「―――うそ、だろ?」
青年の眼の前には一人の男と、四人のよく知った―――いや、青年にとって掛け替えのない仲間が横たわっている。
「―――何を、した」
聞く必要はない。聞かなくても青年は理解している。
「見て解らんのか?」
男は、そう口にした。見て、何が起きたかを理解できないのか、と。
解る。
青年に解らないはずがない。
だが、認めたくはない。
それを、認めたくはない。
答えを、認めたくはない。
「何をしたって聞いてんだよぉおおおッ!!!!」
知らず、青年は叫ぶ。それは、認めたくない故の。叫ばないと気が触れてしまうから。
「―――知れた事。ただの初期化に他ならん」
男は青年の叫びを意に介さず、そう口にする。
「ふざけるな・・・。なんの、どんな理由があって貴様にそんな事をする権利があるってんだよぉ!!」
なお叫びながら、青年は静かに、冷静に『能力』の発動準備に入る。
「―――理由など無い」
「理由もなく、貴様は、貴様は―――」
青年は横たわる四人の掛け替えのない仲間を見据える。彼らは、もう、何も言わない。動かない。
「―――あいつらを殺したのか」
「まぁ、強いて言うならば・・・そうだな、それが私の 俺の 僕の 我の為すべき事というだけだ」
「あぁ、解った――――貴様を殺す」
――キュンッッッッ!!!!
【荒嵐風神】
風を繰り、嵐を従える能力。
今放たれたものは、亜音速に達する真空の刃。その数は十二。
男を目掛けて、事実上不可避の真空の刃が襲い掛か―――
「ふむ、忠告が遅れたか」
「――――ッ!?」
―――らず、男は青年の背後から声をかける。
ギャギャギャギャギャギャッッッ!!!!!
真空の刃は、男が立っていった空間を切り裂き、霧散する。
そう、男 が 立 っ て い た 空 間 を 。
「私を 俺を 僕を 我を 殺したいと思うのは君の 貴公の お前の 貴様の勝手だがな。能力を使わずに戦った方が勝機は得やすいと思うが―――まぁ、過ぎた事。存分に初期化されよ」
だが、青年の反応も然るもの。この事態に『能力』を行使し、振り返りざまに風弾を放つ―――よりも速く。
「―――があっ!!!」
電撃が、青年の身を焦がす。
それでも咄嗟に転がりながら距離を取る様子で、青年の戦い慣れというのを窺う事ができる。
事実、青年とその仲間達はこの界隈ではそれなりに名の知れたチームだった。もっとも、正義を馬鹿にし悪を笑うという類のものだったが。
「電撃の能力者・・・?」
青年は呟き、即座にそれを首を振って否定する。
確かに、男の放ったものは電撃の他にないがそれだけでは真空の刃を避け、青年の背後を取る事はできない。
そして、青年は一つの答えにたどり着く。『自らを電撃と化す』能力者だ、と。
「いや、自らを電撃と化す能力は未だ私の 俺の 僕の 我の内には無いぞ」
男は、青年の心の内に答えるかのように。
「・・・・・・未だ? まさか、いや」
「―――どれ、こうか?」
男が俺に向かって手を翳すと
―――キュンッ!!!
「!! くそっ!!!」
飛んできた真空の刃を咄嗟に嵐壁を呼び起こして防ぐ。
「今のは、俺の―――」
これでも何度も能力者と戦ってきた事がある。似た能力ならばその中で何度か見た。だが、今の能力は、威力こそ低かったが確かに俺の、
「別段驚く事でもあるまい」
驚かないはずが無い。あれは俺の能力。唯一無二の、俺の【荒嵐風神】。
「そもそもな。君に 貴公に お前に 貴様に出来ることが他人には出来ないと―――」
言葉の途中で、男は俺の視界から消え。
「―――何故、決め付けるのだね?」
トス、と。
音のした方向を見てみれば、
「――――え、」
胸から、刃物が、突き出ていた。
「―――――――こふっ」
喉に、鉄の味がせり上がってきて、ぱしゃぱしゃと地面に鮮血が降る。
「ふむ、そこのとは違い意外と頑丈だな。多少は、誇っても構わんぞ」
「ふざ、ける―――」
俺の背後から刃物を突き刺したという事は、至近距離に男が居るという事に他ならない。
だから、言い終わるより速く。速く。速く。
「―――なぁぁぁぁぁああああああっっっっ!!!!!」
―――キュガ、という音。
自己の中心から外へ向けて【荒嵐風神】による真空の刃を四方八方三六〇度へ乱射出する事実上回避不可能の無差別絶対必殺攻撃結界。
その名『吹き荒ぶ凶陣』。
それに喰い付かれたが最後、人は人の原形を留めずに死を直視する―――の、だが。
男は、それを直視し。
―――ザクンッ!
「―――な!?」
青年は驚愕する。
「―――ほう、私の 俺の 僕の 我の腕を喰らうか」
原形を留めずに死に至る必殺を右腕が千切れる程度の損傷で切り抜けた事を。
「さすがに、全天無作為攻撃全てを避け切る事は適わんか・・・。まぁ、この程度の損傷ならば是といった所よな。しかし、腕が無いのは存外バランスが取り辛いか・・・。ふむ・・・」
男は千切れた右腕を拾い上げ、切断面を合わせる。すると、まるで、時間が巻き戻ったかのように右腕が接続される。
「―――ッ!」
青年の、幾度目かの驚愕か。信じれない。信じたくは無い。目の前の男の能力はなんだ。電気に類するモノではないのか。一体なんなん―――
「ま、さか・・・」
そして、青年は思い至る。一つの能力のカテゴリーに。
そのカテゴリーは最強の一つとされるもの。他者の能力を複写し、自らの能力として扱う稀少能力。
「少し違うな。私の 俺の 僕の 我の能力は他者の模倣だ。複写ではない」
刹那。
ザクン、と。
音を立てて。
「な――ん、」
ゴトリ、と。
音を立てて。
「―――複写と模倣の違いを理解できぬ塵芥が多すぎるな」
男が口を開く。
青年の身体は直立のまま。
「今のは 君の 貴公の お前の 貴様の能力と他者の能力の複合に拠るモノだ。どうだね、君の 貴公の お前の 貴様の能力よりも切れ味が良かったろう?」
首は、男の足元に。
「しかし、まぁなにかね。人の話の途中に死ぬのは如何なものかと思うがね」
男はカカカ、と笑い声を上げ、それらを初期化した―――。
一刻の後。
その全てを見届けていた一羽の梟が男の頭へと着地する。
「――ホッホゥ。まぁ、殺しつくしたのう」
「アレらも元は実験体の端くれ、もう少し強度は高いと思ったんだがなぁ」
「死体はあのままでよいのか?」
梟の視線の先には肉の塊。元々何人居たか解らないほどにぐちゃぐちゃな肉の塊。
「――あぁ、あのままで構わん。不出来では在るが初期化は成った。然すれば誘蛾の一つにでも為るだろうさ」
男は笑う。
カカカカカカ、と。
こうして、日常の1コマは終わりを告げる。
―――さぁ、明日もまた日常は続く。
最終更新:2011年01月19日 10:20