1◆


「生徒会室のネームプレートを持っていっていいかだと? それは構わんが何故だ?」
「はい。実はこの度、対主催生徒会というものを発足してみたんです。
 そこで拠点として、2-Bの教室を僕好みの生徒会室に改造しようと思いまして」

 ネームプレートを取り換えるために生徒会室に立ち寄ったレオは、一応の礼儀として柳洞一成にそう告げる。
 たとえNPCだとしても、彼がこの月見原学園の生徒会会長に就いている以上、筋は通しておくべきだろうと考えたからだ。

「ふむ、2-Bというと、確かマイルームだった教室だな。そして自分好みの生徒会室か……。なるほどな、そういうことか。
 確かにこの生徒会室は多少狭く、質素ではある。おぬしの気持ちも解らんでもないが―――無駄なので止めておけ」
「………それはどういう意味です?」
「まあ端的に言ってしまえば、徒労となってしまうからだ」
「徒労、ですか?」

 だが一成が口にした言葉に、どういう意味かと首を傾げる。
 2-Bにマイ生徒会室を作ることが、どうして徒労になるのだろう。
 その疑問に一成は、生徒会室の椅子に座ったまま腕を組み、「うむ」と頷いてその理由を述べた。

「このバトルロワイアルの会場は、ゲーム開始から六時間ごとにメンテナンスを受ける。
 そしてその際、この会場のマップデータも全てチェックされ、その際に発見されたエラーが修正されるのだ。
 理由は単純。アリーナにある転移装置など、改竄や破壊などされるとゲームの進行に問題が生じるモノがあるからだ。
 ……メンテナンスが六時間毎なのは、それらが破壊されるたびに修復作業を行っていては、他の作業に影響が出てしまうためだな。
 ようするに、如何におぬしが教室を改竄しようと、それらはメンテナンスの度に修正されてしまうのだ。
 無論、修復できぬレベルの破壊や改竄を行えば放送後も残り得るが、まあそれは非常にまれだろう。
 故に、無駄なので止めておけ、となるわけだ」
「成程、そういう事でしたか」
 一成の説明に納得し、レオはそう口にする。

 2-Bは聖杯戦争でマイルームとして使われていた教室だ。
 教室自体にマイルームの機能はなくなっていたが、馴染んだ拠点ゆえにそこを生徒会室にしようと思ったのだ。
 だがまさか、六時間毎にメンテナンスが行われるとは思わなかった。
 確かにアリーナの転移装置のことなどは、少し考えれば予想が付く事ではあったが。
 どちらにせよ、自分好みの生徒会室を作ろうとしていたレオとしては不満でならなかった。

「うむ。理解していただけて何よりだ。時間が有限である以上、無用な手間は可能な限り避けるべきだからな。
 ……まあここの生徒会室を使いたいというのであれば、好きに使うといい。俺はいつものように、三階の掲示板の前で立っているのでな。喝」

 一成はそう言うと椅子から立ち上がり、生徒会室から退室した。言葉通り、掲示板の前に立っているつもりなのだろう。
 それを見届けたレオは、先ほどの不満げな様子をあっさり消して、一転爽やかな笑みを浮かべた。

「まあもっとも、この生徒会室を起点にマイルームのプログラムを流用すれば、そう難しいことではないんですけどね」

 確かに2-Bの教室が改竄できないのは不満だ。しかし、だからと言って、レオがマイ生徒会室を諦める理由にはならない。
 なぜなら“教室を生徒会室に”改造するのが難しければ、“生徒会室を生徒会室に”改造すればいい、というだけのことなのだ。

 一成はマップデータがチェックされると言った。ならばそのチェックを誤魔化しさえすれば、どれだけマップを改竄しようと修正はされないはずだ。
 その設定も、聖杯戦争中に解析していたマイルームのデータを流用すれば、そう難しいことではないだろう。
 巧くすれば、ノーマルな生徒会室を残したまま、それを隠れ蓑にマイ生徒会室と設定することも可能かもしれない。
 たかだかメンテナンス程度で、レオの野望は止められないのだ。

「まあ、さすがに改竄を始めるのはメンテナンスが済んでからですけどね」

 これほどまでに校舎が破壊されている以上、月見原学園の全修復は免れないと思われる。
 そして作業中にメンテナンスがきてしまえば、二度とそんな改竄ができないようパッチを当てられてしまうかもしれない。
 そうなってしまえば、マイ生徒会室は夢のまた夢となるだろう。そんな愚は冒せない。
 ここは慎重に、我慢する時だ。

 そう判断すると、レオは先ほどまで一成が座っていた椅子――生徒会長の席に座り、これまでに取得した情報を整理し始めた。
 先ほども一成が言っていたように、時間は有限なのだから。
 ……まあ、その合間にマイ生徒会室のプランを作成するくらいの余裕はあるだろうが。


