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VIPロックマンまとめ

湯けむり大作戦!

最終更新:

匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集

湯けむり大作戦!~序章~

「おいケイン」
「……なんだね?」

 VAVAの呼びかけに、ケインは首にロープを巻いたまま振り向いた。

「慰安旅行を考えたんだが、行くか?」
「……どうせ……緑色の悪魔が来るんだ」

 興味を失ったという顔で、踏み台の椅子を蹴るケイン。
 すかさずマックが支えに入る。

「管理職以上の参加ってことで、VAVAと役員しか行きませんから」
「……しかし……旅行の間ネチネチ嫌味を言われそうだ」
「だいじょうぶ。そんな真似させない……このオレが!」

 VAVAはアーマーのコントローラーを握りしめ、肉食獣のような唸り声を出した。

     ※

「そういうわけで我々は当分、留守にする」
「わかりました。留守は任せてください」

 朗らかに答えるエックスの肩を、壮年の博士は鷲づかみにする。


「……頼むぞ。く・れ・ぐ・れ・も!!」
「あの、博士、肩が……」
「問・題・を!! 起・す・な・よ!!」
「痛いです、痛い、痛い……」

「お前ら、何やってんだ?」

 緋色のミニスカをひるがえし、猫耳のレプリロイドが入室してきた。
 ケインは舌打ちしつつ、さりげなく天然な少年への虐待を中止する。

「なんでもない。それより何か用かね?」
「ああ。たまには有給が欲しいなーって思って」
「構わんが……また非番か……」

 ブツブツ言いながら、申請用紙を引っ張り出すケイン。
 だがゼロは待ったをかけた。

「二枚くれ」
「なぜ?」
「エックスも一緒に休むんだよ、なー?」
「ええ? ボク?」

 いきなり話題をふられ、困惑する少年。
 その背に抱きついて、猫耳少女はうれしそうに言う。

「一緒に出かけようよぉ……温・泉・とかぁ♪」


『ブーッ!!』

 ケインとエックスは同時に吹き出した。
 ただ、その後の両者の行動はハッキリと違う。
 エックスがすぐ立ち直ったのに対し、ケインは机に倒れたまま、起き上がってこない……

「なぁ、いいだろぉ? エックスぅ……」
「ひゃいっ!?」

 耳の後ろ側をゼロの吐息に責めたてられ、エックスは悲鳴まじりの返事をさせられる。

 その途端、室内の照明が落ちたかと思うと、液晶端末が勝手に動き出した。

『ゼ、ゼ、ゼロォォォォ!!』
「うわっ!? だ、だ、誰だアンタ?」
『お父さんは、お父さんは、とても悲しいぞぉぉぉぉ!!』

 ノイズ混じりに映し出されたのは、痩せぎすの老人だった。
 彼の目がギョロリと動き、貫かんばかりの視線をエックスへと投げかける。

「ひい!?」

 殺し屋もかくやという迫力で、少年を一歩後ずさらせてから、老人はゼロに向き直った。

『ライトの所の小僧なんぞと……ヤらせん! ヤらせはせんぞぉぉぉ!!』
「だから誰なんだよ、アンタ?」


『休暇申請なんて、ぜーったい出させないんだからなー!! ゼロのバカー!!』

 最後の方は半ベソをかいて、老人の顔はモニターから消えた。
 同時に室内の照明も回復する。

「なんだったんだ、今の……?」
「さあ?」

     ※

「……博士! ケイン博士!」
「うむ……?」

 エックスがケインを介抱していると、秘書メカニロイドがやって来た。

「ケイン博士。緊急事態です」
「……あーあー、聞こえなーい」
「たった今、全ハンターのIDが消失しました。何者かの超技術によるハッキングです」
「んんー? 聞こえんなぁー?」
「復旧作業に入りますので、しばらく現場に詰めて頂きます」

 遠い目をしたケインを、メカニロイドは無情にも引きずっていった。
 残されたゼロとエックスは、互いに顔を見合わせる。

「IDが消えた? ってことは……」
『休暇申請が出せない!?』

「ええー……何これ?」

 エックスは頭を抱えて座り込んだ。

     ※

「旅行は延期です」
「ふわーん!!」
「ちょっとコンビニ行ってくる」

【続くかも?】


湯けむり大作戦①


  • 前回のあらすじ

 ワイリーが
  娘可愛さに
   ハッキング

「ま、本部のコンピューターが止まろうと、温泉に来ちゃうんだけどな!」
 平日の昼、乗客も居ない、観光地行きの電車の中。
 猫耳少女はケラケラ笑った。……まさに外道。
 彼女の上機嫌と対照的に、エックスは不安そうだった。

