448 :Irregular's Elegy :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 23:10:26.48 ID:EVsBXzyI0
「――同じ部屋で良い」
高級感を漂わせる装飾と、機能美を感じる設計をされた広い空間。
中央に女性の裸婦像が置かれたホール。
高級感を漂わせる装飾と、機能美を感じる設計をされた広い空間。
中央に女性の裸婦像が置かれたホール。
赤い絨毯を敷き詰めたロビー――森林を抜け、近隣に存在した街のホテルに二人は居た。
カウンターに笑顔で立つ従業員のレプリロイドに、マンドリラーが当然とばかりに言い放った。
時刻は深夜。
訪ねるには非常識な時間だが、宿泊場所は別である。
時刻は深夜。
訪ねるには非常識な時間だが、宿泊場所は別である。
バレッタで髪を纏めた少女のレプリロイドが、かしこまりましたと答え、端末を操作する。
「同じ部屋って……」
腕を組むマンドリラーの後ろに立つエックスが、彼女の背中に困惑した顔と声を投げた。
腕を組むマンドリラーの後ろに立つエックスが、彼女の背中に困惑した顔と声を投げた。
「何か問題があるのか?」
横目で少年の顔を受け止める。
マンドリル型の巨大なボディは、玄関付近で鉄色のカーゴに乗せられていた。
丸型な数体の運搬用メカニロイドによって移動されている。
横目で少年の顔を受け止める。
マンドリル型の巨大なボディは、玄関付近で鉄色のカーゴに乗せられていた。
丸型な数体の運搬用メカニロイドによって移動されている。
「いや、一応、僕は男なんですけど……。そんでもって、お姉さんは女だし……」
胡乱な瞳を真正面からは受けれず、視線を逸らすエックス。
次に映ったのは、全裸の女性の彫像。
頬を赤らめ視線を引き剥がし、最終的に少年の視界は、真紅の引き物に落ち着いた。
胡乱な瞳を真正面からは受けれず、視線を逸らすエックス。
次に映ったのは、全裸の女性の彫像。
頬を赤らめ視線を引き剥がし、最終的に少年の視界は、真紅の引き物に落ち着いた。
451 :Irregular's Elegy :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 23:11:59.47 ID:EVsBXzyI0
「意味が解らん。お前は節約という言葉を知らないようだな」
エックスの言葉に片眉を曲げ、マンドリラーが呆れる。
「意味が解らん。お前は節約という言葉を知らないようだな」
エックスの言葉に片眉を曲げ、マンドリラーが呆れる。
そこでカウンターの少女が、後ろの棚から鍵を取り出し、客である彼女に手渡した。
「どうも」
「ごっゆくり」
軽い応対を終え、釈然としない顔をするエックスを促し、与えられた部屋に向かった。
「どうも」
「ごっゆくり」
軽い応対を終え、釈然としない顔をするエックスを促し、与えられた部屋に向かった。
「はー、やれやれ」
小さなボストンバックを寝台に投げ、マンドリラーが溜め息をつく。
果物の入ったボウルが置かれた机が居間の窓際に。
その両端に配置される椅子に、どっかりと座り込んだ。
小さなボストンバックを寝台に投げ、マンドリラーが溜め息をつく。
果物の入ったボウルが置かれた机が居間の窓際に。
その両端に配置される椅子に、どっかりと座り込んだ。
「――何をやってるんだ」
空色をした長袖の首元を緩めながら、玄関でそわそわする少年に声をかける。
「いや……良いのかなぁ、って」
エックスは躊躇しながらも、しかたなく部屋の奥へと足を進める。
空色をした長袖の首元を緩めながら、玄関でそわそわする少年に声をかける。
「いや……良いのかなぁ、って」
エックスは躊躇しながらも、しかたなく部屋の奥へと足を進める。
「もう2時か……」
マンドリラーは、壁にかけられる時計の針に辟易した。
マンドリラーは、壁にかけられる時計の針に辟易した。
そして自分のシャツに手をかけると、突然、少年の前で脱ぎだす。
当然、ぎょっとするエックス。
当然、ぎょっとするエックス。
454 :Irregular's Elegy :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 23:14:24.29 ID:EVsBXzyI0
