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FFとBBのドップラーなナイトメアポリス

最終更新:

匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
944 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2006/10/14(土) 21:48:48.87 ID:dsda8RI30
FFとBBのドップラーなナイトメアポリス」




昼間のハイウェイを一台の乗用車が規則を遥かに超えたスピードで駆け抜けていく。
その乗用車をポインターのように執拗に追跡する青い長髪の少女―ヴァジュリーラFFの姿があった。
ヴァジュリーラは凄まじい速度で逃走する違反車両を自前の俊足で追い立てる。
「おとなしく停車しろ! 逃げられると思っているのか」
一気に近づき、運転を預かる男性型のレプリロイドに問い詰めると、返答の代わりに銃口が差し出された。
ヴァジュリーラは無警告で乱射される弾丸をガードレールまで飛びのいて回避する。続けて助手席から大きく身を乗り出した同乗者が、大型の機関銃を後方に佇む少女に向けて立て続けに撃ちまくった。
ヴァジュリーラはそんな男の行動にため息を吐きつつレールを蹴って跳躍する。発射される機関銃の弾はその姿を追って空中に向けられるが、突如その目標を失い火線が止む。
追撃をあきらめたのか。それともうまく撒けたのか。逃走犯はしばらく背後に注意を向けた後、目一杯アクセルを踏み込んで加速した。
「・・・マンダレーラ、手筈通り追い込んだ。押さえてくれ」
高層ビルの頂点から、先程追走していた違反車両が遅れてやって来るのを悠々見下ろしながら、ヴァジュリーラは通信を開いて相手に了解を取る。
『了解した』
ヴァジュリーラの応答に青年は端的に応えた。そして互いに無言のまま通信を閉じる。
通信から数拍置いて、築かれたバリケードから離れて立つマンダレーラの視界に、ヴァジュリーラの追い込んだ逃走車両の前身が映った。
徐々に迫ってくる車両はバリケードを前にしても一向に止まる気配を見せない。むしろ加速して、バリケードを突破する気でいる。



945 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2006/10/14(土) 21:50:43.45 ID:dsda8RI30
危険を察知した警官レプリロイド達は、バリケードの裏から一斉に退避を始める。しかし、マンダレーラだけは迫りくる車両に向かって歩き出した。
その行動に退避する警官たちから一斉に静止の言葉が投げかけられるが、車両と向かい合う青年はそれらを一瞥しただけで構わず前進を続ける。
白煙の尾を引き連れて接近する車両は、やはり止まる気が無いらしく、進路上で立ち尽くすマンダレーラに向かって一直線に突っ込んでくる。
誰もが最悪の光景を予想する最中、渦中の青年はその場で拳を握り大きく身を捻った。トレードマークの赤と黒に彩られたトレンチコートが翻り、背にあしらわれた『曼荼羅』の刺繍が覗く。
目前に迫る暴走車両に向けてマンダレーラの一撃がぶつけられた。




947 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2006/10/14(土) 21:52:42.34 ID:dsda8RI30
――夕闇のかかるハイウェイに二人の男女が佇む。
大柄な体躯に丈の長いトレンチコートを着流した色黒の青年と、対照的に明るい彩のパーカーを羽織った色白な少女が互いに横に立ち、今も事後処理に追われる警官達の作業を傍観する。
本来なら手伝うべきなのだが、約一時間前、イレギュラーの運転する暴走車両を正面から殴って停止させたマンダレーラは後の処理を全て退避していた警官達に任せた。
『突っ込んでくる車両が怖くて退避していました』と、同僚たちに報告させるのも酷だと考えた彼なりの気遣いである。
車両を追い込んだのはヴァジュリーラ。それを停車させたのがマンダレーラ。その後の車両撤去や諸々の作業は彼らの仕事。
「流石は我が友。咄嗟に彼らを気遣う深謀遠慮を発揮するとは感心したよ」
腕を組み、ヴァジュリーラは隣に立つマンダレーラを見上げながら感慨深げに頷いた。
「しかし、今回の事件は今までにしては少々派手なものだったな」
事件を振り返る少女に「うむ」と、マンダレーラが返す。
確かに派手な事件だった。平和なドッペルタウンに銃声が轟いたのは今回が初めてであろう。自分たちが緊急招集された理由も頷ける。
そして運転席にいたレプリロイド。あれだけの衝撃を受けても意識を失わなかった。
とは言え立てる状況ではなかったが、連行される直前に見せた目は明らかに正気を失っていた。
「イレギュラー・・・」
いつか自分も、ああなるのだろうか・・・。取るに足らない疑問だが、事実イレギュラーになった者は人間だけでなく同属であるレプリロイドまで無差別に攻撃するようになるという。
ふとマンダレーラは視線を傾けて横に立つ少女を見る。唯一無二の親友である少女は長時間の追跡に疲労困憊して、いつも吊り上がっている眉や目元が大分沈んでいた。
――もし自分が彼らと同じ存在になったら、自分は彼女を「破壊」するのか?
「――どうした?」
不意に声をかけられ、マンダレーラの意識が返る。そこで初めて黒縁の瞳が怪訝そうに自分を見上げているのに気づいた。