「いいのかなぁ……」
「いいの♪ 何かあっても他の連中が解決してくれるって」
「いや……そういうことじゃなくて……」
 エックスは気まずそうに口ごもる。

「その、みんなを置いてきちゃったけど、いいのかな?」
「だいじょうぶ。あっちはあっちで仲良くやってるって」
「……そうかなぁ?」
 少女は自信ありげに薄い胸を逸らすと、ブーツを脱ぎ始めた。ボックス席の上で、あぐらをかく。
 自然とミニスカの裾がめくれ、対面のエックスからはショーツが見えるようになった。

 ……黒のレース。


「ゼロ、あの、行儀悪いよ……?」
 慌てて目を逸らすエックス。それを満足そうに眺め、猫なで声で甘えるゼロ。

「……なんだよぉ。オレと一緒じゃつまらない?」
「え!? いや、べつに、そういうわけじゃ……」
 彼があまり乗り気で無いのを見てとり、少女は頬を膨らませる。

「エーックス。あそぼ?」
「ううっ……あ! ところで、あのお爺さん誰だったんだろうね?」
 胸元に頭をすりよせられる。少年は、わざとらしさもお構い無く、話題をそらした。

「だから、知らないってば」
 もう何度目かになる話題に、ゼロはプーッと頬を膨らませた。

「べつに敵じゃなさそうだし、放っとけば?」
「で、でも、すごいハッカーだったよ?」
「どこが」
 ふん、と鼻を鳴らすゼロ。

「技術はあってもバカすぎる。大した悪事は出来ないさ」
「……………………」
 エックスは黙り込み、消極的な同意を示した。


『はーっくしょい!!』

 ディスプレイに映った老人は、くしゃみをした。
 頭を振って気を取り直し、作業に戻る。

 ディスプレイが置かれているのは、どこかの研究所のようだった。
 殺風景な壁の前に――ありきたりだが――機材が無造作に積まれている。
 その中に埋もれるようにして、一人の幼女が眠っていた。

 彼女の服は、かなり変わっていた。
 なにせ園児服を着ているのに、背中にはマントがあるのだから。
 老人は、そんなミスマッチも気に留めず、高らかに叫ぶ。

『目覚めよ、サーゲス!』
「……?」
 幼女は目を開けると、不思議そうに辺りを見回した。
 襟足の二本のお下げがフルフルと揺れる。

『サーゲスや』
「! お父様!」
 幼女は、老人が映るディスプレイを見つけると、嬉しそう微笑んだ。
 老人も満足そうに目を細める。

『よしよし、ワシが分かるな?』
「もちろんですわ。お父様の顔を忘れるはずがありません」
 その言葉を聞いた途端、老人の目尻がグニャーッと下がる……

『ホッホッホ……娘とはいいモノじゃのう。サーゲスや、もう一度、呼んでくれんか?』

「お父様」
『おっほうッ!!』

「おとうさま?」
『はぁうッ!?』

「お父様ぁ♪」
『うっはぁ~~~~ん!!』
 モニターの老人は、喜びに床を転げまわった。見ていて少々気分が悪い。
 ……それにしても、この幼女ノリノリである。


「着いた~」
「うん……着いたね……」
 電車から降りた二人は、同時に背伸びをした。
 ただし、少女がツヤツヤしているのに対し、少年のそれには多大な疲労感が漂っていたが……

「失礼します。秋原旅館のお客様ですか?」
『……!』
「お待ちしておりました。迎えの車を出しております」
 二人は、横合いからの声に振り向き、一瞬、言葉を失った。
 そこには長い髪を結い上げた、白銀の美女がいた。
 年齢は二十歳を過ぎたくらい。銀髪に、雪のように白い肌。儚げに伏せられた目元は、まるで昔話の雪女のよう。

 彼女は、呆気に取られる二人を促して『秋原旅館』と書かれたワゴン車に乗り込む。
 ゼロも後に続こうとしたが、エックスが彼女の顔をまじまじと見つめているのに気づいた。