酸欠したかのように口を開閉するのを尻目に、腰からベルトを引き抜く。
「疲れたなぁ、もう」
ジーンズのズボンを脱ぎ捨て、ピンクのショーツも引き下ろした。
下半身には何も纏わなくなった。
淡く生えるピンクの恥毛から、エックスは慌てて顔を抑える。
ジーンズのズボンを脱ぎ捨て、ピンクのショーツも引き下ろした。
下半身には何も纏わなくなった。
淡く生えるピンクの恥毛から、エックスは慌てて顔を抑える。
豊かな乳房を覆う下着も剥ぎ取り、一糸纏わぬ女性が居間で完成した。
「シャワー浴びてくる。――何やってんだ、さっきから」
「こ、こ、こっちのセリフです……!」
両目を手で覆い右往左往する少年。
マンドリラーは珍獣でも見たかのような顔をし、風呂場に向かった。
「こ、こ、こっちのセリフです……!」
両目を手で覆い右往左往する少年。
マンドリラーは珍獣でも見たかのような顔をし、風呂場に向かった。
白い足が脱衣所を横切り、浴室のタイルを踏む。
シャワーのノズルを捻って、お湯の奔流を精練された身体に浴びせた。
シャワーのノズルを捻って、お湯の奔流を精練された身体に浴びせた。
蛇口から吹き出るシャワーが床を叩く音は、リビングにまで届く。
居間に突っ立つ青き少年は、今度は耳を押さえ、煩悩を制御するよう努めた。
居間に突っ立つ青き少年は、今度は耳を押さえ、煩悩を制御するよう努めた。
「ありえない」
常識の無い女性に対する呟きを漏らし、彼女の帰還までテレビを観賞している事に決めた。
常識の無い女性に対する呟きを漏らし、彼女の帰還までテレビを観賞している事に決めた。
シャワーは、深夜のバラエティ番組の音で聞こえなくなる。
456 :Irregular's Elegy :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 23:15:52.28 ID:EVsBXzyI0
バナナを口にしながら、エックスは椅子に座り、机に肘を突いてくつろいだ。
湯浴みは意外に早く、数十分もしない内に全身に湯気を漂わせるマンドリラーが戻ってきた。
「予想はしてましたけど、ね」
嘆息するエックス。
マンドリラーは肢体にバスタオルこそ巻けど、衣服を着ないまま現れたのだ。
嘆息するエックス。
マンドリラーは肢体にバスタオルこそ巻けど、衣服を着ないまま現れたのだ。
「何だ」
「いえ、なんでも」
疲れに目頭を押さえ、両手を挙げる。降参のようなポーズで出迎えた。
「いえ、なんでも」
疲れに目頭を押さえ、両手を挙げる。降参のようなポーズで出迎えた。
半裸の女は首を傾げながら、髪をもう一つのタオルで乾かす。
「お姉さん……」
急にトーンを落とし、真面目な顔をしたエックスの瞳が、まともにマンドリラーへと向けられた。
急にトーンを落とし、真面目な顔をしたエックスの瞳が、まともにマンドリラーへと向けられた。
「――解ってるよ。私の事だろ」
巻かれたバスタオルを剥がし、髪と同じ色の乳首が載った乳房が零れる。
生まれたままの姿のままベッドに向かい、シーツを纏って寝転んだ。
巻かれたバスタオルを剥がし、髪と同じ色の乳首が載った乳房が零れる。
生まれたままの姿のままベッドに向かい、シーツを纏って寝転んだ。
「私は本をよく読むんだ。――意外かもしれないがな」
少しだけ頬を染め、恥ずかしそうに呟いた。
粗雑な性格と、非常識極まる行動からは、とても想像できない趣味だ。
少しだけ頬を染め、恥ずかしそうに呟いた。
粗雑な性格と、非常識極まる行動からは、とても想像できない趣味だ。
458 :Irregular's Elegy :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 23:17:48.65 ID:EVsBXzyI0
「今の電子化されたのじゃなくて、紙媒体の本が好きだ」
ベッドに投げられたバッグから、大判の本を取り出す。
可愛い絵の載る表紙から察するに、絵本のようだった。
「今の電子化されたのじゃなくて、紙媒体の本が好きだ」
ベッドに投げられたバッグから、大判の本を取り出す。
可愛い絵の載る表紙から察するに、絵本のようだった。
「私の力は大きすぎて、制圧や捕縛向けじゃない。ハンターの頃は、だいたい待機任務だったよ」
