15◇◆◆◆◆◆
――ねえキリト。一緒に、どっか逃げよう?――
―――不意に聞こえた声に目を覚ます。
周囲を見渡せば、あまりにも茫洋とした一面の青。果てなど全く見えない海の中にいた。
その光景に、どこか見覚えがあったからだろう。息ができる不思議さよりも、どうしてここにという疑問が先に立った。
………そうだ。自分は、最後にサチの身体から現れた黒手から、咄嗟にユイを庇ったのだ。
彼女は無事だろうか。セイバーやキャスターは心配しているだろうか。
カイトは………どうしているだろう?
と、一度気になると、彼女たちの事が心配になってきた。
どうにかしてみんなのところへと戻りたいが、一体ここはどこなのだろう。
死後の世界か、黒点の中の亜空間……ではないだろう。
そのどちらかにしては、不思議なほどにこの海は穏やかだ。
まるで海流の流れを感じない。底から湧き上がってくる気泡だけが、この海で唯一の動くものだ。
他に手掛かりもないし、この海の正体を確かめるために、その気泡に触れてみる。
――ねぇ、なんでここから出られないの?――
――なんでゲームなのにホントに死ななきゃならないの?――
――こんな事に、何の意味があるの?――
気泡は触れると弾け、海に響く様にそんな声が聞こえてきた。
これは、記憶……だろうか。おそらく、目を覚ます時に聞こえた声も、この気泡によるものだろう。
………ああ、そうか。
と、この海が何なのかに思い至る。
見覚えがあるはずだ。ここはムーンセル中枢と同じ、記憶の海なのだ。
個人の思い出か、ムーンセルが観測した人類史かの違いはあるが、たぶん間違いないだろう。
となると問題は、これが誰の記憶の海か、になるのだが、思い当たる人物は一人しかいない。
―――サチ。黒点のウイルスに侵された、ありすと同じ死んだはずの少女。
それに思い至ったからか、体が海の底へと、ゆっくりと沈み始める。
……あるいは抵抗して、海面へと向かって泳げば、ここからすぐに出られたのかもしれない。
だが今はサチの事の方が気になる。セイバーたちには悪いが、もう少しだけ待っていてもらおう。
自分勝手だとは思うが、そんな人間をマスターにしたのだ。そこは諦めてもらおう。
と、そんな事を考えながら、
岸波白野は沈んでいった。
――私、死ぬの怖い――
……その途中で触れた気泡からは、そんな、人として当たり前の感情が響いてきた。
――――――――そうして。
一瞬にも、永遠のようにも感じた時間を経て、海の底へと辿り着く。
……暗い。穏やかな青ではなく、文字通り沈んだ黒い海。
海中とは違い一切の光が届かないここは、まさしく海底と呼ぶにふさわしい。
そんな場所に、サチはいた。
彼女はこちらに背を向け、膝を抱え蹲っていた。
つい少女へと声をかけ、彼女の方へと足を踏み出し、
目の前に現れた、巨大な半透明の魚に思わず踏み止まった。
魚は岸波白野の前を通り過ぎると、そのまま回遊するように海底を泳ぎ始めた。
あれは何なのかと目を凝らせば、魚の身体からは、サチを操っていたあの黒点が湧きでていた。
それを見て理解する。あの半透明の魚こそが、少女を操っていた“黒点の主”なのだ。
ならばあの魚を倒せば、サチは開放されるはずだ。
………だがどうやって。ここにはサーヴァントたちも、カイトもいない。かといって岸波白野では、それこそ戦いにもなりはしない。
一体どうすれば、サチを助けられるのだろうか。
――――と、そんな風に考えていると。
「……ねぇ、なんで死ななきゃいけないの?」
唐突にそんな声が聞こえた。
それは、海中で聞いた記憶の声ではない。ここにいるサチ自身から発せられたものだ。
彼女の方へと視線を映せば、少女は変わらず蹲ったままだ。
「私、まだ死にたくない。死ぬのが怖くて、怖くて怖くて堪らないの。
なのにどうして? どうしてこんな訳の分からないことで死ななきゃならないの? なんで、誰かと殺し合わなくちゃいけないの?
