【伯爵と少女】

何百年か前の話

とある古城には伯爵と呼ばれ、恐れられている吸血鬼がいました
毎晩近くの村に出かけては日替わりで若い女や若い男を攫い、血肉を食らい尽くしていました

その晩、伯爵はいつも通り村へ出かけると一人の少女を見かけてこう問いかけました

「今日の獲物はお前だ、だがただ食べるのはいい加減飽きてきた」
「最後に会いたい人に会わせてやろう」

伯爵はその最後に会いたい人物を攫って食らいつくし、少女が絶望する様を見ようと考えていました
少女は恐怖に怯えた表情をしながらこう言いました

「私には家族もいず、友達もいないので会いたい人がいません」
「今までの生活は全て一人でやってきました」

伯爵はこの返答にかなり困りました
そこで仕方なく代わりの代案を言いました

「それならば欲しい物はあるか?」
「それをプレゼントしてやろう、食いもしない」

伯爵は贈り物を上げてから食べるつもりで嘘を吐きました
幸福の最中で食べれば絶望するのが見れると思ったからです
しかし少女はこう言いました

「私は今の生活に満足しています」
「欲しい物などありません」

伯爵は歯軋りをしてまたもや困りだしました
もう手の込んだ事をする気がなくなってしまい

「もういい、お前をこの場で食らってやる」
「即死などさせずじっくりとな」

死への恐怖は見飽きていましたがこの際仕方が無いと考えました
しかし、またもや少女はこう言いました

「わかりました、もう諦めます」
「今更ジタバタしても仕方がありませんし、何より今まで生きて来れて幸せでした」

これには伯爵も困惑してしまいました、少女は恐怖を知らないほど純粋だったのです
最初の怯えた表情も相手の申し出を断ってしまう恐縮からでした
少女の両肩を掴み紅い眼で睨みながら脅すように

「それならばお前はどうやったら怯える」
「どうすれば恐怖に染まった顔を私に見せる」

怒りと困惑を声に出しながら少女に言いました
少女はこう答えました

「私が怯えることと言ったら豪華な食事でもてなされたら思わず恐縮して怯えてしまうと思います」

少女の眼には嘘や嫌味、皮肉などの色はなく、純粋にそう言っていました
伯爵の困惑は更に深まるばかりでした
少女の言うとおり豪華な食事を用意したとしてもそれは恐怖で怯えているのでは無いからです
挙句の果てに伯爵は苦虫を噛んだような表情で言いました

「仕方が無い、お前を古城に監禁する」
「怯える方法がわかるまでずっとだ」

伯爵はこれで怯えてくれるのを祈っていました
案の定少女は怯えた表情で

「伯爵様の城に泊まるなんて申し訳ないです」

違う意味で怯えていました
伯爵は呆れてしまい、少女の腕を掴んで引っ張りながら言いました

「私は監禁すると言ったんだ」
「それに私がすると言ったら大人しく従え」
「もちろんお前をボロ雑巾の様にこき使う」

少女は引っ張られながら抵抗もせずにこう言いました

「抵抗をしても無駄だと思いますし、大人しく従います」
「今日からよろしくお願いします、伯爵様」

こうして伯爵と少女の奇妙な日々が過ぎていきました

少女は段々と歳を取り、ある日安らかに生涯を終えました

終えた場所は伯爵の古城でした

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最終更新:2010年08月21日 06:33
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