そうして――二人は激突した。
それは今まで幾度となくぶつかってきた組み合わせだ。
ゲーム開始当初から、ここに至るまで何度も何度も戦い、そのたびに決着がつかなかった。
いや――決着をつけなかったんだ。
慎二は今までの戦いを分析し、そう結論を下した。
「アーチャー」
だが、この戦いは違う。
今度こそ、すべてを終わらせるんだ。
そのためにも、彼はひとつの命令を下した。
「お前が相手にするのは能美、ダスク・テイカーの方だ」
見据えるは二人の敵。
宵闇の走行を湛えたロボットと――
「ライダーの相手は――僕がする」
――豪快に笑う稀代の女海賊!
彼女に向かって慎二は歩き出した。
その言葉に「何ですって!?」と能美が声を上げた。
「……了解した。だが慎二」
「驕りじゃない。これは、そうだな、誇りって奴だよ、アーチャー。
こっ恥ずかしいけど、でも、それだけじゃない」
言いながらも慎二は歩き続ける。
アーチャーは頷き、言葉通りダスク・テイカーを押さえるように動き出す。
「何を考えているんです? ライダーを貴方が抑えられるとでも?」
いぶかしげ気に能美が言ってくる。
合点がいかない様子であった。が、彼はふと嘲笑するように、
「ああそれとも、ライダーが貴方に手加減でもしてくれると思ってるんですか? この期に及んで!
もうそのライダーは貴方のサーヴァントじゃないんですよ!」
「ああ、そうだよ。ライダーはお前に奪われた。もう僕のものじゃない」
その嘲笑に、慎二は落ち着いた口調で返す。
そう、ライダーはもう自分のサーヴァントではない。
奪われた。己のミスから、馬鹿みたいな驕りからこのゲーム序盤に簒奪されてしまった。
だが――だからこそ。
「ははっ、わかってないね、能美。
今までの敗因は、そこにあったんだよ」
そう言って彼もまた能美を嘲笑する。
そんなこともわからないのか、とでも言うような、彼らしい、厭味ったらしい笑い方であった。
その意図を能美がつかめないまま、アーチャーと戦闘に入る。
そうなればもう能美に余裕などない。満身創痍の彼にとって時間を稼ぐだけで限界のはずだ。
「――ライダー!」
そして慎二は胸を張り、堂々と、彼はかつての自分のサーヴァントと相対した。
「決着だ、ライダー。
僕と能美と、そしてお前との!」
声を受け、ライダーもまたそれに応える。
「いいよ、慎二!
どんな思惑があるのか知らないが、いい顔だ。
前に戦った時のようななまっちょろい顔じゃない」
そうしてまた彼女は笑う。
豪快に、気持ちよく、大きな声で彼女は何時だって笑っている。
近くであの笑い声を聴くといつもうるさくて、酒臭いんだ。正直言ってメチャクチャ厭だった。
全くこの英霊はだらしなくて臭くて、それでいて働かせるにはきっちり金を要求してくる、どうしようもない奴だった。
ああ、本当に――
「本当に――お前は強いサーヴァントだよ」
慎二はその言葉を口にする。
お前は強い。
誰よりも強い。
フランシス・ドレイク、太陽を落とした女。
その強さ、今更喧伝するまでもないだろう。
だが――この言葉を言えるのは自分だけだ。
召喚し、共に戦い、さんざん不満を言った僕だからこそ言える。
――お前は、強い。
と。
「だから、僕でもお前を相手にするなら本気を出すしかないって訳だ」
「へぇ、アンタ、今まで本気を出していなかった訳?」
「はっ、そうだよ。僕は今まで一つ、いや、二つも使える札を切っていなかった。
これまでの戦いで――意図的に使ってこなかった札が二つもある」
そう叫ぶと慎二は、つい、と虚空に手をやった。
瞬間、ウィンドウが出現する。公開設定にしてやったため、ライダーにも見えるはずだ。
「ははっ、そりゃあないんじゃいない? シンジィ。
これだけ戦っておいて、実はここまで温存してたなんて、ハッタリにもならない。
アンタがそんな賢い立ち回りするとは思えないしねぇ」
「逆だよ、ライダー。
今までの戦いで僕が馬鹿過ぎたから、使わなかったんだよねぇ、これ」
ウィンドウにはさまざまなコマンドが出現している。
その中でも今の慎二にとって有用なものは二つ、コードキャストとバトルチップだ。
剣のような使用者のステータスに効果が依存するようなものは使っても意味がない。
そのためここで切る札は、必然的にその二つに絞られる。
だが移動力を上げたところでさして意味はないし、姿を隠すユカシタモグラも先ほど使用からのリキャストがまだ終わっていない。
――となれば、これしかない。
慎二は思う。
きっとチャンスは一瞬だ。
敵はライダーだ。あのライダーなのだ。
ならば勝機があるとすれば、本当に一瞬しかない。
――ああ、だからこそ、この札を切る!
