7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/27(木) 20:53:34.97 ID:ueDQ2zE00 [2/9]
転校生まつりん 第二話
「スターシステム? いいえ、タイトル詐欺です」
色々あったけど、ようやく放課後である。
夕日が、教室の窓から眩しいくらいに差し込んでいる。すっかり日が落ちるのも早くなったもんだ。
「まあ、あれから三ヶ月経ってるしなあ」
「三ヶ月? 何のことじゃ?」
唐突に横から口を出してきたのは、誰あろう、今日まさに転校してきた我らが(?)まつりんである。
「これもメタだ」
「むぅー、だから“めた”って何なのじゃぁ」
餌を溜め込んだリスみたいに、ほっぺたを膨らませるまつりん。
可愛いなこいつ、と素直に思った俺は、気づくと頭を撫でてしまっていた。
(しまった!)と思うが、もう遅い。
「な、なな、いきなり何するんじゃたわけぇっ!」
予想通りに甲高い声が教室に響く。ちょっと周りの視線が痛い。
「だって可愛かったんだからしょうがないだろ!」
なのに負けじと、若干ボリュームダウンして叫ぶ俺はどうかしてるZE!
「な、何がじゃ馬鹿者!?」
どうやら先ほどの萌え動作は完全に無意識だったらしく、なぜ誉められたか本人はわかっていないので、よかった。
と、その時、また別のやつから声をかけられる。
「よお、どうしたお二人さん」
「どちらさまでしたっけ?」
「真田だっ! なんで赤の他人みてえな扱い受けなきゃいけないんだよ!」
「あー、まつりんに席を譲るために強制的に一番前の列に移動させられた真田さんでしたかー」
「ああそうだよ、その真田ですよ。なんだお前、まだ笑ったこと気にしてるのかよ」
「いやもう気にしてないって、冗談だ。紹介するよ纏、こいつは真田って言って――」
「いやだから、最初っから俺いただろうがっ! なんで初登場みたいな感じになってんの!? 纏ちゃんにもしっかり自己紹介したしなっ」
「く、くふふふ、なんじゃ主ら、いちいち面白いのう」
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/27(木) 20:56:28.35 ID:ueDQ2zE00 [3/9]
纏は、俺たちの漫才が気に入ったらしく、子供みたいに無邪気に笑っている。
「みたいってか、まんま子供か」
「誰のことを言っておるのじゃ、たわけ!」
俺の呟きを聞き逃さず、ぷりぷり怒りだす纏。そういうとこがだよ、とは口に出さずにおく。
「あはは、すっかり打ち解けたみたいだね、二人とも」
今度は、真田の馬鹿とは違ったやつから声がかかる。
「お、榊」
そこには、中性的で柔和そうな顔立ちが特徴の、俺の悪友その2がいた。こいつこそ、真田と違い初登場である。
「む、誰じゃ?」
「よろしくね、西城院さん。僕の名前は、榊。そこの二人の、まあいわゆる腐れ縁ってやつさ」
「そうなのか! こちらこそ、よろしくなのじゃ」
知り合いが増えて嬉しいのか、笑って挨拶を返す纏。
と、ここで、真田が何かを思い付いたように声をだす。
「四人揃ったとこでいいこと思い付いたぜ」
「何だ」「何かな」「なんじゃ?」
真田の陽気な声に異口同音の疑問が寄せられる。
「せっかくだしよ、纏ちゃんにここら辺を案内してやろうぜ。勿論、纏ちゃんが良ければだけどな」
「へえ、良いな、それ」
「おお! 正直、越してきたばかりじゃから、助かるのじゃ!」
すぐに同意する俺に、どうやら纏も乗り気なのだが――
「あー、その、ごめん。僕は、ちょっと用事があって」
「何だよ、最近どうも付き合い悪いなお前」
そう言う俺に、あいつは曖昧に笑うだけだった。
「あれ、タカシは知らなかったのかよ。こいつめ、彼女が出来たんだぜ?」
「はあ、マジかよ!?」
丸っきり初耳だぞおい。
「しかも、その相手が“鉄の女王”だってんだから、さらに驚きだ」
「ん、鉄の?」
何だその、中2丸出しなあだ名は。何となく、某ラノベの“炎の魔女”を思い出させる。
「四組の静原って娘だよ。恐ろしく美人なんだが、どんなときでも表情を変えない鉄の顔だから、ついたあだ名が、“鉄の女王”。まあ鉄面皮ともかけてるらしいがぁあぁぁああ!?」
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/27(木) 20:58:02.55 ID:ueDQ2zE00 [4/9]
