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羽根あり道化師
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羽根あり道化師

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vice2rain

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その男は靴下を履いていなかった。当然だ、面倒だからである。
その男は髪をとかしていなかった。当然だ、面倒だからである。
その男は見るからに怪しかった。当然だ、死神のような顔をしているからである。

そんな男は子供が大嫌いだった。当然だ、面倒だからである。
そして彼は死神のような顔をさらに陰気にさせ、スリッパを引きずりながら雑踏の中歩いている。
当然だ、これから仕事が待っているのだから。
ああ、こんなにもすがすがしい憂鬱な日。仕事の始めというものは誰にとっても面倒にちがいない―

彼はとあるスライド式のドアの前でぴた、と止まった。ドアの向こうから熱気がここまで伝わってくるようだった。
元気でいいな、などとは思いたくもない。できれば、こいつらは本当に子供だろうかと思うくらい陰気で生気のないような連中を相手にしたかったものだ。なぜなら、面倒だから。
だが、それはかなわぬ夢というものだろう、それが彼の選ばざるをえなかった職業なのだから。


ドアの向こうでは戦争が繰り広げられていた。

机はほとんどがひっくり返り、筆箱が跳び、ホウキがちゃんばらに使われ、何かの割れるような音がひっきりなしに聞こえてくる。

が、戦争をとめるべく秩序の鐘が鳴り響いた瞬間、教室にいた生徒たちはぴたりと止まり、ひっくり返った机を元に戻し、席に着いたのである。

―ふむ、なかなか見直すこともあるではないか。

ニヤリと怪しげな笑みを浮かべた男はスライド式のドアをがらりと開けた。
刹那、最前列の席に座っていた黒髪の少年と、青い髪の少年が口元を緩ませた。

もはや伝説的スタンダードとなりつつある必殺黒板消し落としトラップが発動したのである。

が、男は白衣を翻してそれを軽く避けてしまった。

―なかなかやるな。

笑みを浮かべた生徒二人の目は今度は相手を侮っている余裕の笑みではなく、好敵手として相対するにふさわしい、という尊敬を込めた笑みだった。

男は教壇に登ろうとして歩みを止める。そしておもむろにチョークをとりだすと、教卓の手前に投げ落とした。瞬間、教壇の元でバクチクが破裂しだし、しばらく煙を上げながら暴れまわった後収まった。

「ヴァイス、エルネスト・マックス、お前らバケツを持って廊下で反復横跳びしていやがれコノヤロー。新学期早々なにお茶目やらかしてんだ。」
「げッ!新任だろ?!なんで俺たちの仕業ってわかんの?!」
「あなたたちのデータはすべて貰っていますからね。あなたたち二人は学校屈指の頭脳ではあるものの、かなりの悪戯好きだと。」

クラスに笑い声が充満した。悔しそうな顔で青い髪のほう―エルネストは席を立つ。がヴァイスの方はむすっとした表情で腕を組んで座っていた。

「どうしました、ダラダラしてないで早く廊下へ―」
「いや、ば、じゃなくてヴァ!発音間違えんでよ。」
「だが関係ない。さっさと廊下にでたほうが身のためですよ。」

レインはさして気にもせずに二人を廊下へ放り出した後朝礼を続けた。残された生徒の数は2人のみである。
この2人は不思議そうな顔でお互い目配せをしていたのだが、そのうち一人が手を上げて質問をした。

「先生。」
「はいなんですか、ツッコミ専門」
「えぇぇえ?!僕の扱いもうソレで決定ですかアァァァ?!訴えますよ!」
「で、質問は。」
「あ、あの!どうしてこのクラスだけ5人しかいないんですか?」
「…あなたたちもしかして何も聞かされていないのでは…?」

レインの表情がさらに暗くなった。今質問をした生徒は小さくひっと息を呑んだが両隣に座る少女はとくに気にした様子もなかった。だがそれは質問をした生徒が弱気なのではなくその少女があまりにも強気すぎるだけなのであるが。

「…わかりました、面倒ですが説明しましょう。オイィそこの不良二人ィ、反復横跳びしながら聞きやがれー。この学校の経営がかなり危機的状況にあることは知っていますか、知らなくてもかまいません。どうせあと1年しかいないんです、どうでもいい。ですが、生徒数が減っている今、それをなんとか食い止めなければならないと理事長から私にお話がありました。そこでこの学校屈指の頭脳をあつめ、進学率向上を図れ、と。そしてこのクラス…3-Sがそれに選ばれたというわけです。」
「せんせーい」

藍色の髪の少女が手を上げた。レインは無言でそちらを見ると、少女は言葉を続ける。

「なんで隣のクラスはC組なのにここはSなんですかー?」
「それは…Sadd…じゃない、SpecialのSかなんかじゃないですか?」
「Sadd…のあとなんていおうとしたんですか先生ィィィ!」
「ハイハイハイ、揚げ足を取るんじゃありませんツッコミ専門。あー、レオナルド?ちょっ、これ読みづらい。レオンでいいですね。」
「ちょっとオォォォ!別に読みづらくないでしょ!ねぇ?!先生訴えますよ!」

レインは気にかけることをしない。当然だ、面倒だからである。

「さて…今から予定表を配ります。目を通してください。オイィ、反復横跳び二人ィ!教室に戻ってきなさーい」

レインの手から時間割が一人ひとりに配られた。廊下から戻ってきた二人は本当に反復横とびをしていたのか疑わしいほど元気である。だが、多少息が切れていることから教師の言葉に従ったのであろうことは推測できた。
さて、時間割を改めて見た生徒たちはあまりのハードスケジュールに固唾を呑むことになる。レインは表情を変えずに言葉を続けた。

「私たちには時間がないのです。すべての授業は私が受け持ちます。何か質問は。」

ヴァイスが手を上げた。チッ、と舌打ちをしたレインは気だるげにヴァイスの名を呼ぶ。

「せんせーい、ツッコミは一人何回までですか。」
「とりあえず1回だけということにしておきましょう。」

参考までに彼らの受け取った時間割と同じものをご覧入れよう。


「先生、金曜日は倫理と道徳で埋め尽くされすぎだと思いまーす。俺たちは小学生ですかっつーんだ。」
「大丈夫、先生もひっくるめて3-Sの皆は小学生からやりなおしたほうがいいくらいの非常識人ですからね。次。」
「先生、ミックス時間割はないとおもいまーす。」
「時間がないといいました。次。」
「先生、体育がミックスされすぎです。火曜日とか全部体育まざってまーす。」
「受験は体力勝負です。次。」
「先生、文字がずれすぎだと思いまーす。」
「しばくぞコラァァァ!先生の血と汗と涙の結晶ですよ、ペイントで格闘すること数十分!言葉を慎めエェェェ!もう質問はありませんね?!ハイ終わり!じゃ起立ー」

その瞬間だった。
教室のドアが突如開かれ何者かのシルエットが見えた。
黒い、大きな影。逆光のせいで顔は見えないが、それは本当に逆光のせいだけなのだろうか。

否 違う。それは逆光などではない。後光だ。後光が差している。
薄らいだ頭におしみなく降り注ぐ太陽のなせる偉大な所業だ。
この神々しい御姿にレインも固唾を呑んだにちがいない。

「校長…。」
「レイン君ッ!始業式はもう終わってしまったぞ!クラスぐるみでこなかったのは君たちだけだ!バツとして全員廊下に立っていなさいイィィィィィ!!!」

初日は波乱の幕開けとなったのであった…。


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