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チョコレート - (2008/08/29 (金) 22:33:06) の１つ前との変更点

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<p><font size="2">　この作品は、2008年度の初音ミクの誕生日企画「ボカロＳＳ投稿所ＰＳ企画”Miku
Hatsune”」に投稿された作品です。</font></p>
<p><font size="2">　作者名は、人気作品アンケートが終了するまで非公開とさせて頂いております。</font></p>
<hr /><div class="EC_Section1">
<div class="EC_MsoNormal"><font size="2"><span style="font-family:'MS 明朝';">　放課後の教室で、私は鞄の中に入ってる手紙とチョコレートの入った小さな紙袋の存在を確かめる。</span></font></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">頭の中で、昨日から散々やってきたシュミレートをもう一度繰り返す。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">彼は今、部活に精を出している。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">それが終わった後に毎日教室に戻ってくることは調査済みだし、荷物が教室においてあることも確認済み。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">だから彼が戻ってくるのを待って、紙袋を渡せばいい。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「甘いもの嫌いだったりする？　」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">と、わざわざ遠まわしに尋ねてチョコレートは好きだということも聞き出したし、下調べはきちんとできているはずだ。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">好きですとか、そういうことは全部手紙に書いてあるからわざわざ言わなくても良いし。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">というか、本人を目の前にして言える自信は全く無いから何度書き直しても、必ず自分の気持ちは文字で書いた。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">とりあえず教室に戻ってきた彼にかける言葉は決めてある。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「部活お疲れ様」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">そう笑っていってそれとなく紙袋をバックの中から出す。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">そしてそれを差し出しながら</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「よかったら、これ食べて」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">と言ってそのまま帰る。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">これで完璧、のはずだ。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">時計を見て、今の時刻を確認する。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">彼の部活が終わるのは六時過ぎで、今はまだ五時位。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">それまではまだ、時間があるから大丈夫だと自分に言い聞かせて一つ深呼吸する。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「髪とか、変じゃないかな……」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">誰も居ないのに、わざわざそう呟いて私は手鏡でもう一度入念にチェックする。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">スカートの丈はいつもより気持ち短めにしてる。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">朝、遅刻ぎりぎりまで悩みいつものツインテールではなくポニーテールにした髪は、さっき結びなおしたばかりだから全然崩れてない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">制服のリボンがちょっとよれてるから、本日十一回目の結びなおしをする。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">チェックが終わると、手持ち無沙汰になってしまい教室中に視線をさまよわせて結局自分の鞄に視線を落とす。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">中にある紙袋には、綺麗にラッピングしたチョコレートと手紙が入っている。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">パタン、と机に顔を伏せながら私は昨日のことを思い出す。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span lang="en-us" xml:lang="en-us"><font face="Century"> </font></span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">　目の前にあるのは、開かれた一冊の本と作りかけのチョコレート。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">本によるともうそのチョコ、ショコラは固まってるはずなのだが、一向にその気配はない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「絶対出来るチョコ」という題名を信じてこの本を買ったのに、と思いながらもう一度じっくりと読み直す。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「え、あれ。もしかしてこれ全部㎎なの？　」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">材料のところを見返して、決定的な間違いに気づいて、私は途方にくれる。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">そもそも、お菓子作りなんて初めてだからまともに出来るわけが無かったんだ。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">湯煎しようとしてお湯を思いっきりぶちまけたり、調理器具を出そうとして落として危うく壊しそうになっても認めなかった事実を、屈辱ながら私はようやく認める。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">手紙の内容だって全く決まってないのに、どうすれば良いんだろう……。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">やはり、全く固まる気配の無いチョコレートを睨みつけながら私は悩む。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「誰かに手伝ってもらったら良かったのかな……」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">呟いた直後に、私は首を横に振って自分の言葉を否定する。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">そんな恥ずかしいことが出来るんだったら、自分ひとりでしようとする前にとっくに助けを求めている。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">お菓子作りの得意な友人には心当たりがある。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">でもその子に助けを求めたら、誰相手なのかとかいつ好きになったのかとかを根掘り葉掘り聞かれるに決まっている。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">チラリと壁にかかってるカレンダーと時計に目を走らせるが、どんなに見てもバレンタインデーは明日だし、時間も刻々と過ぎてゆく。