13◇◆◆◆


「ふむ。今度はギリギリで間に合ったようだな。しかも、捜していた相手も見つかるとは」
「どうやら僕の幸運も、捨てたもんじゃないみたいだね。ま、当然だけどさ」
 そう軽口を叩きながら、慎二とアーチャーはユウキ達を庇うようにテイカーと相対する。
 そんな乱入者を見て、ダスク・テイカーは驚いたように、あるいは呆れたように口を開いた。

「おや。誰かと思えば貴方でしたか、アジア圏一のゲームチャンプさん。
 一体何の用ですか? まさかまた僕に、貴方の持つものを奪われに来たんですか?」
 しかし同時に、テイカーの口調にはまったく隠す気のない嘲笑が混ざっている。
 対する少年は苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、負けじとテイカーへと言い返す。

「そんなワケないだろ。お前から僕のサーヴァントを取り返しに決まってんじゃん」
「おやおや。さっきは尻尾を巻いて逃げたくせに、今度はずいぶんと強気なんですね。そこの赤い人がいるからでしょうか」
「ハン。お前の方こそ、こんな所でまだグズグズやってるなんて、騎兵の英霊(僕のライダー)を連れているクセに、ずいぶんとノロマじゃないか。
 それともなに? イベントのポイント二倍ってのに釣られちゃったわけ? だよねぇ。どうせお前、自分が負けるはずないとか考えちゃってるんだろ」
「当然じゃないですか。僕は相手の切札を奪うことで、必ず相手より優位に立てる。負ける理由がありませんよ。
 それと一つ訂正しておきますけど、貴方のじゃありません。彼女はもう、僕のものです。そこを勘違いしないでくれますか?」
「勘違いしてるのはどっちだよ。余裕綽々なその態度、さっきまでの僕とまるっきり同じじゃないか。
 自分のことながらホント笑っちゃうよね。これがただのゲームだと勘違いして、そんな無様晒してたなんてさぁ」
「……僕と貴方が同じだなんて、ずいぶんと舐めた事言ってくれますね。
 なら、格付けと行きましょうか。まあもっとも、貴方如きがどう足掻いたところで無駄なんですけどね。
 僕は貴方より遥かに格上だってことを、その体に直接教えてあげますよ」
「ハッ! いいぜ、出来るもんならやってみろよ―――!」

 そう言い争う二人の様子は、傍からは十分に同レベルに見えた事だろう。
 対してアーチャーは、ライダーを警戒しつつ、背後に庇った二人の少女へと視線を向けた。
 メガネをかけたSDアバターの少女は、外見上は無傷だが、血の気が引いて顔面蒼白となっている。
 対してその背中にコウモリのような半透明の翅をもつ少女は、一目で重傷と解るありさまだ。
 ただどちらの少女も、諦めた様子は欠片も見えない。その事に安心し、アーチャーは二人へと声をかけた。

「どうやら相当追い詰められていたようだが、大丈夫かね?」
「……君ら、何者? 一体何が目的?」
「気持ちはわかるが、そう警戒するな。私たちは味方だ、《絶剣》のユウキ」
「な、なんでボクの名前を!?」
「君の事はユイから聞いた。とは言っても、種族が闇妖精族(インプ)であることと、《絶剣》の名だけだがな」
「ユイちゃんから?」
 その名を聞いたユウキは、警戒をわずかに緩める。

 アーチャー含む白野たちは、ユイから彼女の知り合いに関してある程度の情報を聞いていた。
 その際に、ほんの触り程度ではあったが、ユウキの事も聞き及んでいたのだ。……ただし、すでに死んだ人物として。

「死者であるはずの君がここに生きている理由は気になるが、まあそれは後だ。
 今はこの状況をどうにかすることが優先だ」
「………うん、そうだね。わかった、協力しよう」
「協力だと? まさかそのダメージで戦う気か?」
 アーチャーはユウキの状態を診て、顔を顰めながらそう口にする。
 それは当然だろう。どう見たって彼女は戦える状態ではない。
 だがそんな事は関係ないとばかりに、ユウキは力強く肯いた。

「もちろん。あのロボットには、ちょっと本気で頭に来ていてね」
「本気か? ……と聞きたい所だが、どうやら本気のようだな。
 まったく。一体何をしたかは知らんが、ヤツも余計なことをしてくれる」

 ユウキの強い意志を宿した瞳に、アーチャーは呆れたようにため息を吐いた。
 明らかに瀕死のユウキ達には、キリト同様ブルース達に保護されて欲しかったのだが、この様子では聞き入れてくれそうにない。
 かと言ってユイの知り合いを死なせるわけにもいかないため、このまま好きにさせることは出来ない。
 ならば仕方ない、全霊を賭して彼女たちを守るとしよう。と、アーチャーは結論を下す。
 それと同時に、テイカーと言い争っていた慎二が声を張り上げる。

「アーチャー!」
「承知した。だが慎二、彼女もヤツと戦うそうだ」
「あ? っておいおい、お前そんな状態であいつと戦うつもりかよ」
「そうだよ。絶対に引く気はないからね」
 慎二もユウキを一目見て、アーチャーと同じように渋面を作る。
 だがそれでも決意を変えないユウキに、慎二は苛立たしげに声を荒げた。

「ああそうかよ。死んじまっても知らないからな!」
「死なないよ。少なくとも、アイツなんかには殺されてやらない」
 慎二の言葉にそう返すと、ユウキはカオルへと振り返った。

「カオル、少しだけ待ってて。すぐに終わらせるからさ」
「はい、わかりました。頑張ってください」
 ユウキの言葉にカオルは笑顔を浮かべ、確かな信頼を込めてそう応える。
 彼女が負ける姿など、想像もしていないと告げるかのように。

 カオルはユウキを助けるために、一度テイカーに殺された。
 すぐに蘇生されたとはいえ、その時に感じた恐怖や、増幅された苦痛は並大抵のものではなかっただろう。
 それでもこうして笑顔を浮かべてくれる彼女に報いたいと、ユウキは強く思った。

