8 名前:1/7[] 投稿日:2012/03/31(土) 19:20:33.74 ID:p51m8L6L0 [5/23]
- ツンデレが一人暮らしを始めるための部屋探しを男に付き合わせたら~前編~
ピンポンピンポンピンポーン!!
チャイムの速射音に、俺は居留守を諦めてベッドから下りる。
「ったく…… 諦め悪い客だな。どうせセールスか宗教だろうに……」
スウェットの上下だが、一応人前に出れる格好であるのは確認して、髪にブラシだけ
当ててから、俺は玄関に出る。
「何だよ。ウチは新聞も宗教の勧誘も間に合ってるんだけど」
『遅いですわっ!!』
文句言いつつドアを開けると、いきなり、ハイトーンの高圧的なボイスが俺の耳を右
から左に直撃した。
『うら若き乙女を寒空の下で何分も待たせるだなんて、一体どういう神経してますの?
あなたは!! わたくしが風邪でも引いたら、どう責任をとるおつもり?』
「った~~~~~……」
キーンと鳴る耳を押さえつつ、俺はハイトーンボイスの主を見た。俺の顔より丁度一
個下くらいのところに、波打つ金色のウェーブの髪を持った女性が、俺を物凄い形相で
睨み付けている。
「何の用ですか? ここは若い女の子が来るような場所じゃないんだけど」
そう断りつつ、顔を見て俺はその子が、自分の知り合いである事に気付いた。慌てて
付け加える。
「って、神野じゃねーか。一体何やってんだ? こんな所で」
『何やってるも何もありませんわ。こんなむさ苦しそうな場所に来る理由なんて一つし
かありませんもの』
毅然とした顔で俺の質問への答えをワザとらしくもったいぶってみせる。俺に当てて
みろと、そういう事なんだろう。短絡的に、思いついた事を俺は、そのまま口に乗せた。
「……俺に、会いに来た?」
『そうですわ。だというのに貴方ときたら、散々待たせた挙句に素気無い対応で、しか
も客を迎えるには余りにもだらしないその格好。一体どういうおつもりですの?』
「セールスか宗教の勧誘かと思ったんだよ。大体、アポもなしでやって来て、格好をちゃ
んとしろもクソもないだろ」
9 名前:2/7[] 投稿日:2012/03/31(土) 19:20:54.35 ID:p51m8L6L0 [6/23]
『不意の来客というものはいつだってあるものですわ。そんなむさ苦しい格好をして過
ごしている事自体が、貴方の品性を疑います』
俺は舌打ちしつつ、憤慨している神野を見やった。これでも一応、彼女は俺の一つ下。
つまりは高校の後輩なのだ。何の因果か俺が会長を務めることになってしまった生徒会
に、書記として入ってきて以来の縁である。
「学生一人暮らしに一体誰がどんな用で来るってんだよ? 大体、来るなら来るで前も
って携帯に連絡くらいしてくれ。そしたら、着替えと掃除くらいしたのによ」
俺だって女の子の前に出るならそれくらいの格好くらいはするのに、と、内心こっそ
りと愚痴る。神野は口も性格も悪いが、美人でスタイルも良く、良いトコのお嬢様らし
く、オシャレである。出来るなら俺だってこんな格好で出たくはなかったのだ。
『電話ならしましたわ』
ブスッと不満気な神野の言葉に、俺は思わず聞き返した。
「は?」
『だから電話ならしましたわ。前に貴方から、生徒会の連絡用に番号は教えて貰いまし
たもの。でも、何度かけても繋がらなかったんですわよ。一体どういうつもりでわたく
しからの電話を拒否していたのか、その理由もとっくりとお伺い致しますわ』
殺意のこもった目で睨まれて、俺は慌てて弁解を始めた。
「待て待て。こっちには誰からも電話なんて掛かってきてないぞ。ホントに。お前、間
違って別の人に電話したりとかしてないだろうな?」
『そんな事ありませんわ。ちゃんとスマホの電話帳で確認して電話しましたもの。貴方
こそ、まさかわたくしに断わりもなく電話番号を変更なさったりしていないでしょうね?』
自慢げに胸を逸らしつつ答える神野から、俺は視線を逸らした。無論、春先だという
のに胸元を大きく開けた服を着て、しかもこれ見よがしに強調するポーズを取ったからである。
「アホか。今時キャリア変えたって電話番号変わんないのに、何でいちいち変える必要
あるんだよ。不便なだけだろうが」
『だって、わたくしが何度掛けても繋がりませんのよ。すぐに切れてしまって…… キ
チンと番号も確かめて掛けているのに、絶対におかしいですわよ。ということは貴方の
せいに決まってますわ』
何がという事なのかサッパリ分からない。つまり、神野からすれば、自分には絶対に
非が無いから俺が悪いに決まっているという俺様理論なのだろう。
10 名前:3/7[] 投稿日:2012/03/31(土) 19:21:15.17 ID:p51m8L6L0 [7/23]
「別に俺は、何もやってないぞ。そもそも、登録が間違ってるという可能性は……ない
な。最初にお前の携帯に入れたのって、俺だったし」
番号を伝えようとしたら、めんどくさいからやっておいて貰えません?の一言で、自
分で神野の携帯電話帳に登録したのを、思い出す。しかし、なら何で繋がらないのか?
