今の状況を整理するために、自分語りをしようじゃないか。語る相手がいないのが寂しいが……ああ、ちょうどいい。そこの廃屋に聞き手になってもらおう。……さて。
俺は小学生の頃、いわゆる虐められっこだった。まあ、そんなに珍しいことでもないだろう。
給食に画鋲とゴキブリのダブルトラップを仕掛けられたときは、さすがに狂気を感じたけど。画鋲って口の中に刺さると抜くの結構大変なんだぜ。さすがに小学生のやることとしては悪質過ぎないか?
クラス全員が敵だったから、先生も信じてくれなかった。
ま、そんなこた今となってはどうでもいい。流してない便所の水に直接口をつけて飲んだのも、授業中がいろいろ我慢大会だったのも、今となっては良い思い出……とは言わないが、些細なことだ。
なんたって、その後俺は何度も死んだから。まあ結局一度も死ねなかったんだけどさ。その結果が身体のあちこちに残ってるけど、今はその話はよしとくか。
で、まあそんな具合に酷い扱い受けてたんだけどさ。俺、当時は結構ポジティブで元気で強い、我ながら偉い子だったから、悲しくはあったけど惨めには思ってなかったんだな。
スポーツが割と得意で、体育の時間はずっと先生が見てるからあんまり手出しもされないし、あの時間は俺は輝いてたね。特に野球が大好きだった。
球ぶつけられても硬球じゃないからそんな痛くないし、みんな勝ち負けにこだわるから味方は何もしてこないしな。
……だけどまあ、そんなのいじめっ子たちがほっとくわけもない。当然、打開策を思いつくわけだ。
要するに、体操服を燃やすってだけなんだけどね。当時その小学校では落ち葉とかは敷地内で生徒が燃やしてたから、そのなかに放り込むだけでお手軽焼却ってわけ。
むしろ、それまでやつらが実行しなかったのが不思議なくらいだな。
俺、あのときは泣いたね。全力で泣いたね。だってまだ小学生だし。どうせ新しいの買ってもすぐ燃やされるし。
先生は服装とかには厳しい先生だったから、当然体操服以外で体育の授業に参加はさせてくれない。
あんまり連続で忘れたことにしてると先生からの風当たりまできつくなりそうだったから、俺は考えた。
そのときもう年明けてて、あと数ヶ月でクラス替えだったの。それまで耐えれば大丈夫なんじゃにかと思って、怪我してるからってことで見学させてもらうことにしたんだ。実際、体中いろいろ傷だらけだったし。
今ほどでかいもんじゃないけど、一生残りそうな傷もあったから、先生も認めてくれてな。
で、その見学第一回がサッカーだったの。みんな目の前で楽しそうにボール蹴ってやがる。俺はもう羨ましくて悔しくて。ふざけんなと。お前等のせいで俺がどんだけ苦しんでんのかわかってんのかと。運動場の端で必死に涙をこらえてたわけだよ。
そしたら、目の前にボールが転がってきた。ゴールをはずしたボール。で、それを追っかけてこっちに来るのが、当時いじめっ子の中心になっていた奴だったんだよ。山野……だったか。それはそれは幸せそうな顔をしてたね。人生を全力で楽しんでる奴の顔だった。
そりゃ、理不尽だろ。あいつらこっちの苦痛もしらないで。苦労させてんのあいつらなのに。
そんな理不尽に対しての恨みを全部こめて、足下のボールを思いっきり蹴り付けてやったよ。あのとき頭ん中は怒りで真っ白になってて、正直あんまり覚えてないんだがな。
でも、一つだけ覚えてる。そのボールを蹴った直後、すごい音がして、その山上の体が弾け飛んだんだ。ボールはどこかに消えて、代わりに足下には山本の頭が転がってた。それからはもう覚えてない。
気づいたら、その運動場は大惨事だった。血の海っていうけど、そんなもんじゃないな。飛び散った肉片や毛やその他もろもろがそこら中に飛び散って、赤とかよりもむしろ黒?
で、我に返った慌てて運動場から飛び出して。あの学校は山に建ってたから、運動場は校舎からちょっと離れたところにあって、そのおかげで捕まらなかったんだろう。
で、気づいたら社会人だった。俺が覚えてないだけなのか、誰かと入れ替わったのか、平行世界にでも飛んだのか。その辺、俺はSFにも心理学にも興味無いしよくわからん。
とにかく俺は普通の社会人だった。普通に生活してた。猫かぶって。
廃墟めぐりが趣味になった。廃墟に潜り込んではひたすら破壊してた。……『能力』を使って。
そんなとき、入ったものが帰ってこないという廃屋の話を聞いた。そう、お前だよ、お前。
その後はお前も知っての通り。逃げるために、罰をうけるために、この世界に入り浸って。何人も殺して、何度も死にかけた。お前を破壊して帰れなくなった。そう、あのとき、俺は、お前を、壊した。粉々に。間違いなく。
……ということで、現在に戻ってきて、お前に問いたいわけだが。何がどうなってんだよ?
つーかお前、昨日までここには何も無かったじゃねえか。お前を壊したのここじゃないし。でもそのヒビには確かに見覚えあるし。
帰れないと思ってたのに。覚悟決めてたのに。
あれから罰を背負わされて、この世界をさまよって、ここで生きていこうって決意したのに。
なんで今更になって帰る道が現れちゃうんだよ。それこそ理不尽だよ。俺の決意って一体なんだったんだよ。
…………ああ、そうか。これも俺への罰か。なら、こんなのささやかなもんだ。
なら、俺はそれを受け入れよう。この身体で、中途半端な気持ち抱えて、あっちの世界で生きていこう。
んじゃ、そうと決まればさっさと行くかね。
これで、終わりにしようじゃないか。
最終更新:2010年12月13日 00:19