「うん、頑張る」
 ユウキもまた笑顔を浮かべてカオルへと応え、前へと出て慎二の隣に並び立つ。
 そして鋭くテイカーを睨みつけ、ランベントライトを一振りしてその戦意を示した。

「お待たせ。――――さあ、始めようか」

 真正面から叩き付けられた宣戦布告。
 それ受けたテイカーは、抑えきれないとばかりに笑い声を漏らし。

「……く、くはは………!
 本当に、ずいぶんと僕を舐めてくれますね。たかが負け犬と、死に損ないの分際で!」
 それは一転して、激しい怒りの声へと変わる。
 同時に、ギシリ、と空間が歪んだような、大気が軋む音がした。

「《全装備解除》」
 とテイカーがボイスコマンドを入力する。
 途端、右腕の火炎放射器と左腕の触手が、空間に解けるように消滅した。
 言葉通りの武装解除。だがそれが、テイカーの降伏を意味しないことは、この場の誰もが理解していた。
 それどころか、より大きな力を封じていた拘束具が外されたかのような、そんな緊張感さえ漂い始める。

「いいでしょう。本気で戦ってあげますよ。
 そして後悔してください。この僕を、怒らせたことを………」
 そう言うとテイカーは、両手で小さな三角形を作り、呪詛めいた言葉を低く放ち始める。

「……トル。エル。ツカム。ケズル。ウバウ。ウバウ、ウバウ、ウ、バ、ウ……」

 直後。金属質の高周波とともに大気が震え、同時にテイカーの両手が、どす黒い紫色の波動に包まれた。

 先ほどまでとは明らかに異質な力の具現に、ユウキ達の表情に緊張が奔る。
 対するテイカーは無言のまま、紫色のオーラに包まれた指をくっと小さくまげ、それを合図にしたかのよう地を蹴った。

「散れッ!」
 それに一瞬早く反応したアーチャーが、即座に散開の指示を出す。
 その声でユウキは空へと跳び上がり、慎二は必死で地面を転げ、アーチャー自身はカオルを抱え、素早く後ろへ飛び退いた。
 そうして空いた空間を、一瞬遅れてテイカーの左手が薙ぎ払い、紫色の三日月を描く。
 ――――近くにあった立木を、障害など無かったかのように削り取りながら。

「なっ! はぁ……!?」
「うわぁ……」
 その、明らかに規格外の破壊力に、慎二は驚愕に己が目を疑い、ユウキは冷や汗とともに引いた声を出す。
 サーヴァントであるライダーの銃撃でさえ粉砕するのが精々だというのに、樹木をこうも容易く削り取ったテイカーのあの力は、一体なんだというのだろうか。
 だが二人が驚く間もあればこそ、テイカーは左腕を触手へと変え、空中にいるユウキへと向けて勢いよく伸ばした。


 それを見て、カオルを離れた位置に避難させたアーチャーは、即座に援護に向かおうと駆け出す。
 だがその脚は、テイカーへと到達する前に、自分に向かって放たれた銃弾によって止められた。

「悪いね色男。アンタの相手はアタシだよ」
「ちィ……ッ!」
 舌打ちをしつつ、アーチャーはライダーの二丁拳銃から放たれる弾丸を防ぐ。
 どうやら、サーヴァントの相手はサーヴァント、ということらしい。
 だがこれでは、瀕死のユウキは一人でテイカーの相手をしなければならなくなる。
 ……いや、一人だけ、彼女の助けになれる者がいる。

「慎二! 君がユウキを支援しろ!」
「はぁ!? 僕があの女を!?」
「そうだ。もともとヤツは貴様の相手なのだろう? このままでは、ヤツを倒した手柄は彼女一人の物になるぞ?
 聞く所によれば、彼女はALO統一デュエル・トーナメントとやらのチャンピオンらしいぞ?
 なら君も、アジア圏ゲームチャンプの意地を見せてやれ!」
「ッ――!? プライドは捨てろとか何とか言ってなかったか、お前!?」
「別にプライドを捨てろとは言っていない。プライドに拘って勝機を見逃すなと言っているのだ」
「ああもうわかったよ! 行けばいいんだろ行けば! 一流ゲーマーの協力(コープ)ってヤツを見せてやるよ!」

 慎二はそう言って、テイカーと戦うユウキの下へと走っていった。
 その背中を横目で見届けて、アーチャーは改めてライダーと相対する。

「ま、そういう訳だ。ヤツの相手は彼等がする。
 我々はサーヴァント同士、聖杯戦争の再現といこうか」
「言うねぇ色男。そんじゃそのセリフ通り、おっ始めるかねぇ!」

 言うや否や、ライダーはアーチャーへと、踊るように二丁拳銃を乱射した。
 対するアーチャーも、干将莫邪で銃弾を弾きながら、魔術回路を励起させる――――。

「派手に使い切るとしようかぁ!」
「投影、開始(トレース・オン)!」

     †

「っ―――!」
 ユウキは迫りくる三本の触手を咄嗟に旋回して回避し、切り落とす。
 テイカーの触手に捕まれば、あっけなく紫のオーラを纏った右手に引き裂かれる。
 それ以前に、今の残りHPでは、地面に叩き付けられただけで全損し兼ねない。だが……。

「やばっ……!」
 切り落とした触手は再生し、再びユウキへと襲い掛かる。
 咄嗟に触手の届かないより上空へと逃げようとするが、これまでのダメージからくる激痛に初動が遅れた。
 その一瞬の隙に、触手の一本が、ユウキの片足へと絡みついた。

「捕まえましたよ……ッ!」
 その瞬間、テイカーは勢いよく触手を振り回し、ユウキを地面へと叩き付けようとする。
 だがそれを予測できていたユウキは、即座に足に絡みついた触手を切り離した。
 そして翅を広げて落花の勢いを減速させ、両足と左腕で衝撃を吸収してノーダメージで地面へと着地する。
 しかし同時に、テイカーがユウキへと向けて駆け出す。その速度は、今までより遥かに速い。