「――バトルチップ」
その声を発した途端、ライダーが地を蹴った。
一切の躊躇なく慎二を襲う。彼女は本気だ。本気で、かつてのマスターをその弾丸で撃ち殺す気でいる。
だが――こちらの方が早い。どれだけステータスに差があろうとも、距離を詰める必要があるライダーに対して、慎二はただ声を発するだけでいい。
「――リョウセイバイ」
◇
そのバトルチップは、あまりにも扱いにくいものだった。
支給されていたカオルはもちろん、他のプレイヤーにとってもそう易々とは使えるものではなかった。
威力こそ強力であったが、しかしそれ故に――ここまで誰も手を出すことができない、鬼札であり続けた。
慎二がバトルチップの発動を口にした途端、世界に雷鳴が走った。
轟く雷鳴は猛烈な勢いでまずライダーを貫き、次に能美を、アーチャーを、そして慎二自身も貫いた。
炸裂する光は形成された戦場を埋め尽くし、多大なダメージをまき散らす。
そこに敵味方の識別など一切ない。ただ無慈悲に災厄が戦場を蹂躙する。
――ギガクラスチップ、リョウセイバイ。
その効果は、戦場に存在するプレイヤーすべてのHPを“無条件に”半分にするというもの。
これを防ぐ手段は一切存在しない。姿を消そうとも、地に隠れようとも、装甲でその身を覆うとも、雷鳴は必ず直撃する。
――そしてこれの特徴は。
猛烈な痛みが全身を駆け巡る中、慎二は必死に意識を保っていた。
ここだ。ここが――正念場だ!
その想いと共に、慎二は駆け出した。
――このチップのダメージはね、HPの“半分”なんだ。
そう、それこそが、切り札になるうる理由。
多くのバトルチップが固定ダメージを与えるのに対して、このチップは割合ダメージ。
それはつまり――元のステータスが高ければ高いほど、大きなダメージを受けるということ!
――逆に言えば、元からHPの低い僕へのダメージは、大したことないんだよ!
だからこそサーヴァントという存在への切り札になる。
力の差がとてつもなくあるからこそ、このチップが逆転の芽を生む。
いかなライダーといえど、雷鳴の直撃を受けては動きが止まる。
大して慎二の受けるダメージは、絶対値として少ない。
そのうえ、彼はその身が雷鳴に焼かれることを覚悟してのダメージ。
その差が―― 一瞬の勝機を生む。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
慎二は咆哮する。
雷鳴が轟く世界の中で、手にした唯一無二の機会を取られるべく。
その手には剣がある。ウィンドウより装備した刀がその手には握られている――
◇
いつかどこかで、ライダーは能美に対してこんなやり取りをしていた。
「そんでアタシは海軍司令だったチャールズの野郎と顔つつき合わせて奴らの弱点を考えた訳だが、そん時の英国が主に使ってたガレオン船は小さくてね、機動力はあるが火力は心もとない。一方の敵軍は大型の帆船が主力。地図おっ広げてさぁこいつらをどうしようかって訳だ。機動力と火力、それぞれの強みをどう活かすかってのがこの戦のポイントだ」
「…………」
応えない能美に対して、ライダーは答えを言う。
「答えは簡単さ、船に火ィ点けて敵のど真ん中に突っ込ませた」
「この話の妙はね、機動力と火力の天秤をぶっ壊してるところにあるのさ。火のついたガレオン船はその一瞬だけ速さと火力、両方を得た。互いの長所短所をつつき合うなんて地味な真似はしてないってね。後のことを無視したがゆえに、その船は最強になった訳だ」
「どんなセオリーにせよ定石にせよ、原則なんざ後先考えず捨て身になっちまえばぶっ壊せちまうもんなのさ――」
◇
草原での一戦で、慎二がこの札を切れなかったことには、理由がある。
それこそが、ライダーを前に慎二が切らなかった、もう一つの武器。
――僕は今までライダーを取り戻すつもりだった。
そう、慎二の目標はあくまでライダーを奪い返すことにあった。
奪い返し、再び自分のサーヴァントとするため
そのため、使えない。
何故ならば――この札を切ったところでライダーのトドメを刺す訳にはいかないからだ。
――だけど!