………もういや。こんなのやだよ。
誰かに殺されるのはイヤ。誰かを殺すのもイヤ。誰かが殺されるのだって、イヤなのに。
……ねぇ、どうしてなの?」
………それは、少女の独白だった。
サチには岸波白野の事など見えていない。
いや、もしかしたら、他の事さえ見えていないのかもしれない。
それがこの海底の風景。何もかもから目を閉ざした、拒絶による暗闇なのだろう。
―――サチの独白は続いている。
あるいはこれは、彼女の心の声が漏れているだけなのかもしれない。
……岸波白野には、それを聞き続けることしかできない。
“黒点の主”がどう動くか予想できない以上、下手に動くことができないからだ。
「いやだ……死にたくない。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくなんてない……のに。
私は、いつの間に死んでたの? 私はここにいるのに。ここでこうして生きているのに!
…………キリトにとっては、私はとっくに死んでいたんだね。だから私を拒絶したんだよね」
だがそれ以上に、少女の独白が辛過ぎて、どうすればいいのかわからなくなった。
自分はサチを助けたいと思った。
けれど、“黒点の主”を倒すことが、果たして彼女の救いになるのか?
すでに死んでいた、あるいは、死の運命に囚われていた、死にたくないと願う少女。
彼女をただ開放し、現実に連れ戻すことが、彼女の救いになるとは、自分には到底思えなかった。
「………キリト、いつも言ってくれてたよね。私は死なないって。いつか現実に帰れるって。それとも、あれは嘘だったの?
………ねぇ、なんでこんな事になってるの? なんでキリトが死んでるの? なんで私は殺しちゃったの? なんで」
…………まて。今サチはなんて言った?
キリトが死んだ? 彼女が殺した?
………バカな。そんな、事が…………。
だとしたら、ユイは、彼女はどうなるのだ。
友人の死でさえ処理しきれていない彼女が、大切な家族の死を受け止められるはずがない。
それなのに、どうして…………。
「いや………もういやだ!
何も見たくない! 何も聞きたくない! 何も考えたくない! みんな死ぬしかない世界になんか、いたくない!
………でも、やっぱり怖い。死にたくなんて、ないよ」
サチの叫びを聞いて、何となく理解した。
自分は“黒点の主”がサチを操っていると考えたが、それは間違いだ。
“黒点の主”は、代行者に過ぎない。ただサチの感情の呼応し、それに沿った行動をとっていただけなのだ。
少女が見たくないと願うならその視界を閉ざし、
少女が聞きたくないと願うならその耳を塞ぎ、
少女が考えたくないと願うならその思考を停止させ、
そして、少女が死にたくないと願うのなら……代わりに死の要因を排除する。
自分たちと“黒点の主”が戦う事になった理由はそれだ。
おそらく、あの時のサチにとって、他のプレイヤーは全員が命を狙うPKだった。
だから少女の命を守るために、“黒点の主”は他のプレイヤーを殺そうとしたのだ。
しかしその中に、キリトさえも含まれてしまい、加えて自分が死んでいたという事実も知ってしまった。
その結果、サチはこうして、より深く自閉することになってしまったのだろう。
「助けて………ねぇ、誰か助けてよ」
彼女の助けを求める声が、こんなにも胸に痛い。
だが自分に、彼女のその声に応えることは出来ない。
…………岸波白野に、サチは救えない。
何故なら彼女が助けを求めている相手は、自分ではないからだ。
岸波白野の言葉が、彼女に届くことはない。何をどうしたところで、彼女をここから連れ出すことは出来ない。
あるいは、サチが自分たちの前に姿を現した瞬間であれば、まだ間に合ったのかもしれない。
………けれど、全てはもう手遅れになってしまったのだ。
その事を、どうしようもないほどに理解してしまった。
自分の無力さが悔しくて、拳を握り、歯を噛み締め、しかし、そのままサチから背を向ける。
このままここにいても、自分に出来ることは―――何もない。
ならばせめて、彼女の――死にたくないと願った少女の命だけは、守ってあげたいと。
そう思いながら、心海の底から、岸波白野は立ち去った。