「エ~ックスゥ~?」
「どうかなさいましたか?」
 ゼロが嫌味たっぷりに呼びかけたのと、白銀の女性が振り返ったのは、ほぼ同時。
 なんとなく言葉を飲み込んだゼロを素通りして、エックスが前に出る。

「すみません。前に、どこかで会いましたっけ?」

 美女は軽く目を見開いたが、すぐ笑顔を取り戻した。

「いやだ。ナンパですか?」
「え!? いや、その、ボクは……」
 懸命に言い訳するエックスに、彼女は冗談ですよ、と笑いかける。

「ごめんなさい、あんまり漫画みたいな台詞だったから」
「はあ」
「でも、そんなに否定しないでください。
 お客様みたいな方になら、私、ナンパされても構いませんよ?」

 ちょっと残念ですと、おどける美女。

「ええっ? えっと、あは、あはははは……ぎゃあ!!」
 愛想笑いで応じようとするエックスの背中を、ゼロの爪が引っかいた。


「子供一枚、秋原温泉まで」
「お嬢ちゃん、一人かい?」
 『そのマントは何?』というツッコミを、駅員はかろうじて飲み込んだ。
 園児服に、引きずる程だぶだぶのマントをはおった幼女。アヤシイ。

「向こうでお姉ちゃんが待ってるから、大丈夫です」
「……そうかい? ならいいんだ」
 あまりに一般的かつ丁寧な受け答え。
 駅員は随分と迷ったが、結局は切符を売ってやった。

 ありがとうございます、と頭を下げる幼女。
 耳の上には、Wマークのヘアピンが光っている。



『おおおお!! えらいぞサーゲス、一人で切符買えたなぁ!!
 よし、次は電車だ……ああっ、違う!? そっちのホームは違うぞ!』
「お父様、少し黙っててください。このホームでいいんです」
『……………………くすん』

【続く】


湯けむり大作戦②


  • 前回のあらすじ

「お父様、私の存在が賛否両論です」
「むう。Wikipediaに『サーゲス本体の戦闘力は無い』とあるから、幼女にしたのに……」
「どうしますの?」
「いーんじゃなーい? お前がX2に出るサーゲスと同一人物だとは言ってないしぃ~」
「……大人って汚い」


「お弁当、お飲み物、お菓子はいかがでしょうか~?」
 ローカル線の名物、車内販売のメカニロイドが現れた。
 幼女は目を丸くしてワゴンを見つめる。

「お父様、これは何ですか?」
『む、お前は初めて見るのか。これはな、車内販売というものだ』
「へぇ~……」
『なんだ。買ってみるか?』
 老人は、出来るだけそっけない様子で尋ねる。途端、幼女は目を輝かせた。

「これ、ください!」
「かしこまりました」
 メカニロイドは陶器に入った弁当を一つ、幼女に手渡した。

 余談だが、支払いは真っ黒なキャッシュカードで行われている。
 それがどういう経緯で発行されたのか、偽造か本物か、定かではない。

「わあ……!」
 幼女は弁当の蓋をあけ、目を輝かせる。
 彼女にとって、鶏肉と卵の釜飯は、未知の存在だった。

「お父様、ありがとう! いただきまーす!」
『おふうっ!!』
 まばゆいばかりの笑顔で老人をノックアウトし、箸を手にする幼女。
 さっそく一口、食べてみる。




「…………っ、…………冷めててビミョーですわ」
 こうして彼女は、大人の階段を一段、昇った。


 秋原温泉では、一足早く紅葉が始まる。
 旅館の門から玄関まで、かなりの落ち葉が積もる道を、エックスとゼロは並んで歩いた。
 数歩先を、銀髪に和服という、不思議な外見の女性が進んでいく。

 玄関につくと、三体のメカニロイドがお辞儀と共に出迎えた。
 銀髪の女性は、彼女らに荷物を運ぶよう指示すると、部屋まで案内するのでと鍵を持った。

「あのひと女将さんなのかな?」
「へぇ……やけに、こだわるじゃない?」
「そ、そんなんじゃないって! ただ……」
 拗ねるゼロの扱いに苦戦するエックス。その様子を、おかしそうに女将は見守る。