慎二は走り出す。痛みに倒れそうになる意識を、ただ意地と矜持で支えながら。
「ライダァァァァァァ!」
――だけど、お前を前にして、そんな“手加減”だなんて、できる訳ないだろ!
だからこそ、彼はその身を焼かれながらも突進する。
ライダーを取り戻すのではなく、ライダーを越えるためにも――彼は剣を振るう。
慎二の最後の武器、それは――ライダーを奪還ではなく、消滅させるつもりで攻撃するということだ。
――だが、ライダーもまた英霊。
雷鳴に焼かれつつも、彼女もまた戦意は衰えていない。
ただ刃を甘んじて受け入れるほど、エル・ドラゴは堕ちていない。
だから――彼女は何時ものように颯爽と笑って銃を構えた。向かってくる慎二を――殺すべく。
――ああ、やっぱりお前は強いよ、ライダー。
ライダーの殺意を受け止めて、慎二もまた笑いたくなった。
その笑みは晴れやかで、それでいてどこか寂し気でもある。だが――どこまでも力強い。
――きっとお前は誰にも負けない、僕が呼んだ、最強のサーヴァントなんだ!
静止した時間の中、銃口と刀身が交差する。
純粋な殺意を向け合いながら、それでも彼らは――笑っていた。
ざくり、と肉を裂く音がした。
だん、と銃声が鳴り響いた。
そして、一人が崩れ落ちる。
一瞬の攻防を経て、戦いは決着したのだ。
……倒れたのはシンジだった。
勢いそのままに地面に転げおちていく。
ずさ、と土煙が舞っていた。
「――全く、やめてほしいねぇ」
ライダーはそう嘆息する。
そして胸に突き刺さった剣を見た。
大きく開いた胸元からは鮮血が流れ出している。
こほっ、と口からも血を大きく吐いた。
倒れ伏した慎二は、その姿を満足げに見上げていた。
その剣の銘は――あの日の思い出、だ。
「知ってるだろう? シンジ。
アタシは自分より弱い相手と戦うってのは、どうにも苦手だって」
「知ってる、さ。だから僕が――挑んだんだよ」
そう言って慎二は大きく笑う。
その笑みは何時もの彼らしくない、晴れやかで気持ちのいいものだ。
まるでそう――稀代の女海賊のような。
「全くねぇ、あの後先考えない特攻とか――まぁ太陽だって落ちるわ」
ライダーはやれやれと首を振った。
その身は既に泥に沈み込もうとしている。
元々減っていたHPに加えてリョウセイバイの一撃。
そこに駄目押しの一撃が入ったとなれば――HPが尽きるのも道理であった。
「じゃあすまんね、ノウミ。アタシはここまでだ。あとは自分で何とかしてくれ。ってアンタももう終わりか」
最後に彼女は己のマスターに向けてそう告げた。
見ればアーチャーに敗れ倒れる能美の姿があった。
彼はライダーに助けを乞うようなまなざしを向けるが、ライダーは首を振って、
「認めな。アンタは――敗けたんだんだよ、他でもない、このシンジにね」
そして最後に彼女は再び慎二を見た。
「さて。ともあれ、よい航海を――シンジ」
そう言い残して、ライダー、フランシス・ドレイクは消滅した。
最期の瞬間まで颯爽と、豪快に、かの大英雄はあり続けたのだ。
「ははは……やっと、か。」
ごろん、と慎二は横になる。
その視線の先にはどこまでも広がる夜空がある。
キレイだ。初めて彼はこの世界に対してそんな感想を抱いた。
「……ああ、でもクソ。やっぱり完全には――勝てなかったか」
だが彼はふと顔をゆがめ、己の身体を見た。
そこでは弾丸が貫通し、だくだくと血が流れていた。
HPゲージは――もう空っぽだった。
◇
僕はさ、ただ誰かに忘れられないで欲しかったんだよ。
たぶんそうだったんだと思う。ここに来る前はイマイチ自覚してなかったけど。
これだけは言っておきたいんだけどさ、僕は別に何かに不満があった訳じゃない。
没落貴族の親の下に生まれたことも、あの人たちが僕に愛情なんか感じてなかったことも、まぁ、別にそれもアリなんじゃない? とか思ってたさ。
僕、ドライな方が好きだしね。
べたべたと干渉される方が僕はきっと厭だった。
それに、あの人たちだって別に悪い人じゃあなかった。
勉強ばっかりさせられたけど、逆にいえば勉強の道具と機会は好きなだけ与えてくれた訳だしね。
ちゃんと成績を残せばゲームだって好きにさせてくれたし、幼い時からチェスも教えてくれた。