そうして一人残されたサチは、来訪者がいた事など気付かぬままに、キリトの事を思い返していた。
――君は死なないよ――
それは、あの日の出来事。
あの頃の私は、言ってしまえば限界だった。
――黒猫団は十分強いギルドだ――
――安全マージンも平均以上取をっている――
――それに、俺とテツオがいるんだし、サチが無理に前衛に出る必要もない――
ゲームなのに死ぬのが怖くて、現実に帰れないのが辛くて、何もかもから逃げたくなって。
けどやっぱり死ぬのは怖くて、どうしたらいいかわからなくなって、黒猫団の泊まっていた宿から抜け出した。
そんな私を迎えに来てくれたキリトに、心に抱えていた不安を打ち明けたのだ。
――ああ、君は死なない――
――いつかきっと、このゲームがクリアされる時まで――
すると彼は、そう言って私を安心させてくれた。
恐怖で眠れなくなっていた私は、彼のその言葉のおかげで、ようやく眠れるようになったのだ。
………………………なのに。
私の死にたくないという願いは、そもそも前提からして間違えていたのだ。
―――彼はもう死んだ。
私もとっくに死んでいた。
みんなみんな、死んでいた。
死者は何も感じない。
だから私も、もう何も感じたくなかった――――。
そうして、少女のその願いを、“黒点の主”――AIDA<Helen>は聞き入れ、
サチの意識は、心のより深い所へと沈んでいき、パタンと、扉を閉めるように閉じられた。
…………最後に、
――大丈夫。君は絶対生き延びる――
「…………うそつき」
その一言だけを残して――――。
†
「奏者! たわけ、目を覚まさぬか、この放蕩者!」
「ご主人様! 起きてください、ご主人様!」
「ハクノさん、しっかりしてください!」
「……………………」
セイバーたちの悲痛な声に目を覚ます。
―――どうやら、無事に戻ってこれたようだ。
あれから、どれくらいの時間がたったのか。あの心海では、時間の流れがあやふやだ。
隣では、サチが気を失ったまま倒れている。………たぶん、このまま目を覚ますことはない。
だが彼女がまだ無事だという事は、それほど時間は経っていないのだろう。
ゆっくりと立ち上がり、心配そうにこちらを見るみんなに、大丈夫だ、と答える。
それを聞いて、セイバーたちはようやく安堵してくれたらしい。……本当に、心配を懸けたようだ。
「狼藉者め! 貴様を庇った奏者を襲うとは、何という不敬か!
その首、ここで叩き落としてくれる!」
安心して、余裕ができたからだろう。セイバーが剣を構え、サチへと近づく。
だが、待ってくれ、と彼女に声をかけ、それを押し止めた。
自分は何ともない。今のでわかったこともある。サチを殺すのは、まだ待ってほしい。
「む、むう……。だが奏者よ、こやつが危険人物であることに変わりはあるまい。
下手に庇い立てしては、そなた自身を危険に晒すことになりかねんぞ」
「そうですよご主人様。ぶっちゃけ私たちに、余分な荷物を背負う余裕はありません。
ユイさんのように役に立つとか、最低限己の身を守れるのであればともかく、彼女が何を仕出かすかわからない以上、せめて放っておくべきです。
君子危うきに近寄らず、とも言いますし」
それは……わかっている。
戦いになれば、岸波白野は自分の事で精一杯だ。
ユイのように隠れていられるのならともかく、気を失ったままのサチにまで気を配っている余裕はない。
それに仮に目を覚まし、自衛できるようになったとしても、それはおそらく”黒点の主”だ。
そうなればきっと、また彼女と戦う事になるだろう。手加減のできない、正真正銘の殺し合いとして。
つまりこのままの彼女を連れ歩くことは、自分の身を危険に晒すことと同意なのだ。
それを理解していながらも、自分には、彼女を殺す選択が取れなかった。
死ぬのが怖い、と。そう怯え震えていた少女の姿を、彼女の心海の底で見てしまった。
その姿を、聖杯戦争が始まったばかりの頃の岸波白野と重ねてしまったのだ。
セイバーたちに出会えなければ、自分もあんな風に、マイルームに閉じ籠っていたかもしれないのだ。
だから、まだ助ける余地があるうちは、彼女を見捨てたくはなかった。
「……まったく、奏者のお人好しも大概だな。そんな目をされてしまっては、余が断れるはずがなかろう」