絵本をめくり、マンドリラーは苦笑する。
エックスは、彼女とあまり任務をこなしていなかった事を思い出した。
絵本をめくり、マンドリラーは苦笑する。
エックスは、彼女とあまり任務をこなしていなかった事を思い出した。
「それで、暇を持て余すのに読書をしてた」
絵本を閉じてバッグに戻す。
絵本を閉じてバッグに戻す。
「イレギュラーが今回の事件に蜂起した時も、絵本なんか読んでたね」
桃色の長い髪をかき上げ、マンドリラーは過去への光景に目を細める。
エックスは事件という単語に、幻痛を胸の奥で感じた。
桃色の長い髪をかき上げ、マンドリラーは過去への光景に目を細める。
エックスは事件という単語に、幻痛を胸の奥で感じた。
「――数日前にアルマージが、採掘場からかなり古びた本を持ってきた」
再び鞄をまさぐり、白い腕は本を掴み取る。
先ほどのそう古くない絵本とは違い、えらく年季の入った本がエックスの視界に現れる。
再び鞄をまさぐり、白い腕は本を掴み取る。
先ほどのそう古くない絵本とは違い、えらく年季の入った本がエックスの視界に現れる。
「内容は、現実にはありえない物でな。――まぁ、ファンタジーに分類される〝小説〟だと……思ってた」
時の流れに沿り、黄ばむ表紙を撫で上げる。
埃や虫ですら出そうな本を、思案顔で見つめるマンドリラー。
時の流れに沿り、黄ばむ表紙を撫で上げる。
埃や虫ですら出そうな本を、思案顔で見つめるマンドリラー。
その彼女の言葉に、少年は違和感を覚えた。
461 :Irregular's Elegy :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 23:20:52.04 ID:EVsBXzyI0
「思ってた?」
「これは小説じゃなくて、日記……いや、調査記録なんだよ」
シーツを抱き寄せ、マンドリラーが視線を窓に移動する。
カーテンを引いてないガラスの戸からは、漆黒の空と、この街の煌びやかな生活光が見える。
「思ってた?」
「これは小説じゃなくて、日記……いや、調査記録なんだよ」
シーツを抱き寄せ、マンドリラーが視線を窓に移動する。
カーテンを引いてないガラスの戸からは、漆黒の空と、この街の煌びやかな生活光が見える。
「青いレプリロイドが世界を何度も救う……何かの伝説、もしくは誰かの妄想としか考えられないな」
自分の言葉に苦笑しながら、彼女はこの本の見解を述べた。
青いレプリロイド。
話の人物と同じ色であるエックスの顔は、怪訝なものだった。
自分の言葉に苦笑しながら、彼女はこの本の見解を述べた。
青いレプリロイド。
話の人物と同じ色であるエックスの顔は、怪訝なものだった。
「事実、そんな世界的な事件は聞いたことも無いし、本部のデータベースにも存在していなかったしな」
マンドリラーは事も無げに言って、話を一旦切る。
寝台の背もたれに寄り掛かり、両手を下腹部の辺りで組んだ。
マンドリラーは事も無げに言って、話を一旦切る。
寝台の背もたれに寄り掛かり、両手を下腹部の辺りで組んだ。
「隊長は間違っていない」
再開した時には、マンドリラーの話は本の考察から離れ、内容が変わる。
再開した時には、マンドリラーの話は本の考察から離れ、内容が変わる。
「人間の汚い部分は良く知っている。本を読むだけにな」
またも、胸に痛みが走るエックス。
軍服を着込んだ少女の事を思い出した。
またも、胸に痛みが走るエックス。
軍服を着込んだ少女の事を思い出した。
「レプリロイドだけの世界に、私は惹かれた」
「お姉さん……」
――イレギュラー達の目標。
異端と化した同僚たちの顔が思い浮かび、自分を罵倒する。
「お姉さん……」
――イレギュラー達の目標。
異端と化した同僚たちの顔が思い浮かび、自分を罵倒する。
462 :Irregular's Elegy :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 23:23:54.64 ID:EVsBXzyI0
俯くエックスは、泣き出しそうな顔をした。
膝に置かれ両手に力を込め、涙するのを必死に堪えた。
俯くエックスは、泣き出しそうな顔をした。
膝に置かれ両手に力を込め、涙するのを必死に堪えた。