だからそれなりに期待もしてくれたんだと思うよ。
ま、だからいいんじゃない? 僕は自分が恵まれてなかったとか、悲しい境遇にあったとか、さらさら思ってないよ。
ただまぁ――意識はしてたね。
僕は創られた。
数字のために、没落した一族のために、高いお金をかけて創られた。
だからこそ、僕は優秀でなくてはならない。天才でなくてはならない。凡人など歯牙にも欠けてはならない。
大きな記録を打ち立てて、その性能を示さなくてはならない。
そうでなくては、きっと僕は生まれた意味がない。
仮に何の数字も残せなければ、ただの失敗作として忘れられてしまうだろう。
何もなせず、何もないまま、僕という存在は終わるんだよ。
まぁ、それはちょっと――寂しいかなって、思ったんだ。
泣いてくれ、なんて言わないから、忘れないでほしい。
ほら、僕、友達もいないからさ。
◇
「慎二……!」
倒れ、消滅しようとする慎二に対して、誰かが声をかけた。
だがもはや慎二はそれが誰なのかよく見えない。
闇に沈みゆく意識の中、視界は既に真っ暗に近かった。
「おい、死ぬなよ。まだ俺と対戦、してないだろ」
「うるさいなぁ……わかってるよ、そんなことくらい」
それでも声で分かる。誰がどんな顔してこちらを見ているかくらい、目が見えなくても分かるさ。
きっとコイツは――キリトは悲痛な面持ちでこっちを見ているんだろう。
サチとかアスナとか、そいつ等に対して浮かべてたような顔を、きっと、浮かべてくれているんだろう。
「ああ、僕だって悔しいさ! ライダーと能美に勝てて、これで満足だなんて思うかよ!
僕はまだユウキみたいに――」
ユウキの顔が脳裏に過った。
ああ――きっとアイツのことだ。
死ぬ時も笑って死んだんだろうと思う。
ゲーマーとしての確信だ。あの最高のゲーマーが、それ以外の終わり方をするものか。
対して自分はどうだ。
因縁の相手に決着こそつけられたものの、土壇場で助からなかった。
これが元々意味のない勝負であったことなど分かっている。
あそこで能美を全員で攻撃すれば、ここで死ぬことはなかった。
誇りにこだわった結果だ。馬鹿みたいなプライドを優先した結果だ。
でも――ああするしかなかったんだ。
慎二はそう思う。能美と、そしてライダーに対しての気持ちは、ああすることでしか清算できなかった。
そのうえでの結末がこれなのは、単純に自分のプレイスキルが足らなかったからだ。
「クッソ、悔しいなぁ……まだキリトとも、揺光とも、岸波とも戦って――」
そこで、慎二はふと思った。
岸波は――どんな顔をしているのだろうか。
あの凡庸でつまらない友人は、これから死のうとする慎二に対して何を想っているのか。
慎二は耳を澄ませた。そして、彼は最後の疑問の答えを知った。
「――お前、泣いているのか」
返答はない。
けれども、慎二は知った。
彼が――自分の仮初の、そして唯一の友人が泣いていることを。
その事実が、何故だかとても、大きなことのように感じられた。
ああ、そうか――僕が欲しかったものは、こんなものだったのか。
「――厭だなぁ、本当に厭だよ。こんなの」
慎二は言葉を振り絞る。
最後の時は近い。そんなときになって、自分の願いを知るだなんて。
「僕は――忘れられるのが怖かったんだ」
聖杯やらネットの支配権やら、正直興味はない。
そんな自分が何故一度はゲームに乗ろうとしたのか。
それは単に記録を残したかったからで――でも、それは、泣いてくれる友人が一人いるという事実だけで、満たされる願いでもあったのか。
「だってそうだろ? 僕みたいなやつが、何のスコアも残せなかったら、きっと僕は忘れられるんだ。
この世界に、僕がいたという跡を残すには、何が何でも忘れられないような何かを残すしか――」
「違いますよ。そんなことも分からないんですか? ゲームチャンプ(笑)さん」
慎二の言葉を遮ったのは――能美であった。
慎二と同じくHPを全損し、これから死のうとする彼は――慎二に対して告げる。
「忘れられる訳、ないじゃないですか」
◇
……おかしかったのは、僕なんです。
人は誰かのものを奪って、勝手に自分のものにしていくことが普通なんです。
だってそうじゃないですか?
