2 :名無しさん:2013/06/10(月) 06:57:10 ID:eQxIuAVk0
大正―
日本の歴史の中でも、たった15年という短期間で幕を閉じた時代。
デモ・震災・戦争…多くの大事件が起こるなか、その裏で人知れず日本の平和を守り続けた者たちがいた。
その名を―――“魔法警察”
「ごめんなさああい!」
多くの人々が行き交う町中で、一際大きな叫び声が響いた。
声の主である少女は、今にも泣き出しそうなほど崩れた顔で太った男を見つめている。
「ごめんで済んだら警察いらねんだよお嬢ちゃん。これ、どうしてくれんの?ん?」
男は横に止めてある自家用車を指差して怒鳴り立てた。
そのドアには小さなキズがついてしまっている。どうやら少女が何かの拍子につけてしまったものらしい。
「えと…その…」
「お嬢さんにはわかんないかもしれんがなぁ、今の時代に車持ってるってどういうことかわかる?私がどういう立場の人間かわかるかね?」
時は大正。都市化が進み、日本の交通はかなり整備されていた。タクシーなどもこの頃から登場し、町で車を見かけることも少なくない。
とは言っても車の普及率はそんなに高くはなく、一部の上流階級や富裕層が自家用車を所持している程度に留まっている。
「つまり、選ばれた人間なんだよ俺は。そんな俺の車に傷つけたんだ。どうしたらいいかはだいたいわかるよな?」
「うぅ…ごめんなさい」
「だ・か・ら!ごめんで済んだら警察は―――
「あ、あのー警察ですが、どうかなさいましたか?」
「ああ?なんだてめえは?」
男の声を遮るように一人の青年が姿を現した。
服装や装備から警官だと判断した人々は、厄介事には巻き込まれまいと次々と距離を置く。
青年はキズのついた車を見つけると大体の事情を察し男に話しかけた。
「えーと…この子も反省してるみたいですし、ここはひとつ、僕に免じて許してあげてくれませんか?」
「…ちっ、わかったよ。大したキズでもねえし、おまわりさんと喧嘩しても得しねえしなあ」
そう言うと、男は不満そうな顔つきで車に乗り込みそのまま走り去ってしまった。
案外あっさり引き下がったもんだな、と少し違和感を覚えながらも青年はひとまず少女の方に目をやる。
今の自分の状況を理解したのか、泣き出しそうだった顔もしばらくすると安堵の表情に変わっていった。
「あの、助けてくれてありがとうございました!なんとお礼を言えばいいか…」
「はは、そんなの要りませんよ。なんたって僕は警察官ですから。市民の皆様の平和と安全を守るのが僕の仕事です。それより、ご自宅は遠いんですか?よろしければお送りしますよ」
「そんな、ご迷惑じゃありませんか?」
「大丈夫です。どうせ暇ですし」
「ではお言葉に甘えて。そういえばあなたのお名前は?」
「本官は○○○○巡査部長であります!」
3 :名無しさん:2013/06/10(月) 07:37:11 ID:eQxIuAVk0
「ほえー…」
目の前に佇む豪邸を前に○○は間抜けツラを浮かべていた。
先ほど助けた少女を家まで華麗に送り届ける、という任務を受けた彼だったが、いざ家に到着するとそのあまりの巨大さに言葉を失ってしまったのである。
「あの…どうかいたしましたか?」
「い、いえ、なんでも。では、僕はこれで。」
「あ、待ってください。せっかくですからお茶でもどうですか?」
「え?」
「先ほどのお礼です。誰かに助けてもらったら必ずお礼をする、というのが我が家の家訓なんですよ。父が言い出したことなんですけどね。」
「は、はぁ…」
これは断れる雰囲気じゃないな、と思った○○は華やかな笑みを浮かべる少女に誘われるように豪邸へと足を踏み入れた。
警護任務などで上流階級の家へ赴くことはあるが、ここまで大きな豪邸はなかなかお目にかかれるものではない。
家具や内装も高そうなものばかりだななどと考えながら廊下を進むと、突然奥の部屋から悲鳴のようなものが聞こえた。
「今の…お父様の声!?」
慌てて奥の部屋へ急ぐ少女と○○。中に入ると、一人の男性が部屋の真ん中で佇んでいるのが見えた。おそらく少女の父親だろう。
「どうしたの?お父様…」
「ああお前か…許可なくこの部屋に入るなと言ったはずだが…?」
「そんなことはどうでもいいです!なにがあったのか話してください」
「…盗まれたんだよ。大事な大事な紋章が…」
(紋章…?)