950 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2006/10/14(土) 21:54:12.84 ID:dsda8RI30
「いや・・・あんなところまで破片が飛んでいるのだなと思って、な」
視線をずらし、暗がりの一角を指して誤魔化す。
「そう」
それだけ言って、彼女もそれ以上、追及しなかった。
その後、しばらく会話が途切れたが、ドップラー博士からの通信により、二人は一度帰路に着くことになった。作業している一人に断りを告げ、二人は転送先を指定して研究所に戻る。
研究所に転送されると、足早に通路を抜けてドップラー博士の待つ研究室に向かう。
五分ほど通路を行ったところで見慣れたスライドドアが目に入った。
「博士、入ります」
断りを入れて二人は研究室に入った。中は所狭しと、機材が立ち並び、そのどれもが稼動している。
二人は部屋の奥に進むと、黙々と端末を操作する白衣の老人を見つけた。老人は二人の進入に気づいていないのか、振り返ることもせず作業に没頭している。
「博士、ただ今戻りました」
再度後ろから呼びかけ自分たちの存在を伝えると、今度は気づいたようで頻りに「おお、おお」と、繰り返す。そして老人らしく緩慢な動きで振り返った。
豊かな顎鬚を蓄えた表情は柔和で非常に人が良さそうだ。
「やあ しょくん。わしの なは、ドップラー。みんなには でんしこうがく の けんい として したわれおるよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
今日も平和な一日だった。



続くかも・・・



500 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/10/18(水) 20:07:13.14 ID:2aDBQY5q0
では行きます

~FFとBBのドップラーなナイトメアポリス

 ハイウェイ暴走事件から数日。
再び、ドッペルタウンを事件一つない平穏が包んでいた。
 必然的に都市の安全を警護する『ナイトメアポリス』の出動は限られ、マンダレーラとヴァジュリーラは唐突に申し渡された非番の日々に戸惑いながらも、生みの親であるDr.ドップラーの手伝いをすることで無駄なく休暇を過ごしていた。

「重たそうだな」
 資材の入った大きなボックスを両手に抱え、おぼつか無い足取りで通路を歩くヴァジュリーラの後姿に向かって、マンダレーラが声をかける。
 トレードマークのコートを脱ぎ、半袖のシャツを着た大柄な青年の容姿は人間と差異が無い。
「マンダレーラ?」

 親友の呼びかけに、同じく人間の女性を模したタンクトップ姿の少女が振り返ろうと身を捻る。
途端に足が縺れ、バランスを崩す。
「おっと」
 倒れそうになるヴァジュリーラを抱きかかえ、ついでに彼女の手からボックスを奪う。

「手を貸そうかと思ったのだが、裏目に出てしまったようだ。面目ない」
 謝罪を述べ、マンダレーラは少女から身を離す。
そして彼女が両手で抱えていたボックスを片手で持ち上げ「一つか?」と、運ぶ個数の確認を取る。
「いや・・・、三つだ」
「そうか、残りはどこにある?」


503 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/10/18(水) 20:09:35.88 ID:2aDBQY5q0
 ヴァジュリーラは口答でなく部屋の一室を指差して答えた。その表情はどこか暗い。
やはり気に障ったのだろうか。構わず青年は指差された部屋から同じ型のボックスを二つ運び出し、先物と合わせて積み上げると再び片手に持った。
 その様子を傍観していたヴァジュリーラが不意に深いため息を漏らす。
「どうした?」

 先程からの雰囲気と言い、何か不満があるようだが意図が知れないマンダレーラは困惑したように少女を見下ろす。
 その視線にヴァジュリーラは顔を逸らし、端的に「いや」と、言葉を濁した。しかし、隠し事の出来ない性分から結局、吐露してしまう。
「羨ましいと思っただけさ・・・」
 ヴァジュリーラは顔を逸らしたまま、三段重ねのボックスを悠々片手に抱える青年に言った。

「羨ましい?」
 横顔を見せて答える少女にマンダレーラが範唱する。ヴァジュリーラは頷き、やっと正面を向く。
「君は俺の三倍以上の仕事量をこなせるだろ? そこが羨ましいのだ。やはり自身の非力さだけは拭えない事実だからな・・・」

 普段とは打って変わり、覇気の無い声で言葉尻を濁すと、ヴァジュリーラは白さの際立つ自身の細腕をマンダレーラの前に突き出した。
「俺にも君のような腕力があれば、君の手を煩わせることもないのに・・・」
 嘆息を吐き、少女は枯れ木のように細い自分の腕を恨めしそうに眺める。
「惜しむべきはこの女の身体か・・・」

俯くその姿はどこか哀愁が漂い、半端な慰めでは介入の余地すらないほど暗く影を落としていた。
「そんな事を気にしていたのか」
 マンダレーラはボックスを地面に置き、少女を見据えながら事も無げに言ってのけた。
 咄嗟にヴァジュリーラが顔を上げ、マンダレーラに視線を向ける。
何か異論を口に溜め込んでいたが、それが吐き出されるよりも早くマンダレーラは言葉を繋ぐ。