「しまっ……!」
 その落差に一瞬反応が遅れ、奔る激痛にまたも初動が遅れる。
 カオルを助けるために、八割近く残っていたHPを一気に残り一割にまで削り落としたその代償は、ユウキが思っていた以上に大きかったのだ。
 テイカーはその代償の隙を容赦なく奪い、ユウキの頭を蹴り飛ばすように右脚を振り抜いた。

「ッ……!」
 ユウキは蹴撃を咄嗟に仰け反って躱すが、そのまま振り下ろされた足に、地面へと踏みつけられる。
 たったそれだけの事で、ユウキの残り僅かなHPは一割を切った。そしてテイカーの行動も、それだけでは終わるはずがない。
 テイカーはユウキが反応するよりも早くその顔面を近づけ、その技名を発した。

「《デモニック・コマンディア》ッ!!」

 直後、テイカーのレンズ型バイザーから密度のある闇が放射され、ユウキの顔を捉えた。

「あまり調子に乗んなよ!」

 そこに慎二の声が割り込み、ユウキを黄色く輝く十字のエフェクトが包む。
 同時に発生した、何かを吸い出されるような感覚に、ユウキはテイカーを蹴り飛ばして即座に距離を取る。
 そしてテイカーへと警戒を向けながら、自分の状態を確認していく。
 生きている、という事はダメージを与える攻撃ではない。そもそも殺す気ならば、紫のオーラを纏った右腕で引裂けばいい。
 ならば今の攻撃は何だったのか、とユウキが考えていると、先ほど自分に何かのバフをかけた慎二が駆け寄ってきた。
 慎二はユウキの傍へと近づくと、ユウキへとリカバリー30を使用しながら声をかけてきた。

「おい、大丈夫か? 何を奪われたんだ?」
「奪われた……って、なんのこと?」
「今のあいつの攻撃は、相手のアイテムやスキルを奪うものなんだよ」
「ッ………!」
 それを聞いてユウキは、テイカーが散々自分の意志など関係はない、と言っていた意味を理解した。
 なるほど。確かにそれならば、あるいは翅を奪うことができるかもしれない。

「だったら君は、ボクにどんなバフをかけたの?」
「お前の幸運を強化したんだよ。アイツの攻撃は防げないけど、望み通りにはならないようにさ」

 慎二がこの場で使えるコードキャストは、shock(32); 、loss_lck(64); 、そして支給された礼装【開運の鍵】によって使用可能となったgain_lck(32); の三つだ。
 これらの内、shock(32); は相手にダメージを与え、一定確率でスタンさせる効果を持つ。
 しかし慎二は、テイカーが《魔王徴発令》発動したと見るや、gain_lck(32); を使用しユウキの幸運を強化した。
 なぜならスタンの確実性がないshock(32); では、テイカーの行動を止められない可能性があったからだ。
 加えてこの戦場に駆け付けた際には、幸運を下げる効果のloss_lck(64); をテイカーに対して使用していた。
 そこで慎二は、幸運の下がったテイカーとの差を広げることで、《魔王徴発令》による損失を最小限に止めようとしたのだ。
 もしテイカーがユウキの命を奪おうとしていたのならば、たとえ確実性がなくとも、慎二はshock(32); を使用していただろう。


「なるほどね。たぶんそれ、上手くいったと思うよ。
 ランベントライトは持ってるし、支給されたアイテムも減ってない。
 アイツが欲しがってた翅だって、ちゃんとあるし」
 慎二の説明を受け、ユウキはストレージや翅を確認してそう告げる。
 つまり奪われたものは、スキルかアビリティという事だ。それらの内、何が奪われたのか確認しようとすると。

「僕が貴方から何を奪ったのか。それは今から教えてあげますよ」
 テイカーがそう言って、オーラに包まれた右腕をやや後ろ手に構え、ボイスコマンドを呟いた。

「《パイルドライバー》装備」

 それと同時に、テイカーの右腕が紫のオーラとは別の光に包まれ、肘のところから何かが装着されていく。
 現れたのは、直径十五センチ、長さ一メートルはある太いパイプだ。しかもその開口部には、鋭く尖った金属製の杭が内蔵されている。
 ―――文字通りの『杭打ち機』。それがテイカーの右腕に実体化した、新たな《強化外装》だった。

 ユウキはそれがテイカーの奪ったものかと考え、即座に否定する。
 先ほど確認した時点で、支給されたアイテムは奪われていなかった。
 ならばテイカーが奪ったものは武器を必要とするもの、攻撃スキルだ。
 そして『杭打ち機』という形状から、系統は刺突。

「っ………………!」
 そこまで考え、至った答えに、心が凍り付くような悪寒を覚えた。
 まさか………あいつは………『あれ』を奪ったのか―――!?

「ユウキ!」
「ッ――!」
 慎二の声に、我に返る。
 気が付けば、テイカーは間近に迫っていた。
 思考が停止していた間に、接近されたようだ。
 その距離は、やはり、“あの技”を使うに適した間合い。

「さぁ、絶望しなさい――!」
 パイル・ドライバーが、テイカーの紫色のオーラとも違う、青紫色のライトエフェクトに包まれ、轟音を立てて打ち出される。

 ――まずは、右上から左下へ、五連。
 ユウキは咄嗟に左半身を後ろへ下げ、最初の二連を。残る三連を、ランベントライトで受け流す。
 ギイン、という音が三度響き、細剣の刀身が軋みを上げる。

 ――次いで、左上から右下へ、同じく五連。
 体を即座に半回転させ、こちらの動きに合わせて修正された軌道をズラし、繰り出される五連突きに合わせて後退する。
 ゴウッ、という音とともに、大口径のパイプが体を掠めていく。