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「うー……」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">いっそのこと、明日伝えるのは諦めようかとも思う。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">けれども、この機を逃すと次にいつ自分の決意を固められるかが分からない、と思ってしまうと諦めきれない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">パラパラと他のチョコレートの作り方を眺める。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「いっそのこと、生チョコって言い張れないかな、無理だよね」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">ブツブツと呟きながらなんとかならないか必死で考えるも、妙案は全く浮かんでこない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">とりあえずラッピング用の紙とかリボンとかを引っ張り出してくるが、このショコラもどきをどう飾り付けするべきかも全く思い浮かばない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「えーっと、どうしよう……」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">そう呟きながら私は台所の机の上に手を置く。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">その時、ふいにその腕に湯煎に使っていたボウルが当たる。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">ありがたいことにお湯はもう捨てていたが、キッチンに本日何度目かも分からないものが落ちる音が響いた。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「とりあえず、手紙の内容でも決めようかな……」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">私はそう呟いて、いったん現実逃避をすることを決めてエプロンを脱ぐ。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">どのレターセットを使おうか、とか文章はどんな感じに書こうかとかを悩みながら私は自分の部屋へと向かう。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">結局その現実逃避も三十分と経たない内に行き詰ってしまったのだけど。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">　結局その後どれだけ時間を置いてもショコラは固まらず、無理やりラッピングをして紙袋の中に入れた。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">学校でも何回か手紙を書き直して入れ替えたりはしたけど、ショコラを作り直すわけにはいかず、昨日のまま。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">教室の中はシン、としていて私が少し椅子を引くだけでその音が響く。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「び、びっくりしたー」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">その音に驚いた私はそう独り言を呟いた。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「何が？　」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">急に後ろから声をかけられて私は、文字通り飛び上がって、後ろを振り向く。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">教室のドアの所には、私がまさにチョコレートを渡そうと思っていた相手が普通に立っている。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「え、あ。え、えと、ぶ、部活は？　」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">混乱した私は、シュミレーションしたことなんて全て忘れて、そう尋ねる。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">聞いた後、もしかしてもう六時かと思い時計に視線を向けるが、まだ五時半。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">どう考えても部活が終わってるわけ無い。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「あぁ、今日は何か早く終わったんだけど……。初音は、なんで残ってるんだ？　」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">いきなり確信をつかれた私はビクリ、と体を強張らせる。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">なんで今日に限って！　と叫びたかったけどそういうわけにもいかない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「あ、えと、その……」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">しどろもどろになりながら、私は鞄からチョコレートを取り出す。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">いや、取り出そうと思ったのだが引っかかってなかなか上手く出てこない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「え、あれ？　ちょ、ちょっと……」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">慌てて更に強く引っ張るが、出てきそうに無い。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">というか、これ以上強く引っ張ると紙袋が破けるかもしれない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「ちょ、ちょっと待って」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">そう言って私は鞄の中をのぞく。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">後ろのほうで、彼が少しいぶかしんでる様子が伝わってくる。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">どうも適当に入れた筆箱が邪魔をしてみたいで、それを横にどけて今度はそっと紙袋を取り出す。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">ちょっとしわがよってるけど、破れてないし大丈夫、だよね？</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">自分の中で確認しながら汚くなった部分を整えて彼のほうを向く。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">大丈夫、と自分に言い聞かせながらチョコを渡そうとしたとき、チャイムが鳴る。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">その音にびっくりして、朝からずっと悩んで決めた言葉は吹っ飛んで、頭の中は真っ白になる。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">私は目をぎゅっとつぶって手に持っているものを差し出した。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">口の中はもうカラカラで、たぶん今まで生きてきた中で一番緊張しているだろう。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">自分の思いを全てこめて私は口を開く。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">ちょっと声が裏返った気がするが、そんなことを気にする余裕は無い。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal">
<p><span style="font-family:'MS 明朝';">「あ、あの。その……。こ、これ、あげるっ！　」</span></p>
