43 名前:1/6[] 投稿日:2012/04/27(金) 02:53:32.06 ID:14Tl4+e10 [5/11]
  • お題作成機より 後輩、遊園地、背中~その3~

『なっ…… 何言ってんですかっ!! バカな事言わないで下さい。私は先輩みたく臆
病じゃないですもん。先輩こそ……怖くないんですか?』
 まだ確信には至っていないと知り、私は精一杯虚勢を張って見せた。私の問いに、先
輩は何でもなさそうに首を横に振る。
「ああ。絶叫系は苦手だけど、ああいうのは全然平気。どんなに凝ってても、所詮作り
物だろ? むしろ演出とか派手だとワクワクするし」
『……だ、だからって先輩が臆病者だってのは変わらないですから。自慢げに言わないで下さい』
 何だか悔しくなって、私はついつい悪態をついた。そもそも、知らない場所を真っ暗
な中歩くだけで、何が出て来るか分からない恐怖があるのに、平気だなんておかしいと思う。
「ま、ジェットコースター苦手だってのは否定出来ないけど、でも今日は俺的には頑張っ
た方なんだぜ。あれでも」
『あれで頑張ってるんだったら、普段はどれだけヘタレなんですか』
 バカにしつつも、もしかしたら私の前だからってカッコ付けてくれたのかと思うと、
ちょっと嬉しかったりしていた。少なくとも、女子の前だって言う程度には意識してく
れたと言う事だから。
「そんな事、ここで言えるか。まあ、椎水も平気だってんなら、お化け屋敷にしても大
丈夫だよな?」
『な、何言ってんですか!! 絶対ダメですってば!! つ、次に行くのは私が決めるっ
てさっき言ったじゃないですか』
 どさくさに紛れて決めようとするのを、私は慌てて突っ撥ねる。しかし先輩は、わざ
とらしく、不思議そうに首を傾げる。
「あれ? 何か、さっきのミラーハウスの時より、なんだか随分と必死じゃね?」
『そ、そんな事ないですってば!! ぜ、全然必死なんかじゃないですよ。私は至って
冷静ですし』
 懸命に否定するも、先輩は疑わしげな顔で腕を組んで考え込んだ。
「なーんかさ。どうにも信用出来ないんだよな。今だってすっごいムキになってたし。
何か、必死になって隠そうとしてないか?」

44 名前:2/6[] 投稿日:2012/04/27(金) 02:53:59.40 ID:14Tl4+e10 [6/11]
『そんな事ないですってば!! どうしてそんなに私の言う事を疑うんですか。自分が
臆病だってバカにされたから、私にもバカにするネタが欲しいだけじゃないですか。ホ
ント、性格悪いんですから。最低です』
 何としてでも否定したくて、私は立て続けに思いついた言葉を並べ立てた。しかし、
それが自分を却って先輩の仕掛けた罠に落ち込ませているとは気付かなかったのだ。先
輩が、次の言葉を言うまでは。
「じゃあさ。証明してみてくれよ」
『は?』
 キョトンとして聞き返す私に、先輩は微笑を浮かべて言葉を続けた。
「俺が見てる限りじゃ、どうにも椎水がホラー系のアトラクションが苦手なのをごまか
してるようにしか思えないんだよ。だからさ。どうしても違うって言うなら、これから
お化け屋敷に入って平気な事を証明してくれれば、どんな言葉よりも確実に、俺を納得
させる事が出来ると思うぜ」
『ズッ……ズルいですそれ!! そうやって、自分が行きたいところに行くように仕向
けてるだけじゃないですか!! 卑怯ですそんなの』
 元々、私の言ってる事自体が理不尽なのだが、そんな事はお構い無しに私は先輩を糾
弾する。しかし先輩は、首を振って言った。
「いや。このまま言い合いをスッキリさせないのは良くないと思ってさ。もし、次にお
化け屋敷行くってんなら、その後は残りの絶叫系全部でいいぜ。それなら、交換条件と
しても悪くないと思うけどな」
 私はグッと歯を噛み締めながら下を向いて考える。お化け屋敷は出来る限り後回しに
はしたかったが、どのみちこうなった以上行かざるを得ないのだ。今、ここで一つクリ
アしておけば、後が楽になるのは言うまでも無い。私は、ついに覚悟を決めた。
『分かりました』
 キッと顔を上げると、強気に先輩を睨み上げる。
『じゃあ、次だけは特別に先輩の言う事を聞いて、お化け屋敷にしてあげます。だけど、
その後は言ったとおり、絶叫系の残り全部回りますからね。途中で音を上げたって聞き
ませんよ』
「よし。じゃあ、話はこれで成立な」
 先輩の言葉に頷きつつ、私はどうにも、心から不安が拭い切れないのだった。