504 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/10/18(水) 20:11:14.16 ID:2aDBQY5q0
「羨望なら拙者も抱いたことがある」
 マンダレーラは続ける。
「確かに拙者は君の何倍もの力を発揮できるように設計されている。しかし、引き換えに機動力は目も当てられない有様だ。だから時折、傍にいて思う―。自身の脚で天高く舞う気分とは如何様なものなのか、と」
 そこまで言って、マンダレーラは言葉を切った。見上げるヴァジュリーラの表情は意外性に染まっている。

それは互いが、互いの長所に対して羨望を抱いていたことへの素直な驚きからだろう。
「出来ぬことを悔やみ、他者に嫉妬を抱くのは誰しもあること。だが、出来ぬからといって他事を諦めることもない。互いに与えられた長所を生かした業を成せばよい。そうだろう?」
 見上げてくる視線に答え、マンダレーラは再びボックスを抱えあげる。
「だから、これは拙者の仕事だ」
 抑揚のない声を残して、マンダレーラは少女に背を向けた。

そして立ち居振る舞いと同じく静かな足取りで、研究室への通路を歩き始める。
長い歩幅で徐々に小さくなっていく青年の背中に向かって、ヴァジュリーラは大きく息を吸って静かに吐き出した。先程とは打って変わって、その表情は明るい。
僅かに笑みを浮かべると、彼女は定位置である先を歩く青年の隣に向かって駆けて行った。

505 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/10/18(水) 20:12:55.91 ID:2aDBQY5q0
 ――通路を暫く並んで歩き、一際大型化された扉の前で二人は足を止めた。
「博士、資材をお持ちしました」
 ボックスを抱えて研究室に入場すると、湯気の立つマグカップを片手に白衣の老人が奥から姿を覗かせた。
 空いた手で豊かな顎鬚を撫で、二人に視線を走らせる。
「おや? 資材運びはヴァジュリーラに頼んだはずじゃが」

「ええ、代わりに私が引き受けました」
 間髪入れず答え、マンダレーラはボックスを置いた。
「まあ、『女の子』に力仕事をさせるわけにもいかんしな?」
 置かれたボックスの数を確認して、ドップラーはコーヒーを啜る。
「博士!」

 突如、研究室内に響き渡る大声にドップラーは盛大にコーヒーを吹く。
 一頻りむせた後、発信源である入り口に立つヴァジュリーラに目を向ける。
 見れば青い長髪の少女が眉を吊り上げて凄まじい形相で、こちらを睨みつけていた。
「な、なにかな・・・? なにか気に障ったかの・・・?」
 身の危険を感じたドップラーは顔を引きつらせ、後ずさりながらマンダレーラに目を向けて助けを乞う。

しかし真横から直撃を受けたマンダレーラは苦悶の表情を浮かべて、あろうことか両の目を閉じて横を向いていた。
当然、視線に気づいていない。
「落ち着いて・・・、落ち着こうヴァジュリーラや?」
 少女が一歩近づいてくるに従い、一歩下がる。
互いに前進と後退を続け、着かず離れず繰り返していると、唐突に鬼ごっこは終わりを告げた。

506 :相変わらず読みづらい・・:2006/10/18(水) 20:15:42.36 ID:2aDBQY5q0
後退を続けるドップラーの背に壁が当たり、もう後がないことを如実に語る。
 慌てふためく間に、ヴァジュリーラは一瞬で距離を詰めた。
 突然、目の前まで詰め寄られたドップラーは驚愕のあまり、その場に座り込む。
「博士・・・」
 驚愕の表情を浮かべる老人に、少女は自身の顔を近づける。

形のよい眉の上に隈取りの浮かぶ美しい様相は、今や狂気に取って代わり。
目つきに至っては物理的に物を切断できてしまうのではなかろうかと思えるほど鋭利な物になっている。
もはや走馬灯が駆け抜けていきそうな切迫した雰囲気の中、ヴァジュリーラは目の前で身を強張らせる老人の目を見据え、大きく息を吸い込む。

 そして、――三つ指突いた。
「ヴァジュリーラFF一生のお願いです! 博士、私の身体を『男』と交換してください!」
 少女の突然の変わり身に、ドップラーは意図を測りかねているようで、頻りに目を瞬かせる。
「おとこの・・・ボディ?」
「もしくはパワーを上げてください!」

 呆ける老人に今一度頭を下げ、ヴァジュリーラが懇願する。
 未だ状況を把握し切れていないドップラーは、再びマンダレーラに視線を向けた。
 ようやく復帰できた青年は説明を求める老人と視線を交わらせ、次に土下座する少女に目を向ける。
 そして深い溜息を吐いた。

507 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/10/18(水) 20:18:39.77 ID:2aDBQY5q0
「――つまり、マドモアゼル。君はこう言っている訳だね? 『非力なボディを強力なものにしてほしい』と」
 マンダレーラから事情を説明されたドップラーは際どい姿勢で椅子に腰掛け、新たに注がれたコーヒーを飲みながら、ヴァジュリーラに向かって要求を確認する。
 少女が頷くのを確認して「なるほど」と、呟く。
 カップに口を近づけ、デスクの足を蹴って椅子を回転させる。ちょうど半周で回転を止めて背中を向けて立つ。