     2◆◆


「――――嘘よ!」

 泣き叫ぶように少女叫んだ。
 目を閉じて、耳を塞いで、必死に現実を拒絶した。
 どうして少女が、そこまでデスゲームであることを否定するのか。彼女の事情を知らないジローには理解できなかった。
 そしてそんな余裕も、ジローには微塵もなかった。
 なぜなら。

「うわああああ―――ッ!」
 学校の屋上。実に四階分の高さから、今まさに少女の手で突き落とされたからだ。

 落ちる。落ちて、死ぬ。
 地面に叩き付けられれば間違いなく死ぬ。だというのに、周囲に掴めるものは何もない。
 HPが満タンならともかく、半分近くまで削られている今、助かる見込みはない。
 だというのに、脳裏に迫る死の予感。それを覆す手段が、何一つ見つからない。
 そうして自分が助からないことを理解して、最後に、ジローは自分を突き落した少女へと視線を移した。

 少女は目の前の光景が信じられないみたいに、落ちていく自分を呆然と眺めている。
 その姿を視界に映したまま、ジローの意識は地面へと叩き落された。

     †

「うわあッ………!」
 悲鳴を上げて飛び起きる。
 あまりにも生々しい光景に、心臓がバクバクなっている。
 まったく、なんて夢だ。いきなりデスゲームなんてものに参加させられて、しかも学校の屋上から突き落とされて死ぬなんて。
 と、そこまで考えたところで。

「……あれ? ここ、どこだ?」

 ジローはようやく、そこが自分の部屋でないことに気が付いた。
 それどころかむしろ、どこかの学校の保健室のような………

「あ、起きた?」
 不意に幼い声がかけられた。
 聞こえた方へと視線を向ければ、そこには王子様のような恰好をした赤毛の少女がいた。

「えっと……君は?」
「私? 私はサイトウトモコって言います。
 ……よかった。見つけた時はびっくりしたけど、一応大丈夫みたいですね。安心しました」
 少女はそう言って、屈託のない笑顔を見せてくる。
 事情は分からないが、どうやらこの少女に心配をかけたらしい。看病もしてくれたようだし、とりあえずお礼を言っておこう。

「トモコちゃん、だね、心配してくれてありがとう。俺はジロー――十坂二郎っていうんだ。
 ……ところでトモコちゃん。ここは、どこなんだ? 俺はどうしてこんなところに?」
「ここですか? ここは【B-3】の月見原学園にある保健室ですよ。
 ジローお兄ちゃんはこの学校の中庭で木に引っかかっていたんです」
「え……? 学校、だって……? それに、木に引っかかっていた……? ってことはつまり………」
 さっきの夢は、夢じゃなかったということか?
 にしては外見上に傷はなく、痛みもほとんど感じない。
 そのためか、現実味というか、実感があまり湧かなかった。
 まあここは電脳空間らしいので、現実味というのもおかしな話だが。

「うーん……。まあとにかく、トモコちゃんが助けてくれたってことか?」
「いえ。私はジローお兄ちゃんを見つけただけなので、助けたというのはちょっと違うと思います」
「そうなのか? まあでも、俺を見つけて保健室に運んでくれたのはトモコちゃんだろう?
 だったらやっぱり、ちゃんとお礼を言わせてくれ。ありがとう」
「ええっと……どういたしまして?」

 そう戸惑った風に言葉を返す少女を見ながら、それにしても、とジローは思った。
 木に引っかかって助かったらしいが、よくもまあ屋上から突き落とされて助かったものだ。
 ドラゴンの時にしても、デウエスの時にしてもそうだったが、どうやら悪運だけはあるらしい。
 本当に幸運ならば、そもそもこんな状況に巻き込まれないだろうことを考えるに、素直に喜べないのがもの悲しいが。
 と、そこまで考えたところで、ふとあることに思い至った。

「っ、そうだ! なあトモコちゃん、俺の他に誰か……女の子がいなかったか!?」
 屋上から落ちる原因となった戦い。
 別行動をとったはずの遠坂凛と、襲撃してきた二人の少女の事を思い出したのだ。
 しかしトモコは、いきなりの大声にびっくりしながらも、首を振って否定した。

「い、いえ。私たちが見つけたのは、ジローお兄ちゃんだけです」
「……そっか。驚かせてごめん、トモコちゃん」
「いえ、大丈夫です。
 ……ジローお兄ちゃんは、お友達と一緒だったんですか?」
「いや、別に友達ってわけじゃないんだけどな……」
 そう言って否定しつつ、ジローは遠坂凛の事を考えた。

 俺が妖精の女の子に追いかけられていた最中、凜は褐色の少女を相手にしていたはずだ。
 そして俺がまだ生きているということは、妖精の女の子は俺を屋上から突き落とし時点で俺が死んだと判断したはずだ。
 ならば、妖精の女の子が凜と戦う褐色の少女に加勢に行くだろうことは容易に想像がつく。
 それまでに凜が褐色の少女を倒していればいいが、そうでない場合、一人で二人の相手をすることになる。
 もしそうなったのなら、彼女の生存は絶望的だろう。
 そうでなかったとしても、こうして取り残されていた以上、俺は死んだものと判断されたわけだ。

