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羽根あり道化師
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羽根あり道化師

頑 張りやな君へのお題

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ayu

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頑張りやな君へのお題


01. 頑張るのは何の為?
02. やり遂げた君の表情に
03. 見守る立場からもう一歩
04. これが僕なりの応援
05. 君を見続けて変わったこと
06. ねぇ、たまには…
07. 涙を堪えて泣かないで
08. つらい時には笑わせるよ
09. 「ありがとう」はこっちの台詞
10. 君の癒しになれますように
















01. 頑張るのは何の為?

「――ねえ、何の絵を描いているの?」
あたしの言葉に、あなたは無感動に「教えない」と答えた。あなたはいつもそう。あなたの絵はとても繊細で清らかで、必ずと言っていいほど長い黒髪の女性が描かれている。嫉妬してしまいそうになるくらい、あなたはその人を一生懸命に描く。その人は誰なの、なんて彼女でも何でもないあたしが聞ける訳もなくて、なんだか、もどかしい。
「そろそろ、休んだら?昨日もあまり寝てないんでしょう?」
「早く、仕上げたいんだ。…ああ、そうだ。コーヒーを入れてくれない?」
目の下の隈が、以前より確実に小さくなった肩幅が、酷く、痛ましい。
ねえ。あなたはどうして、何の為にそんなにも頑張っているの?



02. やり遂げた君の表情に

「――でーきたっ!」
達成感にあふれた君の笑顔。
愛しくて仕方がないのに、なんだか悔しい。
その黒髪の女性は一体誰なの?
その美しい人はあなたの大切な人なの?
ねえ、教えてよ。お願いだから。その女性を、そんなに愛しそうに見つめないで。あなたは知ってるのかな、やり遂げた君のその表情に、あたしがいつも苛々してるってこと。その人じゃなくてあたしを見てよって、叫びたくなるってこと。
その表情、大嫌い。



03. 見守る立場からもう一歩

ホントに、あなたは見ていられないくらい頑張り屋さん。何かに熱中すると寝食も忘れて作業をする。今あなたが画家として成功しているのは、その性質があるからなんだろうね。でもね、見ている方からすれば気が気でないの。
気が付いたら三日くらい何も食べてなかったりするし。
気が付いたら一週間くらいまともに寝てなかったりするし。
どうしてなのかしら。あたしは小さい頃からあなたを見ていたから割と慣れっこだけど、でもね、本当はもっと人間らしい暮らしをして欲しいのよ?だけどあなたは何を言っても「分かった分かった」って何も聞いてない癖に答えるの。何を言っても聞かないから、何を言っても仕方がないから、あたしはあなたに尽くしているの。甲斐甲斐しくコーヒーを入れてあげたり、キャンパスに向かっているあなたの口にパンを突っ込んでみたり。あなたはあたしに感謝するべきだわ。だってあたしがいなかったらあなたは今頃死んでいるかもしれないもの。
あたしは別に、こうやって見守っているだけでも全然構わないのだけど、でもね、出来ればもう少し進んだ関係になりたいな、なんて。ご近所さんじゃなくって、保護者じゃなくって、なんかこう…もっと、ね?
せめてあと一歩、進みたい。




04. これが僕なりの応援

君は知らないよね、僕が描く女性が君だってこと。
君は知らないよね、僕が君に世話を焼いて欲しくてワザとだらしのない生活をしているってこと。僕は君が世話焼きだってことを知っているから。僕みたいなのを見ると、放っておけないんだよね。ごめんね、僕の為に。君は僕なんかよりもずっと年下で、学校とか習い事とか、とっても忙しいはずなのにね。ああ、そう言えば、今年はもう受験生だったっけ。僕みたいな大人をきっと穀潰しって言うんだろうね。時間の限り自由気ままに絵を描いて、君の時間をと優しさを貪って、僕はなんて酷い男だろうね。
何で君はこんなに優しいのかな、なんて時折考えたりするんだ。
それでね、君は僕に好意を寄せてくれているんじゃないかな、なんて思っていたりするんだ。
ま、ほとんど妄想なんだけどね。
君にたくさん迷惑を掛けている僕なんだけど、これでも、君のことを応援しているんだよ。君が無事に大学生になれたら、この絵は君にプレゼントするよ。大丈夫。君ならきっと受かるよ。僕の世話をしながらでもね。




05. 君を見続けて変わったこと

――なんだか、前よりもお節介焼きになったような気がする。
――なんだか、前よりも甘ったれている気がするなぁ。
恋って怖いね。
人の本質を隠して、浮き彫りにして、相手に見せてしまうんだから。



06. ねぇ、たまには…

「――たまには休憩も大切だと思います」
あたしの一言に、あなたは聞いているのか聞いていないのか分からないような返事を返す。でもね、あたしはあなた専用の秘密兵器を持っているのよ。あなたを振り向かせるのに必要な道具は美味しい紅茶とチョコレートケーキ。二つだけ。
「あーあ、美味しい紅茶を淹れたのになー。チョコレートケーキもあるのになー。残念だなぁ、折角頑張って作ったのになー」
これだけ誘えばもう、五分後には絶対こっちを向く。いつも、精神の奥深くで葛藤があるらしい。こうやって誘ってからは少しうずうずしながらも絵を描き続けるのだ。けれど、それも五分で終わる。もう駄目だ、集中できない、とか呟きながら、あなたはお皿に切り分けたチョコレートケーキに手を伸ばすの。あなたの好物くらい、あたしはみーんな熟知しているんだから。
たまには二人で、ささやかなティーパーティーを開きましょうよ。