やつの声は、途中で野獣のような悲鳴に変わった。
別に真田が、突然おかしくなったのではなく、榊がやつの脇腹を鉄拳で撃ち抜いたのだ。
纏は、いきなりの事態に目を白黒させるが、
「ま、真田が悪いわな。得意気に解説するだけならともかく、彼女の悪口は鬼門だろ」
そう、榊はそういうやつだ。非常に友達思いな反面、自分の気に入った人が貶されると我慢ができない性格なのだ。
「ぐっ、げほっげほ……わ、悪かった榊、俺はそんなつもりじゃなかったんだがつい」
「うん、気をつけてね。僕のことはともかく、彼女を悪く言うと許さないよ? ……あ、西城院さんごめんね、いきなり」
そう謝るこいつに対して、纏は意外にも感心したように言う。
「いや、良いのじゃ。自分の好きな女子(おなご)を貶されて怒るのは当然じゃし、それほど素敵な娘なのじゃろ?」
「はは、西城院さんは器が大きいな。……うん、彼女は、誤解されてるけど、本当は、根は優しい良い娘なんだよ」
榊は誇らしげに言った。
しかし、こうなると……
「お前、丸っきり悪者ってか馬鹿みたいだな真田」
「う、うるせえ!」「まあ真田だし」「まあ真田じゃからのう」
真田の情けない声に、異口同音の同意が重なった。
「うぅ、纏ちゃんまで……」
ひとしきり真田をみんなで笑った後。
「まずい、約束の時間に遅れちゃう。じゃ、じゃあ悪いけど、また今度誘ってよみんな」
と、慌てたように、榊は教室の外へ駆けていった。
「本当に、恋人を大切にしておるのじゃのう。……なんだか、その娘が羨ましいくらいじゃ」
何やら、纏はごにょごにょと呟いてこちらを見上げていた。
「ん? どした、纏?」
「な、なな、何でもないわ、たわけ!」
……なぜだか、理不尽にも怒鳴られた。何なんだ、一体。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/27(木) 20:59:47.05 ID:ueDQ2zE00 [5/9]
と、榊と入れ替わるようにして、俺たちの担任が教室に入ってきた。
どうも、肩をいからせて、お怒りのご様子だ。まさかとは思うが、その相手は、
「こらあ、真田! お前、昼休みの補習、さぼりやがったな!」
ああ、やっぱりこの馬鹿だった。
「あぁっ!? やっべ、わすれてた……」
「忘れてたじゃねえ! 今日と言う今日は、放課後に居残ってもらうぞっ」
この様子では、事情を話して見逃してもらうのも無理そうだ。
「くそ、悪いな、そういうわけだから、二人で楽しんできてくれ」
真田は諦めたように項垂れて、大人しく連行されていった。
「ははは、一気に二人っきりになっちまったな」
「そ、そうじゃのう」
なんだか、纏はあたふたしているが、また突っ込むと地雷かもしれないのでやめとこう。
しかし、結局二人っきりとなると、
「まるで放課後デート、みたいだな」
「で、ででででーとじゃと!? い、いきなり何を言うておるんじゃ主は!」
「あ、いや、例えだよ、例え。にしても、照れすぎだろ」
「て、照れとらんわ!」
と言いつつ、顔が真っ赤な纏である。
「ここら辺を案内するなら――そうだな、俺たちの行きつけの喫茶店があるんだが、そこ行くか? まあ、日を改めても良いけどさ」
「ふん。別に良いわ、二人でも。先の戯れ言を気にしてるようで馬鹿らしいしの」
実際、気にしてたじゃんとは思うが、やはり間違いなく地雷なので言わない。
そんなわけで、俺は学校に程近い、行きつけの喫茶店へと、纏を連れてやってきた。
……やってきた、のだが。
「榊のやつ、ここで待ち合わせてたのかよ……」
そう、外からもよく見える、窓際の席で、おそらくは先ほど聞いた静原とかいう娘さんと仲良さそうに話しているのである。
いや、件の噂通り、彼女さんは終始仏頂面なんで、ぶっちゃけあんま仲良さそうには見えないけど。
「はー、しかし確かに美人だなありゃ。榊のやつもやるねえ」
「何を人の女子に見とれとるか、たわけが!」
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/27(木) 21:01:50.33 ID:ueDQ2zE00 [6/9]
思わず嘆息していると、纏に思いっきり、向こうずねを蹴られた。
ぐぐっ、という呻きが、口から漏れる。
「いっててて。何するんだよまつりん」
「気安く呼ぶでないわ。まったく、わしが目の前にいるというのに……」
