「弱音に飽きた、雪の夕暮れ」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

弱音に飽きた、雪の夕暮れ - (2008/08/11 (月) 04:31:44) の1つ前との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

<p> 卑怯船隊うろたんだーSS</p> <p><br /><br /><br />  【弱音に飽きた、雪の夕暮れ】<br /><br /><br /><br /> 「……雪」<br />  同じ時刻、全く違う場所で。<br />  どこか似ているものの、全く違う印象を持つ2人の女性が、空を見上げて呟いた。<br />  冬の訪れを告げる、六角形の結晶が、ひらりひらりと舞い落ちる。<br /> 「……もう、そんな季節か」<br /> 「どうりで、寒くなりましたね……」<br />  距離的に離れすぎた2人の会話は、当然互いに聞こえていない。<br />  けれど、それは重ねて聞けば、とても親しい会話になった。<br /> 「……あんたと出会ったのも、こんな日だった」<br /> 「雪を見ると、どうしても、思い出してしまいます」<br />  <br /> 「――ねぇ、ハク。今どうしてる?」<br /> 「ネルさん。ごめんなさい。ごめんなさい……」<br /><br /><br /><br />  数年前、冬。天気は、雪。<br />  秘密結社ジャスティス前。<br />  <br />  吐く息が白い。周囲の景色や、空まで白い。<br />  辺りで聞こえる音は、携帯電話のボタンを押す硬質な音だけ。 <br />  ネルは携帯電話を猛烈に押しつづけながら、不意に顔を上げた。<br /> 「……?」<br />  奇妙なものが、視界の端で動いた。<br />  お世辞にも明るいとは言えない色のリボンが、風に揺れている。<br />  リボンが単体で、ゆらゆら、ゆらゆらと。<br /> 「なに?」<br />  目を凝らす。と、リボンがふわり揺れて、誰かが振り返った。<br /> 「……あ、こ、……こんにちは」<br />  リボンしか見えなかったのは、その女性が見事な白髪をしていたからだった。<br />  うずたかく積もった雪の前で、長い髪が迷彩効果をもたらしている。<br />  弱気な表情をした彼女は何が楽しいのか、両手を雪の中へ突っ込んでいた。<br />  ネルは相手の顔を穴があくほど見つめた。<br />  見覚えのある顔だった。味方として、記憶している。ただし、誰かは思い出せない。<br /> 「あんた、ジャスティスの奴よね。名前は?」<br />  無遠慮に問われて、その儚げな女性は雪に片手を突っ込んだまま答えた。<br /> 「あ、はい。弱音ハク、です」<br /> 「そう。あたしは亞北ネル」<br />  互いに簡単な自己紹介を済ませた時エンジン音が聞こえ、バスが滑り込んできた。ちなみに、バス停にはご丁寧にも『秘密結社ジャスティス前』と書かれている。<br />  やっと来たか、とネルはバスのステップに足をかけた。ハクは、動かない。動かしたのは足でなく両手だった。積もった雪に突っ込んで、不器用に中を探る。ただ、停車中のバスも気になるらしく、ちらちらと振り返って、様子を伺う。<br />  ネルが声をかけた。<br /> 「乗らないの?」<br /> 「あ、はい、あの、えっと……」<br />  おどおどした視線が、雪とバスを見比べる。ネルはその様子を5秒ほど眺めてから、バスを降りた。思わず零した溜息には、苛立ちが込められていた。<br />  運転手は、何も言わずバスを発進させる。ネルは苛立った早足で、ハクのところへ戻った。<br /> 「あんたね、はっきりしなさいよ! あたしは、今みたいのが1番嫌いなの!」<br /> 「ひっ……」<br />  初対面のネルの怒号に、ハクは脅えて首を竦めた。<br /> 「人の顔色うかがってんじゃないわよ! 何か困ってるなら困ってるって言えば!?」<br /> 「あ、あぅ……」<br />  声を差し挟めずに上げた声にも、ネルは過敏に反応する。<br /> 「あう、じゃないっ!」<br /> 「ご、ごめんなさいっ!」<br />  ハクは進退窮まって、必死で謝った。ネルは怒りを冷ますため、長い溜息をつく。<br />  今、誰かが通りかかったしても、彼女たちを初対面とは思わなかっただろう。はたから見れば、仲が良さそうにしか見えない光景だった。<br />  <br />  <br />  <br /> 「――つまり、転んだ拍子に、雪の中に携帯を突っ込んだわけね?」<br />  路肩に積もった雪を眺めながら、ネルはそう結論づけた。<br /> 「はい……」<br />  ハクは疲れきったように肩を落としている。</p> <p> 雪の中を探りつづけたことに疲れたのか、突然に怒りを向けられたことに疲れているのかは定かでない。<br />  ネルは一言つぶやいた。<br /> 「マヌケ」<br /> 「あ……ごめんなさ」<br /> 「別にあんた悪くないでしょ? 何に謝ってるの?」<br /> 「……」<br />  ハクは、反射的に謝ったなどと言っては、また怒られると察した。その程度のことは、知り合ったばかりでもわかった。<br /> 「あ……マヌケに生まれて、ごめんなさい、というか」<br />  半端な笑みを浮かべながら答えれば、<br /> 「バカじゃない!? 自分がどういう人間かを、誰に謝るのよ! 謝る必要なんかないでしょ!?」