~アフリカ北部 サハラ砂漠~
「はぁ、はぁ、ここはどこなの~?」
扶桑の陸戦魔女がひとり、太陽が照りつけるこのサハラ砂漠をさまよっていた。
「まったく、あのロマーニャ人め……!
目的地までたった80km……ってそれ多分直線距離じゃない!」
空戦ウィッチに道を訊ねてから三日、目的地の影はまだ見えていなかった。
「いくら陸戦ウィッチでも……砂漠三日目は、死ぬ……あら?」
ふと見上げると視線のさきになにかが見えた。
それはどうやら人間のようで、見慣れない軍装で砂漠を歩いていた。
「こんなとこに人が?なんにせよ助かった!お~い!」
声をかけられてその人物が足を止め振り返る。
その場所まで彼女『北野古子』は急いだ。
「すみませ~ん!道に迷っちゃって、よければトブルクまでの道を教えてください。」
彼女の質問に彼は答えた。彼の身長は古子よりもいささか小さかった。
「トブルク?聞いたことないですね。ブリタニアにそんな場所あったっけ?」
「はい?」
ここはアフリカのサハラ砂漠だ。なぜにブリタニアの名前が出てくる?
すると今度はその人物が質問をした。
「あの、すみませんがロンドンはどっちでしょう?
海をこえた先にあるって聞いてたんですけど……」
「あの、ここアフリカですよ?」
さすがに古子は気になってそこに突っ込む。
「え、ブリタニアじゃないんですか?
しまったなぁ、部隊とはぐれてからこっち。
道が分からないからひたすら進んでたら、いつのまにか砂ばっかりの場所にでるし、
人にも会えないし、困ってたんです。」
道をたずねようとして遭難者を拾ってしまった古子は自分の不運さを恨んだ。
そんなふたりのところに装甲車やバイクの一団が全速力で走ってくる。
「友軍?よかった今度こそ助かった!お~い……って!」
助けをもとめた友軍はなんとネウロイに追っかけられていた。
「ロンメル閣下!助かりました、前方に友軍の陸戦ウィッチです!」
「後は頼んだぞ、ウィッチ!」
「えぇえええ!!」
結局彼らは古子と彼をのこして去ってしまった。
残されたのは彼女たちと巨大な敵だけ。
「え、えっとどうしよう!とにかく逃げなきゃ!ってなにしてるのあなた?」
「なにって戦うんですよ。ああ、荷物をお願いします、大事なものなので。」
そういうと彼は、懐から陸戦ウィッチが使うような大きな銃を取り出し、
ネウロイ目掛けてストライカー顔負けの速度で走っていった。
「う、嘘ぉ!?」
彼はネウロイの砲撃をものともせず足元まで来ると、
自分を押しつぶさんと繰り出された前足を跳び上がることで避け、
その足を伝ってネウロイの頭まで駆け上り、その手の銃を押し付けて発砲した。
ズガァアアアン!!
零距離で行われた射撃によってネウロイがたたらをふむ。
しかしすぐに体勢を立て直すと、彼を振り落としにかかる。
彼はなんとか踏ん張ろうとするが失敗し、空へと打ち上げられ、
その腹にネウロイのサソリのような尻尾が叩き込まれ吹っ飛ばされた。
「し、死んじゃった……!?」
吹っ飛ばされた彼はしばらくすると立ち上がり、またネウロイに突撃する。
そしてまたネウロイを吹き飛ばし、吹っ飛ばされの繰り返しを始めた。
「な、なんであんなことやって生きてるの?と、とにかく援護しないと!」
そうして38式小銃を構える古子の上を横切る影があった。
「今度はなに!?」
見上げるとふたりの空戦ウィッチがそこにいた。
~上空~
「いた。例のはぐれネウロイだな。」
「ええ、そうみたい。でもティナ、あれはなんなんだろう?」
ネウロイと戦闘を繰り広げるなぞの人物を指差してライーサはマルセイユにたずねる。
また彼が盛大に吹っ飛ばされた。
「私が知るか。とにかくあいつを援護する。いくぞ!」
ふたりは上空から一気に降下してその手に持ったMG34を撃つ。
マルセイユの撃った弾は寸分たがわずネウロイに命中し、
それに若干の遅れをみせてライーサの撃った弾が追撃をかける。
