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羽根あり道化師
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羽根あり道化師

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ティアドロップ




最近、夢を見る。
いつもいつも同じ夢ばかり。

何かを掴もうとしてか、何かを奪おうとしてか、俺は思いきり手を伸ばし飛び跳ねる。けれど、どんなに手を伸ばしても高く飛んでもそれには届かない。
それでも、止められない。
欲しくて欲しくて仕方が無いのに、絶対に届かない。
…けれど、“それ”とは何なのだろう。
何にも変え難いくらい欲しくて堪らないのに、“それ”が何なのかはさっぱり覚えてない。


「――ん?」
日曜の昼、一人暮しの俺はレトルトのカレーライスを食べながらテレビを見ていた。そのときふと、あるコマーシャルが目に入った。
おいこれ馬鹿じゃねぇのこんなもん何処の誰が信じるんだよウソくせぇなしかもなんだよ飴玉のコマーシャルじゃねえかおいおい誰が買うんだよコレ、という感じのコマーシャル。

『“ティアドロップ
あなたの記憶を呼び覚まします。
口に含み、全てが消えて無くなった時、あなたの最も望む記憶が自然と蘇ります』

一体どこの三流小説だろうか。
飴玉一つ口に入れただけで記憶が戻るのなら何の苦労もねぇんだよと俺は口には出さずに心中で毒づく。
…それでも、と思う。
いい加減あの夢を見るのも嫌になってきた。
たかが飴玉一つだ。そんなに高いもんじゃないし、一度試してみるのもいいかもしれない。
ダメでもともと。
期待なんかしちゃいない。
だけど、本当に戻ったら儲けもの。
そんな気持ちで、一つ買ってみることにした。

「…ふぅん」
綺麗な水色の、ビー玉みたいな飴玉。
透明なビニールの包みは丸めてゴミ箱に捨て、早速飴玉を口の中に放りこんだ。
(飴なんか久しぶりに食ったなぁ)
思いながら、ミント味のそれを口の中で転がす。
結構な大きさだからガリと噛んでしまいたいのだが、包みに『決して噛まないでください』とあったからぐっと堪える。何でも、飴が砕けると記憶まで一緒に砕けてしまうとか何とか。
馬鹿馬鹿しいとは思うけれど、仕方が無い。
手段を間違えてしまっては目的は達成できないのだ。

「…」
よし、全部無くなった。これで記憶も戻るはず…が、戻らない。
こんちくしょうと舌打ちをして時計を見ると、もう夜の11時だ。テレビを見ていたとは言え、たかが飴玉一つのために夜更かしをするつもりなど毛頭無い。
わずかな苛立ちを抑えつつも、俺はもう寝ることにした。


――返して!返してよう!!

これは…。あぁ、そうか。小学生の時の俺だ。

――なんだよ、ただの模様のついた石じゃんか。ちょっとくらい良いだろー?

違う、ただの石じゃない。アンモナイトの化石だ。誕生日に貰ったそれをクラスメイトに取られて…そうだ、それで川に落とされたんだ。
そうだ…思い出してきた。
返して、返してと散々飛び跳ねたけれど、結局化石は返して貰えなくて、さらに川に落とされた。半日川の中を捜したけれど見つからなくて…。
だんだんと、鮮明に…記憶が蘇ってくる。

「――っ!!」

ガバッと体を起こし、辺りを見まわす。
…自分の部屋。
「…嫌な記憶だ」
俺は溜め息を吐いた。
そして、あることに気付いて眉根を寄せる。

『ティアドロップ(一滴の涙)』とはこのことか。

はぁ、と俺はもう一つ溜め息を吐く。
思い出は思い出のまま、忘れた記憶は忘れたままにしておくのが精神的に良いのかもしれない。

「……くそっ」

そうだ、そのほうが良い。
つ、と頬を伝った一滴の涙を拭い、俺はもう一度布団にもぐった。

…案の定、眠れなかったけれど。



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