07. 涙を堪えて泣かないで

あ、やばい。
なんでかな、あなたの絵を見ていると、息苦しくなるよ。
その黒髪の女性。あなたの大切な人なのかなって思ったら、何でかな、泣きそう。だめだ。あたし、情緒不安定。こんな状態であなたと長い時間一緒に居ることなんか出来ないよね。今日は、早く帰ろう。
「ねえ、今日は用事があって帰らなくちゃいけないんだ。ごめんね、そろそろ帰らなくっちゃ」
「泣きそうな顔して何言ってるの?」
見てない癖に、なんで分かるの?なんで?どうして?
「君のことくらいね、見なくても分かるんだよ」
パレットを置いて、あたしの方に向き直る。そして絵の具だらけの手であたしの頭を撫でた。
「一番つらい泣き方って知ってる?」
あたしが左右に首を振ると、あなたはにかっと笑ってまたあたしの頭をもみくちゃにする。あたしの髪は今、絵具の色でさぞかしカラフルになっていることだろう。
「涙を見せないように泣くのが、一番つらい。悟られないように、気付かれないようにって泣いていると、そのうち心が壊れるよ」


08. つらい時には笑わせるよ

「うわっ、髪が賑やかなことになってる」
長い黒髪を持つ君の頭から手を離し、僕はタオルを取りに行った。
こういうとき、君に一番利くのは僕のうっかりさんな所を見せること。
“うっかり”手を洗うのを忘れて、“うっかり”手が汚れたままタオルをつかんで、“うっかり”汚れてしまったタオルを君に渡す。うわぁ、ごめんっ、なんて言いながらさ。全く、本物のうっかりさんが聞いて呆れる程のうっかりっぷりだ。
でもね、ほら。僕がこうやっていると君は笑うんだ。あたしがいないとあなたは本当にダメなのね、なんて言いながらさ。


09. 「ありがとう」はこっちの台詞

「――ありがとう」
 笑いながら、君はちょっとだけ目を擦った。気が緩んだせいでひとつ、涙が流れたらしい。
「ありがとうって、何が?」
「慰めてくれて、ありがとう」
今度はきちんと拭いた手で頭をなで、頬をなで、額にキスをした。ちゅ、と小さく音を立てると、君は一瞬驚いたように後ろに身を引いて、目をまん丸にする。
けれど君はすぐにまん丸だった目を少し細めて僕に抱きついてきた。その思いがけない行動に僕はとてもびっくりしてしまって、警官に拳銃を突きつけられた罪人のように両手を上げて固まってしまった。
「貴方の絵の、あの黒髪の人は誰?」
聞こえるか聞こえないかくらいのその言葉を、僕はしっかりと聞き取った。
「誰だろうね」
クスリと笑って、君を見る。上げていた手を、そっと君の背中に回した。
「…あたしだったらいいな、と思う」
「……ありがとう」
抱きしめる腕に、きゅっと力を込める。
ありがとう。こんな僕を好きになってくれて。僕の絵の人にまで、嫉妬してくれて。ありがとう。ぼくは、本当に幸せ者だよ。
「ありがとうって、何が?」
君はさっきの僕と同じ台詞を言って、首を傾げた。
「僕を好きになってくれて、ありがとう」
「貴方は――」
一瞬黙り、君はかすかに頬を染めた。
「あの絵は、あたし?」
その質問に頷くと、君はとても嬉しそうに口元をほころばせた。ありがとうはこっちの台詞だわ、と言って。



10. 君の癒しになれますように


時が経ち、五年。
君はすっかりと大人びて、僕は自分で思っていた以上に老けてしまった。だけど、それも当然。僕と君はちょうど一回りも違うんだから。十二歳も年齢差があれば、当たり前だ。
「ようやく、卒業したよ」
そう言って、君は卒業証書と一枚の絵を持って僕の家に来た。絵の中にはまっ白な月を見つめる、まっ白なドレスを着た長い黒髪の君。
「おめでとう」
微笑み、その手から絵を受け取った。
これは、君が大学に受かったときにあげたものだ。
「…本当にいいの?」
不安そうな表情。僕はその唇にちょんと人差し指を当てた。
「僕の気持は、あの時と何も変わらないよ」
言いながら、その絵をイーゼルに置いた。
「僕は君の隣にいることが出来ればそれだけで幸せなんだ。…でも、君こそ本当にいいのかい?大学で、素敵な人にもたくさん出会っただろう?一緒にいて心地良いと感じた人だっていたはずだよ。本当に、僕で良いのかい?」
「あなた以外、考えられなかったわ。あなたの傍で、あなたの世話を焼いて、たまにお茶会とかして、そしてちょっとだけ、あなたを癒してあげることが出来ればいい。それ以上の人生なんか考え付かない」
――待ってるわね。
君は僕の頬に唇を落とし、少し微笑んで僕の家を後にした。
さぁて、絵を描かなくちゃ。
美しい君の隣に、一人のおじさん。
何だか面白い絵になりそうだ。
君に贈ろう。永遠を誓う僕たちの絵を。そして、指輪を。
僕もね、いつも思うんだ。
君の隣で、君を描いて、たまにお茶会とかして、そしてちょっとだけ、君を癒してあげることが出来れば、お互いにそうやって生きることが出来れば、僕たちは世界の誰よりも幸せになれるだろうと。


                                                おわり



ひなたさんの管理する、
恋したくなるお題(配布)』よりお借りしました。


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