 はあ、とため息を吐いて気落ちする。
 それは自分があっさりと死んだことにされたからか、それとも、遠坂凛の助けになれなかったからか。
 後者だとすれば、人が死んだのに気落ちした程度で済んでいるのはなぜだろうと考えて、すぐに思い至った。
 もともと出会ったばかりで、大して親しい仲になったわけでもない上に、彼女が死んだ証拠を見たわけではないからだ。

 ハッピースタジアムの時は、まだ助けられるという希望があったからだと納得できる。
 けどこのバトルロワイアルにおいては、死ぬと明言されている上に、それが嘘だという証拠はない。
 本当だという証拠も同様にないが、どちらにせよ確かめる証拠はないのだから同じことだ。
 たとえデウエスを倒した時のようにこのデスゲームに勝利したところで、死んだ人は死んだままかもしれないのだから。

「はは……これじゃあの子のことを言えないな………」
 自分だって、これがデスゲームだって実感できてないじゃないか、と。
 これがデスゲームであることを信じようとしなかった妖精の女の子のことを思って、ジローはますます落ち込んだ。
 そんなジローの様子を見かねたのだろう。トモコが心配そうに声をかけてきた。

「……大丈夫ですか、ジローお兄ちゃん?」
「大丈夫。ちょっと落ち込んだだけだから」
「そうですか。ならいいんですけど……。
 そうだ。私、レオお兄ちゃんを呼んできますね」
「レオお兄ちゃん?」
「はい! 私たち対主催生徒会の会長さんなんです。ちなみに私は副会長です。
 すぐに呼んできますから、待っててくださいね」
 そう言うとトモコは、保健室から足早に出ていった。言葉通り、レオお兄ちゃんとやらを呼びに行ったのだろう。
 追いかけようかとも思ったが、今のところ危険はないようなので止めておいた。
 ただ代わりに、
「対主催生徒会………なんだそれ?」
 とだけ呟いておいた。


 そのすぐ後、ガラリと、再び保健室の扉が開かれた。
 トモコちゃんが何か忘れ物でもしたのかと思ったが、保健室に入ってきたのは別の少女だった。

「あ、ジローさん。先ほどレインさ……いえ、トモコさんが出ていかれましたけど、やっぱり目を覚まされていたんですね」

 学生服の上に白衣を着た、とても長い菫色の髪の少女。
 彼女はジローへと顔を向けると、そう声をかけてきた。

「アバターの方は修復しておきましたので、もうベットから出ても大丈夫ですよ。
 ただ、減ったHP(ヒットポイント)はそのままなので、注意してくださいね」
「は?」

 事務的というか、機械的に告げられる内容に、ジローは戸惑いを覚える。
 プレイヤー……なのだろうか。それにしては妙に無感情というか、人間味にかけているというか。

「あ、自己紹介がまだでしたね。私は聖杯戦争の運営用に作られた、AIの間桐桜と申します」
「AI……?」
「はい。このバトルロワイアルにおいては、学園内のプレイヤーの皆さんの健康管理を担当させていただいてます」

 その言葉にジローは、なるほど、と頷く。
 どうやら、彼女はこのデスゲームで与えられた役割をこなすだけ仮想人格らしい。
 その役割というのが、プレイヤーの健康管理……保健室という場所から考えて、保健委員なのだろう。
 しかし桜は、若干申し訳なさそうにしながら言葉を続けた。

「ただ健康管理と言いましても、一部の例外を除いて、私にはプレイヤーのHPを回復する権限が与えられていません。
 出来ることは状態(ステータス)異常の回復と、破損したアバターの修復だけです。これはモラトリアムの期間中でも変わりません。
 ですから先ほども言いましたように、たとえ外見上は完治していても、減ったHP(ヒットポイント)はそのままとなってしまします。
 なので、リカバリー機能で残りHPが安全域に回復するまでは、十分に注意してくださいね」
「そうなのか? ……ってうわ、かなり減っている……」

 そう言われてステータスを見てみれば、確かに残りHPが三割近くまで減っていた。
 ほとんど瀕死状態と言ってもいいが、それも当然か。屋上から突き落とされたのだから。
 ただそれほど体が痛まないのは、外見上はほとんどの傷が治っているからだろう。
 どうやらデータの世界では、痛覚に関してはアバターの状態の方が優先されるらしい。
 その事実は正直に言って有り難かった。でなければ今頃、痛みでのた打ち回っていただろう。
 そこでふと、疑問が一つ浮かぶ。