「同感です。ま、そこがご主人様のイケメンなところなんですけど。
ですがご主人様。最低限の線引きは、わかっていますね」
「アァァ………………」
キャスターの言葉に、カイトが右腕を上げ、腕輪を一瞬明滅させる。
わかっている。
たとえどれ程サチを助けたくても、自分の命には代えられない。
もし彼女がまた“黒点の主”に操られて暴走するようなら、その時は、最終手段を取るしかない。
そう約束することで、セイバーたちはようやく納得してくれた。
「ところでハクノさん。あの黒い手に触れてわかったことって、なんですか?」
セイバーたちとの話がひと段落すると、ユイがそう尋ねてきたので、それに答える。
サチの記憶の海で見た事と、“黒点の主”が代行者に過ぎないことを説明する。
それを聞いたセイバーたちは、悲しいものを見るように、サチへと目を向けた。
「死にたくない、か。その気持ち、余にはよく解る。解るが故に、何も言うことができん」
「ホント、哀れですね。サチさん自身には何の責もないだけに、なおさらです」
一方ユイは、慎重にサチへと触れて、その状態を調べている。
………深海で見たことで一つだけ。サチがキリトを殺したかもしれないことだけは、話していない。
いずれわかることだとしても、今はまだ、彼女に知らせるのは止めておきたかったのだ。
「ん? あ、ああああああああっ!!
思い出しました、思い出しましたよご主人様!」
唐突にキャスターが、大声を上げてそう言ってきた。
一体、何を思い出したというのだろう?
「サチさんが死者だと聞いて、尻尾にピンと来ました!
黄泉平坂ですよ、ご主人様。この場所の雰囲気、根の国の入り口にそこはかとな~く似てるんです!」
黄泉平坂―――たしか、古事記における死者の国の入り口だったか。
だとすればここは……いや、この下のプロテクトエリアは、デスゲームにおける死者と関係があるのだろうか。
そんな風に考えていると、不意にカイトが口を開いた。
「……エ>&・ス+イ#」
「エルド・スレイカ、だそうです。
ちょっと待っててください。詳しく話を聞いてみますから」
そう言ってユイは、カイトから話を聞きだす。
ユイには本当に助けられている。彼女がいなければ、カイトと意思疎通することは出来なかっただろう。
そうしてカイトから聞き出した内容を、ユイは語りだした
「―――嘆きの都『エルド・スレイカ』。
『The Wold:R2』の世界観における、死者の国だそうです。
そしてこの場所は死世所 エルディ・ルーといって、その死者の国の入り口ですね。
あと、あの白い大樹は『フラドグド』といって、あの木が死者の国を封じているという設定らしいです。
とは言っても、これらは別々のエリア扱いらしいので、実際には繋がってないはず、とのことです」
………なるほど。
この世界がその設定に沿っているかはわからないが、ますます死者と関係する可能性が高くなった。
確かにデスゲームの重要事項である『死』に関するエリアなら、厳重にプロテクトもされるだろう。
それにしてもカイト。この場所を知っていたのなら、もっと早くに教えてくれてもよかったのではないか?
「……………………」
「聞かれなかったから、だそうです」
……………………。
………そうか。聞かれなかったからか。
つまりカイトは、死者の国と聞いて、ふと思い至ったことを呟いただけだったのか。
そんなしょうもない理由で重要な情報を逃しかけていたことに、ついガクリと肩を落とす。
そこへふと、制服の袖が追っと引っ張られた。
一体なんだ? と思ってそちらを見てみれば、
「――――――――」
サチが目を覚まし、地面へと座り込んでいた。
……いや、違う。サチではなく、”黒点の主”だ。その証として、彼女の周囲には、また黒点が漂い出している。
思わず周囲に緊張が奔る……が、どうにも様子がおかしい。今の彼女に、戦う気はないように見える。
「え……今なんて? ハクノさんが、ですか?」
不意にユイが、何かを言いだした。
まるで会話をしているようだが、カイトは喋っていない。
なら一体誰と―――
「ハクノさん。このウイルス――ヘレンさんですが、ハクノさんの事が気になるそうです」
――――――――、はい?