仮にそうでないのなら、争奪が間違ったことであるのならば、兄の存在が許されるはずもない。
何年も生きて、耐えて、成長して、ようやく僕はそのことに気付いたんです。
何も努力せず、何も見ようともせず、何も奪おうともせず、“しあわせ”を求めた。
それこそが真の怠慢であり、愚かさである、と。
そのことを教えてくれた兄のことは忘れませんよ。
奪われたものをすべて奪い返し、加速世界で四肢をもぎ胸を貫き、現実世界で居場所を奪い取ってやった今でも――忘れませんよ。
世界の
ルールを教えてくれたことには感謝を、争奪にはあらんかぎりの報復を!
すべてが終わった今でも忘れてはいません。
忘れません。
忘れられないんです。
だって、奪われた跡は、心にできた空白は今でも――
◇
「人はね、そう簡単には忘れられないんですよ。
殴られたこと、罵られたこと、奪われたこと、敗けたこと……」
能美は弱々しい声色で語る。
その声色からははひどく疲れが感じられる。同時に諦観もまた滲んでいた。
「僕にはわかりますよ――貴方はきっと、とてつもなく厭な奴だって。
自分の優秀さを鼻にかけて、他人を踏みつけることも厭わない。自分だけが良ければいい……そう考えられる人間だって」
能美もまた死のうとしている。
そこに至って、一体彼は誰をおもい浮かべているのだろうか。
出会ったすべての人間を拒絶し、争奪の対象としか見られなかった彼にとっての、忘れられない誰かとは。
「だから断言しますよ――貴方はきっと忘れられない。
とびっきりの厭な奴だって、絶対に後で報復してやるって、ハラワタを引き裂いてやるって、誰かに思われている。
貴方が忘れた、貴方の知らない、貴方が踏みつけてきた誰かに、そう強く思われている、んですよ」
「…………」
「貴方のような恵まれた、自分の生き方に不満がないような人には、わからないかもしれませんけどね。
――奪われた者は、決して忘れはしないんだ!」
能美はそこで大きく声を荒げた。
ヒステリックに、悲痛に、震える声で叫びを上げる。
まるで、忘れられぬ誰かの幻影に取りつかれるように。
「貴方が忘れようとも、貴方が刻んだ傷は、きっとどこかで誰かをずっと苦しめるんだ。
貴方のような奴がいるから、世界は、“しあわせ”を、奪い合うしか――」
そこで能美の声は途切れた。
きっと彼の存在がそこで終わったのだ。
最後の最後まで、簒奪こそが世界のルールであるという歪みから逃れることもなく、彼は去った。
「……ははっ、まぁ、そういうものかもね」
そしてもうすぐ、自分も同じ場所にいくだろう。
彼が遺していった言葉を胸に刻みながら、自分という存在は終わるのだ。
じゃあね岸波、キリト、揺光、ミーナ、それにダスク・テイカー。
精々このゲームをクリアしてくれよ。僕はもう上がるけど
まぁ――割と満足してるよ、この結末。
【間桐慎二@Fate/EXTRA Delete】
【ダスク・テイカ―(能美征二)@アクセル・ワールド Delete】
【ライダー(フランシス・ドレイク)@Fate/EXTRA Delete】
残存プレイヤー
13名
最終更新:2017年05月05日 19:03