OAV Ⅰ
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ドドドドド
乾いた破裂音
音はそこかしこから響くが、それはあたりへ伝わる先に散らされる
煤の気が一帯を覆い火の粉が飛び交う
ここは戦場
夜の陽炎を押しつぶして巨大なヒールがアスファルトを抉りそのまま街頭に叩きつけられる
主はその踵に見合う巨大な出で立ち
人の10倍はあろうかその巨体が街の一角の家屋にめり込む
巨人は瓦礫に手をつき起き上がる
首をもたげて見ればこめかみが唸りを上げて輝く
視線の先に60mmの鉛玉を押し付けんとしたが
相手は意に介さず進み
瞬きの間に腕を振り上げ
赤い眼光をたなびかせその獲物を振り下ろした
Y.C.2020
目が覚める
重々しい瞼を眉間へ力を入れてやれば、薄明かりが飛び込んでくる
光に慣れるとそこはいつもの部屋だ、なんのことはない
身体を起こしていると直ぐ側の内線が鳴りだした
「…あい」
『おはようジョンソン君、悪いがテストが120分前倒しになった、直ぐ』
受話器を戻してとっとと着替えることにした
営舎に備えられた個室、冷蔵庫から取り出したものを適当に口にして外行きの服を着る
最後に茶色い天パにカームを掛けて抜けた毛を払い部屋から出る
─オリゴ北西部、リスラプン空軍基地
ハンガー
「で何なんだよこの有り様は…」
男、スティーブが見たのは自分を寝起きで出勤させる要因が盛大に無様な角度で突き刺さった様子であった
「どうやら搬入作業でユニットごと脱落したようでな、ありゃ備品つけ直すまで4時間は掛かりそうだ…」
隣では浅葱色のツナギを着た男が彼に告げる
早くに呼び出されからの掌返しにげんなりとするスティーブ
移動して待機室へ移る、仕事が
軒並みストップしたため時間を持て余した彼はブラブラとほっつき歩く
「あ"〜こんな事になるんだったらもうちょっと寝てりゃよかったわ」
「随分と眠たげだな」刈り上げでメガネ、いかにも頭の硬そうな輩が近づく
「誰のせいだと思ってるんだ朝早くから起こして そんで待機とか冗談だろ?」
「それは悪かったが眠いのは君が寝不足なのがいけないだろう営舎からやかましいと苦情が出てるのを忘れたかジョンソン君」
「うるせぇ!」
男はアンドレイ・ストーン このリスラプン基地の管制官を務める青年で数少ないスティーブの友人であった
若干強めの語気で不貞腐れるスティーブにその手に持った缶を差し出す
「まぁとにかくこれでも飲んで眠気を覚ませ、そのあとハンガーに戻って復旧作業に回ってくれ」
そう言ってコーヒーを押し付けて廊下の彼方へ消えた
ハンガーに向かいつつ広い格納庫へ出てゆく
使われていないためめちゃくちゃにだだっ広い
そのうえ天井はあちこち欠けていて空が見える開放感の格が違う空間となっている
隣は先のハンガーでそこには忌まわしき実験装備の残骸がまだ転がってることだろう
格納庫跡には隣から移した部品や人より遥かに大きな機器やらが暫定的に置かれていた
普段より賑やかなところを見渡しながら
スティーブは飲みかけのコーヒーをぐいっと飲み干す
ゴミ箱を探していると
後ろをいくつかのスタッフの押す台車が通った
台車にはおよそ2m程の箱が載せられていた
別に大したものでも無いような金属箱であったが、それは妙な雰囲気を醸し出していた
すぐそこを通っていったそれを見送り放心していると
爆発音とともに大地が縦へ横へと大きく揺れ動いた
「うおっ!!」
地に手を付けて起き上がる中、基地には珍しい音が鳴り響く
敵襲を知らせる警報がつんざめく爆音で一帯を包み込む
「敵襲…!?」
─管制室
「敵襲だと!?」
「方位339からグラノーラと思わしきOA3、急速に近づく!」
「第8ハンガー、C棟に火災発生!メディック急行せよ」
「M,K両隊準備よし!」
「マック小隊ケーソン小隊、発進せよ!」
突如としてこの小高い塔の上は騒然となった南南東の方角から渓谷を突っ切ってこちらの防空網を掻い潜ったと思われる敵の1団がそこまで迫っている
管制室に上がっていたアンドレイはすぐさま迎撃を遣わす
管制塔の直ぐ目の前を青い残光が尾を引いて飛び立っていく
煙を上げる基地それを俯瞰する映像
細い光の粒で表現される風景の上に計器情報が映る
薄暗い部屋の中に映るそれはセンサーが捉えた外部情報
パイロットスーツを身に着ける男が見る世界だった
<<ローリーよりヴァニラ 迎撃機が出てきた、数は8>>
「ジャクサ、ローリーは例のモノを探せ、陽動はこちらでする」
<<ウィルコ>>
画面先には向かって来る1小隊
こちらを補足したかその武器を向け発砲する
その様に嵌められたレティクルに従って、指に力を込めれば、次の目標を定めるだろう