 ――止めに、画いた十字の交差点に向けて、全力の一閃。
 後退したことによって、間合いは僅かに届かない。だが『杭打ち機』という特性を直感的に理解し、上半身を限界まで仰け反らせる。
 ガシュン! という轟音を立てて、内蔵された鉄杭が一瞬で打ち出された。

「ッ――――!!」
 焼け焦げ、ほとんど用を成さなくなっていた胸部のアーマーが、鉄杭が掠めただけで粉砕され、データの粒子となって消えていった。
 それを見届けることなく、仰け反った姿勢からそのままバク転へと移行し、『杭打ち機』の射程から完全に離れる。

「へぇ……上手く避けましたねぇ。てっきり最後の一撃で、これの機能に気付かず貫かれると思っていたんですが。
 さすがはこのスキルの元の持ち主、と褒めてあげましょう」
「――――――――」
 テイカーは鉄杭を再装填しながら、ユウキへと向けて徴発するようにそう口にする。
 だがユウキには、それに応える余裕はなかった。
 武器の違いだろう。速度が落ちている代わりに、威力が跳ね上がっている。最後のギミックなど、普通の剣では再現できない。
 ………だがそれでも、間違いはなかった。

「マザーズ……ロザリオ……」
「ええ、その通りです。
 このスキルは便利ですね。これだけの威力がありながらゲージは全く消費されないし、しかもスキル名を発声する必要もない!
 今のところ適合する装備がなくて、この強化外装がないと使えないのが欠点といえば欠点ですが、それでも十分に強力です」
 優越感とともにそう語るテイカーの言葉など、ユウキにはほとんど聞こえていなかった。
 何故なら、そんな雑音など消し去るほどに激しい怒りが、ユウキの心を燃やしていたからだ。

 あのスキルを自分以外の誰かが使うのは構わない。
 もともとデュエルで賭けていたものだし、アスナに託したものでもある。
 だから許せないのは、別の事。
 アイツが……ダスク・テイカーがあのスキルを使っていることが、ユウキにはどうしても許せなかった。

 ……だがしかし、その紅蓮に燃える怒りの炎は、余分な思考までもを焼き払い、かえってユウキを冷静にさせる。
 故にユウキは、テイカーへと最後の疑問を投げかけた。

「一つだけ聞くけど、君は命を何だと思っているの?」
「はあ? まさか、たとえデスゲームだとしても、人を殺すのは良くない。とか言うつもりですか?」
「別に。死にたくないから殺す。叶えたい願いがあるから殺す。いいと思うよ、それは。こんなデスゲームじゃ仕方ないしね」
「………なら何が言いたいんですか、貴方は?」
「君は、自分が殺した相手の命を背負う覚悟があるのかって訊いてるんだよ」
「……………………」
「ないでしょ。だって君からは少しも感じられないもん。本当に強い人たちが持っている、“意思の力”を」

 それが、ユウキがテイカーに対して懐いていた怒りだった。
 死にたくないから殺すのは構わない。生きたいと願うのは、人として当たり前の物だからだ。
 自らの願いのために、他者の命を奪うのも構わない。そこに、殺した相手の命を背負う覚悟があるのなら。
 だがダスク・テイカーは違う。彼は覚悟もなく、ただ欲しいからという子供の我が儘でカオルを人質に取り、気に入らないからというだけで彼女を一度殺した。
 常に死とともにあり、それでも今を精一杯生きてきたユウキには、その事がどうしても許せなかった。

「《オリジナル・ソードスキル》って知ってるかな」
「……………………」
 脈絡なく切り替わったユウキの質問に、テイカーは内心で首を傾げた。
 それと、覚悟がどうのといった話と、何の関わりがあるというのだろうか。
 と、そんなテイカーに疑問に、ユウキは話を続けることで答える。

「ALOにはもともと、《ソードスキル》っていうスキル系統があるんだ。その中の例外が、《オリジナル・ソードスキル》
 このOSSは、オリジナルって名前から解るように、自分でデザインした《技》を《ソードスキル》として登録できるんだ」

 その説明を聞いて、テイカーは理解し、そして嗜虐の笑みを浮かべた。
 つまり《マザーズ・ロザリオ》は、ユウキがデザインしたOSSなのだろう。
 それをこうして奪ってやったのだ。これほどの愉悦は、そうはないだろう。
 ………だが待て。それならばなぜ、この女はこうまで冷静でいられるのか。
 その新たな疑問にも答えるように、ただし、とユウキは続けた。

「OSSを登録するには、非常に厳しい条件をクリアする必要があるんだ。
 それはね、“身体の動きに僅かでも無理があってはいけない”ことと、
 “その攻撃速度が、元々あるソードスキルに迫るものでなければならない”というものなんだ。
 もちろん、システムアシストなんかなしでね」
「なっ――!」
「……んだってぇ!?」

 その言葉に、テイカーだけではなく慎二まで驚愕の声を上げた。
 それは、システムアシストというもの重要性をよく知っているからこその驚きだった。
 当然だろう。ゲームにおけるスキルというものは、大抵がシステムアシストによって制御されている。
 ……というより、システムアシストがなければ再現できないような速度や精度を持つ攻撃が、いわゆる《スキル》なのだ。
 だというのにユウキは、テイカーが感心するほどの《ソードスキル》を、システムアシストなしで実現していたのだ。

「ま、まさか貴方……!」
 《マザーズ・ロザリオ》を奪い、実際に使用したからこそ、テイカーにはその異常さが理解できた。
 そしてユウキが、わざわざOSSについての説明をした理由も、また――――。

「見せてあげるよ。《絶剣》と呼ばれた僕の力、“本物の強さ”をね」
 ユウキはランベントライトを、体の正面で、テイカーに向かってまっすぐに構える。
 ただそれだけで、テイカーは自分が、彼女の持つ細剣に貫かれたかのような錯覚を覚えた。
 それだけの気迫を、今のユウキはテイカーへと向けて放っていた。