父親の口から出た紋章という単語を○○は無視することができなかった。
紋章とは、この時代の裏で密かに海外から伝わり、極々一部の者のみにしかその存在を知られていない禁断の技術“魔法”に大きく関与するものである。
紋章を銃や剣といった武器に装着することで魔法を発動させ、通常の物理法則を無視した現象を引き起こすことができるのだが、誰でもその力を使っていいわけではない。
日本で唯一、その使用を許可されているのが―――
「魔法警察です。」
「…え?」
「魔法…警察?」
「はい。おそらくあなたが盗まれたのは魔法の力を宿した紋章。魔法絡みの事件となれば僕が動かないわけにはいきません。詳しくお話を聞かせていただけませんか?」
「…わかりました。」
疲れきった様子の父親とともに部屋をあとにした○○は別室で話を聞くことにする。
少女が不安そうな顔をしていたのが印象的だった。
別室での話を終えた○○は、少女のいるリビングへと足を運んだ。
「あの…父は?」
「今は自室で休んでもらっています。相当参ってるみたいですね」
「……あんなもの見つからなければいいのに」
「え?」
「あの紋章、一度だけ見たことがあるんです。十字架のようなものについていて、とても綺麗でした。でもそれが家に来てから父は変わってしまった。一人であの部屋にこもるようになって他人を全く受け付けない。私のことすらも…あれさえなければ…」
「お嬢さん…とにかく、この件は僕に任せてください。盗人の根城はもうわかっています。」
4 :名無しさん:2013/06/10(月) 08:36:45 ID:eQxIuAVk0
「で、それが時間に遅れた理由か?」
「す、すまねえ」
日が傾き、空が紅く染まり始める中、人気のない空き地で二人の男が話し込んでいた。
「ち、これだから成金は…女相手に小遣い稼ぎかよ。まあいい。とにかくブツは回収した。ずらかるぞ」
「お、おう」
黒い帽子を被った男の手には十字架が握られている。つい先ほど太った男が持ってきたものだ。
「待て!」
車に乗り込もうというまさにその瞬間、後方から聞こえた声に二人は動きを止めた。
「魔法警察です。魔導具不正所持の容疑であなたたちを拘束します!」
「ち、犬どもに感づかれたか…だが予想以上に早いな」
「あ、あいつ魔法警察だったのか…!」
「あれ?あなたは昼間の…とにかく、無駄な抵抗はやめるんだ!」
「うるせえよ!」
怒号とともに帽子の男は銃を構えた。銃には紅い紋章があしらわれている。
「く、やはり魔法ですか!」
炎に包まれた弾丸を掻い潜りながら接近のチャンスを待つが、容易に近づけそうにない。
時間だけが過ぎていく中、太った男の方が車へ向かって走り出すのが見えた。
「まずい、このままじゃ逃げられる…一か八かだ!」
○○の体を金色のオーラが包み込んでいく。
「なんだあ?」
「僕のこの力…まだあまり上手く使えないんですが…」
少しふらつく体を立て直し、○○は全力で二人へ向かって駆け出した。
そして一瞬で帽子の男の背後に回り込む。
「な…」
思い切り後頭部に拳を食らった男は意識を失い、その場に倒れ込んだ。
「次はあなたです。」
「くそ……ん?…よし」
何かに気づいたように太った男は右方向へと走り出した。
その先にはここにいるはずのない少女の父が佇んでいる。
「な、なぜここに!?」
「大方、この十字架目当てだろうよ!俺たちを倒したところで十字架は警察に回収されちまうからなあ!この戦いのどさくさに紛れて何とか手に入れようとしたんだろうが…バカが!」
「まずい…!」
先ほどの力を使った影響か、○○の足はすぐには動きそうにない。
そうこうしている間に父親は太った男に捕まってしまった。
「ひゃひゃひゃ!こいつ本当に何しに来たんだよ!おらおら魔法警察さんよお!こいつの命が惜しけりゃ俺が逃げ切るまで動くんじゃねーぞお!」
「く…十字架を返してくれ…それがないと私は…」
「はっはっは!バーーかあ!死者を蘇らせる紋章…こんなの超高位魔法でも聞いたことがねえ。もしかしたら神の領域にまで手が届くかもしれねえんだ。渡すわけねーだろーがよお!」
醜い笑い声が響く中、微かに、だがしっかりと○○は口を開いた。
「君は何故、その紋章を求める?」