またもや何やらぶつぶつ、独り言をこぼした後、
「むぅ、しかしどうするのじゃ、結局。流石にあの中に入るのは無粋じゃろう」
「だな。予定を変えて、ゲーセンとかどうよ」
「げーせん!? それは、世に言う、げーむせんたーというやつか?」
目を輝かせて言ってるし、どうも行ったことがないようだ。
「じゃ、決まりだな……と」
「おお、こっちに気づいたようじゃな」
見れば、榊がこっちを向いて、微笑みながら手を振っていた。俺たちも笑って振り返すが……
(あいつ、纏の方見すぎじゃないか)
あいつは昔から、良い意味でも悪い意味でも、女に優しいのだが、流石に今は不味いんじゃなかろうか。
「ほら、そろそろ行こうぜ」
そう思った俺は、纏を急かした。
「うむ、そうじゃの。くふふふ、初めてのげーむせんたーじゃ♪」
そう言って、快活に笑う纏はやっぱり、とても高校生には見えない。
「やっぱ、まんま子供だよなあ」
「な、なんじゃと、このうつけもの!」
そう怒る様も、微笑ましい。
「いやいや、可愛いって意味さ」
「な、ななな、なにを馬鹿なことを言っておる、たわけたわけたわけ!」
可愛らしく叫びながら、顔を真っ赤にしている纏。
「そしてやっぱり、“まつりん”だな、うん」
「何を一人で納得しておるのじゃっ、馬鹿者!」
まつりんの子供みたいな甲高い声が、夕暮れに染まる町に響いたのだった。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/27(木) 21:02:33.60 ID:ueDQ2zE00 [7/9]
僕は、微笑みを浮かべながら、可愛らしい転校生と友人に手を振っていた。
また、タカシが何か逆鱗に触れたらしく、西城院さんが怒っているのが、遠くからでもわかった。
彼らの姿は、まるで自分達を見てるみたいでなんだかおかしくなる――
「あいたっ! ちょっ、むみさん!?」
「あなたは、何を、私を差し置いて一人でにやけているのかしら」
心当たりはありすぎるほどにあるけれど、いきなり足の甲を踏み抜くのは酷すぎないだろうか。
「あ、いや、その、友達が通りかかったからさ」
「へえ、随分とまあ、可愛らしいお友達ね」
「もしかして、むみさん妬いて――」
「るわけないでしょう、馬鹿。……あ、すみません」
明らかに“図星”ゆえの速度で否定したむみさんは、店員を呼び止め、ケーキやらプリンやらパフェを矢継ぎ早に注文していく。
「もしかしなくても、会計って」
「食べきれなかったら、あなたも食べて良いわよ?」
「あ、答えるまでもないんだね。……ていうか、ダイエットは」
「何か言ったかしら」
「何でもないです」
「ふん」
まあ、確かに今回は僕にも落ち度があった。
そして、例えそうじゃなくても、むみさんのためなら全財産を失ったって、きっと後悔はしないのが僕だ。
「それに何より、嫉妬してるむみさんは可愛いし」
「妬いてないって言ったでしょう馬鹿」
「だって、さっき“随分とまあ、可愛らしいお友達ね”って言ったでしょ?」
それが何? と言いたげに小さく首をかしげるむみさん。――ああもう、いちいち仕草の一つ一つまでもが可愛いんだから、たまらない。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/27(木) 21:03:40.13 ID:ueDQ2zE00 [8/9]
「でも、あそこには女の子の西城院さんだけじゃなくて、タカシっていうもう一人の友達もいたんだよ」
「えっ? そ、そんなこと!?」
「本当だって、もう」
思った通り、彼の方には気づいていなかったのだ、僕の世界一可愛い恋人は。
「だから、嫉妬してるむみさんは可愛いって言うのさ。僕が他の娘に良い顔をしてると思い込んで、男子がいたことには気づいてないんだもの」
「う、あ、あぅ……」
何も言い返せず、クールそうな顔がどんどん朱に染まっていくむみさんは、筆舌に尽くしがたいほど可愛かった。
「それにしても、僕が世界で愛している女の子は、むみさん一人だけだってことを、いい加減理解してほしいなあ」
そんな台詞を告げると、ただでさえ赤面していたむみさんは、耳元まで真っ赤になってしまう。
そして、何度か口を開きかけてから結局、
「うるさい、馬鹿」
とだけ、呟いたのだった。
第二話「スターシステム? いいえ、タイトル詐欺です」完
つづくはずがない
最終更新:2011年11月03日 02:12