「ぐ、う、うぉぉおおお…………!」
 それを、自分かユウキに気圧された事を認めまいと、テイカーは声を張り上げてユウキへと迫る。
 同時に、その右腕のパイル・ドライバーが青紫色に輝き、再びユウキへと向けて《マザーズ・ロザリオ》が放たれ、

「ヤアッ――!!」
 それを上回る裂帛の気合いとともにユウキの右手が閃き、真なる《マザーズ・ロザリオ》が放たれた。

 右上から左下に五連。次いで左上から右下に同じく五連。計十連撃にも及ぶ、神速の連続突き。
 互いの中央でぶつかり合った互いの武器が、激しい金属音を響かせた。
 それは即ち、互いの《マザーズ・ロザリオ》が、互角だという事を意味している。
 ……恐るべきは、それほどの速度と威力を誇りながら、ユウキの手の細剣にはシステムアシストの証となるライトエフェクトが発生していないことだ。
 つまりユウキは自分の実力のみで、システムアシストを受けたテイカーと互角の攻撃を、本当に繰り出して見せたのだ。

 ……だがその現象に、あり得ない、とテイカーは断じる。
 速度はともかく、威力はこちらの方が上だ。そのはずなのに、なぜ相手の攻撃を押し切れないのか。
 いやそもそも、《マザーズ・ロザリオ》の始動は“右上から左下へ、そこから左上から右下へ”と繋がる連続突きだ。
 同じ技を同時に放った場合、交錯点を除けば、刺突はお互いに相手を貫くはずなのに、どうして武器が打ち合うのか。

 その答えは、やはりユウキの恐るべき技量にあった。
 ユウキはテイカーの《マザーズ・ロザリオ》に対抗するために、システムアシストがないのをいいことに、二度の五連撃の順序を入れ替えたのだ。
 即ち、“左上から右下へ、次いで右上から左下へ”、という形へと。
 これによりユウキの攻撃の軌道はテイカーと重なり合う事となり、お互いの武器は打ち合うこととなった。
 さらに、威力で勝るテイカーの一撃を、より疾く、威力が乗り切る前に迎撃することで攻撃の相殺さえ可能とさせたのだ。

 これが、両者の《マザーズ・ロザリオ》が互角であった理由だ。
 ………否、互角ではない。システムアシストなしにこれを可能とさせる時点で、ユウキが圧倒的に優っていると言えるだろう。

 ―――しかし、《マザーズ・ロザリオ》は計十一連撃のOSS。
 先に放った二度の五連撃の交錯点を穿つ、最後の十一撃目が存在するのだ。

「舐めるなァ……ッ!!」
 その十一撃目を、テイカーは渾身の力を籠めて付き放った。
 たとえ威力が互角でも関係ない。お互いの武器が激突したその瞬間に、パイル・ドライバーのアビリティ『穿孔(パーフォレーション)』を発動させれば、それだけで相手の身体を貫ける。
 ――――だがそれは、彼が攻撃できればの話でしかない。

「ちょっと黙ってろよ、おまえ」
 その言葉とともに、テイカーの全身に衝撃が走り、体が麻痺したように動かなくなる。
 シンジの放ったコードキャスト、shock(32); によるスタン効果が発生したのだ。
 彼はこの瞬間を――たとえスタンが発生せずとも、テイカーへの有効な妨害になるタイミングを待っていたのだ。

「キ、貴様ァア………!!」
 テイカーが慎二へと向けて、激しい憎悪を宿した声で叫ぶ。
 同時に、ユウキ右手が閃き、十一撃目の一閃が放たれた。
 その一撃はテイカーの無防備な胴体を貫き、その衝撃でそのまま強く弾き飛ばした。

「ガッ……………!」
 弾き飛ばされ、地面へと倒れ伏したテイカーは、しかしすぐに起き上ることは出来なかった。
 相手から奪ったはずのスキルで、見下した相手の妨害で、完全に打ち負けた事が、彼の略奪者としてのプライドを打ち砕いたのだ。
 加えて穴の開いた胴体から発せられる激しい痛み。見れば、HPは残り二割弱しかない。
 しかもここは痛みの森。一撃でも受ければ、その時点でHPを全損しデリートされるだろう。

「く、はははは……………」
 絶体絶命と呼ぶにふさわしい状況に、思わず笑いが込み上げてきた。
 優位に立っていたはずの状況からここまで一気に逆転されるなんて、まるでデスゲームに参加させられる前の状況みたいではないか。
 ………ならばなおさら、ここでやられる訳にはいかない!


「ゲームオーバーだよ、おまえ。諦めてさっさと僕のライダーを返せよ!」
 そう言いながら、慎二はテイカーへと近づく。
 といっても、最低限の警戒は残してあるのか、その足はテイカーから十メートルほどの距離で立ち止まった。
 ………だが、その程度の距離は、テイカーにとってはないに等しい。

「……ゲームオーバーは、貴方の方ですよ!」
 言うや否や、テイカーは跳ね起きると同時に慎二へと迫り、左腕の触手を慎二へと伸ばす。
 同時にパイル・ドライバーを除装し、解放された右手に紫色のオーラを纏う。

「ひっ―――!」
「なっ………!」
 慎二が悲鳴を上げ、ユウキが驚きの声を漏らす。
 テイカーはほとんど一瞬で五メートルの距離を移動し、その触手で慎二を捉え、引き寄せた。
 そしてそのまま、防御不可能な紫のオーラを纏う右手で慎二を引き裂こうとして。

「赤原を行け、緋の猟犬!」
 その言葉とともに放たれた赤光の魔弾に、防御行動をとらざるを得なくなる。
 射手は赤い外套の男。ライダーと戦っているはずのアーチャーだ。
 彼はいつの間にかライダーを下し、こうしてシンジを助けるための一矢を放ったのだ。
 ―――だがその赤光に輝く一矢を前にして、テイカーに恐れはなかった。