<p> </p>
</div>
</div>

<p><font size="2">　この作品は、2008年度の初音ミクの誕生日企画「ボカロＳＳ投稿所ＰＳ企画”Miku
Hatsune”」に投稿された作品です。</font></p>
<p><font size="2">　作者名は、人気作品アンケートが終了するまで非公開とさせて頂いております。</font></p>
<hr /><div class="EC_Section1">
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';"><font size="3">　放課後の教室で、私は鞄の中に入ってる手紙とチョコレートの入った小さな紙袋の存在を確かめる。</font></span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">頭の中で、昨日から散々やってきたシュミレートをもう一度繰り返す。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">彼は今、部活に精を出している。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">それが終わった後に毎日教室に戻ってくることは調査済みだし、荷物が教室においてあることも確認済み。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">だから彼が戻ってくるのを待って、紙袋を渡せばいい。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「甘いもの嫌いだったりする？　」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">と、わざわざ遠まわしに尋ねてチョコレートは好きだということも聞き出したし、下調べはきちんとできているはずだ。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">好きですとか、そういうことは全部手紙に書いてあるからわざわざ言わなくても良いし。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">というか、本人を目の前にして言える自信は全く無いから何度書き直しても、必ず自分の気持ちは文字で書いた。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">とりあえず教室に戻ってきた彼にかける言葉は決めてある。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「部活お疲れ様」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">そう笑っていってそれとなく紙袋をバックの中から出す。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">そしてそれを差し出しながら</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「よかったら、これ食べて」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">と言ってそのまま帰る。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">これで完璧、のはずだ。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">時計を見て、今の時刻を確認する。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">彼の部活が終わるのは六時過ぎで、今はまだ五時位。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">それまではまだ、時間があるから大丈夫だと自分に言い聞かせて一つ深呼吸する。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「髪とか、変じゃないかな……」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">誰も居ないのに、わざわざそう呟いて私は手鏡でもう一度入念にチェックする。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">スカートの丈はいつもより気持ち短めにしてる。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">朝、遅刻ぎりぎりまで悩みいつものツインテールではなくポニーテールにした髪は、さっき結びなおしたばかりだから全然崩れてない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">制服のリボンがちょっとよれてるから、本日十一回目の結びなおしをする。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">チェックが終わると、手持ち無沙汰になってしまい教室中に視線をさまよわせて結局自分の鞄に視線を落とす。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">中にある紙袋には、綺麗にラッピングしたチョコレートと手紙が入っている。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">パタン、と机に顔を伏せながら私は昨日のことを思い出す。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span lang="en-us" xml:lang="en-us"><font face="Century"> </font></span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">　目の前にあるのは、開かれた一冊の本と作りかけのチョコレート。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">本によるともうそのチョコ、ショコラは固まってるはずなのだが、一向にその気配はない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「絶対出来るチョコ」という題名を信じてこの本を買ったのに、と思いながらもう一度じっくりと読み直す。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「え、あれ。もしかしてこれ全部㎎なの？　」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">材料のところを見返して、決定的な間違いに気づいて、私は途方にくれる。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">そもそも、お菓子作りなんて初めてだからまともに出来るわけが無かったんだ。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">湯煎しようとしてお湯を思いっきりぶちまけたり、調理器具を出そうとして落として危うく壊しそうになっても認めなかった事実を、屈辱ながら私はようやく認める。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">手紙の内容だって全く決まってないのに、どうすれば良いんだろう……。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">やはり、全く固まる気配の無いチョコレートを睨みつけながら私は悩む。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「誰かに手伝ってもらったら良かったのかな……」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">呟いた直後に、私は首を横に振って自分の言葉を否定する。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">そんな恥ずかしいことが出来るんだったら、自分ひとりでしようとする前にとっくに助けを求めている。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">お菓子作りの得意な友人には心当たりがある。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">でもその子に助けを求めたら、誰相手なのかとかいつ好きになったのかとかを根掘り葉掘り聞かれるに決まっている。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">チラリと壁にかかってるカレンダーと時計に目を走らせるが、どんなに見てもバレンタインデーは明日だし、時間も刻々と過ぎてゆく。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「うー……」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">いっそのこと、明日伝えるのは諦めようかとも思う。