「安心しろ。敵ではない、そう言ったろ」
マンドリラーは少年に笑いかける。
その言葉で、エックスは幾分安堵した。ほっとした顔を床から上げる。
マンドリラーは少年に笑いかける。
その言葉で、エックスは幾分安堵した。ほっとした顔を床から上げる。
「私は騙されていた。――クワンガーにな」
笑みが消え、忌々しげな表情。
笑みが消え、忌々しげな表情。
「採掘場。あそこで、人間と離別した形のレプリロイドの世界を〝建設〟する。――そう聞いていた」
「…………え?」
「オクトパルドが死んで、やっと隊長に〝久しぶりに〟会えた」
聞き覚えの無い話。
少年は困惑し、マンドリラーは話を続ける。
「…………え?」
「オクトパルドが死んで、やっと隊長に〝久しぶりに〟会えた」
聞き覚えの無い話。
少年は困惑し、マンドリラーは話を続ける。
「世界中の人間を虐殺して作り上げる……私はそんな事は聞いていない」
彼女の怒りをたたえた双眸が、虚空を睨む。
合点がいく。確かに彼女は騙されていたのだろう。
エックスはマンドリラーの心情を考えると、居たたまれなくなった。
彼女の怒りをたたえた双眸が、虚空を睨む。
合点がいく。確かに彼女は騙されていたのだろう。
エックスはマンドリラーの心情を考えると、居たたまれなくなった。
「それ……で」
「――問い詰めた。結果が、あのワン公がキレて、森で追いかけっこだ」
自嘲する。
結局、彼女の求めた答えは得られなかったのだろう。
寝転ぶ女の態度が、エックスをそう結論付けた。
「――問い詰めた。結果が、あのワン公がキレて、森で追いかけっこだ」
自嘲する。
結局、彼女の求めた答えは得られなかったのだろう。
寝転ぶ女の態度が、エックスをそう結論付けた。
463 :Irregular's Elegy :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 23:25:35.44 ID:EVsBXzyI0
「隊長は……隊長なんだろうか……」
「隊長は……隊長なんだろうか……」
―――徐々に壊れている。
ライトの言葉が真実味を帯びてくる。
無意識に、隊長、とエックスは心の中で呟いていた。
ライトの言葉が真実味を帯びてくる。
無意識に、隊長、とエックスは心の中で呟いていた。
「話を本に戻そう」
握られた本を揺らす。本当に埃が舞った。
握られた本を揺らす。本当に埃が舞った。
「確かに、隊長の思惑と私のが食い違ったのが、一番の理由だが――」
思慮深げなマンドリラーの瞳が、一世代を超えていそうな本の表紙に移る。
「それを後押ししたのは、この本なんだ」
思慮深げなマンドリラーの瞳が、一世代を超えていそうな本の表紙に移る。
「それを後押ししたのは、この本なんだ」
彼女はいったん躊躇い、そして言葉を吐く。
「これに書かれているのは、事実なんじゃないか……」
「……? どういう、ことでしょう?」
少年は首を傾げる。
「これに書かれているのは、事実なんじゃないか……」
「……? どういう、ことでしょう?」
少年は首を傾げる。
「青いレプリロイドが世界を救う」
夢物語の一節を紡ぐ、マンドリラーのピンクの唇。
世界を救う――エックスには願ってもない事だ。
夢物語の一節を紡ぐ、マンドリラーのピンクの唇。
世界を救う――エックスには願ってもない事だ。
「最後のページだ」
マンドリラーが、触れば分解してしまいそうな本を放り投げる。
エックスは慌てて椅子から立ち上がり、放物線の先を受け取った。
マンドリラーが、触れば分解してしまいそうな本を放り投げる。
エックスは慌てて椅子から立ち上がり、放物線の先を受け取った。
464 :Irregular's Elegy :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 23:28:02.19 ID:EVsBXzyI0
彼女に従い、本の最終ページを開いた。
彼女に従い、本の最終ページを開いた。
<調査対象DRN.001ロックマン>
「……馬鹿な」
頭をハンマーで殴打された感覚。
少年の口から漏れたのは、事実否定の声。
頭をハンマーで殴打された感覚。
少年の口から漏れたのは、事実否定の声。
「お前が普通のレプリロイドでない事は、入隊時から薄々感じてはいた」
