そっぽ向いてる人となんか、話したくないじゃない? ――
◇
おおう。
おおおおおおおおおう。
喉から発せられるその叫び声はとてもではないが人のものとは思えなかった。
燃え盛る憎悪を露わにしているのか、耐えられない哀しみを漏らしているのか、その区別さえつかない。
ハセヲというポリゴンを通して、自身が何を目指しているのか、何を願っているのか、それすらも忘れてしまった。
ただ、この手には刃があることだけは分かっていた。
「さて、君のデータを見せてもらおうか」
「敵」は黒い服を身に纏った特にこれといった特徴のない白人。先ほどなすすべもなく吹き飛ばされ、憑神発現の邪魔をした。
その際の痛みは未だに身体に残っている。じん、と痺れるように広がる痛みは重く、そのダメージは決して無視できるようなものではない。
欠落を敵意で覆い隠し、ハセヲは痛みを振り切り男へと迫った。
「真っ二つだ!」
感情を推進剤に、敵意に突き動かされるまま鎌を「敵」へと薙いだ。
大鎌による一撃。ぶうん、と空を切る音がする。ハセヲの高いステータスから繰り出される一撃は、アーツでない通常攻撃の範疇であっても相当な威力を誇る。
「ふん」
だが、黒服は難なくそれを受け止めた。ほかならぬ、その右腕で。
放たれた刃とスーツの袖口が交錯しこすれ合い、ぎゅるるる、と火花を散らしている。
何と馬鹿げた光景か。ハセヲは叫びを上げその腕を切り落とそうとするも、重い。
刃を振るうも、何か巨大な斥力が邪魔をする。少しでも力を抜けば、弾かれるのはこちらだ。
ただの布でしかない筈のそれが、ただのヒトの腕でしかないそれが、途方もなく硬く感じられた。
おおおおおおおおおお。
ハセヲは尚も腕に力を込めた。
一ミリでも深く刃を喰い込ませようとする。その命を刈り取ろうとする。
敵だ。
こいつは敵だ。
ならば、「死の恐怖」を与えねばならない――
おおおおおおおおおおおおおおおお。
何故って。
それは……
おおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
「ふうん。中々に重たい一撃だが、この程度か」
黒服は刃を振るうハセヲを見下ろし言った。
さして。
さして力の籠っていない言葉だった。
サングラス越しに注がれる視線に熱はなく、特に興味もない、そういった無関心さを表していた。
その事実に気づき、ハセヲの昂ぶりは更に燃え上っていく。
「落ちろぉぉぉぉぉぉ!」
鎌を振りぬこうと叫びを上げた。散る火花が顔にかかる。ハセヲは獰猛な笑みを浮かべ目の前の敵を倒さんと迫った。
しかし、黒服はつまらなさそうにその腕を振り上げた。
ぐっ、と声が漏れる。全身全霊の力を込めていた鎌は、あっさりと弾かれ、次の瞬間、ハセヲの身体に爆発的な衝撃が走った。
気付いたとき、ハセヲの身体は宙を舞っていた。
敵の掌底が胴体に放たれたのだ。
設定された法則を無視した一撃を受け、ハセヲの身体はだん、と音を立て煉瓦造りの建物へと激突していた。
壁にぶち当たり、うぅと呻き声が漏れた。
ハセヲは屈辱に震え、戦意を滾らせせキッと眼前を見上げる。
埃のように飛び散るデータ群の向こうに、ゆっくりと近付いてくる「敵」が居た。
凡庸な外見ながらもそのPCは規格外の存在感を放っている。土煙の向こうに浮かび上がるシルエットは強烈なプレッシャーを纏っていた。
上等だ。規格外だというのなら、こちらだってそうだ。ハセヲは痛みを無視し、鎌を片手に立ちあがろうとする。
が、力が入らない。ダメージが大きすぎるのか。ハセヲは言うことをきかない自分の身体に強く苛立ちを募らせた。
と、その前に新たな「敵」が現れた。
「止めろ!」
双剣。
色鮮やかな橙。
それはまるで、炎のような。
見覚えのあるPCが、自分をかばうように立っていた。
近付いてくる黒服と対峙している。その姿に一切の気後れは感じられず、不揃いの双剣が陽光を受け光った。