「……そういえば、リカバリー機能ってなんだ?」
 どうやらHPを回復させる機能らしいが、電脳野球ではHP設定などなかったので、どうにもピンとこない。
 そんなジローの様子を見てか、あるいはNPCとしての役割からか、桜は特に嫌そうな顔をすることもなく説明してくれた。

「リカバリー機能とは、一部のスキルや装備品の効果とは別に、完全な待機状態の時に徐々にHPを回復させるシステムの事です。
 このバトルロワイアルでは回復アイテムの入手が困難になっていますので、HPの主な回復手段はこのリカバリー機能になりますね。
 ただ、完全な待機状態――つまり非戦闘時かつ移動を行っていない状態でなければ、リカバリー機能は効果を発揮しないんです。
 しかも、回復量自体それほど多くありませんし。一応睡眠状態になれば、回復量は若干上昇するんですが……」

 そのかわりに無防備に隙を晒すことになる、ということか。
 ……そういえばルールの書かれたテキストに、そんな感じの事が書かれていた気がする。
 アイテムの確認とアバターの変更で精一杯だったうえに、テキスト自体も細々と書かれていたのもあって、斜め読みをして読み飛ばしてしまったらしい。

「なるほど。教えてくれてありがとう、間桐さん。
 それに体も治してくれたみたいだし、重ねてお礼を言うよ」
「いえ。私は自分の役割(ロール)をこなしただけですので。
 それでは、私は通常業務に戻らせていただきますね」
「通常業務?」
「待機です」

 それで必要な説明は終わったということだろう。
 桜はジローに背を向けると、手早くお茶を用意して部屋の中央にあるテーブルの席に着いた。
 そして用意したお茶を飲みながら虚空へと目を向けている彼女はまるで、何かを――あるいは誰かを?――待っているようにもみえた。
 おそらく健康管理を担当するNPCとして、再び役割を果たす時を待っているのだろう。


「それにしても………」
 と、ジローは窓の方へと視線を移す。
 遠く見える空の具合から、もうすぐ夜が明けると判る。

「パカは無事だろうか。こんな事に巻き込まれてないといいけど」

 ジローは自分の恋人になった少女――パカーディの事を想う。
 トモコの王子様のような衣装を見て、彼女の事を思い出していたのだ。

 ドラゴンとの戦いで、パカーディを助けていた呉殺手は死んでしまった。
 そして彼の代わりにパカーディを守る筈の自分は、デスゲームなんかに巻き込まれている。
 こんな状態で、あのあまりにも世間知らずな彼女が、一人で何の問題もなく過ごせるとは到底思えない。

「うう……考えれば考えるほど不安になってきた」

 もし彼女がこのデスゲームに参加させられているならば、今すぐにでも駆けつけたい。
 しかし彼女がどこにいるのか、そもそもデスゲームに参加させられているのかさえ分からない状態では、どうにも駆けつけようがない。

「無事でいてくれよ、パカ」

 湧き上がる不安を押し止めながら、ジローは明けていく空を眺め続けた。


 体力が 5上がった
 信用度が 1上がった
 『不眠症』に なった!


     3◆◆◆


 一方その頃、対主催生徒会会長ことレオは、生徒会室で整理し纏め終えた情報を確認していた。
 その内の、月見原学園に関する重要な情報は以下の通りだ。

 第一に図書室。これはいつでも利用可能な、多くの情報の収集元となっている。
 その蔵書は聖杯戦争中よりも数を増しており、有効活用できれば別世界の知識さえ獲得できると思われる。
 詳細な検索にはキーワードが必要だが、大いに期待できる情報源だろう。

 第二に中庭の教会。魂の改竄ができたこの場所は、現在は扉に鍵がかかっていて調査ができなかった。
 強引に抉じ開けることもできるだろうが、それはまた今度でいいだろう。
 それよりは学園の外にある、もう一つの教会の方を調査してみたいところだ。

 第三に食堂。正確にはその購買部。こちらはどうやら、学園が戦闘禁止区域となる六時から十八時の間に営業するらしい。
 そしてハッキングしてみたところ、販売品は【やきそばパン】【カレーパン】【激辛麻婆豆腐】の他、ごく普通の学食や文房具のみだった。
 聖杯戦争中に売られていたアイテムや礼装はなく、どうやら商品が追加されることもないようだ。
 近くにショップがあることを考えると、アイテムや礼装はそちらで販売されているのだろう。
 詳細な調査は、雑用係のハセヲが帰ってくるのを待とう。

 第四にアリーナ。こちらはそもそも、入り口を見つけることができなかった。アリーナへと繋がっていた場所は、用具倉庫へと変わっていたのだ。
 それはアリーナで入手するトリガーコードを鍵としていた、闘技場への扉も同様だった。ちなみにこちらは用具室となっていた。
 この事からこの校舎は、聖杯戦争予選で使用されたものをベースにしているのだろうと推測できる。
 そのため、ムーンセル中枢へのアクセスによって事態を解明するという試みは、実質達成不可能となった。