自分の名が書かれた本。
空想である筈の、青いレプリロイドが世界を救う物語。
空想である筈の、青いレプリロイドが世界を救う物語。
――自分は一体何者だろうか。
そう考えた所で答えは出ない。
音を立てて回る思考による頭痛だけが、少年に返ってきた。
そう考えた所で答えは出ない。
音を立てて回る思考による頭痛だけが、少年に返ってきた。
「妙にハンター本部からの待遇がいい。何故か、隊長やクワンガーが固執する」
完成には程遠いパズルのピースが少しだけはまる。
「そして、特Aだったイレギュラーを三人屠った――その力」
――その力は、自分が求めたものではない。
愛情を感じていた同僚を破壊し、救えた者は誰一人として居ない。
愛情を感じていた同僚を破壊し、救えた者は誰一人として居ない。
466 :Irregular's Elegy :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 23:30:51.11 ID:EVsBXzyI0
「確信……とはいかないが、伝説のレプリロイドがお前であるとは思っている」
「僕は――」
「確信……とはいかないが、伝説のレプリロイドがお前であるとは思っている」
「僕は――」
「――ただの、下らん悪戯かもしれないがな」
マンドリラーの珍しい茶化したような物言い。
沈痛な顔が掻き消え、思わず鼻白むエックス。
マンドリラーの珍しい茶化したような物言い。
沈痛な顔が掻き消え、思わず鼻白むエックス。
「だが、本当にそうなのであれば、この混沌とした世界を救えるだろうな」
彼女は天井を仰ぎ見、何かに希望を見出していた。
彼女は天井を仰ぎ見、何かに希望を見出していた。
「人間はそこまで好きじゃない……しかし、隊長の作戦は間違っている」
決意を宿した顔が、まともにエックスにぶつかる。
本を手にしたまま立つエックス。
その首が縦に振られた。
決意を宿した顔が、まともにエックスにぶつかる。
本を手にしたまま立つエックス。
その首が縦に振られた。
「私はそれを止める。それが〝部下〟であった私の使命だ」
片手を拳にし、マンドリラーは自分の力を誇示するように、天に力強く向ける。
片手を拳にし、マンドリラーは自分の力を誇示するように、天に力強く向ける。
「お前が伝説のレプリロイドじゃなくても良い」
屈強な態度とは反対に、とても優しげな笑みを浮かべるマンドリラー。
屈強な態度とは反対に、とても優しげな笑みを浮かべるマンドリラー。
「間違いを正す……ハンターの初歩的な任務――どうする? 受けるか?」
姉のような存在。
差し伸べられた選択肢は、自分が何であるかなどの疑問を二の次にする。
姉のような存在。
差し伸べられた選択肢は、自分が何であるかなどの疑問を二の次にする。
マンドリラーの問いに、エックスは彼女に負けないぐらいの笑顔で応えた。
535 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/11/02(佐賀県教育委員会) 03:09:42.91 ID:kIjG+1N10
与えらた一室。
寝台がある居間など、一般的には狭いイメージがあるが、この部屋はその例から漏れる。
ダンスでも踊れそうな広さを持つリビングが、窓から射し込む朝日に照らされる。
寝台がある居間など、一般的には狭いイメージがあるが、この部屋はその例から漏れる。
ダンスでも踊れそうな広さを持つリビングが、窓から射し込む朝日に照らされる。
「うわぁー」
目覚めたエックスの最初の言葉は、時節の挨拶ではなく、部屋に対する驚愕だった。
気づくのが遅いが、裸になるマンドリラーや驚くべき事実などで、そこまで及ばなかったのだ。
目覚めたエックスの最初の言葉は、時節の挨拶ではなく、部屋に対する驚愕だった。
気づくのが遅いが、裸になるマンドリラーや驚くべき事実などで、そこまで及ばなかったのだ。
「おはよう……」
「うわぁー!!」
驚愕の次は悲鳴。
理由は隣のベッドから抜け出てくる。
両腕を挙げ背筋を伸ばす裸の女が起床。豊かな乳房が風船の様に揺れた。
「うわぁー!!」
驚愕の次は悲鳴。
理由は隣のベッドから抜け出てくる。
両腕を挙げ背筋を伸ばす裸の女が起床。豊かな乳房が風船の様に揺れた。