「んなもん決まってんだろ?力さ。これほどまでの紋章があれば、おれは絶対的な力を手に入れられる!」
「そうですか…わかりました。なら見せてあげましょう…絶対的な力ってやつを」
強大なオーラが再び○○を包む。だがその輝きは先ほどのもとは比べ物にならないほどにあたり一面を金色に染めていた。
そして次の瞬間目にも止まらぬ速さで○○は車両のうえに着地する。
もちろんこれは太った男の自家用車である。
5 :名無しさん:2013/06/10(月) 08:52:37 ID:eQxIuAVk0
実はオチがまだなので、ラストは今晩
読み返すと父親人質の展開が酷すぎるwww
もしかしたらこの部分手直しするかも
期限に間に合えばですが
6 :名無しさん:2013/06/10(月) 23:55:10 ID:eQxIuAVk0
「お、おい何をするつもりだ!?俺の車から離れろ!」
太った男は慌てて○○に銃を向ける。だが車の上の○○は全く動じない。しかもその後方には少女の父親が倒れていた。今の一瞬で○○が救い出したのだ。
圧倒的に不利な状況に、太った男は声をあげ必死に抵抗する。
「いいか、俺は選ばれた人間なんだ!強者なんだよ!貴様らごときチンケな存在が楯突いていい相手じゃねーんだ!」
ゴシャ!!
太った男が叫び終わるとほぼ同時に何かが潰れる音がした。
自家用車は見事にぺちゃんこになり、その上には先程までとは違う雰囲気を纏った○○が立っている。
「んなもん知ったこっちゃねえんだよ…!」
静かではあるがとてつもない怒気を孕んだ声に太った男は動けなくなっていた。
「さあ…終わりだ」
「ま、待て!待ってくれ!実はこの十字架の紋章で生き返らせたいやつがいるんだ!不慮の事故で死んだ弟なんだが…」
「言っただろ?知ったこっちゃねえって。困ってる人を助ける。俺にとってはそれが全てだ」
男の発言が全くのでたらめであることは誰が見ても明らかだろう。
だが○○はそもそもその真偽にすら興味がないかのように太った男を追い詰める。
「て、てめえ!それでも正義の警察官かよ!」
「俺は正義なんてものに従った覚えは一度もない…俺が背負ってるのはいつだって自分の信念だけだ」
直後、日の沈んだ夕闇を突き刺すように巨大な金色の柱が立ち昇った。
目を覚ますと見覚えのない部屋にいた。どうやらベッドか何かに寝かされているらしい。
体を起こそうと力を込めるが、全身を襲う激痛のせいでまったくもって起き上がれそうにない。
諦めてもう一眠りしようとしたとき、傍らで不安そうな顔をした少女を見つけた。
「目が覚めました?」
「ここは…」
「病院です。警察の方がいっぱい来てあなたを運んできたんです」
「そう…ですか。お父さんは無事ですか?」
「はい、今は別の部屋で安静にしています」
「それならよかった」
「あの…結局あの十字架の紋章はなんだったんですか?」
当然の疑問だな、と○○は思った。今回の事件の中心であり父を変えてしまったもの。その正体を知りたいと考えるのはごく自然なことだろう。
どう説明したものかと言葉を詰まらせていると、突然ドアをノックする音が聞こえた。
「それは私が直接話そう。」
部屋に入ってきたのは少女の父だった。
「あの十字架の紋章は、死者を生き返らせる力を宿しているのだ」
「死者を?」
「そう。あれを手に入れてから今までわたしの目的はただ一つ…母さんを生き返らせることだ」
「そんな…なら私にも言ってくれれば…」
「魔法に関わると我々警察だけでなく危険な連中からも目をつけられる。あなたを巻き込みたくなかったんですよ。」
「うむ…」
「でも、あなたはもう自分の行動に疑問を抱き始めている。娘さんを悲しませていることに気づいているはずです。」
「……」
「お父様…お母様が亡くなったのはお父様のせいではありません。何もかも背負う必要なんてないんです。」
「今まで…すまなかったな…」
「お怪我の方はもう大丈夫なのですか?」
「ええ。体が動かなくなるのは一時的なものですから。」
「この度はありがとうございました。なんとお礼を言えばいいか…」
「だから言ったじゃないですか。気にしなくていいって。市民の皆様の平和と安全を守るのが僕の仕事です」
完
最終更新:2013年06月13日 10:11