 聖杯戦争において決闘の場となったアリーナは、その深部ではムーンセルの中枢へと繋がっている。
 故にアリーナを攻略することで、上手くすればムーンセル中枢に辿り着けるかもしれなかった。
 しかしこれでは、アリーナの攻略以前にアリーナ自体がこの会場に存在するのかを確かめる必要がある。
 だがバトルロワイアルを破綻させ得る可能性を持つ要因を、主催者がわざわざ設置させるとは思えない。
 この校舎にない以上、アリーナが存在する可能性は低いだろう。

 …………いや、そういえば。
 と、ふと半ば埋もれていた記憶を思い出す。
 この校舎が本当に予選で使用されたものならば、あの場所にあるはずだ、と。


 ―――だがいずれにしても、行動するのはメンテナンスの後だ。
 その際に得られる情報の如何によっては、行動の優先順位を変更する必要があるだろう。
 加えてウイルスが発動するまでの残り時間は約十八時間。それまでに自身も動く必要がある。
 それがPKによる延命か、ウイルスへの根本的な対策かは別として。

 レオはそう結論すると、ふう、と一息を吐いた。
 それと同時に、トモコが生徒会室へと入出してきた。

「レオお兄ちゃん。あの人が目を覚ましたよ」
「おや、そうですか。それは良かった。いつ目が覚めるだろうと気になっていましたからね」
 争いの跡があったこの学園で倒れていたということは、彼はその争いに関与しているはずだ。
 つまり、彼と戦った人物――デスゲームに乗った参加者の情報が得られるはずだ。
 このデスゲームを潰す上で、この情報は逃せないだろう。

「では彼に事情を聞くとしましょうか」
 そう言って立ち上がると、レオはトモコを連れて生徒会室を後にした。

     †

 ガラリと、三度保健室の扉が開かれる。
 今度入室してきたのは、赤い制服を着た、金髪碧眼の少年だ。
 少年は保健室を見渡し、ベッドに座り込むジローを発見すると、

「おはようございまーーーす!」

 と、そんな元気のいい挨拶を口にした。
 見た目通りの、まだ子供っぽさの残った快活さ。
 ジローはその様子に、何となく学生の頃を思い出した。

「えっと……お、おはようございます?」
 だがそれは別として、彼は誰だろうと戸惑いつつ挨拶を返す。
 確かに今は早朝。朝が早い人ならもう起きている時間だ。挨拶自体はおかしくない。
 だが彼と俺は初対面のはず。こんな風にフレンドリーに挨拶をされる覚えはないと思う。

「はい。お返事ありがとうございます。
 できればもう少しテンション高めの方が望ましかったのですが、まあそれは期待のし過ぎですね。
 はじめまして。ボクはレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。気軽にレオと呼んでください。
 トモコさんから聞いているかもしれませんが、対主催生徒会の会長をやっています。
 ―――貴方の名前をお伺いしても?」
「ああ、俺は十坂二郎。ジローでいいぞ。
 ……一応、デンノーズっていう電脳野球チームのキャプテンをやってる」

 ジローは少年――レオの自己紹介にそう名乗り返す。
 デンノーズのキャプテンだと名乗ったのは、フリーターでは印象が悪いと思ったからだ。
 その際、入社予定だった会社が倒産しなければ、会社員(サラリーマン)だと言えたはずだったのに。となんとなく思った。
 そうすれば電脳野球に関わることもなく、こんな危険な目に合わずに済んだかもしれなかった。
 ………けれど、電脳野球に関わったからこそパカと出会えた事を考えると、何とも言えない感じがした。

「……あれ? そういえば、トモコちゃんは?」
 パカの事を考えたからだろう。ふと彼女に似た格好をした少女の事に思い至った。
 彼女は確かレオを呼びに行ったはずだが、今はどこにいるのだろうか。
 なんてことを考えていると、

「もう。私はここにいるよ、ジローお兄ちゃん」
 と言いながら、少女がひょっこりとレオの背後から姿を現した。
 どうやら妙に目を引くレオの陰に隠れて、彼女の事を見落としていたらしい。

「わ、悪い。気付かなかった」
 気まずさに頭を掻きながらも、少女へと素直に謝る。
 すると少女は、「もう」と文句を言いながらも、あっさりと許してくれた。
 もともとそれほど怒ってはいなかったらしい。だが次からは気を付けようとジローは思った

「では改めて。おはようございます、ジローお兄ちゃん」
「ああ、おはよう」
「朝の挨拶も済んだことですし、そろそろ本題に入りましょう」
 ジローが改めて少女と挨拶をすると、レオがそう言って話を切り出してきた。
 当然といえば当然だが、顔を見せに来ただけではないらしい。

「ジローさん。この学園で……いえ、貴方に何があったのかを、お話していただけますか?」
「……………………」
 そしてその内容も、十分に予想ができたものだった。
 怪我人を助けたならば、その怪我の理由を尋ねるのは当たり前の事だし、それがこんなデスゲームともなれば尚更だ。
 安全のために危険人物かどうかを警戒するのは、それこそ当然のことだろう。