腕でシーツを煩わしそうに打ち払い、シミの無い白い肢体がエックスに挨拶する。
「お前は朝からうるさいな」
「――お姉さんが、朝からおかしいんですよ」
ぼりぼりと髪を掻きながら、不愉快げな表情をするマンドリラー。
エックスも気分を害する。
「――お姉さんが、朝からおかしいんですよ」
ぼりぼりと髪を掻きながら、不愉快げな表情をするマンドリラー。
エックスも気分を害する。
彼女は立ち上がると、その足で部屋の備え付け冷蔵庫に向かい、牛乳が入った瓶を取り出した。
536 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/11/02(佐賀県教育委員会) 03:12:22.39 ID:kIjG+1N10
「これも料金の内だよな。――飲むか?」
「いえ」
片手で誘いを断る。
マンドリラーは肩を竦め、乳白色の液体を飲みながら椅子に座った。
「これも料金の内だよな。――飲むか?」
「いえ」
片手で誘いを断る。
マンドリラーは肩を竦め、乳白色の液体を飲みながら椅子に座った。
「服着てくださいよ」
「何で?」
とても、昨夜に元気付けてくれたレプリロイドと、目の前の非常識の塊が同一人物とは思えない。
朝から痛む頭を振り、エックスはシーツを再び被ると、夢の世界へと旅立った。
「何で?」
とても、昨夜に元気付けてくれたレプリロイドと、目の前の非常識の塊が同一人物とは思えない。
朝から痛む頭を振り、エックスはシーツを再び被ると、夢の世界へと旅立った。
「歩いては帰れないものな」
二度寝の終着点は、時計が12を指す昼時。
机に地図を広げ、思案顔をしたマンドリラーが最初に視界に入った。
二度寝の終着点は、時計が12を指す昼時。
机に地図を広げ、思案顔をしたマンドリラーが最初に視界に入った。
さすがに服を着ており、黒いシャツに男物のジャケットを羽織っていた。
自分より様になる彼女の服装に、エックスの心情は軽い鬱となった。
自分より様になる彼女の服装に、エックスの心情は軽い鬱となった。
「どうにかして足を探さなければ。当てはあるか?」
横に振られる少年の首。
逃走したヘリは何処へやら、どうしたものかとエックスも倣って悩やむ。
横に振られる少年の首。
逃走したヘリは何処へやら、どうしたものかとエックスも倣って悩やむ。
顎に手を当て、考え込むマンドリラー。
力強さも、知性も感じるその姿に、エックスは尊敬の意を再認識させられる。
力強さも、知性も感じるその姿に、エックスは尊敬の意を再認識させられる。
537 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/11/02(佐賀県教育委員会) 03:16:26.11 ID:kIjG+1N10
「参ったな。あまり公共の機関を使用したくない」
断続的に地図を指で叩きながら、口を開く彼女は本当に困っているようだ。
昨日の犬型が口にした、処刑部隊というのが気になるのだろう。
「参ったな。あまり公共の機関を使用したくない」
断続的に地図を指で叩きながら、口を開く彼女は本当に困っているようだ。
昨日の犬型が口にした、処刑部隊というのが気になるのだろう。
自分の危険よりも、大量の人が居る場所で戦いたくない、そんな思いを彼女の横顔から感じ取った。
唐突の来訪者を知らせる音。
部屋の扉が、穏やかにノックされた。
部屋の扉が、穏やかにノックされた。
「はい? あ、僕が行きますね」
立ち上がろうとするマンドリラーを手で制し、エックスがベッドから降りて、玄関に向かう。
立ち上がろうとするマンドリラーを手で制し、エックスがベッドから降りて、玄関に向かう。
ニスを塗られた木で出来た、鮮やかな扉に魚眼は無い。
だが、敵が自分の存在を知らせる行動を取るだろうか。
だが、敵が自分の存在を知らせる行動を取るだろうか。
「はーい」
エックスは自分の問いを否定し、とりわけ警戒もせずドアを開けた。
エックスは自分の問いを否定し、とりわけ警戒もせずドアを開けた。
「こ、こんにちは」
入り口の向こうには、腰の低いレプリロイドが揉み手をしながら立つ。
自分の記憶に無く、エックスは訝しげな目で、前に立つ人物の身体を上から下まで眺める。
入り口の向こうには、腰の低いレプリロイドが揉み手をしながら立つ。