神野の言葉を思い出しつつ原因を探ってみると、俺はふと、ある事に引っ掛かった。
「ちょっと待て、神野。お前、電話ってどこからした?」
『当然、家からに決まってますわ。電話をするのに、いちいち外へ出る意味が分かりませんもの』
「悪い、聞き方が悪かった。どこの電話から俺の携帯に掛けた?」
引っ掛かったのは、スマホの電話帳で確認したという一言だ。スマホから直接掛けて
いれば、いちいち電話番号を確認する必要はないはずだ。そして俺の予想は的中した。
『家の電話に決まっているでしょう? 自分の部屋に専用の電話がありますのに、何で
わざわざ掛けづらいスマホから掛けなければなりませんの? 意味が分かりませんわ』
「それでか。やっと理由が分かった」
頷くと、神野が不満気に睨み付けて来た。
『何を自慢げに自分一人で納得していらっしゃいますの? さっさとわたくしにも説明なさい』
苛立たせるとさらに始末が悪い事になるので、俺は慌てて説明を始める。
「ああ、悪い。俺、携帯の設定でさ。電話帳に登録してある人以外からの電話は着信拒
否にしてあるから。知り合い以外からの電話なんて間違い電話か変に怪しい電話しかないんで」
『だったら何でわたくしの自宅の電話番号を登録しておきませんのっ!! 本当に使え
ませんわね。貴方と来たら』
「だって、神野の自宅の電話番号なんて教えて貰ってないし」
携帯の電話番号だって、女性に電話番号を聞くとは何事だとか、変な電話はしないで
しょうねとか、散々ごねられて、副会長以下他の女子にも説得されてやっと登録出来た
くらいなのだ。自宅の電話番号なんて聞ける訳もない。
「まあ、必要だったら教えてくれよ。そうすれば今度はちゃんと出るからさ」
今後理不尽に詰られないためにそう聞くも、神野は即座に否定した。
『いいえ。もう必要ありませんわ』
轟然と偉そうに胸をそびやかし、ワザとらしく溜めを作ってから、彼女は後を続けた。
『だってわたくし…… 春から一人暮らしするんですもの』
「へえ。箱入り娘の神野がねえ。よく親父さんが許可してくれたな」
12 名前:4/7[] 投稿日:2012/03/31(土) 19:21:36.13 ID:p51m8L6L0 [8/23]
素直な感想を漏らすと、神野はいかにもワザとらしく、演技たっぷりに答えを返してきた。
『ええ。お父様には反対されましたわ。でもわたくしも春からは大学生ですもの。成人
し、立派な大人として社会に出て独り立ちするためも、いつまでも親に甘えてばかりい
られませんと説得したら、最後には認めていただけましたわ』
「ふぅん。ま、可愛い娘には旅させろって言うしな。そうか。神野も春から大学生だもんな」
うんうんと感心したように頷くと、何故か神野は不満気に唇を尖らせた。
『そういう子供扱いするような言い方は止めていただけませんこと? 貴方にバカにさ
れているみたいで、非常に不愉快ですわ』
「いやいや。一年間の時の流れの速さを実感してただけで、別にバカにしたりはしてな
いさ。で、どこの大学行くんだ?」
神野の不満にまともに付き合うと、延々と不毛な言い合いが続くのは分かっているの
で、俺はさっさと話題を切り替えた。すると普段は自信満々な神野が、珍しく言いづら
そうに戸惑った顔を見せつつ視線を逸らした。
「どうした? お前の事だから、A女学院とか有名どころに入るかと思ってたが、もし
かして、第一志望に落ちていささかランクの落ちる大学に入ったとか?」
『わたくしが受験に失敗するはずありませんわ!! 貴方みたいな平々凡々な人間と一
緒にしないでくださいません?』
「いや。俺はちゃんと第一志望にストレートで合格したんだが」
ツッコミを入れると、神野は悔しそうな表情を浮かべた。