「だめだ」
 端的に結論を述べ、再び二人と向き合う。
「何故ですか?」
 自身の要求を否定され、納得できない少女が不満を漏らす。
「何故って、理由を聞きたいのかね?」
 カップを置き、軽く頭を撫でると、ドップラーは説明しづらそうに三本の指を立てる。

「まず、君は腕力を底上げしてほしいから『男』のボディに交換してくれと言ったね? それは無意味じゃ。外見は男女で異なるが所詮、中身は機械。男性型でも力の弱い種類はあるし、逆に女性型で力に秀でたタイプもある」
 指を一つ折って続ける。
「次にコンセプトの問題じゃ。元々、高機動を前提にされた君の身体は極端な軽量化のため、耐久性に不安を抱えている。そんな身体に無理な力をかけたらどうなると思う? 矛盾は曲げられんよ」

 続けて指が畳まれる。
「最後に一つ、これが一番の理由だ。既に、この世で最高の機動力を持つ君を、これ以上強化すれば、君は無条件で政府から『イレギュラー』に認定されて破壊されてしまう」
 最後の指を畳み、手を下ろす。
「解ってくれるな?」
 念を押すように言葉を締めくくると、老人は椅子に腰掛け、少女を見る。

508 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/10/18(水) 20:21:34.26 ID:2aDBQY5q0
表情からは、まだ不満が窺えるが、何も追求してこないところを見るとそれなりに納得はしたらしい。
「はい・・・」
 短く答え、ヴァジュリーラは深い溜息を吐いた。
全身から力が抜け切ったように肩を落とし、先程の喧騒からは想像できないほど暗い影を落とし項垂れる。

隣に立つマンダレーラはその肩に手を置いて、頻りに慰めの言葉をかける。
その様子を傍から眺めていると、何故だか罪悪感が沸々と胸に湧き上がってくる。
「ああ、そうじゃ!?」
 堪えきれず、暗い雰囲気を払拭するように、突然ドップラーが叫ぶ。
「強化は出来んが装備の所持なら問題ない。少し待っとれ!」
 言い終えるより早く、ドップラーは室内の隅に飛び込んだ。
 そして何かを探して手当たり次第に物を投げ散らかす。

端末の断片、レンチ、熊のぬいぐるみ、ゴーグルの形をしたゲーム機。様々なガラクタが宙を舞う。
「む?」
 飛び交う物品の一つが足元に落下し、マンダレーラの意識が集中する。
 今時珍しく紙で構成されたノートを拾い上げて表紙を覗くと『博士のネタ帳』とあった。興味からそれを開き、適当に流し読みする。

「・・・」
 静かに閉じ、マンダレーラはノートをボックスの上に安置する。
 そして、静かにその内容を記憶から消去した。
「これじゃ、これじゃ!」
 ようやく目当ての物を探し当てたドップラーは嬉々として戻ってくる。
 その手には銅鐸を縦に割ったような、横幅な鉄板が握られていた。厚みのあるそれを項垂れるヴァジュリーラの前に示す。


519 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/10/18(水) 20:35:10.70 ID:2aDBQY5q0
「何です、それ?」
 老人の手に収まる鉄板を一瞥して首を傾げる。
「何って、盾じゃよ?」
 怪訝な顔をする少女の前で内側のレバーを引く。
すると一斉に鉄板が縦にスライドして広がり、瞬きの間に大型の盾に変貌する。
「昔、政府の要請で作った試作品での? 軽くて丈夫で、しかも小回りの利くものという無茶な要望に全部こたえた自慢の一品じゃ」

 得意げに鼻を鳴らす。
「通常は一つに纏っておるが、必要に応じて展開が可能で収納にも便利。微妙に丸みを帯びた表面は小銃程度の弾丸なら簡単に逸らすことができるし、盾自体の強度も折り紙つきで、スクリーンを張ることで更に補強してある」
 再び折りたたみ、それをヴァジュリーラに手渡す。
「直接の解決にはならんが、当面はこれで勘弁してくれ」
「博士・・・」

 申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる老人と、銅鐸を見比べて少女は感嘆の呟きを漏らす。そして深々と頭を垂れる。
「お心遣い傷み入ります。単なる欲から出た言葉に憤慨されるどころか、このような形で欲求を実現していただけるとは感激であります!」
 歓喜に身を震わせ、少々誇張気味に感謝の言葉を述べると、先程までの暗い雰囲気を完全に払拭して普段通りの強気な表情を見せる。

 そこへ狙い澄ましたように、久方ぶりのエマージェンシーコールが鳴り響く。
 マンダレーラとヴァジュリーラは同時に懐から端末を抜き出し、送られてきた事件の詳細を読み込んだ。
「また暴走車かね?」
 ドップラーの危惧に「いいえ」と、マンダレーラの否定が入る。
「今度はなんだね?」


522 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/10/18(水) 20:38:27.05 ID:2aDBQY5q0
「酔っ払いの喧嘩を止めてほしいそうです」
 大真面目に答える少女に、堪らずドップラーはその場に仰向けで倒れこんだ。
「由々しき事態です。それでは博士、行ってまいります」
「き、気をつけてな・・・」
 仰向けの状態で手を振る老人に一礼し、二人は出口に向かう。
「あ、マンダレーラ。少しいいかのう?」