このウイルス……“黒点の主”が、自分の事を?
「はい。どうも、ハクノさんがサチさんを庇ったことで、興味を持たれたようです」
………なるほど。
“死にたくない”というサチの願いに従う“黒点の主”からしてみれば、自分の行動は不可解なものだったのだろう。
彼女に戦意がないのも、命が狙われないので、戦う理由もないためか。
………ていうか、ユイ。彼女の言葉も、解るんだ。
「そのようです。なので、通訳は任せてください!」
そう言って胸を張るユイに、何とも言えない気持ちになる。
少なくとも、ここから先、彼女の助けは必要不可欠だという事は理解した。
それはそうと、“黒点の主”……ヘレンに戦う意思がないのなら、それは二つの意味で嬉しいことだ。
一つは、無駄な戦いを避けられること。上手く彼女の協力を得られれば、サチの命も守りやすくなるだろう。
もう一つは、ヘレンを通じて、サチの心が救えるかも知れないこと。可能性は低いままだが、それでも喜望を持つことができた。
―――これからよろしく。
そう言ってヘレンへと、右手を差し出す。
ヘレンは僅かに首を傾げた後、差し出した右手を握り返してくれた。
―――その時だった。
ッ――――!?
右手の甲に、突然痛みが奔る。
先ほどの戦いで、気付かないうちに怪我をしていたのだろうか、とみて見れば―――
岸波白野の肉体(アバター)に、罅割れたような亀裂が奔っていた
「ッ!? ちょっと失礼します!」
ユイが慌てて、PCデータを調査し始める。
同時にセイバーたちが、再びヘレンへと警戒を向ける。
だがヘレンは、何が起きたのか解っていないように首を傾げるだけだ。
「貴様……奏者に何をした!」
「油断はできないとは思っていましたが、まさかこれほど早く手の平を返すとは」
「アアァァアァ………」
「――――――――?」
一触即発の緊張感が、周囲の空気を張り詰めさせていく。
だがそれを、ユイの言葉が押し止めた。
「………いいえ、違います。彼女が原因じゃありません。
ハクノさん、覚えていますか? 私がハクノさんのデータに関して、解析した内容を」
悔やむような表情をしながら、ユイはそう口にした。
岸波白野の、解析データ。その内容を思い出し、体から血の気が引く感覚を覚える。
「予想はできたはずでした。
ハクノさんのデータは、セイバーさんたちとの契約によって補強されている状態でした。
ですが現在、アーチャーさんはシンジさんと行動を取るために、その契約を一時的に切っています。
ハクノさんの右手のデータ破損は、その影響です………」
…………それは、つまり。
岸波白野の存在はセイバーたちによって支えられているということで。
それは同時に、
「今はまだ契約を完全に、切ったわけでも、アーチャーさんがデリートされたわけでもありませんから、その程度で済んでいるのだと思われます。
ですが、もし仮に、セイバーさんたち全員との契約を失ってしまったとしたら。ハクノさんは、おそらく………」
彼女たちを失えば、岸波白野は自らを保てなくなって瓦解するという事だ。
…………なんだ、そんなことか。
と、大した事ではないかのように口にする。
目に見える形で現れた恐怖を振り払うように。
振るえそうになる自分の身体を鼓舞するように。
「ハクノさん?」
実際、大した事ではない。
何故なら聖杯戦争中は、常にその危機に晒されていたからだ。
欠けたところが痛むのは困りものだが、今更気にするようなことではない。
それよりも今は、先へ進むことを優先しよう。
「本当によろしいのですね、ご主人様(マスター)」
「奏者よ。今ならばまだ、彼奴等に追いつくことも十分可能だと余は思うが……」
そう心配をするサーヴァントたちに、ああ、と頷いて答える。
自分は、アーチャーを信じている。彼もその信頼に応えてくれている。
ここで自分可愛さに引き返して、彼の信頼を裏切ることはしたくない。
「そうか、ならばこれ以上は言うまい」
「アーチャーさんの分まで、貴方様をお支えして見せましょう」
そう応えてくれた二人に、ありがとう、とお礼を言う。
確かに『死』は恐ろしいが、それ以上に自分のサーヴァントたちを信頼している。
彼女たちがいなければ、自分は今ここにいない。だから岸波白野の命運は、常に彼女たちとともにあるのだ。
――――さあ、行こう。
とセイバーたちに声をかける。
このバトルロワイアルは、まだ始まったばかりなのだから――――。
【D-4/洞窟 死世所・エルディ・ルー/1日目・午前】