45 名前:3/6[] 投稿日:2012/04/27(金) 02:54:21.03 ID:14Tl4+e10 [7/11]
「へえ。お墓を抜けてお寺で幽霊封じのお札を貰って、数々の亡霊たちの妨害を避けな
がら祠にお札を納めて霊を静めてください、だって。なかなかストーリーちっくなお化
け屋敷じゃん」
『そんな事で感心してないで下さいっ!! どーせそんな設定つけたって、子供だまし
の幽霊とかに決まってるんですから!!』
 感心する先輩の感想を、私はバッサリ切り捨てた。というより、本格的であっては困
るのだ。つまりは、より怖さが増すという事なのだから……
「何か、無理やり子供だましって思い込んで、自分を納得させようとしてなくないか?」
 先輩に図星を突かれ、私はキッと睨み付けると、ムキになって反論する。
『そんな事ありませんっ!! こんなの、ちょっとくらい本格的だからって、怖くも何
ともないですから』
 しかしながら、実際のところ私は、既に建物の前に立っただけですくんでいた。先輩
にしがみ付かずに済んでいるのは、ほとんど意地だけだと言ってもいい。
「よし。じゃあ早く入ろうぜ。……って、大丈夫だよな? 無理すんなよ?」
 気遣うような言葉を掛ける先輩に、私はしかめっ面をしてみせた。だって、本気で心
配してるんじゃなくて、絶対からかっているに決まっているから。
『へ、平気ですよこんなの。バカな事言わないで下さいってば』
 心なしか、言葉が弱々しくなっているのを自分でも感じずにはいられなかった。
「じゃ、行くぞ。しっかりついて来いよ」
『何カッコ付けてんですか。バカバカしい』
 そっぽを向いて強がりを見せ、萎えそうな心を奮い立たせて先輩の後に続く。ワザと
らしく古めかしく作った重い鉄製のドアを開けて、一歩入ると目の前には、おどろおど
ろしい墓地の風景が広がっていた。
「結構涼しいな。この中」
 お化け屋敷にありがちな、ひんやりとした空気が、居心地の悪さを増す。私は先輩の
背を押して言った。
『な……何をグズグズしてるんですかっ!! は、は……早く行きましょうよ……』
 一刻も早く、こんな場所は抜けた方がいいと、私は先輩を促す。それに頷いて歩き出
す先輩の袖に縋りつき、こわごわと私は隣を並んで歩いた。何歩も歩かないうちに、ボ
ワッと目の前に光の玉が現れる。