 出て行こうとする直前の呼び止めに青年が足を止めて振り返る。
「何でしょうか?」
 一緒に足を止める少女に先に行くよう促し、倒れこむ老人の傍による。
 老人は青年の手を借りて起き上がり、何かを探すように首を振った。
「いやな、無意識に物を投げ散らかした折、大事なものをどこかにやってしまったようでな?」

「どのような物でしょう?」
 困ったように頭を掻く老人に具体的な形状を尋ねる。
「ノートじ――」
「記憶にございません」
 有無を挟ませない勢いで答え、青年はそのまま足早に老人の前から立ち去る。
今日も平和な一日だった。

続くかも・・・

348 :以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします:佐賀暦2006年,2006/10/23(佐賀県民) 17:21:41.57 ID:PS/x127d0
それでは投下します。
~ヴァジュリーラの一日。


都市の安全を警護する『ナイトメアポリス』の朝は早い。
ようやく日照が都市に降り注ぐ、半ば夜中のような早朝に俺は身を起こした。
「おはよう」
 私室の窓に映るドッペルタウンの全様に向かい、日課の挨拶を行う。

――『私室』だが、これは博士の意向で、俺と親友のマンダレーラ各々に部屋が一室、宛がわれている。
 どうせ寝起きするだけならカプセルでもいいのだが、何時の日か争いの起こらない世界が訪れた時、普通の生活に困らないようにと。
俺たちの「その後」を考えて以前から用意していたものらしい。
実際、住んでみると住み心地もよく、日の当たりも良いので気に入っている。
博士には何から何まで世話を焼いて頂いて、本当に頭が上がらない。

布団を跳ね除け、ベッドから床に降り立つ。
そのままパジャマを乱雑に脱ぎ捨てて、昨晩用意しておいた衣服に身を包む。
黄色のパーカーを羽織って洗面台に向かい、洗顔を済ませて歯磨きを始める。
「ん?」
 不意に鏡に映る頭頂部から寝癖が立っているのが目に入った。
 毎度のことだが溜息混じりに手すりに掛けてあるタオルを取り、水に濡らして頭に載せる。

どういうわけか俺の頭髪は寝癖が立ちやすいようだ。
以前、この状態をマンダレーラに見られ「身嗜みは整えるべきだ」と、懇々と諭された頃の記憶がフラッシュバックする。 
      • 揶揄する気などないが、彼も相当な説教好きだと思う。

349 :以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします:佐賀暦2006年,2006/10/23(佐賀県民) 17:24:24.09 ID:PS/x127d0

口を漱ぎ、頭に載せたタオルで拭う。
『行儀が悪いぞ』
 どこからともなく、マンダレーラの言葉が聞こえてくるような気がした。

部屋を出ると、同じタイミングで向かいの部屋からマンダレーラが出てきた。
 これも博士の意向なのか、俺と彼の部屋は正面に位置している。
「おはよう、ヴァジュリーラ」
「おはよう友よ」
 マンダレーラが俺の名前を呼んで挨拶し、俺も普段通りに返す。
 そして普段と変わりなく互いの定位置である隣同士を歩く。

「ところで、ヴァジュリーラ」
「なんだ?」
 暫く歩いた頃、唐突に呼ぶ声に反応して首を右に傾ける。
「洗顔等は服を着替える前に行うべきだ」
「見てたのか?」
「服に水滴が浸みこんでいる」
 指摘されて首周りに触れてみると、なるほど確かに湿った感触が伝わってくる。
「解った。今後、気をつける」
 余計な弁解をせず、素直に非を認めて頷く。
そのやり取りを経て、俺たちは早朝のドッペルタウンへ繰り出して行く。

350 :以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします:佐賀暦2006年,2006/10/23(佐賀県民) 17:27:14.40 ID:PS/x127d0
 ――異常なし・・・。
 巡回を始めてからというもの、事件らしい事件は一つも起きてない。
 既に日は正午を回り最高点に達している。
「これでは散歩だ・・・」
「それも悪くあるまい?」
 愚痴る俺に随伴するマンダレーラが事も無げに呟く。
 達観するのもいいが、それでは我々の存在意義が希薄になる。
 とは言え、犯罪など起きない方が良いのも事実だ・・・。

「矛盾と葛藤しているようだな?」
 足を止めて俯く俺より数歩前の位置で、マンダレーラが空き缶片手に心境を言い当てる。
「まあな・・・。その手に持ってるのは?」
 さっきから気になっていたがマンダレーラは頻りに身を屈め、道端に転がる空き缶を拾い集めていた。
「ああ、先程から目に付くのでな。拾っている」
 几帳面な性格である。

 だが、確かに周囲を見回してみると、彼の言う通りやたら空き缶の類が目に付く。
 最近は入居者が増えてきた理由もあって、ゴミも増える傾向にある。
「手伝おう」
 本来、これはメカニロイドや清掃業者の仕事だが都市の清掃も立派な公務の一環だ。

