3話・老いた獅子、若き撫子と戯れるの巻

前回のあらすじ

坂本「腹がたつが腕もたつ上官ほど厄介なものはない」

男「はっはっは」






ミーナ「え?504基地に私も同行するんですか?」


思わず大きな声を上げるミーナ。執務室にはミーナと男の二人だけだった。
男が顎をさすりながら、話を続ける。


男「ああ。もう白状してしまうが、ワシは今回ただこの基地にバカンスしに来たわけではない。
   とある作戦のためにこのロマーニャの地にやってきたのだよ」

ミーナ「作戦、ですか?しかし上層部からは何も……」

男「はっはっは、それはそうだ。この作戦はワシと扶桑海軍の一部の者しか知らんからな」

ミーナ「え!?」

男「詳しくは504についてから話そう。向こうの隊長と竹井にも話はつけてある。
  そうだ、坂本は嫌がっていたが紐を付けてでも連れていくぞ。あいつにも聞いてもらわなければならんしな」

ミーナ「了解しました。それにしても、作戦とは一体……?」

男「まあ、一言で言うならば、そうだな……」

男「ワシら(扶桑海軍)の可愛い娘達を虐めるクソガキを、ちょいとこらしめてやる。といったところかの?」

ミーナ「く、くそがき?」

男「はっはっは。さて、出立の前の腹ごしらえをしようじゃないか。それにしても、この基地の食事は実に美味い!」

ミーナ「は、はあ。ありがとうございます……」






揺れるJu52の中では、坂本が不機嫌を隠しもせずに表情に出していた。

坂本「上官の立場を振りかざすなんて、つまらない男になったものだ。まったく、歳は取りたくないものだな」


ミーナ「……少佐と一体何があったんです?」

男「なに、一緒に来るようにと言ったのだが嫌だの一点張りでな。
  仕方ないのでこれは上官命令だ、と言ったらへそを曲げてしまってな。こうなると、少し厄介だがまあ放っておくしかあるまい」

ミーナ「はあ。それにしても、少佐がこんなふうに不機嫌になるのを見るのは初めてです」

男「ふむ、ワシも久しぶりに会って驚いたが、少佐の階級は伊達じゃないようだ。扶桑海事変の頃とは随分と変わったものだ」

ミーナ「あら、そうなんですか?」

男「そうとも。あの頃はまだヒヨっ子でな。竹井と一緒に鍛えてやったのだ。
  そう、支援物資として届いたチョコレエトを竹井にやったら坂本が拗ねてしまったことなんかもあってな」