「なにかあれば私までどうぞ。では、本日のお部屋はこちらになります」
「あ、はい」
 部屋にあがろうとするエックスを、ゼロが引き止める。

「あの! 散歩したいんですけど、なにか近くにありますか?」
「ええ? 一度、部屋で荷物を片付け……」
 反論しようとする少年を、彼女は思いっきり睨んだ。

「行くよな?」
「行きます」
「でしたら近くに水族館がありますよ」
 女将は、さりげなく二人の間に割り込む。

「よろしければ私がご案内しましょうか?」
「……はあ!?」
 ゼロの耳が、不機嫌そうに横を向いた。


「あいすくりーむ、くださいな」
「かしこまりました。味は、どういたしましょう?」
「ふぇ? ……え、えーと」
 困惑するサーゲスに、老人が耳打ちする。

『チョコがおいしいぞ』
「じゃあ、チョコ!」
「かしこまりました」
 園児は、手にしたアイスを興味津々ながめると、ペロリとなめあげた。

「あまーい!」
『おお、おお、そうか。よかったのぅ』
 サーゲスが笑い、老人もつられて笑った。

『……って、そうじゃ、ゼロじゃ!
サーゲスよ、お前はお姉ちゃんを探さねばならん!』
「わかっていますわ。それよりお父様、これは何ですの?」
『おお、おお、これはなぁ……』
 園児が何かに興味を示すたび、老人が嬉しそうに解説する。
 今や彼らはゼロ探しなどすっかり忘れ、ひたすら遊び続けていた。


「お父様、これは何ですの?」
『んん?』
 サーゲスが立ち止まったのは、白い建物の前だった。
 看板には「Akihara Aquarium」の文字が刻まれている。

『これは水族館と言ってな、大きな水槽で魚を飼っておるのじゃよ』
「はあ……」
 彼女はさっそく入ってみることにした。

「わあっ」
 館内はほの暗く、青い照明がボンヤリと照らしているだけ。
 左右には巨大なガラスが張られ、その中をサメやエイが泳いでいる。
 初めてみる光景に、サーゲスは驚きの声をあげた。

 おりしも一匹のサメが、目の前を横切る。

「わあーっ!」
 サーゲスは声をあげて後を追い――そして立ち止まった。

 彼女は髪も、肌も白かった。
 二十歳すぎのその女性は、ただ立っているだけだというのに、薄明かりに照らされて、神々しい雰囲気を放っていた。
 着ているのは臙脂(えんじ)に花柄の和服……まるで異界の存在のようだ。

 幼女が頬を染めて見つめる前で、彼女は口を開いた。
 鈴のようなソプラノが、その喉から紡がれる。

「ウーパールーパーは俗称。正しくはアホロートルという両生類の、アルビノ。
 自然界には存在せず、人間が交配させて作り出した。
 イモリの仲間で、尻尾は切っても生えてくる。……らしい、ですよ?」
「はあ……」
「さいで……」
 立て板に水の説明に、ゼロとエックスは疲れきった声をあげた。

 どういうわけか女将は、水族館に入るなり、あらゆる魚の生態を学者のごとく説明しはじめたのだ。
 最初は黙って聞いていた二人も、説明が一匹・二匹と続くうち、次第に疲れを溜めていった。
 特に、じっとしているのが苦手なゼロは、今にも死にそうな目をしている。

 というわけで、彼らは誰一人、園児の姿に気づかない。
 その隙にサーゲスは、手近な水槽の影へ移動した。

「お父様。お姉さまを見つけましたわ」
『よよよ……ゼロォ、本気でロックマンとデートとは……
 お父さんは、お父さんはぁぁぁぁ!!!!』
「お父様、静かにしてください。バレます」
『……………………くすん』
 サーゲスはマッハで老人を凹ませると、彼らの後を尾けはじめた。


「さ、次は回遊魚のコーナーだ。
 知っていると思うが、マグロは人間の肺のような、酸素を吸い込む器官が無い。
 常に泳いでエラに水を当てないと、死んでしまう生き物なんだ。不便だな」
「へー」
 澱んだ目で相槌を打つエックス。しかし隣では、ゼロが瞳に力を取り戻していた。