彼が起き上がり突撃を再開した。
状況を不利とみたネウロイは砂を巻き上げ即席の煙幕を張ると、
地中に潜り逃げ去っていく。
「ちぇっ残念、また逃げられた。」
「しかたないよティナ。私たちは地上攻撃魔女じゃないもん。
さてと……司令部、こちら黄の2、連絡のあったネウロイは逃亡した。
尚将軍一行は無事。それと扶桑陸軍のものとみられる陸戦魔女1名と、
……不審人物を1名確認。彼女らの処遇は将軍一向に任せる。
以上、任務完了。帰投する。」
~戦闘地域から3km後方~
あの戦闘のあと、古子と彼は、
彼女達を置き去りにした将軍一行が残した轍をたどり、ここまでやってきた。
「ありがとう助かった。わたしはカールスラント陸軍のロンメル中将だ。」
彼女達を将軍自らが迎える。
「君達の活躍のおかげで私も部下も無事だ。君達にはほんとうに感謝しているよ。」
「あ、あの……そんなことよりも、み、水を……」
ようやく助かったことから気を抜いた古子は、
そういってばったりと倒れてしまった。
「き……君!?しっかりしたまえ!だれか担架を!」
急いで車に運ばれる古子。完全に伸びている。
「ふぅ……ところで君はだれだ?」
彼女が運ばれていくのを見守ったあと。将軍は彼に尋ねた。
「僕ですか?
えっと、僕はカールスラント実験部隊、
『ウンシュターブリッヒ(
不死身の兵士)』の『俺』です。」
そういって彼は先ほどの戦闘でぼろぼろになった頭巾を脱いでそう言った。
~オアシス 将軍達のテント~
「よぉ、ご両人。俺の分のディナーは残ってるかい?」
葉巻を口にくわえてリベリオン軍のジョージ・パットン中将がテントのなかに入ってくる。
先に来ていたロンメル中将と、ブリタニア軍のモントゴメリー中将が彼を迎える。
「君が最後だ。時計を変えたほうがいい、それは壊れてるようだ。」
「おお、それはいいなモントゴメリー。これはロンドンで買ったんだ。」
「時計ならカールスラント製にしたまえ、正確で、優秀だ。
もっとも、君が使いこなせるかは分からんがね。」
そういってテントの中はギスギスした雰囲気でつつまれる。
「ふん、まあいい。そういえば面白い話を聞いたぞ。
ロンメル、あんた女の子を担いでこのオアシスを駆け回ったそうじゃないか。」
「ごほん!あれは熱中症にかかったわたしの恩人を医療テントまで運んだに過ぎん。
それより問題はその
おまけのほうだ。」
「あの、妙な軍装の少年か?
聞くところによると君の国の人間だといったらしいじゃないか?」
モントゴメリーが言う。
「私も知らん。一応本国に問い合わせたが、
たしかに実験部隊が欧州で活動していたことは確からしい。
だが記録ではダイナモ作戦に投入され、
そこでそいつらは全滅していることになっている。
彼はロンドンに撤退しようとしている最中に道に迷い。このアフリカに来たそうだ。」
「おいおい、冗談がすぎるぜ。どうやって地中海を越えたんだよ。」
「さぁ知らんよ。そこまで聞いていないのでね。
話を戻すが、彼はその実験部隊でナニカサレタらしく、
異常な頑丈さと回復力、身体能力を手に入れたらしい。
実際にネウロイと互角に渡り合うことはできるらしい。」
とんでもない話だがね。とロンメルは首をすくめた。
「まあ、なんにせよ戦力になりそうなら取り込めばいい。
そいつはいまどこに?」
パットンは葉巻をふかしながら尋ねる。
「マルセイユ中尉が連れて行ったそうだ。歓迎会をやるらしい。」
まったくもってけしからん、とモントゴメリーは嘆息した。
~マルセイユのテント~
「じゃぁ扶桑からきた新たなる仲間の着任と、
俺の今日の奮闘振りを祝って、カンパ~イ♪」
『かんぱ~い!』
そういって彼女達は飲み食いや談笑を始める。
ノリについていけずに置いてけぼりにされる古子と俺。
歓迎会というのはパーティを開きたかったマルセイユのこじつけだったらしい。
「それにしてもこれだけウィッチがいると壮観ですね。
