画面いっぱいに大小様々な光を散りばめたそれは、まるで星空のようだった。
それがレーダーに映った敵を示していなければ、もう少しゆっくりしていられたかもしれないのに。
「残弾数、12発……フィールドはまだ問題なく展開可能……!」
目の前には、こちらに砲門を剥く大量のスラヴァの艦影と、これまた大量のズナークの群れ。人だけでなくOAも畑で取れるのか?
「至急、艦隊本隊に連絡。我、損耗多くして戦列の維持は困難を極めり。至急援護を乞う、と。」
そう僚機に告げ、敵部隊に向き直る。目に見えて敵も疲弊しているが、こちらの戦列も限界だ。戦闘開始時16機を数えたうちの隊は、もう4機しか残ってない。
「いつも通り、僕が船を落とす。お前らはOAを落とせ!」
三者三様の「了解」が聞こえる。
「残弾数、12発……フィールドはまだ問題なく展開可能……!」
mf粒子捕集膜を翻らせ、照準を敵の先頭のゴルシコフ級に合わせる。青い閃光と共に敵の結界弾を貫通し、そのまま艦首に突き刺さり爆炎を上げた。
カムチャツカ級戦艦が、こちらに艦首砲を向けたのが見えた。
レーダー画面の小さな星空は、その明るさを衰えさせることなく輝き続けている。
「さっき送った増援要請の返答は何て!?」
そう叫ぶと、通信越しに後ろのヘンリエッテから同僚の声が聞こえる。
「……我に余剰兵力なし、現有戦力を以て軍人としての職務を全うせよ、と。」
「そりゃそうか……」
はは、と乾いた笑いを返した。軍人としての職責、それは究極的には勝つことと命を擲つことだ。上はどちらか選ばせてくれるらしい。
前に向き直ると、カムチャツカ級の艦首の光が強まっているように見えた。
「あのカムチャッカ級が撃つまでここで耐える。撃ってきそうになったら退避、終わったらまた戻ってきて足止め。それを繰り返す。」
とりあえず目の前の船にAF-PESHを叩き込む。フィールド貫通、そして爆裂、破壊。
敵の主砲なんかは全てシュプール自身のフィールドで防ぎきれている。流石は縮退炉だ。
「俺らも行くぞ!」
僚機のヘンリエッテ三機もフィールド圏内からビームを放ち、ズナークを次々と落としていく。
「あっクソ!待て!」
僕が三隻目を落としたあたりで、僚機たちが射程外に逃げたズナークを追ってフィールドから出ていった。
「おい、戻ってこい!退避!」
「もうこいつ落ちかけなんですよ!あとちょっと...!」
ゴルシコフ級が僚機たちが追っていくのを見て、咄嗟にゴルシコフ級を撃ち落とす。
「...あ。」
今ので弾が切れてしまった。
運の悪いことに、同時にコクピットのディスプレイに「Caution : Positron Detected(陽電子反応警報)」の文字が見える。
「おい!...クッソ!」
僚機たちの方に飛んでいき、味方を巻き込まないよう偏向していたフィールドを普通に戻して斥力で僚機たちを弾き飛ばす。
…敵のカムチャッカ級戦艦から閃光が飛んでくるのが見えた。
「シュプール」は僕が居なくったって硬いんだ。と、決意を決めて脱出レバーを引いた。
体が持ちあげられる感覚、の直後に僕の体は椅子から離れて回っていた。
…運の悪いことにコックピットのハッチが脱出と同時に開いてしまった。
ぐるぐると回る星と、たくさんの機影と、たくさんの艦影が見える。
…僕は、何かを為せただろうか。
今までの人生がパラパラ漫画のように脳内を流れていく。走馬灯って、本当にあったんだなぁ、と酷く冷静に思った。
思えば昔っから、何かと運が悪かった。
「ーーーーは、やさしすぎて自分を守れない時がある...気をつけて。」
迫ってくる陽電子の奔流を目の前に、僕はそんな、大切な一言を思い出した。
全くその通りだ。
「それでも、君を守ることは...少なくとも、それを助けるできただろ?」
その言葉を聴いた者は、誰もいなかった。
報告書
第3次l3防衛戦にて敵艦の艦首砲から自らの率いる味方機を庇い、大破したのち反応が途絶え、MIA(作戦行動中行方不明)となったウォックシュプールは、陽電子砲ではまともに部品が残っているとは思えず、捜索難易度が高い上に他国に鹵獲されたところで大事には至らないと判断された。加えて、シュプールと同様の技術が投入された機体の情報は現時点で諸外国に潜入した者からは挙がっていないため、8月12日に捜索が打ち切られた。
[情報抹消済]操縦士は少佐から大佐へ二階級特進および名誉勲章を授与されている。
これを持って本機に関する一切の情報は第一種指定機密とする。
2119/8/18 報告書作成者 カイ・ロンド
最終更新:2024年12月27日 19:42