「わかった。で、どこから話せばいいんだ?」
「そうですね。ではバトルロワイアルの開始時点からでお願いします」
 ジローの問いかけにレオはそう答えると、「ですが」と前置きを口にした。

「その前に……えっと、そこの保健室の人」
「間桐桜です」
「ではサクラ、テーブルを貸していただけますか? さすがに立ったままの長話は疲れますので」
 そう言ってレオは、お茶を飲んでいた桜にそう要求した。
 そんな理由で場所の移動を要求するのはどうかと思うが、しかし桜は特に不満を口にすることなく、「いいですよ」と言って保健室の隅へと移動した。
 そんな、こちらの勝手な都合によって自室(?)の隅に立たされる形になった彼女の事を、ジローは少し不憫だと思った。

     †

 ――――それから十数分後。

「なるほど、そのような事が。
 ジローさんと言いましたね、話してくれてありがとうございます、おかげで大凡の状況が掴めました」
 ジローから手早く事情を聞き出したレオは、そう言って礼を述べた。
 彼が遭遇した三人の人物――特に、デスゲームに乗った人物に関する情報は、レオにとって非常に有益なものだった。
 それは間違いなく、対主催生徒会の今後の指針になり得るだろう。

「いや、別に感謝されるようなことじゃ……。それに助けられたのは俺の方だし」
「そんなことはありません。貴方の話から、今後の対応が取りやすくなりました。
 それは紛れもなく、貴方が事情を話してくれたおかげです」
「えっと、そうなのか?」
「はい。そうなんです」

 そう言われると流石に満更でもないのか、ジローは照れくさそうに頭を掻いた。
 だが、レオはどこか不満そうな顔で、ジローの反応を見ていた。
 その様子はまるで、何か思っていたのと違う、とでも言いたげだった。

「? どうしたんですか、レオお兄ちゃん?」
「いえ。今古典的なギャグを少し混ぜてみたんですが………ちょっと解り難かったでしょうか」
「――――――――」
「……………………」

 そんなレオの言葉に、二人は思わず沈黙した。
 いや、一応気付いていた。気付いてはいたが、二人ともあえて無視したのだ。
 何しろネタが古すぎる上に、微妙に滑っている。使い古されたギャグほど、扱いが難しいものはない。

「ええと……悪いんだけど、古典的過ぎて、ちょっと笑えないぞ」
「なんと、そうだったんですか……残念です。もっと勉強しないといけませんね」
 レオは落ち込み気味にそう言ったが、そんなことを勉強してどうするんだ、とジローは思った。
 そんなジローを尻目に、レオは「まあそれはともかく」と口にして、あっさりと顔付き、というか雰囲気を切り替える。

「遠坂凛に、褐色の肌の女性ですか……もしそれが彼女だとすれば、もしかしたら彼も………」
「お知合いですか?」
「ええ、まあ。遠坂凛は僕と同じ、聖杯戦争の参加者なんです。
 そして僕の予想が正しければ、ジローさんが遭遇した褐色の女性は、ラニ=Ⅷ。彼女もやはり、聖杯戦争の参加者です」
「聖杯戦争?」
 聞きなれない単語に、ジローは首を傾げる。同時に、桜が同じ単語を口にしていたことを思い出した。
 レオと桜は顔見知りなのだろうか。にしては先ほど、桜はヒドイ扱いを受けていたが。

「ああ、すいません。貴方にはまだ、僕たちの事を説明していませんでしたね。
 ではサクラ。彼に聖杯戦争の事と、僕たちプレイヤーについて説明してあげてください」
「わかりました。ではまず、聖杯戦争についてから説明しますね」
 レオが説明を委任すると、桜はそう了承して説明を始めた。
 月で行われた聖杯戦争の事。そして自分達が、様々な『世界』から集められたことなど。
 そうして語られた内容は、ほとんど眉唾のような、俄かには信じがたい話だった。
 しかし現在の状況を考えれば、少なくとも嘘だと否定する気にもなれなかった。

「―――ようするに、俺たちはそれぞれ違う『世界』から呼ばれたってことか?」
「ええ、そういう事になります。事実、僕達は貴方の言うツナミという企業を知りませんので。
 同様にジローさんも、ハーウェイの名を聞いたことはないのでしょう? 西欧財閥は世界の六割を支配しているというのに」
 事情を話すついでにジローの『世界』の事も訊いていたレオは、そう言ってジローの言葉を肯定した。