【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP95%、データ欠損(微小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、男子学生服@Fate/EXTRA
[アイテム]:女子学生服@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
0:―――大丈夫だ、問題ない。
1:月海原学園に向かい、道中で遭遇した参加者から情報を得る。
2:ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。
5:せめて、サチの命だけは守りたい。
6:サチの暴走、ありす達やダン達に気を付ける。
7:ヒースクリフを警戒。
8:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
9:エンデュランスが色んな意味で心配。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP100%、健康
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと3分程度です。
※アーチャーとの契約が一時解除されたことで、岸波白野の構成データが一部欠損しました。
【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP55/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/ピクシー
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本: パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
0:ハクノさん………。
1:ハクノさんに協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:ヒースクリフを警戒。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%、SP80%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
3:サチ(AIDA)が危険となった場合、データドレインする。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。
【サチ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]HP10%、AIDA感染、強い自己嫌悪、自閉
[装備]エウリュアレの宝剣Ω@ソードアート・オンライン
[アイテム]基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:死にたくない。
0:――――うそつき。
1:もう何も見たくない。考えたくない。
2:キリトを、殺しちゃった………。
3:私は、もう死んでいた………?
[AIDA]<Helen>
[思考]
基本:サチの感情に従って行動する。
1:ハクノ、キニナル。
[備考]
※第2巻にて、キリトを頼りにするようになり、メッセージ録音クリスタルを作成する前からの参戦です。
※オーヴァンからThe Worldに関する情報を得ました。
※AIDAの種子@.hack//G.U.はサチに感染しました。
※AIDA<Helen>は、サチの感情に強く影響されています。
※サチが自閉したことにより、PCボディをAIDA<Helen>が操作しています。
16◇◆◆◆◆◆◆
―――森を抜け、ファンタジーエリアの端に到達したところで、必殺技ゲージが尽きた。
同時にライダーは「ここで停船だね」と口にして、移動に使った宝具とともに姿を消した。
それについては目もくれず、テイカーはリザルトを確認するように、自身の状態を確認していく。
HPは残り一割。MPはゼロ。必殺技ゲージも当然ゼロ……いや、徐々にリチャージされている。おそらく、まだ森が燃えているからだろう。
強化外装は、プライヤー・アーム、シー・スター、パイロ・ディーラーに加え、パイル・ドライバーを追加。
略奪したスキルは、《サーヴァント・ライダー》、《マザーズ・ロザリオ》の二つ。どちらも強力なスキルだ。
その他支給されたアイテムが二つと、奪ったアイテムが一つある。ただし、この中に回復アイテムはない。
これらの内、パイル・ドライバーが支給されていたことには驚いた。というか、笑えた。