 テイカーがその両手に纏う紫色のオーラは、シルバー・クロウ等が《虚無の波動》と呼ぶ攻撃威力拡張系の心意技だ。
 そして心意は心意でしか防げない。たとえサーヴァントの攻撃であろうと、それが心意でない以上テイカーには通用しないのだ。
 故にテイカーにとって、アーチャーの攻撃など恐れるに足るものではない。
 その確信とともに、テイカーは赤光の魔弾を虚無の波動で受け止め―――その威力に弾き飛ばされた。

「、なッ―――!」
 自分が弾き飛ばされたことに、テイカーはあり得ないと驚愕する。
 同時に、単純な破壊力自体は互角だったのか、上空へと弾き飛ばされた魔弾も視界に映る。
 なぜ自分が弾き飛ばされたのか。なぜ破壊の心意に触れた魔弾が健在なのか。
 考えられる理由は一つしかないが、だからこそあり得ない。
 サーヴァントであるアーチャーが、心意システムを知っているはずがないのだから。

「シッ――!」
 その驚愕の間に、ユウキが慎二を拘束する触手を切り落として開放し、彼を連れて距離を取ろうとする。
 それをさせまいと、テイカーは虚無の波動を纏う右手で二人を薙ぎ払おうとするが、そこへアーチャーが夫婦剣を手に斬りかかってくる。
 テイカーは即座に攻撃を中断し、アーチャーの攻撃を防御する。当然、虚無の波動に包まれた右手でだ。
 ―――だが干将莫邪は破壊されず、虚無の波動と反発しあってスパークする。

「まさか……貴方も心意技を!?」
 その現象に、堪え切れず疑問が口を突いて出る。
 心意技と対抗できる攻撃は心意技しかない。ならばこの現象は、アーチャーは心意技を使っているという事に他ならない。
 だがその双剣に、心意の証である過剰光(オーバーレイ)は全く見受けられない。心意でないというのなら、これは一体何なのか。
 ――――その疑問の答えには、アーチャーが先に辿り着いた

「心意技? それが貴様のその能力(スキル)の名称か。
 心意という名称から察するに、貴様のそれはただの物理現象ではなく、心――精神に関係する能力の類か。
 だとすれば……なるほどな。その心意技とやらには、宝具の属性を持つ攻撃で対抗できるようだな」

 ―――宝具とは、決してただ特殊能力を備えただけの武器ではない。その創造には人の想念――心が大きく関わっているのだ。
 故に、心の傷を源とする心意技では、宝具への「事象の上書き(オーバーライド)」による干渉を行うことが出来ない。
 なぜなら心意によって干渉するには、宝具に宿る人の心を「上書き」する必要があるからだ。
 …………気の遠くなるほどに長い年月をかけて積み重なり続けてきた、数えきれないほど多くの人の想念の結晶を。

「つまり貴様の切札は、サーヴァントに対してあまり有効ではないということだ!」
「クッ…………!!」

 略奪によってスキルを奪い優位に立つ事もできず、心意技は宝具によって対抗される。
 純粋な戦闘能力でさえ並のバーストリンカーを軽く凌駕する彼らは、基本能力において劣るダスク・テイカーにとってまさに天敵といえる存在だったのだ。
 その事をようやく理解したテイカーは、より進退窮まった状況に歯噛みする。

「ライダー、僕を助けろ!」
 そして窮地を脱するために、己がサーヴァントへと命令する。
 アーチャーに敗れたためか、ライダーは地面に膝をついているが、そんなのは関係ない。
 だがライダーは、木を支えに立ち上がりながらも、僅かに首を振るだけだ。

「おいおい、この状況でそれは難しいだろノウミ。
 アタシはそこの色男にいいの貰っちまって、結構ヤバいんだけど?」
「……なら努力しろ。マスターである僕が死んだら、お前だって消えるしかないんだろう」
「……ったく、主人の命令とあっちゃあ仕方ないねぇ」

 本当に仕方なさげにそういうと、ライダーは二丁拳銃をアーチャーへと向け、素早く引き金を引く。
 放たれた無数の弾丸はテイカーさえも巻き込むほどの弾幕を張るが、虚無の波動で防ぐテイカーにダメージは及ばない。
 しかしアーチャーの方はそうはいかない。
 即座にテイカーから距離を取り、弾幕から逃れるために慎二達の下へと飛び退いた。

「油断したな、慎二。勝利を確信するのは、相手を完全に無力化してからにしておけ。
 あと一歩という所で気を抜いて、後ろからグサリ、は優雅じゃない」
 テイカーたちへと注意を向けながら、アーチャーは慎二へと気安げに声をかける。
 それを聞いて慎二は、最後のミスに対してか、助けられたことに対してか、恥ずかしそうに言い返した。

「う、うるさい! 来るのが遅いんだよお前!」
「それはすまない。だが、彼女を庇いながらライダーとやり合うのは、さすがに手古摺ったのだよ」
 そう言ってアーチャーが視線を向ける先には、こちらへと走り寄ってくるカオルの姿があった。
 それを見て、ユウキはすぐにカオルへと駆け寄った。

「カオル、大丈夫だった!?」
「私は大丈夫です。彼が守ってくれましたから。
 そういうユウキさんこそ大丈夫でしたか?」
「もちろん、大丈夫だったに決まってるじゃん」
「おまえ等さぁ、はしゃぐのは後にしろよな。まだ終わってないんだからさ」
 お互いの無事を喜ぶ二人の姿を見て、慎二は呆れたようにそう口にする。
 その視線の先では、憎悪の籠った視線でこちらを睨み付けるテイカーの姿があった。


「どうしてあと少しアーチャーを抑えておけなかったんですか、ライダー。そうすれば、少なくとも一人は始末できたはずでしたのに。
 ………まさか、手を抜いたんじゃないでしょうね」
 ふらつきながらも自分の元へと合流したライダーに、テイカーはそう詰問する。
 だがライダーは不快げに眉を顰めると、開き直ってその事実を認めた。