 ………正直に言って、ジローはレオの言葉を完全には理解できていなかった。
 とは言っても、レオの言った西欧財閥の存在を信じていないわけではない。
 むしろそのハーウェイとやらが、ツナミの正体なのではないかと疑うほどには真実味はあった。
 ただ、ここに至るまでにジローの理解を超える事態が多すぎたのだ。
 元の世界でのデウエスの事件とパカの復讐騒動に加え、それらが完全に終わらないうちにバトルロワイアルだ。
 さらにここにきて、その参加者たちは別世界の住人かもしれないと来た。
 普通ならどれも、ただのフリーターであるジローにどうこうできる事態ではない。
 ――――だが。

「……だとしても、そう難しく考えることじゃないだろう?
 対主催生徒会……だっけ? そんな風に名乗っているってことは、あの榊ってヤツに従う気はないってことだ。
 俺も、バトルロワイアル自体は止められなくても、少なくとも乗るつもりはないからな。
 なら、今やることはそう変わらない。自分に出来ることをする。そうだろう?」

 たとえ訳の分からない状況であっても、自分が今できる事をきちんとやれば、どうにかなる事もあるだろう。
 なにしろ、ドラゴンの時もデウエスの時も、そうやって乗り切ってきたのだから。
 だから今度も、自分にできる最善を尽くすだけだ。

「……………………。
 これは少し驚きました。貴方の教養はそれほど高くないのではと思っていましたが、」
「おい」
「現状の認識力、とでも言いましょうか。思考の巡り自体は意外と良いみたいですね。
 どうやら僕は、貴方を見縊っていたようです」
「だからおいって!」
「最初はただの保護対象として考えていましたが、考えを改め、貴方を協力者と認めましょう。
 ようこそ、対主催生徒会へ。僕は貴方を歓迎します。―――雑用係・その2として!」
「人の話聞けよ―――! なんだよ、その雑用係って!」

 聞いているのかいないのか、ジローの文句を、レオはどこ吹く風と受け流す。
 それはまさに柳に風、どころか、地上から唾された天の如きスルースキル。
 まあようするに、一市民の声など、一国の王には容易に届きませんよという事実の見事な見本だった。

「はあ………………。
 まあ、その対主催生徒会ってのに入れてもらえるのはいいけどよ、
 ……いや、雑用係ってのには気になるけど。
 出会ったばかりのよく知らない人間を、そんな簡単に信用していいのか?」
 そんなレオの様子にジローは文句を諦め、替わりに当たり前の事実を指摘する。
 リアルが判らない電脳野球のチームを率いていたからこそ、ジローにはその点が気になった。

 通常ツナミネットでは、本当の自分(リアル)を偽って――あるいは隠して遊ぶのが普通だ。
 運良くというべきか、デンノーズのチームはみんな信頼できる人ばかりだっただが、そうでない人がいたとしても不思議ではなかったのだ。
 そしてもしデウエスとの最後の決戦の時に、チーム内に信頼できないメンバーがいたとしたら、チームはあそこまで結束できただろうかと、レオの言葉を聞いてふと思ったのだ。
 だがその心配を、レオはあっさりと否定した。

「ああ、その事でしたら心配はいりません。ですよね、ガウェイン」
「はい。彼が善良な人物であることは間違いありません」
「うわあっ……!?」
 いきなり現れた白い騎士に、ジローは思わず驚きの声を上げた。
 そんなジローの様子をおもしろげに眺めながら、レオは騎士へと声をかける。

「ガウェイン、挨拶を」
「セイバーのサーヴァント、ガウェインです。対主催生徒会では、じいやの役割を任されています。
 レオともども、以後よろしくお願いします」
 白い騎士はそう自己紹介を済ませると、現れた時と同様に姿を消した。
 ツナミネットでもアバターが唐突に消えることがあったため今度は驚かずに済んだが、それでもいきなり現れるのはやめてほしい。

「実は貴方の行動は、保健室に運び込んだ時点から今まで、ずっと彼が監視していました。
 そしてその結果、貴方は無害な人物であると判断させていただきました。
 だって、一見一人でいたトモコさんを襲わず、知り合いの心配をし、自身の装備の確認を忘れるような人が危険人物とはとても思えませんから」
「……………………」
 そう言って朗らかに笑うレオを、ジローは思わず半目で睨む。
 どうやら自分行動は、完全にレオに筒抜けだったらしい。
 あどけなさの残る印象に反して、意外と抜け目ない人物らしいと印象を改める。

「……ってそうだ、俺の銃!」
 そこでようやく、ジローは自分が武器を持っていないことに気付く。
 慌ててメニューを開いてみるが、装備品の項目は空欄。つまり、現在は何も装備していないということだ。
 一先ず落ち着こうと深呼吸をし、それからよくよく記憶を探る。
 屋上から落ちた時は確かに持っていた。しかし目を覚ました時にはすでに見当たらなかった。
 だとしたら、屋上か中庭。そのどっちかで落としたのだろうか。
 そう考えたところで、笑いを堪えているレオの姿が目に映った。

