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【遠い記憶から act.2】

遠い血縁者の結婚式なんて、見ていて何も楽しくなかった。
”彼らとは同じ血が流れている”なんて言われても、現実味がなさ過ぎるのだ
だから俺はすぐに本家へ、この土地での家へ帰ることにしたというわけ。
幸いにも両親や祖父母たちは思い出話の花を咲かせるそうで、何事もなく開放してくれた。

までは良かった。

日が照っているというのに、まるで霧の中に居るように方向感覚が無い。
入り組みすぎて、軽く引っ張ってしまえば千切れてしまうんじゃないかというほど張り巡らされた道。
山を切り開いて作ったが為か、高低がある立体的な地形。
犬のおまわりさんがいる訳でもない、むしろこの置き去りの街でお巡りさんに出会った覚えがない
何時もしんとしていた街並みは、今日は特に静まり返っている。







世界が違う
この世界が本当の世界なのか、いつもの世界が本当の世界なのか分からなくなる。
迷子だ、ずっと迷子。
きっと違和感や不自然を思ったときから、この世界から迷子になっていたんだと思う。

何時もの世界の周囲は受験とか進学とか偏差値とか、バレンタインとか試験だとか
そんなものばかりが傷に出来た膿みの様に増え続けているだけ。
誰の語りだって、この耳と脳には全部夢のように消えていった、誰も誰もが劣等感や優越感の物差しで世の中を見ている。
教師も生徒もあのコンビニの定員も、俺も。
総括すると「世の中はサイテイ」だということだ。



本当にサイテイ、こんな歳になって迷子になるなんて







目の前を歩く小さい背中、覚束ないその歩みと、さっきまで泣いていたからか若干朱に染まって腫れたその顔
いつの間にか俺の冒険に、小さな小さな付き人が増えていた。
多分俺とは十は離れているであろう、見知らぬ白い毛糸の帽子をかぶった少女。
旅は道連れなんていうのは嘘っぱちだとこのとき痛感していた、だってこんな小さな女の子を道連れにしろって言うのか?
だからこれは”道連れ”じゃなくて”道探し”だ、そう、お互いそれぞれの道を探しているだけなんだと。
しかし姉さんから貰った飴がこんなところで役に立つと思っていなかった、苦さを砂糖が埋めてくれたんだろう。
飴は……甘さっていうのは偉大だ、悲しいとか辛いとか、そういうイガイガして刺さるものをものを包んでくれる。
とは言っても、もう30分は歩いているわけで、あの小さな体にはそろそろ限界じゃないだろうか







小さな小さなこの坂を上がる、そうするともっと小さい肩を上下させる白い帽子の子。
体が勝手に動いていた。
今までの経験上、無意識の反応って言うのは珍しいことじゃなかった。
でもこれはそういうのとは違う、”体”の無意識じゃなくて”心”の無意識だ
背中が重くなった代わりに心が軽くなったのが何よりの証拠だと考える。
坂を上る足取りがゆれない様にと繊細なものになっているのが、とてもとても滑稽だった。







もう日が頂点を少し過ぎてちょっとだけ傾いて、俺も背中の重さからちょっとだけ傾いて。

―――――

多分女の人の声だ、息絶え絶えの音だったから何を言っているのかは少し識別できなかった。
でも間違いなく俺の知り合いではないのだけは分かる

振り返りながら背中に背負っていた小さなそれを揺さぶる、バッと頭が上がった際に涎が首にかかった。
冷たいし、気持ち悪い。







振り返るともうそこに影は無い、うれしそうな影2つは反対側へと下っていったのだ。
あの時俺に向かって呼ばれた言葉、「ありがとう」とって舌足らずで分かりづらい言葉。
ただ純粋な感謝と想いと視線。
飴一つと制服のクリーニングの変わりに手に入れたのは、きっと忘れることができないものだと思った。


「よかった、この世界はサイテイじゃなくて」


さっきと同じで、心は温かくなって心地よかった。

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最終更新:2011年01月20日 17:48
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