……僕はここにいていいのかなぁ……」
ここに来るときに見た看板には『ここから先に踏み込んだ男は容赦しない』と
いう内容が書かれていたことを思い出して身震いする。
「僕、生きて出られるかな?」
「あ、あのー……」
「ん?貴女は?」
「わ、わたしはシャーロットです。はじめまして。」
金髪のポニーテールの美少女が俺に挨拶をしてくれた。
「これはご丁寧にどうも。『俺』といいます。あの、カールスラントの方ですか?」
「そうです。俺さんもそうだって聞きましたけど?」
俺がその問いに答える。
「正確には何人かは分からないんです。
ものごごろついたときには、もう孤児で研究所にいましたし。
僕の肌の色は黄色いのでもしかしたら扶桑の流れなのかもしれませんね。」
そういって俺は昔を思い出す。
白衣の人間達に取り囲まれ、投薬や実験を繰り返したあの日々。
苦い薬を無理やり飲むのはつらかったし、
実験はひどいものだと大怪我をするような苦しいものだった。
しかし、人間の馴れは恐ろしく、
しばらくするとそれが当たり前のことのよう俺には思えてしまっていた。
苦い薬には馴れ、いつしか痛みは感じなくなった。
それに加えて俺は貴重なサンプルだったらしく、
死なないように厳重に注意されていたようだった。
「ごめんなさい。余計なこと聞きました……」
「いえ、話を振ったのはこちらです。ほかに何かございますか?」
「じゃあ、私から質問だ」
俺とシャーロットの会話を聞いていたのかマルセイユがそう言い放つ。
「昼間のあれはなに?生身でネウロイとやりあってたけど?」
生身でということばにまわりのウィッチたちも騒然となる。
ストライカーもなしに人間が、しかも男がそんなことができるとは到底思えない。
「あれは研究所の実験の成果らしいです。
僕の体はナニカサレていて、ネウロイの物理攻撃に耐えられる強度と、
戦いに必要な身体能力、傷を修復する回復力が備わっているそうです。」
そうやって俺は研究所の人間から聞かされていたことを話す。
そういえば耐久実験で戦車砲の直撃をもらったこともあった。
いくら大丈夫だと分かってはいても、
あれは死ぬかと思ったといまさらながらに思い出す。
「攻撃方法は素手の近接戦闘と砲撃です。
まあ、射撃は下手なので零距離しかしたことないですけどね。
あ、そうだ、シャーロットさん、ちょっとよろしいですか?」
「なんですか?」
「いえ、せっかくですし、
お近づきの記念に似顔絵を描かせてもらおうかと思って、
だめですか?」
「似顔絵……ですか?いいですけど。」
ありがとうございます。
といって俺は自分の荷物から古ぼけたスケッチブックをとりだした。
俺はそのスケッチブックに鉛筆で彼女の顔から胸元あたりを描いていく。
5分ほどして似顔絵は完成した
「できました、どうぞ。」
そういって俺は紙を切り離してシャーロットに手渡した。
それをシャーロットと、一緒にいた稲垣真美軍曹と加東圭子大尉が覗き込む。
「うわぁ~!」
「へぇー、なかなかよくできてるわね。」
「そっくりですね。いいな、あの、私も描いてもらってもいいですか?」
「ええ、もちろんいいですとも。」
俺の意外な特技に驚き、
興味をもったウィッチたちは次々に自分の似顔絵も俺に描いてもらう。
結局彼はその場にいる全員の似顔絵を描いたのだった。
~オアシスから15kmほどはなれた地点~
歓迎会のあった翌日、ウィッチたちと俺は3将軍に呼び出され、
昨日のはぐれネウロイを討伐する任務を下された。
ウィッチたちの統合的運用を視野に入れたものだそうで、
この作戦の是非で、それか有用なものかの
テストを兼ねているらしい。
戦いを前に、将軍達はそれぞれ自分の配下のウィッチたちに檄を飛ばしていた。
「それにしてもなんで3人ともあんなにぼろぼろなんだろ?」
俺は疑問に首を傾げる。
将軍達の顔にはなぜかばんそうこうや包帯が巻かれていた。