「………なんだよ」
「すいません。貴方の慌てふためく様子が少し面白かったもので、つい。
 そう慌てなくても大丈夫ですよ。貴方の持っていた拳銃はこちらで預からせてもらっています。
 流石に危険人物かどうかも判らない人の武器を、そのままにしとく訳にはいきませんでしたので」
「まぁそれは分かるけど……だったら早くいってくれよ」
「いえ。いつ自分で気付くのかと思っていたんですが、まさか僕が口にするまで気付かないとは思いませんでしたので」
「……………………」

 ………どうやらこのレオという人物は、見かけによらず良い性格をしているらしい。
 そう先ほどとは違った意味でレオへの印象を改める。
 この分ではこれから先、どんなふうに弄られるかわかったものではないと、ジローが考えていると。

「わ、今度は何だ!?」
「おや、これは……」
「メール、ですか?」
 先ほど閉じたはずのウインドウが再び開かれ、メールの着信を告げるメッセージが表示されていた。
 こちらからは見えないが、どうやらレオと少女も同様に、ウインドウが強制的に開かれたらしい。

「定時メンテナンスの時刻になりました。これより月海原学園校舎の修復が開始されます。
 同時にモラトリアムが開始され、月見原学園校舎内は戦闘禁止区域となります。プレイヤーの皆さんは、一切の戦闘行動を自粛してください」
 すると桜から、そんなシステム・ボイスが告げられた。
「――――――――」
 直後、レオの手が、見えないウインドウを素早く操作し始める。
 その表情はついさっきまでとは違い、あまりにも真剣なものだった。

「……何を―――」
 しているんだ。と続こうとした呟きが、ごうっという音に遮られる。
 音の発生源は外から。
 慌てて窓へと駆け寄ってみれば、空からオーロラのような光のヴェールが下りてきていた。
 光のヴェールは向かいの校舎と、そしておそらくはこの校舎を覆いながらなお徐々に降りてくる。

「な、なんだこれ……!?」
 いったい何が起こっているのか。
 もしかしてこの現象が、桜の言っていた定時メンテナンスというやつなのだろうか。

「これは、まさか……変遷なのか……?」
「え……?」
 隣から聞こえた呟きに、思わず振り返る。
 そこでは少女が、光のヴェールを睨み付けるように見つめていた。
 『変遷』と言っていたが、少女はこの現象について何かを知っているのだろうか。

「…………メンテナンスの観測設定はこれで良し、と。
 では皆さん、とりあえず廊下へと出てみましょうか」
 その呼びかけに振り替えると、レオはテーブルから立ち上がって、保健室の扉へと手をかけていた。
 その様子を見た少女も、すぐにレオのもとへと駆け寄り、保健室から出ていく。

「あ、おい!」
 慌てて二人を追いかけ、保健室から廊下へと出てみれば、
「っ、これは………」
 一回の廊下は、凄惨たるものだった。
 何枚もの割れた窓ガラスと、粉砕された校舎の壁。
 ―――覚えている。それは、自分と凜が、二人の少女に襲われた際にできた傷痕だ。

 それが、一瞬で修復されていく。
 盛大に破壊されていた廊下は、天井をすり抜けた光のヴェールを潜り抜ける端から、元の無傷な形へと直っていく。

「ってうわ!」
 いつの間にか頭上へと迫っていた光のヴェールに、ジローは思わず頭を庇う。
 しかしそんな事で光のヴェールが止まるはずもなく、それははジローの頭を覆い、肩から胴へと移動し、足先へと潜り抜けていった。

「あれ、なんともない?」
 薄目を開けて様子を窺うが、別段気持ち悪くなったりはしていない。
 周囲を見てみても、廊下が完全に修復された以外は、特に変わった様子もない。
 それどころか頭を庇っているのが自分だけという状況に、何となく恥ずかしくなった。

「……なるほど。メンテナンスはこのように行われるのですか。
 良いデータが取れました。これならば十分に対処できそうです」
 納得したようにレオが呟く。
 どうやら先ほどウインドウを操作していたのは、あの光のヴェールのデータを取るためだったらしい。
 あのタイミングで素早く対応できるということは、元々そのつもりだったのだろう。

「それにしてもジローさん」
「………なんだよ」
 笑顔を見せてくるレオに嫌な予感を懐きつつも一応聞き返す。
「実に小市民的で良い反応でした。参考になります」
「何の参考だよ……」
 その呟きに対する答えはない。
 レオはただ満足そうに笑っているだけだ。
 どうやら自分は、何かの観察対象にされているらしい。

「まあそれはそうと、先ほど届いたメールを確認しましょうか」
 そう言ってレオは、あっさりと雰囲気を切り替えて保健室へと戻って行った。
 ……わからない。レオが何を考えているのか、さっぱりわからない。
 公私を分けるとは言うが、あそこまでころころと切り替えられると、さすがに混乱してしまう。

 ジローはそんな風に頭を痛めながらも、トモコと一緒に保健室へと戻って行った。


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最終更新:2014年11月10日 15:58