自分の記憶に無く、エックスは訝しげな目で、前に立つ人物の身体を上から下まで眺める。
だが、ガスマスクのようなメットで彼の存在を思い出した。
538 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/11/02(佐賀県教育委員会) 03:20:25.85 ID:kIjG+1N10
「――あ。パイロットさんか」
「そ、そうです……! パイロットさんです」
彼は、エックスが追われる身のマンドリラーと出会った際に、搭乗していたヘリの操縦士だった。
「――あ。パイロットさんか」
「そ、そうです……! パイロットさんです」
彼は、エックスが追われる身のマンドリラーと出会った際に、搭乗していたヘリの操縦士だった。
置いてきぼりにした、というのでバツが悪いのだろう。操縦士は顔を床に、チラチラとこちらを見てきた。
「どうかしたんですか?」
あの状況では仕方ない――エックスは特に怒りをぶつける積もりも無く、操縦士に疑問を投げた。
怒っていないと気づいたパイロットは、少年に聞こえるぐらい安堵の息をつく。
あの状況では仕方ない――エックスは特に怒りをぶつける積もりも無く、操縦士に疑問を投げた。
怒っていないと気づいたパイロットは、少年に聞こえるぐらい安堵の息をつく。
「いえ、その、エックス様はどうしてるのかなぁ、と逃げ出した手前……気になりまして」
その態度に微笑する少年に、操縦士はここを訪ねた理由を話し出す。
その態度に微笑する少年に、操縦士はここを訪ねた理由を話し出す。
「そしたら、近くのホテルでエックス様のカードが使われてるって、本部から連絡が来たものですから……」
「なるほど。――どうぞ」
自分の居場所が知れた理由に合点がいったエックスは、扉を全開にし、他の話を聞くため部屋に入るよう招く。
操縦士は頭を下げて礼をし、居間へ進む。
「なるほど。――どうぞ」
自分の居場所が知れた理由に合点がいったエックスは、扉を全開にし、他の話を聞くため部屋に入るよう招く。
操縦士は頭を下げて礼をし、居間へ進む。
「誰だそいつは」
彼を出迎えるもう一人のレプリロイド。
リンゴを齧るマンドリラーが、エックスに尋ねる。
彼を出迎えるもう一人のレプリロイド。
リンゴを齧るマンドリラーが、エックスに尋ねる。
「イ、イレギュラー!?」
彼女の姿を目にしたパイロットの悲鳴は、少年の説明よりも速い。
驚きに飛び上がりながら、腰から無骨な自動拳銃を引き抜いた。
隙無く銃口をマンドリラーの頭部に向ける流れは、腐っても彼がハンターの一人であるのが解った。
彼女の姿を目にしたパイロットの悲鳴は、少年の説明よりも速い。
驚きに飛び上がりながら、腰から無骨な自動拳銃を引き抜いた。
隙無く銃口をマンドリラーの頭部に向ける流れは、腐っても彼がハンターの一人であるのが解った。
539 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/11/02(佐賀県教育委員会) 03:22:25.26 ID:kIjG+1N10
「待って下さい! お姉さんは違うんです!」
自分のボディを射線に挟み、エックスは声を張り上げて抗議する。
青の装甲越しに銃を向けらている当のマンドリラーは、緊張感に欠けた欠伸をした。
自分のボディを射線に挟み、エックスは声を張り上げて抗議する。
青の装甲越しに銃を向けらている当のマンドリラーは、緊張感に欠けた欠伸をした。
「ち、違う? スパーク・マンドリラーは、イレギュラーに認定されて……」
エックスの言葉に、操縦士はあたふたと面白いように慌てる。
それに合わせて拳銃の銃口が、海を漂うクラゲのように揺れた。
エックスの言葉に、操縦士はあたふたと面白いように慌てる。
それに合わせて拳銃の銃口が、海を漂うクラゲのように揺れた。
「違うんです!!」
拳銃を叩き落し、エックスは必死の形相で彼の行動を阻害する。
拳銃を叩き落し、エックスは必死の形相で彼の行動を阻害する。
結局二人のもみ合いは、説明せんと、マンドリラーが口を開くまで続けられた。
「そう、だったのですか……」
穏便に収まる場。
イレギュラーの説明を真に受けるのは、ハンターとしての力量を問われるが、この状況では歓迎すべき事だ。