「ほう、彼を守るというのか?」
「PKなんて、させない」
「敵」と「敵」が会話している。その内容は耳に入らない。どこか遠いところで交わされているようにしか思えなかった。
なんだっていい。
どうせみな「敵」だ。
見覚えがあろうとなかろうと、ただ蹴散らすだけだ。
そうこうしているうちに「敵」同士の戦いが始まっていた。
炎と黒が交錯している。黒の嵐のような猛攻を、炎が巧みに受け流している。その動きはあまりにも速い。
一進一退の攻防。
そこにまた別の「敵」が躍り出た。
三番目の「敵」――もう一つの死の恐怖、スケィスが炎へと迫っていた。
赤く光るケルト十字が二人の戦いに割って入る。
スケィスが狙っているのは――炎のほう。
「何で八相が……!」
ケルト十字を受け止めながらも、炎が苦しげに顔を歪ませる。
あの黒服と渡り合うだけでも手いっぱいだろうにも関わらず、ここに来てあの「スケィス」が迫ってきた。
二対一ともなれば勝機は――
「ほう、また、興味深いものがでてきたな」
――しかし、炎にとって幸か不幸か、状況はそう単純ではなかった。
彼らはみな一様に「敵」である。「敵」、「敵」、「敵」。決して結託することはない。
黒服が躍りかかったのは先まで交戦していた炎ではなく、新たに現れた「敵」、スケィス。
今度は黒服が炎とスケィスの間に割り込む形となった。拳が振るわれ、ケルト十字がそれを受け止める。
激突する二つの力の下、炎がさっと身を下げた。
「どういう状況なんだ……スケィスもだけど、あの声は――」
炎がちら、とハセヲを一瞥した。
吹き飛ばされた自分は、未だ痛みが尾を引き立ち上がれないでいる。
「大丈夫? 一体ここ何があったの? それに……」
炎が何かを言っている。ああこいつは誰だっただろうか。
どこかで会った気がする。どこかで戦った気がする。そうそれはちょうど今のような熱量を抱えた時で……
「志乃が――」
と、彼は漏らした。
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう。
ああ、思い出した。
何で、俺がここに居るのかを――!
その名を聞いた瞬間、ハセヲは身を起こしていた。
鎌を振り上げ、ハセヲは炎へと迫る。立ち尽くしていた炎が突然の事態に目を見開くのが分かった。
双剣と鎌が交錯し、悲鳴のような金属音が響き渡る。
「どうしたんだ、君は……それに志乃は」
「うるせえ!」
ハセヲは力任せに鎌を薙いだ。
志乃。
その名を聞く度に、自分の心の一番弱いところをめいっぱい貫かれる。
こんな、こんな痛みがあるから――
「ぶっ潰れろぉぉぉぉ!」
ハセヲは炎へと力を振るった。自分では抑えきれぬほどの莫大な熱量に突き動かされ、死の恐怖として力を振るう。
それを炎が受け止めていく。その顔を悲痛に歪めせながらも、冷静に一撃を受け止めていく。
かんかんかん、とこちらの攻撃が裁かれていくを見て、ハセヲは既視感を覚えた。
ああ、これはそうだ、あの時だ。
大聖堂。隠されし禁断の聖域。三爪痕を追っていて遭遇した謎のPK。
その後何度も戦うことになったそのPKとの初戦、自分はまるで歯が立たなかった。
あの時と一緒だ。
この炎は、あの時と同じように――
「――言うな」
あの時、自分は何故戦っていたか。
「え?」
「言うな」
そして今、自分は何故戦おうとしているのか。
「その名を、言うんじゃねええええええ」
思い出した。
そう、この炎の名は――
◇
戦況がせわしなく変化する中、
カイトは精一杯状況を把握しようと務めていた。
スミスとの交戦の最中、志乃の声を聞きつけ駆けつけたところ、広がっていたのは予想外の光景だった。
「ふむ、妙な感触だな」
「---------」
先まで自分と戦っていたスミスは今や巨大な白いモンスター――第一相スケィスと相対している。
スミスは八相という存在に興味を持ったようで、彼の攻撃に応戦する形でスケィスが十字を振るっている。
