16 名前:1/4[] 投稿日:2012/05/23(水) 21:36:27.59 ID:w0b+mgjq0 [3/9]
お題作成機:後輩・おねんね・えっちな本 その2

『はやっ。もう寝入っちゃうなんて、よっぽど眠かったんだな、先輩』
 そう感想を漏らしつつ、私は先輩とクローゼットを交互に見やって、これからの事を考える。
『まだ寝入りばなだから、下手に大きな音立てるような事するのは危ないわよね。中で散
らばってる本を片付けて、一旦物置に避難させるだけなら、10分も掛からないから、最初
10分で一気に半分くらい片付ければ、残りで出来るはずだし。うん、これだ』
 小声で独り言を言って、私は自分を納得させた。ちなみに、今日はお母さんも夜まで戻
らないので、映画から帰って来てから片付けても、多分間に合う。念の為に隅の方に紙袋
かなんかに入れておけば、より完璧だろう。
『じゃあ、まずは問題集を……問い5までやろっと』
 机に向かうと、真向かいから先輩の平和な寝息が聞こえてくる。
『先輩って、いびきとかかかないんだ。良かった』
 体の位置をずらして、先輩の寝顔が見えるようにする。穏やかな顔で寝てる先輩に、私
はつい、見入ってしまった。
『寝てる先輩って、何か可愛い。って、いかんいかん。勉強勉強』
 時間は限りある資源なのだ。有効活用しなければ、と私は問題集に取り組む。しかし、
1問目から公式に引っ掛かった。
『えーっと、ここがこうして……xを代入して……』
 思うように進まないでいると、早くも向かい側からは静かな寝息が聞こえてきた。
『……先輩、もう寝ちゃったのか。どれどれ……っと』
 座ったまま、先輩の見える位置まで体をずらす。先輩は横向きになって膝を丸め、まる
で母親の胎内にいる赤ちゃんのような姿勢で眠っていた。
『先輩って、あーいう風に寝るんだ…… 何か可愛いな……』
 思わず、しばし見入ってしまった後で、私はハッと気が付く。
『そうだった。勉強勉強っと……』
 まだ何もしていないのに、早くも5分以上が経過していた。しかも、1問目からのつまづ
きを考えると、残り5分で問い5までは相当怪しくなっている。
『……こうなったら、反則技で行くしかないな』
 先輩が寝ているのをいい事に、私はさっき解いた、同じ公式の問題を見直す。

17 名前:2/4[] 投稿日:2012/05/23(水) 21:36:48.32 ID:w0b+mgjq0 [4/9]
『別にいいわよね。答え見てる訳じゃないんだから』
 そう自分に言い訳して、ようやく1問目を解き終える。
『よし、出来た。じゃあ次は――って、予定の時間まで2分しかないよぉ。やっば~』
 せめて後2問はと、私は焦って問題を解こうとするが、時間が気になってちっとも進ん
で行かない。そうこうしているうちに10分は過ぎ、15分に差し掛かろうとしていた。
『うん。ここはしょうがない。問題集が出来ていないのは先輩に怒られればいいだけだけ
ど、クローゼットの中が見られたら、女の子としての私の人生が終わるもん』
 小さく呟き、立ち上がる。しかし、クローゼットの中を片付けようとする前に、私は先
輩の様子が気になった。
『……万が一にも、起きられたら困るから、ちゃんと確認しとかないと、ね』
 先輩の傍にしゃがみこみ、ほっぺたをツンツンと突付いてみる。
「う……うーん……」
 サッと手を離した途端、先輩がうっとうしそうに手で頬の辺りを払った。
『アハッ♪ 先輩ってば、可愛い。ほっぺプニプニで柔らかいし。クセになりそう』
 もう一度ほっぺを突付くと、先輩が嫌そうな顔になる。そこで私はハッと気付いた。
『いかんいかん。こんな事に夢中になってる場合じゃなかった。それに、先輩を起こすよ
うな真似してどうする』
 自分で自分に突っ込みを入れて、私はクローゼットの扉を開いた。途端に崩れ落ちた本
が、ドサリと足元に崩れ落ちる。
『あちゃ~……』
 思わず、惨状を目で覆って見まいとしてしまう。上の棚からは、雑誌にコミック、写真
集まで、いわゆる(成人)のマークが付いた本が落ちて散乱していた。私はしゃがみ込む
と、とりあえず大きさ順に拾い集める。
『これでよしっと。他の大丈夫な本はまとめて隅に置いといてもいいけど、これだけは何
とかしないとね』
 ちなみにクローゼットの上の棚に乗せるには、私には脚立が必要なので、それを取りに
行く暇があるなら、本ごと物置に持って行ったほうが手っ取り早い。
『先にドア開けとかないと。先輩を起こさないようにしないといけないし』
 両手が塞がった状態でドアを開けるのは、かなり危険が伴う。私は物音がしないように
静かにドアの傍に近付いて、そっと開けた。