「あん、手抜きだぁ? そんなのしたに決まってるじゃないか」
「な……なんですって!?」
「いやぁ、アタシが本気でも、こればっかりは仕方ないっつーか。
 あくまでアタシは副官だからねぇ。命令以上の事はできねぇえっつーか。
 そもそもサーヴァントと本気でやり合うには、魔力が足りなさ過ぎるっつーの」
「っ…………!」

 その言葉で、テイカーは自分の必殺技ゲージを確認する。
 ………なんだ。まだ四割も残っているじゃないか思い、即座にその間違いに気付く。
 『まだ』ではない、『もう』なのだ。ユウキから受けた最後の一撃を考えれば、実際には二割を下回っていたことだろう。
 そんな攻撃スキルさえ使えない状態では、さすがに敗北しても仕方がない。その事を、僅かに苛立ちながらも認める。

「仕方ありません。ここは撤退します。
 ライダー、貴方の宝具を移動に限定して使用すれば、彼らから逃げる事は可能ですか?」
「まぁギリギリでできんじゃないの? そこら辺のゲージ管理は、主人の仕事だろ?」
「っ………、出来るのなら構いません。すぐに実行してください」
「あいあい、ヨーソローってか」

 テイカーの命令にライダーが応じると同時に、二人の足元が僅かに波打ち始める。
 それを見た慎二は二人が逃げようとしている事を悟り、テイカーへと食って掛かる。

「おまえ、逃げる気か!?」
「ええ、逃げますよ。さすがにこの状況でこれ以上の戦闘は厳しいので。
 ああ、あと一つ言い残しておきますと、この屈辱の借りは必ず返しますので、覚悟しておいてくださいね」

 テイカーがその言葉を言い終えると、二人は足を動かすこともなく動き始める。
 それを見て取った慎二は、今度はライダーへと向けて、いっそう声を張り上げた。

「ッ…………! おいライダー! 僕は必ず、おまえを取り返すからな! 絶対だぞ!!」
「おやおや、カッコいいこと言うじゃないかシンジ。
 だったらその言葉通り、アタシをこいつから奪い返して見せな!」

 ライダーが慎二へとそう言い残し、二人の姿は、森の木々に隠れて見えなくなった。
 その方向を、慎二はじっと見つめていた。


    14◇◆◆◆◆


「とりあえず、窮地は脱したか」
 テイカー達の姿が完全に見えなくなったことを確認して、アーチャーはそう口にした。
 慎二はそれを聞き咎め、アーチャーに対して不満げに口を開く。

「おいアーチャー。どうしてライダーたちを追わないんだよ」
「なら彼女たちをここに置いていくか?
 仮とはいえ今は君がマスターだ。どうしてもと言うのであれば、私もそれに従うが」
「い、いや、そんな事は、しないけどさ………」

 アーチャーが返してきた言葉に、慎二はしどろもどろになりながら答える。
 彼とてわかってはいるのだ。このままライダーたちを追うのであれば、瀕死のユウキと戦力外のカオルは足手纏いにしかならないことは。
 ただ彼女たちの撤退を見逃すことに、若干の抵抗と焦りを覚えたのだ。
 だからと言って彼女たちをこのまま置いていくことは、さすがの慎二もできなかった。

「ゴメンね、私たちのせいで」
「い、いや、謝る必要はないよ。うん。
 きっと、いや絶対、またチャンスはあるさ」

 ユウキの謝罪に、慎二はらしくもなく照れながら、右手の甲を見つめてそう口にした。
 そんな慎二を見て、ユウキは彼へと気遣うように声をかけた。

「ねぇ、シンジ君」
「よ、呼び捨てでいいよ」
「じゃあシンジって呼ぶね。代わりにボクの事も、呼び捨てでいいから」
 そう言ってユウキは、慎二と同じようにライダーたちが逃げて行った方へと視線を向けた。

「ねえシンジ。あのライダーって人、君の仲間だったんだね。
 ………彼女、強かったよ。とても」
「と、当然だろう! なにせ僕のサーヴァントなんだからね!
 ………けど、おまえだって十分凄いよ」
「すごいって、何が?」
「あのロボット――ノウミってやつにさ、スキル奪われても狼狽えたりしないで、それどころか、瀕死のくせに真正面から勝っちゃったじゃんか。
 令呪を奪われて無様晒してた僕とは大違いだ。さすが、統一チャンピオンだよ」
「ああ、あれか。でもあれ、結構危なかったんだよ?
 シンジがサポートしてくれなきゃ、最後の一撃で打ち負けてたかも」
「それでも、だよ。
 僕にはあれくらいしか、出来なかったんだ。なのにおまえは、自分の力だけで、チャンスを掴んだじゃんか。
 正直言ってさ、憧れちゃったよ、おまえに。アジア圏一のゲームチャンプであるこの僕がさ」

 そう言うと慎二は、さらに遠くを見るように、その目を細めた。
 ユウキは何も言うことなく、次の言葉を待った。

「アーチャーがさ、僕に言ったんだよ。自分を縛るプライドに拘るなって。
 その言葉の意味、おまえを見て何となくわかったよ。
 ……おまえのそのダメージってさ、全部、あのカオルって子を守るために受けたものなんだろ?」
「……うん、そうだよ」
「やっぱりね。システムアシストなしであんな凄い必殺技を使える奴が、ノウミなんかに負けるはずないもんな。
 ……まあ、ライダーも一緒に攻撃していたらわかんないけどね。
 とにかく……おまえはそんなボロボロになっても、守るって決めたものを守り通したじゃん。
 それってさ、やっぱり凄いと思うよ。少なくとも、僕にはできない」

 そう言ってまた、慎二は口を閉ざした。
 そんな慎二へと、今度はユウキから声をかけた。

「だったらさ、やらなきゃいいじゃん」
「え?」
「できないことはやらない。代わりに、できることを頑張ればいいじゃん」
「できる事を、頑張る……?」
「そ。ボクも『絶剣』なんて呼ばれてるけど、さすがにダンジョンのボスを一人で撃破なんてできないからね。
 でもその代わり、みんなと力を合わせて、みんなのために頑張って、もっと強いボスを倒すことは出来る。
 だからシンジも、自分にできる事を頑張ればいいと思うよ」
「……………………」