古書からエックスの名が出たという所だけ省き、マンドリラーは操縦士に全てを打ち明けた。
穏便に収まる場。
イレギュラーの説明を真に受けるのは、ハンターとしての力量を問われるが、この状況では歓迎すべき事だ。
古書からエックスの名が出たという所だけ省き、マンドリラーは操縦士に全てを打ち明けた。
「混乱させて、すまなかったな」
「いえ、こちらこそ銃なんか向けまして……」
お互いの非を詫びあう二人。それを胸を撫で下ろし、見つめるエックス。
「いえ、こちらこそ銃なんか向けまして……」
お互いの非を詫びあう二人。それを胸を撫で下ろし、見つめるエックス。
541 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/11/02(佐賀県教育委員会) 03:24:58.47 ID:kIjG+1N10
「君はヘリのパイロットらしいな。ここにはヘリで来たか?」
「勿論ですよ。一度他のところで給油してから来ました」
マンドリラーがリンゴを再び齧り、和解したパイロットに尋ねる。
彼は頷き、窓に向け指をさす。
「勿論ですよ。一度他のところで給油してから来ました」
マンドリラーがリンゴを再び齧り、和解したパイロットに尋ねる。
彼は頷き、窓に向け指をさす。
黒い手袋に覆われた人差し指の先に、彼の回転翼機が見える訳ではないが、とりあえず二人は納得する。
「そりゃ良かった。生憎と、本部までの交通機関で悩んでいたんだ」
得心顔のマンドリラー。
用が無くなった地図をたたんで、ジャケットの内ポケットに入れる。
得心顔のマンドリラー。
用が無くなった地図をたたんで、ジャケットの内ポケットに入れる。
「あぁ、なるほど。お安い御用です。直ぐに、本部へお送りいたしますよ」
彼女の説明を受けたパイロットが、処刑部隊の事を加味し、本部への送迎を快く引き受けた。
彼女の説明を受けたパイロットが、処刑部隊の事を加味し、本部への送迎を快く引き受けた。
お任せくださいと力強く頷くパイロットに、エックスとマンドリラーは顔を見合わせ笑う。
「なら、急ぎましょうか」
パン、と手を打ち合わせ、ヘリの操縦士はいそいそと部屋を後にしようとする。
パン、と手を打ち合わせ、ヘリの操縦士はいそいそと部屋を後にしようとする。
「昼飯……どうするかな」
その背中で、マンドリラーは己の満たされない腹をさすりながら、ぼそっと呟いた。
それを聞きとがめたエックスが微笑し、彼女の肩を叩く。
その背中で、マンドリラーは己の満たされない腹をさすりながら、ぼそっと呟いた。
それを聞きとがめたエックスが微笑し、彼女の肩を叩く。
544 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/11/02(佐賀県教育委員会) 03:30:18.32 ID:kIjG+1N10
「何処かで買って、機内で食べましょうよ」
「ジャンクフードは嫌だからな」
エックスはますます笑みを広げた。
「ジャンクフードは嫌だからな」
エックスはますます笑みを広げた。
操縦士の腕が扉のノブにかかる。
廊下へと出るドアは押し開かれる前に――部屋へと吹き飛んだ。
廊下へと出るドアは押し開かれる前に――部屋へと吹き飛んだ。
蝶番がもぎ取られ、茶色の扉と一緒に宙へ投げ出されるパイロット。
マンドリラーが舌打ちし、エックスが姿勢を低くしながら右腕をバスターに変える。
マンドリラーが舌打ちし、エックスが姿勢を低くしながら右腕をバスターに変える。
「な、何だ……お前等……」
圧し掛かる扉をどけながら、ガスマスクのレプリロイドが呻く。
マスクの楕円形の視界に、蹴りを放った体勢の人影が入る。
圧し掛かる扉をどけながら、ガスマスクのレプリロイドが呻く。
マスクの楕円形の視界に、蹴りを放った体勢の人影が入る。
人影は紫色をしていた。
その後ろに、対極な背丈を持つ二人。
その後ろに、対極な背丈を持つ二人。
「よぉ、こんな所に隠れてたのかぁ……。えぇ!? ――エックス!!」
「ヴァヴァ……!」
パープルカラーのレプリロイド――VAVAが残忍な笑みを浮かべて、部屋へと踏み出した。
「ヴァヴァ……!」
パープルカラーのレプリロイド――VAVAが残忍な笑みを浮かべて、部屋へと踏み出した。