248 名前:タカシがダブル相合傘的な話、その1[sage] 投稿日:2011/05/11(水) 20:17:14.95 ID:awW0dkSm0 [2/8]
雨降ってるのでタカシと妹ちなみんと幼馴染かなみん的な話。阻止がてら6つくらい下さい。

  • にぶちんタカシ、ダブル相合傘編……みたいな話。


 ――――ザァァァァァ
「雨、だと……?」
 天気予報では、今日はバッチリ――『……今日は雨の予報です。ちゃんと傘を持ってい
くように。……もし忘れても……知りませんので』――そういえばダメだったということ
を、今になって思い出した。
 朝に聞かされた妹からの忠告も、まったくの無意味だった。
「……てへっ☆」
「昇降口で何ポーズ決めてんのよっ!」
 勢いよく頭を引っ叩かれた。こんな非常識な頭の叩き方をするヤツは当然一人しかいな
い。
「ぶふっ!? ――かなみか、何をする。痛いじゃないか」 
「痛いのはアンタよ!」
「そりゃあ、叩かれたんだから俺が痛いに決まってるだろ!」
「そういうことじゃなくて……はぁ……ちょっとは日本語の勉強しなさい。バカタカシ」
「残念ながら国語の成績は悪くないぞ」
「……もういいわよ」
 かなみは、心底呆れたような表情を浮かべている。……国語の成績が心配というわけで
はなさそうだ。
「で、タカシ……どうするの?」
 言いながら昇降口のへと顔を向けるかなみ。
 つられるように視線を移すと……けっこうな雨。下手なシャワーよりもよっぽど出が良
さそうだ。このままではズブ濡れ確定だろう。
 ここはもう、『お願い』するしかない。
「…………かなみさん」
「……もしかして?」

249 名前:その2[sage] 投稿日:2011/05/11(水) 20:18:24.75 ID:awW0dkSm0 [3/8]
「ああ、そういうことだ……頼む」
 どうやら『頼む』で察してくれたらしく、少し俯いて考えはじめた。
 持つべきものは察しのいい幼馴染に限る。たとえ口が悪くてもだ。
「……い、嫌よ、そんなの」
「頼むよ、俺とかなみの仲じゃないか」
「っ……ど、どうしても……なの?」
「うーん、濡れて帰るのもアレだから……できれば」
「そ、そう。……でも、その、やっぱり……一緒の傘は恥ずかしいんだけど」
「――え、いや、別にそうじゃなくて。予備の傘とか持ってないか? って聞きたかった
だけなんだけど」
「なっ……ば、バカっ! 予備なんて持ってるわけ無いでしょ!?」
「そうか……残念だ」
「あ、で、でも、アンタがどうしてもっていうなら、やっぱり――」
 かなみが何か言いかけているが、それと同時、ポケットの中で携帯が震えた。
「あ、すまんかなみ。メールじゃなくて電話みたいだ、ちょい出てもいいか?」
「(……言いそびれちゃった……)」
「何か言ったか?」
「うるっさい! いいから電話出なさいよ!」
 許可を求めたら逆に『電話に出ろ』と怒られたので出ることにする。

「もしもし――おお、ちなみか!」
『……もしもし、今学校が終わったのですが……兄さん、ちゃんと傘持ちましたよね? 
……朝、日直だったので確認してませんし……念のためにと電話したんですが』
「ちなみ、君は実にいい妹だ!」
『(……義理とはいえ……やっぱり妹、ですか……)』
「ん? 何か言ったか?」
「……な、何でもありませんっ……! それより、傘、持ってるんですよね?」
「傘についてはノーコメントだが、困った時にちょうど電話してきてくれる、良い妹なら
持っているらしいな」

250 名前:その3[sage] 投稿日:2011/05/11(水) 20:19:07.30 ID:awW0dkSm0 [4/8]
『……朝、あれだけ念押ししたはずですが?』
「すいません」
『……はぁ……分かりました。幸い、私のカバンに予備の折り畳みが一つありますので、
……まだ高校の校舎ですか?』
「ああ、今昇降口で立ち往生中」
『……では、今からそちらに行きますので』
「悪いな、ちなみ」
『……ほんとです。……来年までその高校の門をくぐることは無いはずだったのに……』
「そりゃ尚更すまんかっ――あれ、うちの高校受けるつもりなのか?」
『あ……っ……! ……ち、近いからです、悪いですか?』
「いや、悪くはないけど、もうちょい上の高校でも行けるだろうに」
『……い、いいんです。……とにかく、今から行きますから待っててください』

「……今の電話、ちなみちゃんよね?」
 電話を切ると、どうやらかなみは、会話の様子から相手が分かっていたらしい。電話に
夢中だったからか、だいぶ不機嫌な声だった。
「ん、ああ。予備で持ってる傘持ってきてくれるらしいんだ。いや~、助かった……」
「あっそ、良かったわね」
「ずいぶん投げやりだな。まあいいけど」
「…………はぁ……」
 かなみはこれまた不機嫌そうに、ため息をついていた。



「すまんすまん。助かったよ」
 礼を言ったはいいが、妹は冷ややかな視線を向けてきただけだった。
「……家を出る前に、ちゃんと傘を忘れないようにと言ったはずですが」
「いやぁ、曇ってるだけで降ってなかったし平気かと思ってさ」
「……目を離すとすぐこれです。……私が日直の日くらいはしっかりして下さい。面倒見
きれませんよ?」