『も……ものの例えですわっ!! とにかく、わたくしはちゃんと、第一志望の大学に
合格しています。受験に失敗したなどと、失礼な事をおっしゃるのは止めていただきたいですわ』
それは第一志望に合格出来なかった全国の受験生に対して失礼ではなかろうかなどと
内心思いつつ、俺は話を進める。
「神野が答えづらそうにしてたからだろ? 第一志望に受かったんなら、もっと偉そう
に答えればいいじゃん」
俺の指摘に、神野はムッとした顔をしてまた視線を逸らすが、今度はボソボソと小さ
な声で答えた。
『……N大学の商学部……ですわ……』
「マジ? それって俺と同じ大学じゃん。つーか、学部まで一緒かよ」
『そうなんですの!?』
13 名前:5/7[] 投稿日:2012/03/31(土) 19:21:56.79 ID:p51m8L6L0 [9/23]
俺の驚いた声に合わせるように、神野も驚いた声を出す。しかし、その態度に俺は何
故か違和感を感じざるを得なかった。
『冗談じゃありませんわ。貴方と同じ高校出身だと思うだけで吐き気が致しますのに……
いえ、それ以外は学校もお友達も素晴らしかったと思いますけど、せっかくの大学生活
もまた貴方と同じだなんて……あああ……何という事でしょう。ハァ……』
うん。何というか神野が芝居がかったしゃべり方をするのはいつも通りだが、今回は
いつも以上にワザとらしさが漂う。何というか、ホントは知ってたんじゃないかと疑い
たくなる。
「何だよ。そんなに俺と一緒の大学が嫌なら、今からでも取り消すか? 入学金振り込
んじまった後だろうけど、お前の家の財力なら、大した額でもないだろ」
『いいえ。そんなお金の無駄遣いは出来ませんし、何よりもわたくしが一般入試で入っ
た努力を全て水泡に帰すような真似はしたくありませんもの』
慌てて俺の意見を却下する辺りも、何となく怪しいと思う。
「じゃあ我慢するんだな。というか、お前、一般で入ったのか。お前の能力なら、推薦
でも十分行けたんじゃね?」
ちょっと感心した事を口に出すと、神野はここぞとばかりに偉そうな態度を取ってみ
せた。
『わたくしが推薦を使うと、神野家というブランドイメージを利用してしまう事になり
ますもの。ちゃんと、自分の実力だけで出来る事を示したかったのですわ』
「へー。まあ、前から思ってたけど、そうやって率先して努力を買う所は凄いよな。感心するぜ」
俺が褒めると、神野の表情が僅かに緩んだ。どうやら嬉しかったらしい。しかし、す
ぐにツンケンした表情に戻ってしまう。
『でも、思ったほどわたくしの能力も大したことなかったと知ってガッカリですわ。と
いうか、貴方の事でしたから、もっと底辺の大学かと思ってましたのに』
「余計なお世話だ。これでも一応生徒会長やってたんだぞ? それなりの成績はキープしてたさ」
どうにも昔から、神野は俺を実際以上に過小評価したがるきらいがあった。何故そん
なにも俺を下に見たがるのだろうかという疑問は、今になっても解消されていない。
『別に自慢になるような事でもありませんわ。とにかく、そういう訳ですので、今度か
らこの近くに住むことになりますわ』
14 名前:6/7[] 投稿日:2012/03/31(土) 19:22:17.68 ID:p51m8L6L0 [10/23]
「なるほど。まあ、そこまでは分かったけど、何で俺んちに朝早くから押し掛けて来た
んだ? 大学に合格した報告とか、引越しの挨拶とか、そんなんじゃないよな?」
長い脱線を経て、ようやく本題の質問に戻ることが出来た。するとまたしても神野は
ちょっと言いづらそうな態度を取る。しかし今度は俺が口を挟む前に意を決して、強気
な表情で顔を上げた。
