“某留置場 死刑囚隔離棟”
暗く陰気な屋内。床は大量の血で赤く染まり、死刑囚と思わしき“残骸”が転がり地獄絵図となっていた その惨劇の真ん中に一人の青年がポツンと存在し、さも当たり前であるかのように周りを眺めていた
その様子をこの棟で最後の“生きた死刑囚”が檻の中で震えながらただ見つめている。それに気づいた青年は明らかに場違いな声で檻の中の死刑囚に話しかけた
「あのー、あなた“キラーシックス”さんですよね? あの連続殺人の…」
質問された死刑囚は震えながらゆっくりと頷く
「やっぱり…。しかし情けないですね、あの殺人鬼がこんなに震えていて」
「えっ?何故俺だけ殺さないのかって? もうすぐ分かりますよ」
「とにかく、今からあなたはここを出て別の場所に移って貰いますから」
そう言い終わるなり、死刑囚に銃口を向け引き金を引いた
「どうです、気が付きましたか?麻酔銃で眠ってる間に移動させて貰いましたよ」
その声を聞いた死刑囚は目を開けて辺りを見回す。どこかの病室だろうか、真っ白な部屋の片隅にベッドが一つあるだけだった。
もっとよく見回そうと死刑囚は立ち上がろうとする。だが既に死刑囚の両手両足は拘束され全く動かなかった
「“キラーシックス” 女性を誘拐し拷問にかけた後、死体を遺族の元へ郵送した凶悪犯…」
「被害者は6名、遺族の中には自殺した者も多く、精神が崩壊した者もいる」
「それにもかかわらず、弁護側は裁判で責任能力が無かったとして無罪を主張」
「その結果裁判は大幅に長引き、先月死刑が言い渡されるまで続いた…」
突如死刑囚の概要を語り始める青年。その後ろにはいつの間にか中年女性が立っていた。
死刑囚はその姿を視認した途端、声にならない悲鳴をあげ、大きく震えだす
「やっと気が付きました? そうです、僕の後ろにいるのは遺族の一人…さっき説明した人ですよ」
「彼女は娘の遺体を見て発狂、それ以来あなたを殺すことばかりを考えていたんです」
「とりあえず説明はこれくらいにして私は失礼します。一応言っときますけどこの部屋は完全防音にしましたので」
そう言うと青年はドアを開け部屋を出ていく。それと同時に女性は死刑囚へと襲いかかり…
その後は大体予想できるだろう…。女性は死刑囚を切り刻み、ただの肉片にまでしてしまった
青年は部屋の中央に立っていた。部屋には青年以外に3人の男が居る
一人は見るからに狂人で、部屋の隅に立って喋り続ける…「悪を駆逐する悪として輝け」と
もう一人は紅いコートを見に纏い、煙草を吸いながら青年へと問い続ける…「お前の正義はなんだ?」と
そして最後の一人は背が低くて何故か猫の耳が生えていて……ただ泣いているばかりだった
青年はそこで目を開け、寝床から起き上がる。昨日は遅くまで死体を刑務所を戻して病室から証拠を消す作業に追われていた
「またか…」
あのような夢を見るのは初めてではない。最初に人を殺した夜からずっと、殺人をするたびに見ていた
最初の頃は飛び起きたりもしたが次第に慣れていき、今となっては何も感じていない。流石にいい目覚め方とは言えないが
青年は寝床から立ち上がり、テレビを見ながら朝食を採ることにする。ニユース番組では、昨日殺した死刑囚逹の写真が並んで映っていた
だが青年の頭には入って来ない。いまだに夢のことを考えていたからだ
あの3人の顔を青年は知っていた。2年前まで仲間だった人が二人。敵だった奴が一人
青年は昔、ある勢力にいた。今の“仕事”を始める際に一方的に脱退したのだ
その“仕事”というのはただ一つ、悪人を殺すこと…。仕事と言うより使命や生きがいと言った方が近い
その“仕事”の為に青年は今まで多くの悪人を殺して来た…
ある時は昨日のようにいまだに執行されていない死刑囚を虐殺し、ある時は被害者の復讐に手を貸し
ある時は残酷な方法で、またある時は悪人と同じことを…そうやってあらゆる方法で悪人を殺してきた
「石川や浜の真砂子はつくるとも 世に盗人の種はつくまじ ……よく言ったもんだ」
事実、かなりの人数を殺したのにも関わらず犯罪の数は減ってないように思える
おそらく、この先ずっと青年は殺し続けるだろう。いつか悪人が消えるまで
「さてと、今日の“仕事”を始めるか。今日の敵は麻薬売買の組織…ちょっとは骨が折れそうだな」
朝食を食べ終え、独り言を呟きながら青年は外へと出て行く
「悪人は俺一人が存在してればいい。その日まで殺し続けてやるだけだ」
そう言って歩き出した青年の右手には、十字架の指輪が光っていた
最終更新:2011年05月28日 13:43