「いや感心、感心」
 身を屈めて、いざゴミ拾いを始めようとした時、背後から初老の男子が嬉しそうに手を叩いた。
「最近の若者にしては善い心がけだ。ほれ、直に手で触ると危ないから軍手を上げよう。あとゴミ袋も」
 どうやらボランティア旺盛な若者と勘違いされてしまったようだ。
 まあ、やっている事は一緒なので有り難く使わせて頂こう。


382 :本当に申し訳ない・・・:佐賀暦2006年,2006/10/23(佐賀県民) 19:44:23.20 ID:PS/x127d0
「いやぁ~、ご苦労さん」
 日が陰り、夕暮れ間近の時刻にようやく周辺の空き缶を拾い終え、トラックに積み込む。
「諸兄も御歳なのに、よくも清掃活動を続けておられるな。感服した」
 何やら清掃活動を通じて意気投合したらしい。寡黙なマンダレーラが今日はよく喋る。
 うんうん、と清掃業の男子も頻りに頷く。
「そうそう、手伝ってくれた御礼をせんとな? ほらジュース。空き缶はちゃんと分別して捨てるんだぞ」

 清涼飲料水の缶を二つマンダレーラに預けると、彼は素早くトラックに乗り込んで走り去った。
 最後までボランティアと勘違いされたらしい。
「別に対価は必要なかったのだがな」
「まあ、頂戴しても問題はなかろう」
マンダレーラから缶を一つ受け取り、始めて見る飲料のラベルに目をやる。

『産地直送! アシッド・シークワーサー味。あごも溶解する美味しさ!』

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・博士に・・・あげようか?」
 今日も平和な一日だった。


378 :長いけど投下 :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 18:14:30.88 ID:9wo2bQWH0
FFとBBのドップラーなナイトメアポリス

 大勢の人波が行き交う昼間の遊楽地。
 その中心に設けられた噴水の段差に腰掛ける、物憂げな表情の少女がいた。
 膝の上に両肘を付き、手の平に顎を乗せて何を見るでもなくそうやっている。

ミニスカートに肩までのニット。
青い長髪を後ろに結い、前髪には勾玉の形をした髪留めをしている。
それに今でこそ無気力な表情をしているが、端正な顔立ちははっきりと確認できる。
目を引く様相だが、敢えてマイナス点を上げるなら「眼つき」が鋭すぎることだろうか。
彼女の視線の先だけ徐々に人影が薄れていく。

物憂げから無気力、そして不機嫌一色。
慣れない格好に待ちぼうけと、彼女の気性を考慮すれば内心、穏やかではないだろう。
周りからは楽しそうに時間を謳歌する老若男女の声が引っ切り無し耳に届く。
その度に深い溜息を吐き、現状を嘆いた。

 そんな頃。人通りを潜り抜けて、少女の前に大柄な青年が小走りに寄ってきた。
 シャツの上に赤いジャンパーを羽織っただけのフランクな装いの青年は、両手に有り体なソフトクリームを抱え。
一つを差し出す。
「待たせたな。ヴァジュリーラ」
「遅いぞ、マンダレーラ・・・」
 ソフトクリームを受け取り、抗議の目を向けるが先程よりその表情は穏やかだ。
 段差から立ち上がり、すぐに定位置である青年の隣に立つ。


379 :以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 18:18:32.15 ID:9wo2bQWH0
「行こうか」
「ああ、『指令』を達成しないとな?」
ソフトクリームを舐め、二人は噴水を背に歩き始めた。


「―暇だ」
研究所に設けられた屋内テラスのソファに膝を抱いた姿勢で座るヴァジュリーラが退屈そうに呟いた。
「いきなりだな」
マンダレーラはファイルから目を上げ、正面で体育座りする少女を見る。
「将棋かチェスなら相手になるぞ」
「やだ」
「そうか」

端的に返ってきた返答に頷き、再びファイルに視線を落とす。
しかし、数回ページを捲ると短く嘆息を吐き、すぐにテーブルに投げ出してしまう。
「確かに、暇ではある」

平和なドッペルタウンの日常。
凶悪犯罪とは無縁に等しい彼の地において、『ナイトメアポリス』の出番は殆どない。
あるとすれば交通整備や駐車違反の摘発などで、それは一般の警官で賄えるものだし。
一々、彼等が出動するほどのものではない。
よって自ずと待機せざるを得ない状況が作られ、再び永い非番の日々を過ごしている。

始めは博士の手伝いに着手していたが、元々いる助手やメカニロイドほど役に立たないので辞退したし。
トレーニングは過度の運動が止められているので暇潰しに使えない。
パトロールも「またゴミ拾いに行くのか?」という諦観した意見が得られたので止めた。



381 :以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 18:22:23.88 ID:9wo2bQWH0
ふと顔を背けると、通路の先から小型のメカニロイドが数機。
木材を持ってやって来るのが目に入った。
 小人型の彼等はソファに腰掛ける二人の前で停止すると、すぐに木材を組み立て始める。
 持ち前の手際で小人達はあっという間に、テラスに即席の襖を作り上げた。
 出来立ての襖の後ろから、聞き慣れた老人の咳払いが漏れる。