「フゥゥゥ……!」
「あれ? どしたの、ゼロ?」

 いつの間にか彼女は髪を逆立て、クラウチングスタートの姿勢をとっている。
 視線の先には、円筒形の水槽を泳ぎ続けるマグロがいた……

「フーッ、うにゃあああ!!」
 少女は猫の本能そのままに、すごい勢いでマグロを追っていく。

 エックスは、ゼロの奇行に慌て、追いかけようとする。
 だが、その肩を、氷細工のような指が縫いとめた。
 振り向けば、女将が、妹を見守る姉の笑顔で立っていた。

「さしでがましいようですが、お先に戻られてはいかがです?」
「でもゼロが……」
「お連れ様は、後でメカニロイドに迎えに行かせますから」
「でも……」

 エックスはしばらく悩んだが、結局は帰ることにした。


「にゃー! にゃー!」
 ガラスをひっかくゼロ。
 その様子を物陰から見ていたサーゲスは、素朴な疑問を口にした。

「お父様。お姉さまは猫なのに、尻尾が無いですわ?」
『ああ。尻尾はな、アタッチメントで取り付けるんじゃ』
「ふーん」
 性的な意味で――という言葉を、老人はかろうじて思いとどまった。
 えらいぞジジイ。なに考えてるジジイ。早急に天寿をまっとうしろ。
 世の中は、これ書いてる人間も含めて、変態が多いから困る……


 エックスが部屋で荷物を整理していると、ゼロが戻ってきた。
 すっかり正気に戻ったようで、しょんぼりしている。

「ごめん。オレ、ついカッとなっちまって……」
 少女が何かを言う前に、少年は優しく微笑んだ。

「置いてきちゃってゴメン。体、冷えたでしょう? お風呂へ行こうよ」
「え!?」
 エックスの申し出に、ゼロはハッと顔を上げた。だが、すぐ下を向き、モジモジと呟く。

「じゃ、じゃあ、一緒に入……」
「はい、コレ浴衣。女湯は三階、男湯は二階だから、間違えないでねー」
「…………」
 気付いたときには少年は部屋を出ており、ぱたんと扉が閉まるところだった。
 取り残された少女は、わなわなと拳を震わせ、絶叫する。

「……ちくしょう、オレだって恥ずかしいのを我慢して誘ってるのに!
 こうなりゃエックスの風呂を覗いてやるーっ!!」

【続く】


湯けむり大作戦③


  • 前回までのあらすじ

思ったより
  長引いてて
    どうしよう


 時刻は少しさかのぼる。ここはエックスの投宿先、秋原旅館の玄関口。
 三階建ての和風家屋は、山麓の紅葉に埋もれるように佇んでいる……

 奥ゆかしい景色の中、周囲の落ち葉と同じ色のレプリロイドは、寂しそうに歩いていく。
 その背中を見つめる一対の瞳と、極小のカメラアイとがあった。

『ゼロォ……こんな連れ込み宿に……お父さんは、お父さんはぁぁ!!』
「お父様、私もここに部屋を取りますか?」
『え? ああ、えーと……子供一人じゃ泊めてくれぬ。そこで……』
「ふむふむ。わかりましたわ」
 絶妙のスルーで老人が正気に戻ったことに、サーゲスは満足しつつ頷いた。


「よいしょ……よいしょ……」
『だいじょうぶか? がんばれ、がんばれ、ほれ』
 老人の策により、幼女は難無く玄関をくぐった。
 指定された部屋へと階段を昇っていた、その途中で目的の人影を発見する。

「押すぞ……今だ……スイッチを押すんだ……」
 彼女は窓に張り付き、なにかブツブツ言っている。
 サーゲスは耳を澄ました。

「窓を開ける。窓から出る。入っちまえば、あとは何とでもなるじゃないか」
 よし、と頷く。窓の開閉スイッチに、たおやかな指を伸ばし――いきなり、しゃがみこんだ。

「うわあああ、無理! 恥ずかしい! どうしよ、どうしよ!?」
 顔を真っ赤にして、手で覆う。
 身をよじっていた少女は、ハッと顔をあげた。

「そういえば……あいつの裸って……どんなだろ?」
 そこから先、彼女がどんなことを考えたのか、知る由も無い。
 とにかく彼女は悶絶し、ちょっと青ざめ、かと思えば目を輝かせ、激しく頷いた。

「よよ、よーし! 行くぞ! 行くったら行くんだからな!」
 強い語気と裏腹に、おっかなびっくり窓を開ける。
 ひきしまって形の良い尻を振ると、彼女は階下のひさしへ飛び出していった。



「良く聞こえなかったわ……お姉さま、何をしてるのかしら?」
『わからん。とにかく着いていくのじゃ、サーゲス!』
「はい!」
 幼女は頷き、窓から降りようとして、身をすくませた。

