのよ、ってよくお友達に自慢しているの。昔も今も変わらないロマンチストで、すごく格好良い人なのよって。あんまり繰り返すものだから、お友達にも呆れられています。でも、そうやって惚気ているとき、私は幸せなの。誰よりも幸せだと感じるわ。
 私はあなたの傍にはいられないけれど、あなたは私の傍にはいないけれど、それでも、私は幸せです。好きなことをやって暮らせるし、呆れながらも私の惚気話を聞いてくれる良いお友達もたくさんいます。毎日が楽しいです。だからあなたも元気に、幸せに生きて下さい。
 それではまた、気が向いたときにお手紙します。さようなら。



 ああ、私は幸せ者だ。こんなにも思われていたなんて。
 漂う線香の匂い。揺らぐ蝋燭の炎。その中で、私は目頭を押さえた。
「おじいちゃん、どうしたの?」
「どこか痛いの?」
 心配そうに顔を覗き込んでくる小さな孫たちに、私は大丈夫だよ、と笑顔を向けた。
「何でもないよ。とても幸せなことが起きたから、泣いてしまったんだ」
 かわいい孫たちが遊びに来てくれた。この間、海に行ったのだと元気に話してくれた。こうして、年老いた私を心配してくれる優しい子たちだ。
「幸せなのに、泣いていたの?」
「どんな幸せな事があったの?」
 孫たちは目を輝かせながら聞いてきた。
「とても大切な人から、お手紙が来たんだよ。あんまり嬉しかったものだから」
 孫たちは顔を見合わせ、にっこりとした。
「おばあちゃん?」
「おばあちゃんだ」
 よく分かったね、と私は二人の頭をなでた。
 仏壇には、穏やかに微笑む私の妻の写真。顔中に刻まれた皺が、とてもいとおしい。
 とても暑い、八月のことだった。




                                    終


本当は八月ごろに載せようと思っていた話。…だったんだけどな。

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