251 名前:その4[sage] 投稿日:2011/05/11(水) 20:20:11.12 ID:awW0dkSm0 [5/8]
「おう、気をつける気をつける。……で、傘貸してくれ」
「……仕方ありません。……折りたたみ折りたたみ……」
 本当に仕方なさそうに、カバンの中をあさり始めるちなみ。……なんだかんだで世話焼
きな妹を持って助かった。口は悪いけど。 
「――――あれ?」
 しばらく待っていると、突然ちなみが声をあげる。
「どうした?」
「……確かに入れておいたはずなのですが……無いです。……予備の傘」
「え、マジ?」
「……はい、どうしましょうか……」
「そうか……持ってないのかぁ……」
「そもそもアンタが持ってないから悪いんでしょ」
 今まで静観していたかなみが口を開いたと思ったら、鋭いツッコミを放って、また黙っ
てしまった。
「いや、そりゃそうだけども…………ま、しゃあない、濡れて帰るか」
 15分はかかるためズブ濡れ必須であるが、背に腹はかえられない。
「俺はひとっ走りするから、ちなみはかなみと一緒に帰ってこいよ?」
 諦めて屈伸・伸脚・アキレス腱――っと走る前に軽くストレッチを始めたところで、
「待ちなさい」
 かなみに呼び止められた。
「何だ、かなみ?」
「もしも、あ、アンタがどうしてもって言うなら……仕方なく、い、一緒に入らせてあげ
てもいいわよ?」
 神は死んでなかったらしい。
「マジで!? つか、さっきは渋ってのに……いいのか?」
「濡れネズミになるのは可哀相だから、仕方なく入れてあげるわ」
 高校生にもなって一緒の傘というのは、さすがに少々恥ずかしい。考えることは一緒ら
しく、かなみの顔もちょっぴり赤い。
「サンキューかなみ!」
 だがかなみが恥を忍んでくれたおかげで、雨天決行帰宅マラソンの回避成功のようだ。

252 名前:その5[sage] 投稿日:2011/05/11(水) 20:20:41.31 ID:awW0dkSm0 [6/8]
「んじゃ、俺がかなみの傘に入れてもらって……よし! わざわざ来てくれたのに悪いが
……ちなみも一緒に帰ろうぜ?」
「…………待って下さい!」
「……ちなみ?」
「何だ? 忘れたとはいえわざわざ来てもらったんだから……埋め合わせはちゃんとする
つもりだぞ?」
「……そうじゃありません」
「?」
「……かなみさんの傘だと、兄さんと二人では狭いはずです」
 かなみの傘を指差すちなみ。たしかにちなみが指摘するとおり、女性用だからか、小さ
めのサイズである。
「まあ、ズブ濡れで帰るよりはよっぽどマシだし」
「……ですから、それなら私の傘にも入ればいいです」
「は?」
「……傘を忘れたのは兄さんの残念な脳が招いた結果ですが……折り畳みを入れ忘れたのは
私の責任です。……といわけで、私の傘にも入らせてあげます。……かなみさんと私の間に
入れば、面積も広くなるはずです」
「まあ、残念云々はともかく……そうか、それならありがたく」
 というわけで左にかなみ、右にちなみ、真ん中に俺が入って、ダブル相合傘(?)状態で
帰ることになった。ものすごく嫌な予感がするが。







「やっぱりこうなるよな、そりゃ」
「分かりきってたわね」
「……正直、薄々分かっていました」

253 名前:その6[sage] 投稿日:2011/05/11(水) 20:21:15.52 ID:awW0dkSm0 [7/8]
 あれから5分。場所はいまだに昇降口。
 ここに居座っているのは、なにも相合傘が恥ずかしいからではない。(多少は恥ずかしさ
もあるが)
「そりゃあ、二人が傘差して真ん中に俺が入ったら……ズブ濡れだよなぁ……」
 円を二つ重ねた間に入るわけだから、当然、前後が狭くなって真ん中に入った自分が濡れ
る。
「だからって真ん中を広くすると……」
「…………私達がびしょ濡れです」
 そして真ん中を深く重ねると、お互いの傘の端から伝わった雨で、かなみとちなみが雨を
かぶせあうような状態になってしまう。
「うん、ダブル相合傘はムリだわ。色々と」
「で、どうするのよ?」
「…………やはり、どちらか一人の傘に入るしかありませんね」
「「……………………っ!(ギロッ)」」
 二人の間で謎のにらみ合いが発生。
 何となくだが、どちらにお荷物(俺という名の)を押し付けて自分が濡れずに帰れるかで
争っているように見える。
 お互いに不発弾を押し付けあうような空気の中、先に口を開いたのはかなみだった。
「ちなみちゃんの傘のほうが小さいでしょう?」
「……いえ、そこまで大きく変わりません。……むしろ、かなみさんより私の方が体が小さ
いですから……結果的には私の傘の方がスペースは広いはずです」
「アタシとたいして変わらないのはそっちも一緒でしょうに」
 少々ケンカ腰で罵り合っているが、しかし、押し付けあっているにしては日本語がおかし
いことに気付いているのだろうか。どうやら二人とも、相合傘ショック的なもので頭が働い
ていないらしい。
 ここで原因が口を出すのはナンセンスかもしれないが、負担についてケンカしているなら
平等になってもらうしかないか……。
「わかった、大通りの喫茶店を中間地点にして、途中までかなみ、で、そこから家までは、
ちなみの傘に入らせてもらう。……お荷物が提案するのもアレだが、これでどうだ?」

254 名前:その7[sage] 投稿日:2011/05/11(水) 20:21:51.04 ID:awW0dkSm0 [8/8]
「そうね」
「……そうですね」

 結局その案が通り、無事に家までたどり着いた。
 ちょっと濡れてしまったが、雨天マラソンよりはずっといい。二人に感謝しなくては。

 とはいえ埋め合わせで何を請求されるか考えると……ちょっと恐ろしい。



最終更新:2011年06月18日 02:25