「ふぇぇぇん……こ、こわいよぅ……」
『ああっ!? よしよしサーゲス、他の出口を探そう。なっ?』
「ひっく、えぐっ……でも、お姉さまってスゴイですぅ……」
 階段を降りていく幼女の頬は、かすかな尊敬の念から、赤く染まっていた。


「ふう……一人になれたぁ」
 ガランとした浴場で、エックスは身も蓋も無いことを言う。
 浸かっていた湯船から身を起こすと、彼はカランの前へと移動した。

「お風呂の時間ぐらい、のんびり出来なきゃね」
 手近なボディソープの瓶を取り、タオルを泡立てていく。
 彼が自分の体を洗おうとした、そのときだった。

「失礼します」
「うわ! ……女将さん?」
 からりとガラスの引き戸が開けられて、入ってきたのは和服の女性だった。
 木製の桶を積んだカートを見せ、交換に参りました、と説明する。

 エックスは少し身を引きながら、どうぞ、と促した。
 女将は黙々と、浴場に積まれた桶を、洗浄されたものに交換していく。
 やがて作業が済んだのか、彼女はエックスに向かって深々と一礼した。

「では、お背中を流します」
「……は?」
 ぽかんとする彼の前で、女将は和服の袖をタスキで縛る。
 そしてエックスのタオルを、すいっと奪い取った。

「ちょっと!? 何をするんですか!?」
「いけません、動かないで。当旅館のサービスですから……」
 エックスは手で前を隠し、大声で抗議する。
 けれど女将はお構いなしと、彼の背中をこすりはじめた。

 沈黙の中、しゅ、しゅ、と泡の音だけがこだまする。
 白い、抜けるように白い手の甲が、何度も上下する。

「力加減は、いかがですか?」
「あ、ちょうどいいです」
「かゆい所は?」
「ありません」
 桶に湯を汲み、泡を流し去る。終わりです、と彼女は告げた。

「では次は――前を」
「わあ!?」
 石鹸を含んだタオルが、腹のあたりを行き来する。
 彼女の指がへそに嵌り、少年は悲鳴をあげた。

「なにするんですか!?」
「なにとは……? 当旅館のサービスでございます」
「ダメ! 自分で出来ますから!」
「旅の恥はかき捨て、と申しまして……」
「恥ずかしいって分かってるなら、余計やめてください!」

 暴れる少年を、女性は背の高さを活かして抑え込もうとする。
 頭の上に顎を乗せられ、エックスはいよいよ尋常ならざる事態だと認識した。

「やめて! やめてください!」
「ええい、真面目な……観念しろ! ……わあ!?」

 エックスの手が湯を含んだ桶を弾き飛ばし、女将の頭からお湯がかかった。

――ボワン!

「わっ!?」

 盛大に、謎の煙が発生する。
 たちこめる薬品の匂いの中、エックスは涙でにじむ目をこらした。

「ケホッ、ケホッ……なんだ、これ?」
「はうはう……も、元に戻っちゃったぁ……」
 煙が晴れると、そこには裸の幼女――ライトが座っていた。
 胸元にだぶだぶの和服を巻きつけると、濡れそぼった銀髪を、悲しそうに手櫛でとかしはじめる。

「博士。なにやってるんですか?」
「え!?」

 応急の身づくろいに専念していた幼女は、ふと怒気を感じて顔をあげた。
 エックスが、珍しく険しい顔をして立ちはだかっている。

「いや~、イーグリード対策で、大人になる薬を作ったから……」
「驚かせにきたんですか? それとも見張りに?」
「うぅ……あ、あんまり怒るな、エックス……」
 ジト目で睨まれ、早くも泣きそうなライト。
 だが真面目なエックスは、追及の手をゆるめない。

「そもそも、どうやって、この旅館に入ったんです?」
「いや~。この旅館メカニロイドしかいないからさ。
 ハッキングして、私が女将だって誤解させてみた。ははは♪」
「あーあー、聞こえない、聞こえなーい!」
 エックスは犯罪の告白を無かったことにしようと、耳をふさぐ。
 先日の老人といい、天才科学者には変人が多いらしい。

「まあ、気にするな。証拠は残さないから♪」
「もう。次からは止めてくださいね……あれ?」
 ライトは誤魔化し半分に、エックスの頭を撫でる。
 ところがエックスは、不思議そうに彼女を見つめ返した。