かつて全て倒した筈の八相が何故残っているのか、気にはかかるがそれについて考えている余裕はない。
「らぁっ!」
「ちょっと、君、落ち着いて」
「ぶっ潰れろぉ!」
この場にいるもう一人のプレイヤーが自分へと迫っているからだ。
銀髪に黒い鎧、禍々しい鎌、そして敵意の滲んだ瞳――ハセヲ。
激昂する彼はカイトの言葉に耳を貸すこともなく、荒々しい叫び声と共に刃を放ってくる。
一撃一撃が重い。威力自体はスミスに劣るが、ハセヲには技がある。法則から抜け出した力ではなく、あくまで法則の下で磨き上げたと思しき力の流れが。
カイトは集中しそれを裁いていく。避けられるならば避け、受けるべきところは受ける。ジョブ・双剣士の強みは分かっている。全ジョブ中最速を誇る敏捷だ。
「くっ」
「おらぁ!」
……それでも戦況は互角どころか劣勢であった。
カイトの立ち回りをハセヲは力でねじ伏せていく。カイトは確かに速いが――だからといってハセヲが速さで劣っているという訳ではない。
カイトとハセヲ。共にThe Worldの一角のプレイヤーであるが、二人がプレイしていたリビジョンの差が出ていた。
PKがシステム的に廃止されたバージョンで活躍していたカイトは対人経験というものが致命的に欠けている。
策を弄するアドミラルに窮地に追い込まれたように、彼にとって他のプレイヤーとは――少なくとも戦闘システム面において――協力こそすれ反目することはないものだった。
対するPKが再実装され、戦闘における自由度が格段に上昇したリビジョンをプレイしていたハセヲは、こと対人戦において多くの経験を積んでいた。
その差が示すように、ハセヲの一撃がカイトへと迫っていく。
双剣の防御ごと鎌で薙ぎ、避けようとするカイトに追い縋り一撃を放つ。
カイトは苦悶の表情を浮かべながらもハセヲと相対する。
更にスミスとスケィスを視界の端に入れておくことも忘れてはならない。
今は1on1の形で別れているが、またすぐ戦況がシフトすることも考慮しなくてはならないのだ。
あの二つの存在は共に「敵」だ。今は互いが互いが抑える形になっているが、何かの弾みで再び自分へと向かってくるかもしれないのだから、目を放す訳にはいかない。
「消えやがれぇ!」
だが、目の前のハセヲはそんなことを全く考慮していないのか、まっすぐ自分へと向かってくる。
結果としてカイトは捉えられ、ダメージを負う。徐々に減るHPにカイトは焦燥を覚えた。
それでも何とか立ち会えているのは、今のハセヲが明らかに正気でないこと――暴走という言葉が似合うが故だろうか。
ハセヲがカイトを上回る要因である筈の技を、彼は今十全に発揮できていない。力任せの単調な攻撃になってしまっていた。
「待って。君は、PKなの?」
「あ?」
刃を交錯しながら、カイトは語り掛けることを止めなかった。
スケィスとは言うまでもなく、スミスとも全く会話にならなかった。故に彼らとは「敵」であるしかない。
しかし、彼とならば――カイトは協力することを諦めたくはなかった。
「だったら、止めるんだ。PKなんて……」
「俺はPK……? はっ」
はっははは。
カイトの問い掛けにしかし、ハセヲは答えずただ笑った。
どこか空しく響く乾いた笑い声だった。
「確かにな――PKもPKKも違いなんかねえだろうよ」
次の瞬間、ハセヲの身体が消えた。
「けどな!」そう叫びが聞こえた時、カイトは猛烈な勢いで迫るハセヲの刃を見た。
「俺には居るんだよ……! お前らみたいな、敵が!」
蒼天大車輪。
派手なエフェクトと共に振るわれた斬撃がカイトの身体を切り刻んだ。
それもまた、システム的な差だった。スキル使用が武器依存であるかPC依存であるか、それもまたカイトに不利に働いた。
宙に浮く身体。それに追い打ちをかけるべく、間髪入れずハセヲがコンボを決める。
斬、斬、斬、そしてその最後に、
「取り戻すんだ! お前らを! 倒して!」
