その少年は、骨の髄まで日常に漬かっていた……つい一ヶ月前までは。
彼は、能力を授かってしまった。
どこから来たのかなんて知らない。ただ、気付いたら能力を持っていた。
目の前で喋っている友達が、何を考えているのかが手に取るようにわかった。そして、その力の存在に気付いた。
どんな力なのかはすぐにわかった。いつの間にか知っていた。
その力は、彼を孤独に陥らせるには十分な『異常』だった。
彼は、自分が特別な存在なのだと思うことにした。
自分は、人類を超えた何かに選ばれたのだと。
中学生という年代も、その妄想を助長した。
そして彼は、『日常』から去ることにした。彼は、孤独に耐えられなかったから。
学校を逃げ出した。
家には帰らなかった。
街を出た。
走った。
そうしたら、「ソコ」にいた。
そこは彼にとっては夢のような世界だった。
周りは能力者ばかりだった。自分を受け入れてくれる世界なんだと思った。
だから彼は、そこで平和に過ごした。楽しく、なんの心配をすることもなく。
——どうせ彼の能力は、この世界にとって大きな影響を与えない——そう思っていたから。
しかし、その平和を打ち壊したのは彼の能力だった。そして…彼自身だった。
彼の世界は、幻想だった。彼はそれに気付いてしまう。
彼は戦場にきていた。ただの好奇心からだ。
そこに行けば面白い者が見れるだろうと思ったから…それだけだった。
しかし、我慢できなくなった彼は、その『世界』に少しずつ干渉を始める。
彼に『服従』する能力者がいた。
きっと、それが始まりだったのだろう。
自分が他の能力者と渡り合えることを知ってしまったのは、彼に取って大きな不幸だった。
彼がもう一度『世界』を見たとき、彼の目に見える者は一変していた。
能力者の心を覗いた。彼らの底の浅さが見えた。結局、彼らも昔の友人達と変わらなかった。
しかし、その幻滅は、少年にとって必要だったに違いない。
いつまでも、夢は見ていられないのだから……。
彼が不幸だったのは、同時に「戦い」を覚えてしまったことだ。
彼は思った。「ボクが『世界』の頂点に立てばいいんだ。ボクならできる。ボクは選ばれた存在なんだ」
いつの間にか彼には、他者を見下すことしかできなくなっていた。
そして彼は……力を得てしまった。「拳銃」という具体的な力を。
その力が彼の思い込みを加速させる。
そして彼は、敗北する。
当然だ。身の程を弁えなかった。それだけのこと。むしろ、健闘した方だろう。
しかし、「敗北」だった。
彼には、その敗北は自分の存在が否定されることに他ならなかった。
もはや自分の考えを改めることなんて不可能だった。
……少年は、狂った……
彼は、その敗北を否定した。
自分は負けていないのだと。
次に自分が勝てばいいのだと。
だって、自分に負けなどありえないのだから。
自分は頂点に君臨するべく生まれた、選ばれた人間なのだから。
いや、もう人間ですら無い。神だ。神が負けるはずが無い。
だからあんな胸くそ悪くなるような戦いなんて無かった。あっていいはずが無い。
オレは誰にも負けない。誰に劣ることも無い。オレは…………
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
最終更新:2010年05月25日 01:52