ミーナ「まあ、少佐にもそんな頃が……」

男「あの時は『美緒ちゃんに嫌われた!』、などと竹井にも泣きつかれてしまってなあ。大慌てで山のような物資の山からチョコレエトを探したものだ」

ミーナ「ふふ、災難でしたね」

男「ふっふっふ、まったくだ。その後は無事に仲直りをしたのだが、三人とも疲れてしまってな。そろって川の字になって寝てしまったのだったよ」

坂本「さっきから二人でコソコソと、何を話しているんだ?」

ミーナ「うふふ、昔話を少々ね」

坂本「何?中将、まさか変なことを中佐に吹きこんではいないでしょうね?」

男「はっはっは。人の人生の大半は後に思えば恥と思うことだらけだ。それをも飲み込み先への糧としてこそ一人前だぞ?」

坂本「やはり何か良からぬ話をしたのだな!?」

男「いやいや、ワシの人生において最も心安らかだった頃の話をしただけだ。安心しろ」

ミーナ「あら……。うふふ、そうですね。安心して、少佐?」

坂本「むう……」


ミーナ「あ、そういえば。昨日は貴重な血液と魔法力を提供していただきありがとうございました」

男「なに、この老いぼれの力が役に立ったのならこれほど嬉しいことは無い。
  誠心誠意真心込めた血だ、少しばかり置いていくのでこれからも存分に使ってくれ」

坂本「その割には、少々手を抜かれたようでしたが?
    それとも、昔の中将の全力と比べて威力が半減していたように見えたのは私の記憶違いでしょうか?」

ミーナ「もう、少佐ったら!」

男「ふむ。魔眼から逃れられる真実は無い、か」

ミーナ「え?」

男「気にせんでよい。独り言だよ」

坂本「504基地が見えた。二人とも、準備を」

男「了解だ。さて、竹井はどうなっておるかな?」






504基地の執務室に招かれ、そこで男と竹井は数年ぶりの再会を果たした。

竹井「男さん!お久しぶりです!うわあ、あの頃のままだわ」

男「おお竹井!いやあベッピンになったなあ。見違えたぞ!」

竹井「まあ。ありがとうございます」

男「して、竹井よ。そちらの方が……」

フェデリカ「初めまして、第504統合戦闘航空団隊長、フェデリカ・N・ドッリオ少佐です。どうぞよろしく」

男「扶桑海軍、男中将だ。こちらこそ、斯様な美人に会えるとはロマーニャに来たかいがあったというものだ」

フェデリカ「あらま、扶桑の軍人さんはお堅いイメージがあったのだけど。ロマーニャの男に負けず劣らずですこと」

竹井「もう、男さんたら。ちっとも変ってないんですね?」


坂本「ふん、相変わらずたらしな男だな」

ミーナ「もう、美緒ったら……」

フェデリカ「あら、ごめんなさいね、挨拶が遅れてしまったわ。フェデリカ・N・ドッリオ少佐です。
       501の方達には本当に感謝してもしきれないわね。隊を代表してお礼を言わせてもらうわ」

ミーナ「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です。困った時はお互い様、ですよ?」

坂本「坂本美緒少佐だ。その通りだ、困っている者を助けるのは人として当然だ」

フェデリカ「そう言ってくれると助かるわ中佐、少佐。それと、いつだったかうちの三人組がそちらにお世話になったでしょ?そのお礼もまだだったわね」

ミーナ「うふふ、そんなこともあったわね」

坂本「竹井から聞きましたが、そちらも現在体制を立て直すべく日々奔走しているそうで」

フェデリカ「ええ、お陰で毎日とても刺激的な体験をしているわ。ミーナ中佐も経験があるんじゃないかしら?」

ミーナ「なんとなく察するわ。そしてそれを楽しんでるあなたを尊敬します。私にはとても真似できないわ」

竹井「それが普通です。うちの隊長が少し他人とズレてるだけですよミーナ中佐」

男「はっはっは、真似ることは学びの基本だが全てを真似る必要はあるまい。何より、他人とまるで同じ生きざまなど楽しいものか!」

フェデリカ「同感だわ中将。私は私、中佐は中佐。そうでしょ?」

ミーナ「うふふ、そうね」

男「いや、実に楽しい。この雰囲気を壊すのは心苦しいが、何分こちらもあまり時間が無いものでな。さっそく今回の作戦について説明したい」

フェデリカ「了解です。ふふん、扶桑海軍の極秘作戦だなんて、ワクワクするわね竹井」

竹井「私は少し嫌な予感がしてますけどね。この感覚が気のせいであってほしいと思ってます」


坂本「作戦?ちょっと待て、私は何も聞かされていないぞ?」

男「む、失敬な。出発前にワシは言ったはずだぞ?まあ、お前はずっとワシに背を向けふてくされておったがな」

坂本「な!?あの時は中将が紐をつけてでも連れて行くなどと言われたから!」

男「しらんしらん。ワシはしらんぞー」

坂本「こっのクソジジイ!」

ミーナ「ちょっと二人とも!?」

フェデリカ「あはは、扶桑の海軍さんて随分おちゃめなのね。」

竹井「これが一般的とは思わないでください少佐……」






男「とまあ、これが今回の作戦の概要だ。何か質問はあるかね?」

坂本「大ありだ!たかが試作の爆弾一つの威力を見るためだけに、ネウロイの巣へ近付くというのですか!」

竹井「男さん、私も少佐と同意見です!あまりにも危険すぎますよ!」

フェデリカ「うーん、その爆弾、その辺の海でテストするわけにはいかないのかしら」

男「ふっふっふ。坂本、そして竹井よ、ワシを誰だと思っている?赤獅子がたかが数十のネウロイに後れを取るとでも思うてか!
  そしてドッリオ少佐よ、この爆弾は少々厄介なものでな。詳しいことは省くがどうしてもネウロイにぶつけなくてはいけない代物なのだよ」