あのシアン・パイルの、キャパシティが足りなかったとはいえ、《魔王徴発令》でさえ奪えなかった強化外装が、こうも簡単に手に入るとは思わなかったのだ。
この強化外装には、黛先輩の代わりに、その限界まで役立ってもらうとしよう。特に《マザーズ・ロザリオ》を使用するために。
「く、くく……あははははは…………ッ!」
と、そこまで考えたところで、テイカーは唐突に笑い声を上げた。
「どいつもこいつも、本当にこの僕をコケにしてくれますね」
まずはあの羽根付きの女。“本物の強さ”だとか何とか言って、散々に痛めつけてくれた。
次にゲームチャンプ(笑)さん。格下の負け犬の分際で、この僕を見下しやがった。
最後に、SDアバターのあの女。あの女は、僕を憐れんだ。
かつてない屈辱だった。なんの力もない、仲間に守られることしかできない弱者のくせに、この僕を憐れむなんて。
許せなかった。だから、惨たらしく殺してやろうと思った。何度も何度も、かつて実兄に対してそうしたように。
「……けどまあ、それは後です。今は減ったHPを回復しませんと」
残りHPは一割。はっきり言って危険な状態だ。
次に戦闘になれば、たとえ相手が雑魚だとしても、死んでもおかしくはない。
故にこの怒りは、この次あいつらに遭遇した時のために取っておく。
確実に復讐するためにも、今は危険域にあるHPの回復を優先すべきだ。
「次に向かうのはショップ、と言いたいところですが……さて、どちらのショップに向かいましょうか」
マク・アヌか、アメリカエリアか。
マク・アヌの奥にはアリーナがあり、更なるスキルが奪えるかもしれない。
アメリカエリアならイベントにより、相手を殺した時により良いアイテムが手に入るかもしれない。
そうしてしばらく迷ってから、ダスク・テイカーは選んだ方へと向けて歩き出した。
自分を侮蔑した者へと、復讐できる力を奪うために――――。
【F-6/草原/1日目・午前】
【ダスク・テイカー@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP10%、MP0/70、Sゲージ5%(リチャージ中)、幸運低下(大)、胴体に貫通した穴、令呪三画
[装備]:パイル・ドライバー@アクセル・ワールド、福音のオルゴール@Fate/EXTRA
[アイテム]:不明支給品1~2(回復アイテム以外)、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:他の参加者を殺す
1:シンジ、ユウキ、カオルに復讐する。特にカオルは惨たらしく殺す。
2:上記の三人に復讐できるスキルを奪う。
3:憑神そのもの、あるいはそれに対抗できるスキルを奪う。
[サーヴァント]:ライダー(フランシス・ドレイク)
[ステータス]:HP20%、MP25%、左腕不調
[備考]
※参戦時期はポイント全損する直前です。
※【E-6/森】で発生している火災により、必殺技ゲージがチャージされています。
※サーヴァントを奪いました。現界の為の魔力はデュエルアバターの必殺技ゲージで代用できます。ただし礼装のMPがある間はそちらが優先して消費されます。
なお、マスターが魔力供給できないため、サーヴァントのステータスが大幅にランクダウンしています。
※OSS《マザーズ・ロザリオ》を奪いました。スキルの使用には、刺突が可能な武器を装備している必要があります。
注)《虚無の波動》による剣では、システム的に装備状態とならないため使用できません。
【パイル・ドライバー@アクセル・ワールド】
シアン・パイルの持つ、パイルバンカー状の強化外装。
『穿孔(パーフォレーション)』アビリティを持ち、貫通力に優れる。
青系統の純近接型であるシアン・パイルの強化外装でありながら、中長距離の貫通攻撃を可能とする矛盾した性能を持つ。
・シアン・スパイク:パイル・バンカーのギミックの事。装填された鉄杭を勢いよく打ち出す(アビリティの名称は、OVAより)。
[全体の備考]
※【D-4/洞窟 死世所・エルディ・ルー】の地下に、プロテクトエリアが発見されました。
このエリアは、deleteされたプレイヤーと関係がある可能性があります。
※【E-6/森】で火災が発生しました。
※蘇生効果を持つアイテムやスキルは、対象者が死んでから5秒以内のみ有効です(一部例外あり)。
※宝具の属性を持つものを、心意技で『事象の上書き(オーバーライド)』することは出来ません
※またこれにより、『心意≒憑神≒宝具』の図式が成立しました。
最終更新:2014年05月09日 01:48