ちなみに俺はカールスラントの勢力なのでシャーロットの随伴歩兵として
カールスラントの作戦域にいる。
「さあね?ところで俺君。銃の調子はどうだい?」
「良好です。長い間あんまり整備できてなかったから助かりました。
ありがとうございます、シュミットさん。」
俺はシャーロットのストライカー『ティーゲル』の整備兵である
ミハイル・シュミット技術大尉に礼を言った。
「それはよかった。少々型が古かったからね。
ある程度現行のものを流用したことで、使い勝手がかわるかもしれんから
気をつけてくれ。」
「まあ自分はいつも零距離射撃ですから大丈夫ですよ。……ん、始まりましたね。」
遠くのほうで爆音が響いた。たしかあっちはリベリオン軍の作戦域だったか。
そのまましばらくその場で響いていた爆音はさらに遠ざかり自分たちとは反対側のブリタニア軍の
作戦域に移動しつつあった。
「これは……出番はないかもしれませんね?」
「そうでもないみたいよ。」
俺のつぶやきに無線機を片手にフレデリカ・ボルシェ技術少佐が答える。
彼女はシャーロットの上官でシュミット大尉の恋人らしい。
「いま、ロンメル将軍から連絡があったわ。
ティーゲルとその随伴は現作戦域から移動。目標を追撃せよ。ですって。」
「いいんですか?ルール違反になると思うんですけど?」
「……ま、命令だしね。さぁ移動するわよ!」
その後はひどいものだった。カールスラント勢の乱入により戦場は破滅的に
混乱し、各隊の連携が乱れ、仲間が射線に飛び込んだりして同士討ちを起こしそうになる。
実際に俺はネウロイに肉薄していたために何発か流れ弾をもらった。
その混乱を収めるべき将軍たちは将軍たちで取っ組み合いのケンカをしている始末だ。
~上空~
「あ~あ、しっちゃかめっちゃかね。
まったくなにやってんの、あのおっさんたちは!」
上空で索敵と観測を行っていた加東大尉が毒づく。
将軍達がいつまでもケンカしているせいでネウロイは戦域から逃げ出してしまった。
「こんだけの部隊をつかって取り逃がすとか恥もいいとこ……まずい!
警報!ネウロイが再度出現、場所は将軍たちの真ん前よ!!」
地中に隠れていたネウロイが飛び出し、崖の上の将軍たちを襲う。
「どっせ~い!!」
しかし、かれらの護衛をしていた古子がネウロイを銃剣突撃で押し戻し、
マチルダの投げ槍がネウロイを崖下に叩き落した。
地面に叩き落されたネウロイはもう一度体勢を立て直そうとしたが、
その上に俺が飛び移り、零距離射撃によってふたたび地面に叩き付けられた。
それを各国のウィッチたちが取り囲み、
『くたばれ!』
一斉射撃でネウロイを木っ端微塵に粉砕した。
その爆風で俺は再び空を舞う。やがて重力に引かれて墜ちていった。
「え?ちょ、ちょっと!?」
落ちてきた俺を、ブリタニア軍のマイルズ少佐が受け止める。
「あ~、ごめんね?ものすごく頭にきてたからあなたのこと忘れてたわ。」
「あ~!マイルズ少佐が男の子をお姫様抱っこしてる!」
「へ~、みかけによらずやるじゃん。少佐」
リベリオン軍のパットンガールズが囃したてる。
「ちょっとそこのスクールガールども、だまってなさい!ねぇ、あなた大丈夫?」
「う~ん。失敗した。爆発を計算にいれてなかった。」
爆発の衝撃によって起きた脳震盪から回復した俺がそういう。
「まったく。無謀にもほどがあるわよ、あなた。
ま、おかげで仕留められたんだから、いいか。
とにかくありがとう。お疲れさま。」
「どういたしまして。ふぁぁっ、少し疲れました、すみませんが後をお願いします……すぅ」
「え?ちょ、ちょっと待ちなさいって……寝ちゃった。」
力尽きた俺はそのまま彼女の腕の中で寝てしまった。
結局このとんでもない作戦の結果は、ウィッチたち全員の協同戦果となり、
また古子の意見具申(拳骨)によって将軍たちは納得し、
これから先は協同して指揮にあたることに決めたそうな。
最終更新:2010年11月02日 14:22