坂本「何が赤獅子か!いったい何十年間その名を引きずってるんだ!」

竹井「そうですよ!やっぱり私と美緒が考えたライおじさんのほうが」

男「ええい黙れ黙れい!扶桑の男がそのような情けない二つ名を名乗れるものか!」

坂本「ではライオン丸ならば!」

男「嫌じゃい!だいたいワシは横文字は好かんのだ!」

竹井「ブリタニア語を話しておきながら今更なんですか!」

男「それはそれだ!好かんものは好かんのだ!」


ミーナ「はあ、基地に帰ったら私と美緒のシフトを組みなおさなくちゃ……」

フェデリカ「あら?中佐は何も言わないのね?」

ミーナ「ええ、扶桑の魔女の無茶苦茶さには慣れているのよ」

フェデリカ「ふぅん、うちの竹井は真面目な子だからよく分からないわ」

ミーナ「心から羨ましいわ……」

フェデリカ「で、こちらも真面目な話だけど。どうやって中将の乗る二式大艇をエスコートする?」

ミーナ「任務の内容上、少数で動くべきでしょうし、索敵が出来る私と坂本少佐の二人で護衛しようかと」

フェデリカ「ねえ、もし良かったら竹井も連れて行ってもらえない?あの三人、一緒にいるとなんだかんだで楽しそうだし」

ミーナ「でも、竹井大尉もお忙しいんじゃ?」

フェデリカ「ふふん、これも一種の息抜きよ」

ミーナ「分かりました。では私と坂本少佐、竹井大尉の三名で中将を直掩します」

フェデリカ「お願いね。うちの子達も訓練って名目でいつでもスクランブルできるように待機させておくわ」

ミーナ「了解しました。はあ、大変な作戦になりそう……」





男「ええい、赤獅子ったら赤獅子だ!燃えたぎる赤い獅子!ライおじさんで見得が切れるか!」

坂本「ウィッチに不可能は無いと言ったのは中将じゃないか!」

竹井「さあ、男さん!勇気を出して!」

男「いい加減にせんかああ!!」







夜も更けてきた501基地。そのハンガーでは、徳利を片手に男が酒盛りをしていた。
冷たい石床も気にせず、胡坐をかいている。


男「ふう、まったく。成長したと思ったが中身はあの頃のままではないか」

ミーナ「あら、男中将。こんなところで晩酌ですか?」

男「おや、見つかってしまったな。なに、少々物想いに耽ってたのだよ。君も一杯どうかね?」

ミーナ「遠慮しておきます」

男「これは残念だ。ワシに魅力が足らんのか、それとも……」


男が猪口の芋焼酎を一気にあおる。
芋の飾り気の無い直接的な味と香りが体に流れ込む。
視線の先には神々しくも見える満月と、それに照らされた二式大艇があった。



男「二式の中を見ることで頭が一杯ということか?」



ミーナ「っ!?」

男「気になるかね、明日の作戦。そして試作の爆弾とやらが」

ミーナ「……ええ。正直、リスクを冒してまで中将が自ら試作の武器を試用する意図がわかりません」

男「ふむ……」


男は猪口に酒を注ぎ、またも一息に干す。顎をさすり、思案するように天井を見上げる。


男「一人ぐらいは真実を知っていたほうがいいかもしれんな」


真実、の言葉にミーナはドキリとする。脂汗が背中を伝うのを感じた。


ミーナ「……何か、裏があるんですね?それも、身内にすら知られてはいけないような」

男「裏、と言うのかは分からんが、表に出すわけにはいかないという点は正しいな」

ミーナ「それを知って、私はどうなるのでしょう?」

男「はっはっは、そう心配せんでよい。なにも国家転覆や世界掌握を目論んでるわけではない。
  作戦の内容上、どうしても知れ渡るわけにはいかないのだよ。特に各国の軍の上層部にはな」

ミーナ「……」

男「絶対に知られるわけにはいかない。坂本と竹井にも、な」


男は猪口を床に置き、手にしていた徳利を飲み干す。猪口と並べるように床に置くと、ゆっくりと立ち上がった。

男「二式の中を見せよう。ただし二つほど約束してほしい」

ミーナ「内容によります」

男「なに、裸を見せろなどと脅すつもりはない。一つは他言無用。もう一つは、明日の作戦の完遂だ。もちろん死ぬまで戦えなどとは言わんよ」


ミーナ「……わかりました。約束します」

男「ありがとう、ヴィルケ中佐。では、“真実”へ案内しよう」


そう言って、男とミーナは波に揺れる二式大艇へ歩いていった。








次回予告

坂本「見たことないストライカーだとは思ったが、まさか噴流式とは」

ミーナ「ごめんなさい。美緒、竹井大尉……」

男「扶桑の赤獅子、いざ参る!!」



ちょっとシリアスパートに移っていく感じ

しかし油断していると隙をついてギャグを挟んでくるぞ!気をつけろ!

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最終更新:2011年06月19日 18:10
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