「おい、なんだ、エックス?」
「…………」
 エックスは答えない。黙って幼女の頭を撫ではじめる。
 不意のスキンシップに、彼女はくすぐったそうに身じろぎした。

「やめろよー。博士なんだぞぉ、偉いんだぞぉ……」
 幼女は顔を真っ赤にして抗議する。
 だがエックスは淡々と、とんでもないことを言いだした。

「博士、背が縮んでません?」
「ふぇ!?」
 ライトは、あたふたと自分の頭に手をやる。

「なに言ってるんだ、エックス? っていうか、自分じゃ分からないし」
「いいえ、ボク、レプリロイドだから分かります。約2cm縮んでます」
「2cm!?」
「大人になった副作用でしょうね。あとで調べてください」
 幼女は真っ青になり、パクパクと口を動かした。
 くりっとした目に、ぷくーっと涙が溜まっていく……

「ふ、ふ、ふぇ~~~~ん!!」
「うわあ!? ちょっと、博士!?」
「ひどいよぅ、そんなの……びぇぇ~~~ん!!」
 本格的に泣き出したライトを、必死にあやすエックス。
 その背後で、パサリと布の落ちる音がした。

「エ、エックス……?」
「わっ!」
 突然、背後からかけられた声に飛び上がる少年。
 振り向くと、一糸まとわぬ姿の猫耳少女がいた。
 足元には驚いて取り落としたらしい、バスタオルが落ちている。

 このとき少年の意識を奪ったのは、ゼロの控えめな胸元でも、まだ産毛しか生えていない股間でもなく、背後のライト博士だった。

――男湯。二人っきり。泣きじゃくる幼女。

 背中を冷たい汗が伝う。まずは正論で追い払ってみることにした。

「えっと……ゼロ、ここは男湯だよ?」
「ひぃっ!」
 少年が手を伸ばすと、少女は怯えたように首をすくめた。

「あの、ゼロ…………さん? なんで、そんな反応するんですか?」
「ううっ……うぇぇぇ……」
 弁解のいとまも、あらばこそ。
 ゼロは、その場にペタリと座り、さめざめと泣き出してしまった。

「ええー、なんで泣くの? ある意味、予想通りなんですけど」
「えぇぇん……エックスに、イーグリードの病気がうつったぁ……ひっく……」
「びぇぇぇ~~~~~~ん!!!」
 泣きじゃくるゼロとライト。
 のどかな露天風呂は、無駄に修羅場っぽくなった。

 エックスが事態の解決を――バックレも含め――真剣に検討していたとき。
 またも垣根のほうから、人が現れた。

「お姉さま!」
「はいぃ!?」
 今度は園児服にマントを着けた幼女。顔は知らない。
 とりあえずエックスは、精一杯の笑顔で、当然の忠告をする。

「お嬢ちゃん、ここは男湯だよ? ……お姉ちゃんたち居るけど」
『きっ、ききききき……貴様ァァ――ッッッ!!!』
「ぎゃあ!?」
 突如、園児のヘアピンから、雷のような怒声がほとばしる。

『小僧!! 公衆の浴場で、ワシッ、ワシのゼロに何をしよったぁ!?』
「あの、失礼ですが、どちら様で……?」
『しかも、まっ白い幼女まで連れ込みよって……3(ピーッ)だと!? 変態めが!!』
「なに言ってるんですか!」
 涙ながらにツッコミをいれるエックス。すると今度は、園児が目を回して倒れた。

「きゅう……」
『ああっ、サーゲス!? どうした、しっかりしろ!!』
「……耳元で怒鳴るから、驚いたんじゃないかな」
 説明的な台詞を述べながら、エックスは園児に近づく。

『貴様、サーゲスに触るな! よせっ、やめろ、ケダモノ!
 逃げなさいサーゲス、妊娠させられるぞ!!』
「えーと、これかな? しゃべってるのは」
 確認してヘアピンを外す。そしてセットポジションから大きく振りかぶった。

『こら! 若造! ただで済むと思うなよ、何せこのワシは……』
「えいっ」


『ワイリィィィ――ッ…………!!』


 声はヘアピンと共に遠ざかり、きらりと輝いて消えた。


「…………さて」
 エックスは、ぎこちない笑みを浮かべて振り返る。

「びぇぇぇ~~ん!!」
「ひっく……ぐすっ……」
「きゅう……」

「……この子たち……どうしよう?」

【続く】

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