「話は全て聞かせてもらったぞ!」
 一気に引き戸を開け放ち、必要以上の大音声でドップラーが吼えた。
「博士?」
呆気に取られるヴァジュリーラと、何か達観した表情のマンダレーラは同時に視線を白衣の老人に向ける。
 二人の視線を一身に集め。老人は満足そうな笑みを浮かべる。
「『暇』・・・。確かにそう言ったな?」
 確認するように老人は顎鬚を撫でながら、ヴァジュリーラに返答を求める。
「はい」
「よろしい。マンダレーラも言ったな?」

「ええ。ですが正しくは、暇――」
「そうか、そうか! では暇を持て余している二人に指令を上げよう!」
 返答を待たず、ドップラーは懐に手を忍ばせて一枚の紙片を取り出した。
 それを近くのマンダレーラに突き出す。
「指令ですか?」
 紙片を受け取り、突然の発言に怪訝な表情を向けつつ白衣の老人を見やる。
「そう内容は単純。今から遊んできなさいってこった」
 どうせ暇なんだから、と事も無げに言い放ちドップラーは肩を竦めて見せる。


382 :熱斗くん重すぎ・・・ :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 18:28:12.55 ID:9wo2bQWH0
確かに暇だが・・・。
根が生真面目なマンダレーラは、ドップラーの提案に渋るように唸った。
休日なのだから好きなように過ごしていいのは正論だが、仮にも刑事であるわけだし。
いつ何時、出動が下るかもしれないのだ。
「私は構いませんよ」

 思い止まるマンダレーラの後ろで、ヴァジュリーラが後押しするように声を上げる。
 端的に言って、「この倦怠的なムードから脱せるならなんでもいい」という意味だろう。
 マンダレーラにしても根本は同じであるから、相棒の後押しがあれば断る理由もない。
「解りました。出かけてきますが、先程おっしゃった「指令」とは?」

「なに。目的もないまま外に出しても散歩と変わらんからな。買い食いしろ、などと書いてあるだけじゃ」
「そうですか」
「それより早く着替えなさい。一日はあっという間に過ぎてしまうからな?」
 二人を促すと、ドップラーは腰に手を当て足早にテラスから退散する。その表情はどこか楽しそうだ。
「襖はどうするんだろう?」
「捨て置こう・・・」
 即興で設けられた襖の行く末を案じながら、二人は街に出るべく自室に戻った。


 それから暫くして、私服に着替えた二人は指令書を頼りに街に繰り出していた。
 仕事抜きで来る街の様子は多彩で、至る所にブティックや料理店が立ち並ぶ。
 加えて人通りも多く、どの店も繁盛しているようだ。


384 :以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 18:32:47.49 ID:9wo2bQWH0
「これだけあると目移りしてしまうな」
 ヴァジュリーラは周囲の店の看板を見回し感嘆の声を漏らす。
「さて、どうしたものか」
 買い食いも済ませ、次は店舗に入ろうと計画しているのだが、公務以外で来たのは初めてであり、どうしても迷ってしまう。
 しかし悩んでいても、結局どれかを選ばないことには先に進まない。
「とりあえず、あの店にするか?」
 決めかねている横で、マンダレーラは目に入った一店を指差す。

『石焼き “漢”のバーバリアン』

「・・・・・・」
 無作為に選んだ店舗は料理店らしく、なかなか豪儀な名であった。
 一瞬、判断に躊躇するが、選んでしまったものはしょうがない。
「入ろう・・・か?」
「ああ・・・」
 頷き合い、二人は覚悟を決めて店に向かって歩き出す。

「きゃっ!」
「ぐあっ!?」
 今時、珍しい手動の引き戸を開いた途端。
 突然、女の悲鳴と共に加速の掛かった質量が、強烈にマンダレーラの腹部を貫いた。
 堪らず仰向けに倒れるその上に、追い討ちをかけるように人の体重が圧し掛かる。
「だ、大丈夫か!?」
「すみません! 急いでたものですから、お怪我はありませんか!?」
 咄嗟に駆け寄るヴァジュリーラに遅れて、ぶつかってきた女が大慌てで謝罪を口にする


385 :以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 18:39:03.28 ID:9wo2bQWH0
「あ、ああ・・・。大事無い。取り合えず退いてもらえるか・・・」
 捻れるような鈍痛を感じながらも何とか平静を装い、上に乗る女性に退くよう促す。
 すると女性は再び悲鳴を上げて、腹から勢いよく飛び退いた。
 お陰で、あやうく意識が飛びかける。
「すみません! すみません!」
「いや・・・、こちらも不注意だった。それより急いでいるんだろう?」
 頻りに頭を下げる女性に促すと、咄嗟に腕時計を確認して更に悲鳴を上げる。
「もうこんな時間!? 本当に済みませんでした! お詫びは後日、かならず!」
 もう一度、頭を下げると、女性は初速から全力疾走で大通りを突き抜けて行った。
 余程、急ぎの用事があるのだろう。

「盛大な転がりっぷりだったな、兄さん?」
 一部始終を特等席から傍観していた店の主人が意地の悪い笑みを向ける。
「からかわないでくれ・・・」
 未だ痛む腹部を押さえ、カウンター席に着くと店内を見回してメニューを見つける。
 石焼ビビンバ、石焼ステーキ、石焼どんぶりなど。
 料理には必ず店名にちなんだ「石焼」の文字が添えられていた。