46 名前:4/6[] 投稿日:2012/04/27(金) 02:54:41.99 ID:14Tl4+e10 [8/11]
『キャッ!!』
 小さく悲鳴を上げて腕に顔を埋めると、先輩が小さな声で言った。
「人工的に炎に見せてる人魂だろ。安心しろって。何もしやしないからさ」
『ちょちょ、ちょっとビックリしただけです……その……いきなりだったから……』
 そう言い訳しつつ、私は飛んでいる火の玉をこわごわと見上げた。確かに先輩の言う
通り、人工の物なのだろうが、それでも墓場を模した暗い場所で飛んでいるそれは、何
だか本物のように見えてならなかった。
「ほら、行くぞ椎水」
『ははははは、はい……』
 こわごわと周りを見回しながら、私は頷く。
「気をつけろよ。足元とかよく見えないから、蹴躓くなよ?」
『だっ……大丈夫……ですっ!!』
 今の人魂だけで、もはや私にはさっきまでのように毒舌を言う気力は残っていなかっ
た。先輩の腕にしがみ付きながら、出来る限り何も考えないようにしつつ、ひたすら歩
を進める事にのみ集中していた。すると、その足首に、何かが触れるのを感じた。
『んきゃああああっ!!』
「何だ? どうした椎水、おい!!」
 先輩の問いに、私は先輩の体に縋りつき、顔を埋めながら叫ぶように答えた。
『いいい、今なんか触りましたっ!! 足首にっ!!』
「触ったって……何が?」
『分かりませんそんなのっ!! でもでも、絶対何か触ってきたんです!!』
 ややあってから、先輩の返事があった。
「ああ。こりゃ、マネキンの手だな」
『え……』
 その言葉に、私は顔を上げて先輩の顔を見た。先輩は私の視線を受けて頷くと、床を
指差して示す。
「ほれ。機械で道の端から出たり入ったりするようになってる。まあ、何本も出てると
グロいっちゃグロいけど、それだけだから安心しろ」

47 名前:5/6[] 投稿日:2012/04/27(金) 02:55:09.38 ID:14Tl4+e10 [9/11]
 暗がりの中、草むらから出たり戻ったりする手のマネキンは、まるで亡者が墓から地
面に這いずり出ようとしているようで気持ちが悪かった。いや、まさしくそれをイメー
ジしたものなのだろうが、分かっていてなお、背筋をゾッとさせる。
「……大丈夫か? 先、行けるか? まだ序盤だし、引き返すなら今のうちじゃね?」
 先輩の提案に、私は首を横に振った。
『だ……だいじょぶ……ですってば!! 最後まで行けます!!』
 最後の矜持を振り絞って、私は強気で答える。先輩はそれに頷くと、少し困った顔に
なって、私が掴んでいる腕を軽く動かした。
「あとさ。しがみ付くのはいいんだけど……肉まで掴むの止めてくんね? 服の上から
といっても、さすがに痛いんだけど……」
『あ……』
 恐怖でいっぱいいっぱいで、そんな所、気付きもしなかった。
『す、すみません。けど……』
 何だかもう、先輩の腕にしがみ付かないと、先に進めない気がして不安に駆られる。
それを察したのか、先輩が優しい声を掛けてくれた。
「別に、抱きつく分には構わないよ。ほれ」
『は、はい……』
 腕を絡め、ほとんど全身でしっかりと腕を抱き締める。それを確認して、先輩が頷いた。
「よし。じゃあ、行けるな?」
『は……はい……』
 しかし、この時点では私は、この先更なる恐怖が待ち受けているとは考えていないのだった。


「……よく来なすったな。若いの」
 お寺の住職姿をしたエキストラの人が、低い雰囲気のある声で、私達を出迎えた。
「あの。ここで亡霊封じのお札を貰えるって聞いたんですけど」
 先輩の質問に、住職役の人が頷く。
「おお、そうじゃ。これを持って行きなされ。これをお堂に納めれば、亡霊は消え、お
主らはこの寺から脱出出来るじゃろう。じゃが……気をつけなされよ」
 それまで座禅を組みながら目を閉じていた住職が、カッと目を大きく見開いた。

48 名前:6/6[] 投稿日:2012/04/27(金) 02:55:39.12 ID:14Tl4+e10 [10/11]
「亡者どもは、これまで以上に激しくお主らに襲い掛かってくるじゃろう。お主らを先
に行かせまいとな」
『いっ……今までよりも、もっとずっとたくさん出て来るんですかっ!!』
 先輩にしがみ付いたまま、怯えて裏返った声で私が叫ぶように質問すると、住職はニ
イッと不気味な笑顔を見せた。
「そうじゃ。お堂まで無事に辿り着けると良いがの。フォッフォッフォッ……」


最終更新:2012年04月30日 18:32