光放つ掌底、レイザスを放たれカイトは吹き飛ばされた。「くはっ……」
コンボを受けた全身に燃えるような痛みが走る。
現実は勿論、八相との戦いでもなかった激烈な痛みにカイトは苦悶の声を漏らす。
「はぁはぁ……じゃあな。お前を倒したあと、次はあいつらだ」
ハセヲは鎌をまっすぐにカイトへと向けた。
その視線はすでにカイトを見ていない。あいつら、というのはスミスとスケィスのことだろう。
カイトは視線を逸らさず、まっすぐにハセヲを見上げた。憎悪に歪みながらもどこか泣き腫らすような表情が浮かんでいる。
「僕は」
カイトは口を開いた。
「僕は敵じゃないよ」
「あ?」
「僕は、君の敵にはなれない。だって君は僕を見てないんだ。
僕というプレイヤーを見ていない。だから、いくら戦っていても、君が相手にしているのは僕じゃない」
ハセヲはこちらを見ない。その視線はカイトを捉えているようで、見ていない。
彼が戦っているのはカイトではなく――
「この世界に居るのは人間なんだ。ここが現実でなくても、ここに居るのはみんな現実と同じ人間なんだ。
向き合わなくちゃならない。それで初めて、その人を好いたり、嫌ったりできるんだと思う。
でも、君は一人だ」
カイトは視線を逸らさず、すっと立ち上がった。痛みが身体に伸し掛かるが、それでも倒れる訳にはいかない。
「ゲームでも、ゲームだからこそ人の目を見なくちゃいけない。誰のことも見ようとしていないなんて、駄目だ」
ハセヲが息を呑むのが分かった。
からん、と音がして、その手から鎌がすり墜ち、戦闘モードを解かれたが故に鎌は消え去った。
「な、んで――」
彼は愕然と打ちのめされるように、
「何で、アイツと……志乃と同じことを、今さら……!」
そう言って膝をついた。
その瞳に燃え盛っていた憎悪の光が消えていく。
代わりに覆い隠していた欠落と悲しみが垣間見えた。
カイトは何も言わずそれを見下ろした。
彼は一人慟哭している。その肩はふるふると揺れている。
事情は知らない。彼が何者なのか、カイトははっきりとは掴んでいなかった。
しかし、彼が口にした志乃の名。それに彼女がたびたび話にあげていた銀髪のPC。
その全てから読み取るに……
「ふうむ、中々奇妙な感覚だったが、これで攻撃が通るようだな」
突如轟音が空気を震わせた。
はっと振り向くとそこには、吹き飛ばされたスケィスの姿があった。
「では、取り込むとしよう。ああ勿論、君たちも逃がしはしない」
カイトたちを見据え、スミスは嗤った。
口元を釣り上げ、白く不気味な歯を見せた。
そこにあるのは、ただ広がり続けるという暴走した攻撃性のみ。
「……君は、八相と同じなのか。
システムが作ってしまったイリーガルなプログラム、君は本当に人間じゃなく……」
「ほう、私の本質を当てるか。
やはり君は私たちのようなものを知っている、いや慣れているというべきかな」
その視線に含まれた貪欲なまでの害意を見て取り、カイトは確信した。
彼は「敵」だ。
言葉を操り、さも意志があるように振る舞ってはいる。
しかし、スミスが持っている意志ではない。ひどく歪んではいるけど、その根底にあるのは八相やモルガナと同じ、定められたプログラムだ。
そうして彼らは対峙した。
スミスはゆっくりと近づいてくる。こつこつという音がマク・アヌの街に不気味に響いた。
カイトはそれをじっと見据えた。互いの視線が絡み合う。
そこでカイトは気付いた。己の拳が、ぐっ、とこれ以上ないほど硬く握りしめられていることを。
「さて、次は君だ。
全員下したのち、取り込むとしよう――」
そう獰猛に笑うスミスに対し、カイトは無言のままだった。
無言のまま、おもむろにその右腕を掲げた。
ゆっくりと。
自らの覚悟を噛みしめるように。
その手の平は、まっすぐと「敵」へと向けられていた。
不意に奇妙な音がして、そして、腕に沿うように線が結ばれていく。
「……アウラがくれたこの力」