 その言葉を聞いて、慎二は何かに驚いたように目を見開いた。
 ああ、そうだ。一体何を弱気になっていたのか。
 自分にできないことはやらない? そんなのは当たり前だ。なんでそんなメンドクサイことをしなければならないのか。
 僕は、僕がやりたいことだけを、僕がやりたいようにすればよかったのだ。ただ、それだけだったのだ。

 自分の失敗や弱音、他人より劣っている点を認めるのは、負けを認めるような気がして嫌だった。
 けどそれは違った。プライドに拘って負けを認めないことこそが、本当にカッコ悪い事だったのだ。
 その証拠に、出来ないことを出来ないとあっさりと認めたユウキの姿は、傷だらけでありながら、この上なくカッコ良かったのだから。

「ああもう、ホント情けない! さっきから弱音ばっかじゃん。カッコ悪いな、僕。
 おいアーチャー! プライドに拘るなってこういう事かよ!」
 と、そんな風にアーチャーへと突っかかる慎二を見て、もう大丈夫だろうとユウキは思った。
 自分の弱さを認められるという事は、そこからさらに強くなれるという事でもあるからだ。
 ならば自分たちも、やるべきことをやりに行こう。

「それじゃあボクたちはもう行くね。だいぶ時間が経っちゃったけど、キリトの事を探さないといけないし」
「そうですね。もう間に合わないかもしれませんが、探さないよりはずっといいはずです」
 ユウキは慎二たちへとそう声をかけ、カオルを抱えて翅を広げる。
 もう速度を出して急ぐことに意味はない。森の上を飛んで、広い範囲を探すことにしよう。
 と、ユウキがそんな風に考えていると、飛び立つ前に、慎二に呼び止められた。

「おい、待てよユウキ。そんな状態でこの森をうろつくつもりか?」
「うん。キリトは、大切な友達だからね」
「そうかよ。……………………。
 よし………そのキリトって奴なら、さっき会ったよ」
「え!? 本当に!?」
「ああ、案内してやるよ。ついてきな」

 そう言うと慎二は、森の奥へと向けて歩き出した。
 そんな彼へと、アーチャーが問いかける。

「慎二、ライダー達を追わなくていいのかね?」
「そ、そうだよ。彼女を取り戻したいんでしょ?」
「いいんだよ。あいつの船の速さは良く知ってる。今からじゃもう追いつけないさ。
 それに、おまえにも借りがあるからな。それを返すまで、勝手に死なれたら僕が困るんだよ」
「ボクに借りって?」
「おまえ、ノウミに統一チャンピオンの意地を見せつけたじゃん。だったら僕も見せつけないといけないだろ、ゲームチャンプの意地ってヤツをさ。
 それを、おまえにも……………………いや、なんでもない。それより早く行くぞ!」

 そう言うと慎二は、やや速足で歩き出した。
 まるで最後に言いかけた言葉を誤魔化そうとするかのように。

「まったく、少しは素直になったかと思えばこれか」
「難儀な性格してるんだね」
「でも、面白そうな人ですよ」

 先行する慎二の背中を見ながら、アーチャーたちは口々にそう述べる。
 そんな彼らの眼差しは、微笑ましいものを見るように優しげだった。


【E-6/森/1日目・午前】

【ユウキ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP10%、幸運上昇(中)
[装備]:ランベントライト@ソードアート・オンライン
[アイテム]:黄泉返りの薬×4@.hack//G.U.、基本支給品一式、不明支給品0~1
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:洞窟の地底湖と大樹の様な綺麗な場所を探す。ロワについては保留。
1:シンジの案内について行って、カオルと一緒にキリトのところへ行く。
2:その後、何事もなければ野球場に行く。
3:専守防衛。誰かを殺すつもりはないが、誰かに殺されるつもりもない。
3:また会えるのなら、アスナに会いたい。
4:黒いバグ(?)を警戒。 さっきの女の子(サチ)からも出ていた気がする。
[備考]
※参戦時期は、アスナ達に看取られて死亡した後。
※ダスク・テイカーに、OSS〈マザーズ・ロザリオ〉を奪われました。

【カオル@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP25%
[装備]:ゲイル・スラスター@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~2
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:何とかしてウイルスを駆除し、生きて(?)帰る。
1:ユウキさんと一緒に、慎二さんについていく。
2:どこかで体内のウイルスを解析し、ワクチンを作る。
3:デンノーズのみなさんに会いたい。 生きていてほしい。
[備考]
※生前の記憶を取り戻した直後、デウエスと会う直前からの参加です。
※【C-7/遺跡】のエリアデータを解析しました。

【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP50%(+40)、ユウキに対するゲーマーとしての憧れ、令呪一画
[装備]:開運の鍵@Fate/EXTRA
[アイテム]:不明支給品0~1、リカバリー30(一定時間使用不能)@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:ライダーを取り戻し、ゲームチャンプの意地を見せつける。それから先はその後考える。
1:ユウキをキリトたちのところへ案内する。
2:ノウミ(ダスク・テイカー)を探すのは、一先ず後回し。
3:ユウキに死なれたら困る。
4:ライダーを取り戻した後は、岸波白野にアーチャーを返す。
[サーヴァント]:アーチャー(無銘)
[ステータス]:HP70%、MP75%
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。

【黄泉返りの薬@.hack//G.U.】
味方1人の戦闘不能状態をHP25%で回復させられる。
ただし制限により、効果を発揮できるのは、対象が死亡してから5秒以内とされている。

【開運の鍵@Fate/EXTRA】
身に着けると開運するありがたいお守り。
・boost_mp(40); :装備者のMPが40上昇
・gain_lck(32); :対象の幸運を強化/消費MP20


Next sick, home sink

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最終更新:2014年01月12日 11:42