シナリオ 北上ルート 8月4日(土曜日)・その1
嘘つくなんてロックじゃない!
いつもの練習場、いつもの開始時間。
なのに……北上が来ない。
まだ寝ているんだろうか。
練習はしないけど、時間だけはちゃんと守っていたのにな。
真緒「んー」
もう少し待ってこなかったら一度寮に戻ろう。
もしかしたら体調が悪くて来られないのかもしれないしな。
奏「………」
真緒「お! 来たな」
奏「………」
真緒「遅かったじゃないか。それに昨日は寝てたのか?」
奏「………」
真緒(……ん)
……なんか機嫌が悪いな。
体調が悪いのか? それとも疲れてるのか?
真緒「北上? 具合悪いのか?」
奏「……別に」
真緒「………」
奏「………」
真緒「ま、まぁ、とにかくやろうか」
奏「……ん」
今日はお喋りに没頭する事もなく北上は練習をしている。
けれど……楽しそうに歌ういつのも様子はなかった。
機嫌が悪いのもあるけど、それ以上に……暗い。
夏バテなのか分からないけど、
そんな状態の北上にライブ止めようなんて言ったら、
さらに暗くなるのは目に見えてるな……
今日言おうと思っていたけど、止めておくか……
奏「……センセ」
真緒「お、なんだ?」
奏「ちゃんとギター弾いてる? 全然手が動いてないし」
真緒「あ、ああ、ちゃんとやってるよ。今ちょっと楽譜を見てたんだ」
奏「………」
真緒「さ、さ~て、今からバリバリ弾こうかな」
奏「……また嘘つくし」
真緒「え?」
奏「センセ……ライブは無理だと思ってるんでしょ?」
真緒「え、いや、そ、そんな事は思ってないよ」
奏「……アタシの歌とじゃセンセのギターは霞んじゃうと思ってるの?」
真緒「い、いや別にそんな風には思った事ないよ」
奏「……じゃ、どうして?」
真緒「ん? どうしてって何が?」
奏「どうしてライブ止めようなんて言い出すの?」
真緒「だから……そんな事は言ってないと思うぞ」
まさか……聞かれてたのか?
昨日の今日でこんな事を言い出すなんて、あまりにもタイミングが合いすぎる。
奏「嘘だしっ!!」
真緒「う、嘘じゃないって」
奏「嘘つくなんてセンセはロックじゃないね!
アタシ見たんだから!!」
真緒「み、見たって、まさか……」
奏「昨日、せえらちゃんと話してたじゃん!」
真緒(やっぱり……)
奏「どうして辞めるなんて言い出すの!!」
真緒「そ、それは……」
奏「正直に話してよね!」
……ばれてたのか、仕方ない。
出来るだけ傷つけないように、ちゃんと話そう。
真緒「分かった、聞いてくれ」
奏「………」
真緒「……今の北上の実力じゃ、北上が想っている様な理想のライブは無理なんだ。だから」
奏「センセも分かってくれないんだ。今までアタシの歌を理解してくれてたと思ってたのに……そんなフリをしてただけなんだ……」
真緒「ち、違うぞ北上」
奏「センセもやっぱり皆と一緒だったんだね。アタシの歌を理解してくれる人なんてやっぱり今の世の中にはいないのかな」
真緒「ぼくは北上を心配して」
奏「もういいし!! センセなんて流行の歌で満足してればいいし!!」
真緒「お、落ち着け北上」
奏「センセのバカ!! 十年後後悔したって遅いんだからね!!」
真緒「なぁ北上、とにかくちゃんと話をしようよ」
奏「アタシの歌を理解してない人と話すことなんてないし」
真緒「理解してるかと言えばそうじゃないけど、理解したいとは思ってるよ。これは絶対に嘘じゃないから」
奏「上手いこと言ったってアタシにはもう聞こえないし。
方向性の違いだねセンセ、もうバンドは終わりだし」
真緒「終わりって」
奏「明日からアタシは一人で練習するから。しょうがないよね、いつだって天才は孤独なものだし」
真緒「北上……昨日の夜の事は謝るから、だからちゃんと話を」
奏「……もう聞こえないし。ギターが喋ってるし」
真緒(………)
真緒(はぁ……完全に嫌われたかな)
奏「そだ! 新しいギターの人探さなきゃいけないね!
今日は練習は終わりにしよ」
真緒「北上!」
奏「………」
真緒「話を聞いてくれ」
奏「……ふん」
ぼくの顔を見る事なく、北上が立ち去っていく。
ちゃんと言おうと思っていたのに……
こんな最悪の形で伝わるなんて……
最終更新:2010年07月13日 22:47