 店主は含み笑いを浮かべたまま、二人の前に水を並べる。
「まあ、あの子の突撃で意識を失わなかったのは流石だ。兄さんなら、きっとこの店を気に入ると思うぜ」
「そうか」
 置かれた水を啜り、更にメニューを読み進めていく。
 先程の話しぶりからすると、入り口でぶつかった女性は常連らしい。
 機会があれば自分の方からも詫びを入れよう。ふと、そんな事を考えていた時――。
 不意に走り読みするメニューから違和感を感じ取った。
 それは隣で同様にメニューを読む、ヴァジュリーラも感じたらしく、同時に顔を見合わせる。


386 :以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 18:43:57.84 ID:9wo2bQWH0
「店主。一つ聞きたいのだが」
「なんかね?」
 呼ばれて店主が奥から顔を覗かせる。
 仕込みでもしていたのか、暖簾の奥からは何かを焼く音が聞こえた。
「仕込みの最中、申し訳ない。手短に済ます。――『アレ』はどういう意味だ?」
 素早く詫びを入れると、マンダレーラは違和感の元凶であるメニューの一つを指差す。
 そこには、どう考えても言葉としておかしい物の名が垂れ下がっていた。

 『石焼の活け作り』

「ああ、あれかい? 読んで字の如くだよ」
 事も無げに言い放つと、再び店主は暖簾を潜って奥に消えようとする。
「待ってくれ。それでは要領を得ない。具体的に説明してくれ」
「具体的ってもなあ・・・?」
 引き止められた店主は困惑したように頭を掻いた。次に腕を組み、天を仰いで唸る。
「誰か、常連が来てくれたら説明しやすいんだが――。らっしゃい!」
 どう説明したものか答えに窮していると、まさに助けに船。
 ちょうど入り口を開けて店主の見知った客が店内に入ってくるところだった。
 しかし、その客の風体に、さしもの二人も思わず言葉を失う。

 引き戸を開け、入り口を窮屈そうに潜る姿は「巨漢」の一語に尽きる。
 加えて着衣の上からでもはっきりと確認できる隆起した筋肉の数々は、同じ大柄な部類に分けられるマンダレーラでさえ、横に並べば小人同然だ。
 明らかに規格外の巨体を誇る常連客は、二人と同じカウンター席に着くと、突き出た顎を揺らしながら愉快そうに笑い出す。


387 :以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 18:48:15.81 ID:9wo2bQWH0
「どうしても、ここの味が忘れられなくてねえ? 何かお勧めはあるかい?」
 それきた、と店主は手を叩いてみせる。
「今日は特別活きの良いのがあるよ。活造りに最適な、とびきり上等なやつが」
「いいねえ、そいつを貰おうか!」

 注文を受けると、店主は満面の笑みを浮かべて店の奥に消える。
 数分後、暖簾を潜って店主が出てくると、その手に一つの皿が抱えられていた。
 嬉々として巨漢の下に運ばれる皿の上には、誰がどう見てもそれと解る。
 輪切りにされた「岩石」が並べられていた。
 岩石――正確には、エネルギーの『原石』を輪切りにしたそれは、切断されて尚もエネルギーを放出し、乾いた破裂音を断続的に発生させている。
 暖簾の奥から聞こえた何かを焼く音は、どうやらこれを誤認したようだ。
 確かに、捉え様によっては「石焼」のようであり、いまだにエネルギーを放出する様子は活きがいい。

 運ばれてきた料理を前に巨漢が手を擦り合わせ始める。
 どうやら本当に食べる気らしい。
 箸を取り、輪切りにされた原石を摘み上げて口元に運ぶ様を、二人は固唾を呑んで見守る。
 突き出た顎が印象的な口をこれでもかと開いて、箸に挟まれた原石を口の中に落とす。
 そして「咀嚼」。離れた位置からでも耳に届く破砕音を轟かせ、最後に巨漢は満足そうにのどを揺らして原石を「嚥下」した。
「美味い!」
 厳つい顔を更に歪めて巨漢が叫ぶ。
「相変わらずいい食いっぷりだねえ、作りがいがあるってもんだ。兄さん達もどうだい?」
 巨漢から目を逸らし、店主はマンダレーラ達のいる方に目を向ける。
 しかし、そこに二人の姿は既にどこにもなかった。


388 :以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 18:53:52.08 ID:9wo2bQWH0

「無為に時間を潰してしまったな」
「次は慎重に選択しよう」
 大通りを抜け、二人は今度こそ間違いの無いよう慎重に店を吟味する。
 周囲を見回す過程で、マンダレーラはふと、ぶつかった女性のことを思い出した。
 そういえば、彼女もあの店の常連だったな。つまり、あれを食べて・・・。
 そこまで考えたところで、強引に頭を振って現実に帰る。
 振り返るだけでは何も進展はない。前を見ろ!
 自身に渇をいれ、いざ前を見ると、店があった。

 『電気なまずの店』

「何ゆえ!?」
 指令を全うしようとする二人の受難は、暫く続きそうだった。

つづくかも

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