ズシズシと音を立てて走るハルカス
レーダーの移す位置に放とうとしたその瞬間、情報が差し替わる
直後閃光が走り一番槍の機体は腕を唐竹割りに、上体と下体が泣き別れとなって四散した
「何っ!?」
「アレは!」
小隊に緊張が走る
樹林の中から立ち上がって来た赤い巨人は、自分たちの機体よりも遥かに凶悪な人相したものであった
「ウオックだと!!?」
一方で対空砲をなぎ倒して飛び込む2機のOA
小脇に抱えたガトリングを斉射して牽制する
発射された120mmの鉄塊が滑走路を一閃してしまう
その合間にあるハルカスの盾を縦断、貫いたものはその足までもを切り落とした
姿勢の崩れるハルカスを横目に一機が通過していく
「クソッやべぇ!このままだと基地がやられる!」
廃格納庫の外に映る戦闘を見て即座に近くのハンガーへ向かって走り出すスティーブ
予備機に乗ってすぐにでも出撃するべきだと駆けるも
離れていたOAの戦闘その流れ弾が横薙ぎに飛来する
先居た格納庫に兵舎に管制塔にと120mmの一文字が浴びせかけられそこにあったもは巨大な弾痕で寸断される
眼の前にあったハンガーも屋根が吹き飛び開放的になったところに、眩い閃光が差し込む
目的の中身は恐らくアツアツの鉄塊に生まれ変わった事だろう
間一髪助かったスティーブはすぐさま別の方向へ走る
乗る機体もない以上頑健な施設に身を隠したほうが生存性が高いと判断したからだ
瓦礫に巻き込まれないよう広い道を走る彼の視界に、渋いオリーブドラブの人影が見えた
「ッ!!」
慌てて声を押し留め柱の裏へ滑り込むと小気味よい音とコンクリートの柱越しに感じる着弾の振動
「第3格納庫付近で発砲音!歩兵部隊かと!」
「保安部を急行させろ!」
塔の尖端あるガラスが砕け散った管制室では伏せたままアンドレイが侵入した制圧部隊の対応をしていた
『第3格納庫付近に侵入部隊!保安部は出動せよ─』
周囲は用意されていた小銃に断層を挿入し、コッキングレバーを引いて側面を叩く
『─繰り返す第3格納庫付近に侵入部隊!保安部は出動せよ!』
スピーカーから鳴り響く声の上を赤い機影が通過する
先鋒を切り抜けたグラノーラの赤いハルカスは
膝をつくやいなや、その尾骶分に備わったユニットを切り離した
地面目前で急減速して着地した黒い箱
そこから
ソルジャー・アーマーを着込んだ歩兵の一団が次々と飛び出してゆく
そのさまを建物の合間から見たスティーブに焦りの表情が浮かぶ
が次の瞬間そんなものより直接的な身の危険にそんなものは吹き飛ぶ
柱を迂回して接近してきた歩兵を見るやいなや、発砲される前に銃身を掴み
勢い良く引こうとする
「ん!フン!!」
互いの万力のような力が拮抗するなら重床を押して殴る
奪った火器をフルオートで撒き眼の前の者と
他に近づいてきたものを倒してすぐに離れる
路地裏を駆け抜けると先とは別の鉄帽とアーマーを着込む一団
リスラプン基地の保安部だ
「助かった!保安部か」銃口を下げてそのうちの男に話しかける
「お前は確か実験部の技官だったか、今乗れるか?」
「丁度今探してたんだ、空いてる機体は無いのか!?」問に待っていたとばかりに返すスティーブ、保安部の一部隊は二手に分かれる
「よしわかった、ついて来い」
スティーブ達は爆炎と砲火飛び交う中本館に突入する
本館の一階を裏から迂回して行く一同、しきりに通信機には様々な怒号と被害報告が上がる
『西側のバリケードがやられた!』
『下がれ!下がれ!!』
少し開けた場所に出るとすぐさま直ぐ真上を火線が走って来た
慌てて屈むスティーブ
ここは本館の屋内戦でも最もな激戦区のようで
雑多な家具等をバリケードに積み立てそれを遮蔽に銃撃戦が繰り広げられていた
良く見ればそこには彼にも見覚えのある整備兵や技官 好ましい奴から鬱陶しいのまで揃いも揃って決起迫る表情で応戦していたのだ
そうして見ていたからふとこちらへ向けられた武器にも目が入った、他と明らかに孔の違う武器を見てスティーブは咄嗟に叫ぶ
「伏せろぉ!!」
「ロケット弾だ!」
直後眼の前のバリケード諸共近場に居た人間はトリガーの一押しの瞬間に粉微塵になって吹き飛んだ
「技官!このまま奥の扉へ行けば目的地だ!いけぇ!」
予想以上の戦闘に保安部は直に向き直って銃を撃ちながら走るように叫ぶ
話の半分程聞いて直に向かったが直後窓からの光が急に途切れる
普通はありえない事だ、それこそいきなり何か巨大なものが光を遮らなければ
影は巨大な角をもった長方形と見えた瞬間、スティーブはいまだかつて無い程に血の気が引いた
咄嗟に武器を取り落としてでも両手で耳を塞ぐ
その瞬間
ドシャァァアアン!!!!ドォォォオン!!!