『もちろん、そんな事をいちいち貴方にしに来る必要なんてありませんもの。わたくし
がここに来たのは、貴方にお願いがあっての事ですわ』
「俺に? お願い?」
問い返すと、神野はコクリと頷いて、話を続けた。
『ええ、そうですわ。わたくしの……わたくしの、新居探しに、協力なさい』
「……は?」
意図が分からず、俺は思わず変な声を出してしまう。それから慌てて、疑問を立て続
けに並べ始めた。
「ちょっと待て。何で俺が神野の部屋探しに付き合わなきゃならないんだよ? 大体、
そういうのって親御さんが一緒にやってくれたりするんじゃないのか? そもそも、お
前んちって不動産業もやってたろ。大手の」
『さっきも言いましたでしょう? 親に頼っていたら一人立ち出来ないと。ですから、
今回は、お金以外は一切お父様やお母様の力は借りないと決めましたの』
「まあ、そういう事ならそれはいいとしてだな。で、何で頼る相手が俺なんだよ? 理
由を言え。理由を」
『そんなもの、簡単ですわ。貴方が大学の近くに一人暮らししているからに決まってい
るじゃありませんの。部屋探しの経験もあるし、土地勘もあるでしょうから。わたくし
はこの見知らぬ土地で右も左も分かりませんのよ。助けるのが当然じゃありませんこと?』
俺はつい、舌打ちして頭を掻いた。
「一体何で、俺がここに住んでることが分かったんだよ? そういえば、お前には住所
知らせるような物は何も送って無かったよな? 年賀状も実家だったし」
どうにも怪しく思って問い質すと、神野は一瞬言葉に詰まったが、すぐに得意気な返
事をして来た。
『そんな事、神野家の調査能力を結集すれば、造作も無い事ですわ』
「なのに、俺が神野が入学する大学に通ってる事実は知らなかったのか」
15 名前:7/7[] 投稿日:2012/03/31(土) 19:23:00.45 ID:p51m8L6L0 [11/23]
どうにも引っ掛かっていた事を口に乗せると、目に見えて神野があたふたした。どう
もこれは知っていたクサい。
『そういう事もありますわっ!! とにかく、今から不動産屋さんに行って新居探しを
しますので、さっさと着替えて出かける準備をなさい。いいですわね?』
「待て待て。拒否権無しかよ? さっきお願いとか言ってなかったっけ?」
もはや規定路線で話を進められていることに慌てて俺が止めると、神野は不遜な笑い
を浮かべて俺を見た。
『あら? 貴方がわたくしの頼みを断われる訳ありませんでしょう? 親兄弟の不幸で
もない限り、わたくしからのお願いは、全ての事に優先するはずですわ』
どんだけ自分勝手なんだよと内心一人ごちるが、実際夕方のバイトまで予定が無いの
で仕方が無い。ゴロゴロしたかったなんて言ったら、即蹴飛ばされそうだ。
「仕方ねーな。じゃあ着替えるからちょっと待ってろ。すぐに済ます」
玄関で待たせていたらまた文句言われそうだし、かといって部屋に上げるわけにもい
かないから、急いで準備しようと振り返った矢先にいきなり神野に裾を掴まれた。
『お待ちなさい』
「何だよ? さっさとやれって言ったのは神野だろ?」
『ええ。でも、貴方のダサい服装センスでは、わたくしがむしろ恥ずかしいですわ。ど
うせロクな服はないのでしょうけど、せめてわたくしのコーディネートで隣に並ぶに不
都合のない格好をさせてあげますわ』
そしてヒールを脱ぐと、神野はさっさと先に立って部屋へと向かってしまう。一瞬呆
気に取られた俺だったが、すぐに我に返って制止した。
「ちょっと待て神野。散らかってるから、せめて片付けてからに――」
しかし遅かった。部屋のドアを開け、中を見た神野は、近所迷惑もはばからずに絶叫を上げた。
『何ですのこの部屋はーっ!!』
最終更新:2012年04月06日 21:55