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">けれども、この機を逃すと次にいつ自分の決意を固められるかが分からない、と思ってしまうと諦めきれない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">パラパラと他のチョコレートの作り方を眺める。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「いっそのこと、生チョコって言い張れないかな、無理だよね」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">ブツブツと呟きながらなんとかならないか必死で考えるも、妙案は全く浮かんでこない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">とりあえずラッピング用の紙とかリボンとかを引っ張り出してくるが、このショコラもどきをどう飾り付けするべきかも全く思い浮かばない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「えーっと、どうしよう……」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">そう呟きながら私は台所の机の上に手を置く。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">その時、ふいにその腕に湯煎に使っていたボウルが当たる。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">ありがたいことにお湯はもう捨てていたが、キッチンに本日何度目かも分からないものが落ちる音が響いた。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「とりあえず、手紙の内容でも決めようかな……」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">私はそう呟いて、いったん現実逃避をすることを決めてエプロンを脱ぐ。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">どのレターセットを使おうか、とか文章はどんな感じに書こうかとかを悩みながら私は自分の部屋へと向かう。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">結局その現実逃避も三十分と経たない内に行き詰ってしまったのだけど。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">　結局その後どれだけ時間を置いてもショコラは固まらず、無理やりラッピングをして紙袋の中に入れた。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">学校でも何回か手紙を書き直して入れ替えたりはしたけど、ショコラを作り直すわけにはいかず、昨日のまま。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">教室の中はシン、としていて私が少し椅子を引くだけでその音が響く。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「び、びっくりしたー」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">その音に驚いた私はそう独り言を呟いた。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「何が？　」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">急に後ろから声をかけられて私は、文字通り飛び上がって、後ろを振り向く。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">教室のドアの所には、私がまさにチョコレートを渡そうと思っていた相手が普通に立っている。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「え、あ。え、えと、ぶ、部活は？　」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">混乱した私は、シュミレーションしたことなんて全て忘れて、そう尋ねる。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">聞いた後、もしかしてもう六時かと思い時計に視線を向けるが、まだ五時半。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">どう考えても部活が終わってるわけ無い。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「あぁ、今日は何か早く終わったんだけど……。初音は、なんで残ってるんだ？　」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">いきなり確信をつかれた私はビクリ、と体を強張らせる。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">なんで今日に限って！　と叫びたかったけどそういうわけにもいかない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「あ、えと、その……」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">しどろもどろになりながら、私は鞄からチョコレートを取り出す。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">いや、取り出そうと思ったのだが引っかかってなかなか上手く出てこない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「え、あれ？　ちょ、ちょっと……」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">慌てて更に強く引っ張るが、出てきそうに無い。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">というか、これ以上強く引っ張ると紙袋が破けるかもしれない。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">「ちょ、ちょっと待って」</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">そう言って私は鞄の中をのぞく。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">後ろのほうで、彼が少しいぶかしんでる様子が伝わってくる。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">どうも適当に入れた筆箱が邪魔をしてみたいで、それを横にどけて今度はそっと紙袋を取り出す。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">ちょっとしわがよってるけど、破れてないし大丈夫、だよね？</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">自分の中で確認しながら汚くなった部分を整えて彼のほうを向く。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">大丈夫、と自分に言い聞かせながらチョコを渡そうとしたとき、チャイムが鳴る。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">その音にびっくりして、朝からずっと悩んで決めた言葉は吹っ飛んで、頭の中は真っ白になる。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">私は目をぎゅっとつぶって手に持っているものを差し出した。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">口の中はもうカラカラで、たぶん今まで生きてきた中で一番緊張しているだろう。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">自分の思いを全てこめて私は口を開く。</span></div>
<div class="EC_MsoNormal"><span style="font-family:'MS 明朝';">ちょっと声が裏返った気がするが、そんなことを気にする余裕は無い。</span></div>
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<p><span style="font-family:'MS 明朝';">「あ、あの。その……。こ、これ、あげるっ！　」</span></p>
<p> </p>
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