屋根を丸ごと貫くグレーの鉄板、OAの巨大な盾が施設を潰し、そしてその裏に残っていた擲弾が炸裂した
「ッ……いってぇ…」
ひどい耳鳴りと身体のあちこちを打ちまくった衝撃で意識が呼び覚まされる
ほんのり眉の上辺りからドロっとした液体のような感触を感じるあたり、多分切っただろう
外からはOAの戦闘の衝撃が伝わるだが先居たホールの銃撃の音はめっきり聞こえなくなった
パラパラと天井から砂が落ちてくる
小石混じりなことに気づいたその瞬間、また慌てて飛び起きた
落ちてきたデカい瓦礫を避けたと思えば、よく周りを見ていなかったからか
そこが階段の端だということを失念していた
「うおぁあ!!?」
派手に階段から転げ落ちる
全くついていないとボヤき、そうして自分が今どこにいるのか見渡し始めた
「クソッ…一体ここはどこなん…」
そんな言葉はあるものを目にした瞬間に止まった
真っ青なOAがそこにたった一機だけ鎮座していた
普段見かけるハルカスとは決定的に違う鋭利なライン、あのUFOみたいな頭とはまるで違う
「顔」
誰か乗ってるわけでも、センサーが動いてるわけでもないのにその瞳はこちらを見据えているようだった
まるで引き寄せられるようにラッタルを登りその機体の正面までやって来た時、装甲ハッチの内側に隠されているコクピットの開放コンソールが動いていることに気づいた
「コイツ…動くぞ…」
ロックは開放されており、一撫ですると
青い装甲板が順々に開き、人が乗るその座を明け渡した
HRI MOBILS
{ WELCOME to
{ ─ TG-01 "Wock" ─
{ SYSTEM ONLINE
HRI MOBILS
シートに座りコックピットの閉鎖を行うと、すぐさまシステムが立ち上がる
コンソール正面のディスプレイには機体名が表示され、自身が何者であるかを示す
120のシステムファイルがあるようでハルカスの3倍はあろう速度で読み込まれる
そうすればコックピットの照明が予備電源で点灯し、各所のMbdfが起動して関節のロックが外れる
ゆっくり沈み込む機体と逆に、コックピットブロックは電磁フロートが起動しほんの僅かに浮き上がる
そしてその後、ゴウンっという音と共にリアクターに火が入る
ゆっくりとリアクターの出力が上がりフライホイールが回転を高めるのをシート越しに感じる
いつもと違うのは、テストで乗るハルカス何かとは比較にならないその力強さだ
衝撃を緩和するはずのフロートがかかったコックピットブロックさえ奮い立たせるほどの心拍の強さに、妙な昂揚感を覚える
外へ出ようとする前にウオックのモニターには敵機の情報が映った
この格納庫はそれなりに深いところにあるようだった、それで尚捉えられるそのパワーに脱帽した「すげぇ…比較になんないな…」
これなら……
「クソッ…ここまでだというのか…」
先ほど吹き飛んでいった盾は、この基地に残された最後のOAの装備であった
当の持ち主は今赤いウオックの剣によってコックピットを串焼きにされて転がっている
最早この状況で抵抗する術はない
管制塔のすぐ下の階段では歩兵部隊と管制塔に籠城する我々の銃撃戦が続く
もし仮に下を退けたとして
正面に立ち我々を覗き見るこの巨人には勝てないのだ
アンドレイに残された道は2つ、玉砕か投降かであった、彼は多くの人命を主とする理知的な人物だ、これから彼のする判断は自軍の多くの人間を生存させるものだろう
「悪いが、貴様らが居なくとも捜索はできるのでな」
だが敵機の照準する火器はそれを許しはしない
こちらに向けられる巨大な銃に、自身の末路を悟る
「クッ……!!!!!」
トリガーを引かんとした時、自機のレーダーが敵機の存在を警告した
最後のものは今撃墜した筈であるのにも関わらず
その反応は味方機ローリーのすぐそこにいきなり現れ
ソレはその地を叩き割って顕現した
ドゴォォォォオオオオオン!!!!!!!!!
「くたばれぇぇえええ!!!!」
コンクリートの岩塊とも取れる大地を一撃のうちに粉砕し、巨大な土埃と共に出現した人影は、その手に持つ大剣を振り上げて進み
最初からそこにいることが分かっていたかのように赤い巨人を叩き割って見せた
「……何…?!」
「アレは……」
その兵器にあらぬ獰猛な姿を敵味方問わず、その場に居た誰もが目にした
その青い巨人、ウオックを
Oligo Armor Wock
─The Onslaught Azure Valor─
最終更新:2024年12月15日 21:25