18 名前:3/4[] 投稿日:2012/05/23(水) 21:37:11.70 ID:w0b+mgjq0 [5/9]
『フゥ…… 急がなきゃ。まだ全然問題集も終わってないし』
 最低限、8割は終わらせておかないと、また1からやり直しさせられる。そうしたら、終
わった後の映画の約束もおじゃんになりかねない。私は一気に片付けようと、積み上げた
十数冊の本を両手で抱え上げる。
『そーっと……そーっと……』
 一番の難関は、部屋から出るまでだ。ここをクリアしてしまえば、多少の言い訳は立つ。
こんな本が自分の部屋にあった事がバレさえしなければいいのだ。慎重に、抜き足差し足、
出口へと向かう。しかし、半ばまで差し掛かった時だった。
[キャンディーキャンディーキャンディキャンディーキャンディー♪]
『ふぇええっ!?』
 いきなり携帯が着メロを鳴り響かせる。
『やっばい。こんなの鳴りっ放しにさせたら先輩が起きちゃう!!』
 今起きたらマズイなんてもんじゃない。人生の終わりだ。私は本の山を片手に持ち替え、
もう片方の手で携帯を取ろうと片手を机に伸ばす。しかし、焦っていた私は、足を一歩踏
み出した時、机の角に小指の脇をガツンとぶつけてしまった。
『あいたあっ!!』
 思わず叫び声を上げ、足を押さえる。しかし、本を抱えたまま片足を上げたので、当然
体のバランスが崩れた。
『えっ……!? わっ、きゃああっ!!』
 ドサアッと盛大な音を立てて本をばら撒きながら、私は床にひっくり返った。
『あいったあああああ~~~~~……』
 何よりも痛烈に打った足を押さえつつ、私は情けなく呻く。しかし、すぐに私は我に返っ
た。携帯は鳴りっ放しで、雑誌やマンガが床に散らばっている。
『ヤバッ!! 早く片付けないと!!』
 しかし、時既に遅かった。携帯を強制的に止めて、本を集めようとした所で、先輩の声がする。
「ったあぁぁ…… 何だよ……?」
 どうやら、落下した本が、先輩にも当たってしまったらしい。しかし、気遣っている余
裕は無かった。
『わわわっ!! どうしよどうしよどうしよ!!』

19 名前:4/4[] 投稿日:2012/05/23(水) 21:37:39.99 ID:w0b+mgjq0 [6/9]
 急いで本を回収しようと、先輩の近くの本から素早く拾い上げる。しかし、先輩の手が、
私よりも早く一冊の本に行き当たった。
「何だこれ? マンガ……か?」
『先輩、ダメえっ!!』
 しかし、私の制止の声も虚しく、先輩は拾い上げた本を手に持ち、視線を落として題名
を確認する。
「……は? なんだこれ? おくまでいじって……」
 一気に、全身から力が抜けた。手に持っていたコミック誌が床に落ちる。絶望感が押し
寄せる中、私は床にへたり込んだまま、一言、呟いた。
『……終わった……』


最終更新:2012年06月08日 00:43