始めは一つの線に過ぎなかった。
この仮想を形作る線(ワイヤー)の一片。
それだけではまだ、情報の欠片(ビット)でしかない。
しかし、線が一つ、また一つと増えていく。
掲げられた腕を彩る様に、守るように、線と線がこの仮想を走っていく。
線が重なり積もり、何時しかそれは輪郭となっていた。
円状の輪郭線(フレーム)を構築し、その表面に淡く光る面(テクスチャ)が張られていく。
「これは、何だ?」
スミスが疑問の声を上げた。
集束し行く光は輝きを増していく。
その光は仮想の光。決してこの現実にある筈のものではない。
「情報そのものを書き換えてしまう、これは、僕みたいなプレイヤーが持っていたら、本当は駄目な力なんだ」
その筈であったが、しかし極限まで高まった光はもはやただの仮想と切り捨てられない域に達していた。
幾重にも重なり、何処までも広がる薄緑色。美しくもあり、同時にこの現実のものとは思えない強烈な違和感があった。
――しかし気付けば、線はもはやはっきりとした腕輪と化していた。
あり得ない線の現れ方、しかしそれが現実であること、それはもはや否定できない。
現実をも塗り替える仮想として、それはここにある。
「でも、アウラがもう一度この力を託してくれた、その意味があるとすれば」
ざざっ、と雑音(ノイズ)が走った。
時おり空間が歪み、不快なひずみがところどころに現れる。
高まる光の輝きと比例して、空間そのものが上げる悲鳴もまた強まっていく。
それはきっと、現実の住人でありながら、現実そのものに干渉してしまおうという、仮想と現実の垣根を越える矛盾の現れだった。
カイトは静かに腕を吐き出す。
途端、腕輪が音を立て広く広く展開されていく。
腕輪から情報が爆発的に流出し、あたかも翼のようになった光が、一枚、また一枚、と腕輪から広がっていくのだ。
光の奔流は、捻じれ狂うように回転を始める。
巨大な流れと化した情報はぐるぐると腕輪を中心に渦巻いている。
その渦を支えるように状況を指し示すウィンドウが開いては消え、本来の法則を捻じ曲げその存在を無理やりに許容させていく。
薄緑の光、とその奥から迸る極彩色。
上り詰めるように高まる光は、どういうことか、黄昏時を思い起こさせた。
今にも消えてしまいそうな――
「その意味こそ、僕がここに居る理由なんだ。
それが、誰のものでもない、僕が持つべき、僕が選び続けるべき意味……!」
だから、とカイトは覚悟を決めた響きを漏らした。
スミスの顔が強張るのが分かった。本能的に察知したのか、逃れられないことを知ったのか。
躊躇いは、ある。
しかし、「敵」と相対する覚悟だってあった――
「僕が居るべき現実(ゲーム)を守る為に、この力を!」
――光が炸裂する。
膨れ上がった情報が、容量一杯まで空間を埋め尽くし、一つの志向性の下解き放たれた。
仮想の光が現実を無慈悲に塗り替えながら走り続ける。
現実を超越し、一筋の槍と化した光は、そうして「敵」の身体(ソース)を貫いた。
「ぐ、ぬ」
スミスが苦悶の声を漏らした次の瞬間、ガラスが割れるような音がして、その身体から何かを弾き飛ばした。
その身体にぴったりとこびりついていた異物を、妄念を支えていた途方もない因縁を、暴走するしかないほどの膨大な力を、
光は彼から弾き飛ばした。
「――【データドレイン】」
かくて、拡散した光が、今度は収束する番であった。
弾き飛ばした情報群を奪い尽くすべく、光が腕輪へと帰ってくる。
見知らぬ言語で書かれた情報は無理やりにも全て書き換える。
現実を形作る法則が邪魔するのなら、その法則すら改竄して見せよう。
そうして得た新たなる力。掴みとった見知らぬコード。
ウィンドウに表示された新たな文字列を確認し、カイトは新たな選択を迫られた。
【Do you acquire an EXTEND program《
Azure》?】
最終更新:2014年04月03日 20:13