“一番執行部隊、隊長やらない夫死亡”
その知らせは“ジェイル”に混乱を呼び寄せた
「やら兄が、死んだなんて…ウッ、ヒグッ」
あるモノは悲しみに暮れ―――
「“強敵”よ、貴様の仇は俺がとる!」
あるモノは怒りに身を浸らせ―――
「やれやれ、仮にも一番執行部隊の隊長が能力者と争い死ぬなんて…恥以外の何でもない」
あるモノはその死を侮蔑し―――
「隊長、敵、取る……殺す!ころす!コロス!」
あるモノは狂気へと走った
「そんな物騒な言葉は使わない方がいいですよ」
その言葉に、思考を狂気から脱出させる
「“できる夫隊長”…」
「“ジェイル”はあくまで裁判機関。殺害するのではなく、捕えて“罪”を償わせるのが目的の機関です」
「偶々、話を聞いていたのが僕で良かったですが、他の隊長ならタダでは済みませんよ」
柔和な表情、柔らかな物腰
普段は気持ちを安らがせるそれも、今は苛立ちの要因なだけ…
「できる夫隊長は…できる夫さんは、悲しくないんですか?親友だったんでしょ?隊長と」
怒りのままに、声に思いを乗せ、浴びせる
「悲しいに決まっているでしょう、僕だって聖人じゃない」
「親友の死を聞いて、内心穏やかでいられるはずは無いんですよ…」
あぁ、やっぱり“できる夫さん”だ
冷静で、頼りになる、“やらない夫隊長”の“親友”だ
「だったら今すぐ、敵を――」
「それは出来ません」
遮る声は、やはり優しく
「な、何で…」
「確かに怒りは感じますが、それでも僕は“ジェイル”で四番隊執行部隊長を任されている身」
「個人の感情では動けません」
無情にも、“親友”より“機関”を優先させる意思を表す言葉を発する
「そう…ですか…」
分かっていた。たった一人の人間の為に動ける程“ジェイル”は軽い機関では無い
分かっていた。たった一人の人間の為に動ける程“できる夫隊長”は暇では無い
そして
分かった。たった一人の人間の為にここまで考えているのは自分しかいない
「じゃあ、俺だけで行きます」
「それも出来ません、仮にもあなたは“ジェイル”の一員なのですから」
“ジェイル”“ジェイル”、ウンザリだ。そんな名前聞きたくない
隊長の仇一つとれない無能な機関なんて、必要無い
「ちょっと、何を――」
「要らない、こんな物は要らない」
ビリッ、という音と共に“ジェイル”の証である、支給された戦闘服を破り捨てた
「俺は行きます、“ジェイル”としてではなく、一個人として」
「はぁ、良いんですかねぇ…見過ごしちゃっても」
無残な姿になった戦闘服を手に取って、見た
「いや、僕に彼を止めることは出来ませんね」
「“親友”を捨て、“機関”に従った僕に止める資格は無い」
戦闘服の主は先程、“ジェイル”から飛び出して行った
この服を見る限り、もう戻ってくることは無いのだろう
「それでも、例えどんな風に思われても僕は“ジェイル”の四番隊執行部隊隊長”の名に“誇り”を持ちます」
「それが“やらない夫君”を追えなかった、僕の“罪滅ぼし”です」
虚空に声を投げかける
彼はその中に、何を見つけたのだろうか――満足そうな顔でクルリと背を向ける
「さて、もし僕にも出来ることがあるとすれば、“コレ”を彼に届けることくらいですかね」
懐から取り出すは、“おもちゃの剣”
「あなたの“魂”を受け継げるのは、あなたと同じ“血”を引いた彼だけです」
「僕は“案内人”。“彼”と“彼に宿った異形”を“戦場”へ導くモノ」
「やらない夫君、怨んでくれても構いませんよ。これは僕が出来るささやかな、あなたの為の“復讐”なんですから」
“復讐劇”の結末は闇の中へ
最終更新:2010年06月27日 00:48