<br /> 「……」<br />  どうやら、また着火してしまったらしい。ことごとく、自分とは合わない人だ、と感じて、ハクは俯いた。誰彼かまわず怒りを向ける人は怖かったし、何度繰り返しても、怒られることには慣れなかった。<br /> 「ちょっと、なに黙ってんの?」<br /> 「…………」<br /> 「とにかく、携帯番号。早く教えなさいよ」<br /> 「…………え」<br />  顔を上げると、ハクが自分の携帯を差し出していた。<br /> 「あんたの携帯、鳴らすのよ。それ以外にないでしょ。それとも、自分の番号がわからない?」<br />  だったら一度、本部に戻って連絡先聞いてあげるけど、とネルは言う。ハクは呆気にとられてしまっている。<br /> 「ほら」<br />  ネルは仏頂面で、携帯を差し出した。ハクはぎくしゃくしながらその携帯を取る。相当使い込んで、印字された数字がハゲかけているボタンを、ひとつひとつ、押していく。<br />  <br />  ぶぃー……ぶぃー……<br />  <br />  かすかな、かすかな音が、2人の耳に届く。<br />  それは携帯がバイブレーションする音に他ならず、<br /> 「マナーモードっ!?」<br />  ネルが思わず声をあげた。<br /> 「……あ、はい」<br />  まるでそれが当たり前のように、ハクがきょとんとする。<br />  亜種とはいえ、歌を生業とするボーカロイドの着信音がサイレント。ネルにとってそれは笑えない事態であったが、<br /> 「ああ、もう! どうでもいいわ、探すわよ!」<br />  もう怒りすぎて、何に怒っているのかも分からない。ネルはコール中の携帯電話を首から下げて、雪をかき分け始めた。<br />  1つわかったことがあるとすれば、この女の隣にいると、なにやら理不尽な怒りが湧いてくるということだった。<br />  <br /> 「……おかしい。このあたりなんだけど」<br /> 「見つかりませんね……あの、亞北さん?」<br /> 「ネルって呼んで。亞北とか呼ばれるのは嫌」<br /> 「ネルさん。あの、もうすぐバスがなくなりますし、あとは」<br /> 「ここまで探させておいて、帰れとでも言うわけ!?」<br /> 「ご、ごめんなさい」<br /> 「ったく…。あんた、ハクって言ったっけ」<br /> 「はい」<br /> 「同じジャスティスの仲間とは思えないわ」<br /> 「……」<br /> 「正義は、諦めたら終わりなのよ。なかったことと同じになる」<br /> 「……でも、ネルさんが手伝ってくれて、嬉しかったことは……なかったことには、なりませんよ?」<br /> 「バカ、あんたの携帯電話はなかったことになるのよ!」<br /> 「す、すみませ……」<br /> 『あ』<br />  <br />  ハクとネルの声が被った。<br />  雪を透かして光る、淡い色の小さな光が見えた。<br /> 「あったー!!」<br />  叫んで、その小さく薄い携帯電話を雪の中から取り上げたのは、ネルだった。<br />  掘り出して、雪を払って、一通りの動作確認をする。電池パックの部分を開き、ハンカチで拭う。<br /> 「良かった。問題なさそう」<br />  はい、と手渡された携帯電話を開き、ハクは何の気なしにボタンを押した。<br />  ずらっと表示される、登録されていない番号からの着信。<br />  1時間以上前から、今まで、ずっと。<br />  顔を上げると、満足げな表情のネル。<br /> 「……ネルさん、携帯電話が好きなんですね」<br />  何の気なしに言った台詞に、ネルは驚いて言葉を詰まらせた。<br /> 「ちょ、な、なんで知ってるの!?」<br />  それには答えず、ふふ、とハクは笑った。<br />  <br />  灰色に色づいた薄暗い景色のなか、白髪の少女は笑い、金髪の少女は怒りを露に。<br />  やがてバス停には、最後のバスが滑り込んでくる。<br />  <br />  <br />  <br />  そこから流れる時間を辿り、現在。<br />  距離と、組織と。あらゆる意味で離れた2人は、あの日と同じ雪を眺めて呟く。<br />  直接には出会えない相手との、会話を続ける。<br />  <br /> 「あれから。もうどれくらい、経ったんだろう」<br /> 「あなたからの着信が。登録できた名前が、嬉しかった」<br />  <br /> 「あんたとの腐れ縁は、ずっと続くんだって思ってた」<br /> 「何度も怒られて、謝って、怒られて。……楽しくて」<br />  <br /> 「私は、裏切り者のあんたを許せない。許さない」<br /> 「もう、謝っても、絶対、許してもらえませんね」<br />  <br /> 「……けど」<br /> 「……でも」<br />  <br /> 「ハク……今、何してる?」<br /> 「ネルさん……もう一度、会いたいよ」<br />  <br />  ジャスティスと、アルメリア。<br />  遠く離れた二人の会話は、繋がらない。<br />  <br />  【弱音に飽きた、雪の夕暮れ】おわり</p>
<p> 卑怯船隊うろたんだーSS</p> <p><br /><br /><br />  【弱音に飽きた、雪の夕暮れ】<br /><br /><br /><br /> 「……雪」<br />  同じ時刻、全く違う場所で。<br />  どこか似ているものの、全く違う印象を持つ2人の女性が、空を見上げて呟いた。<br />  冬の訪れを告げる、六角形の結晶が、ひらりひらりと舞い落ちる。<br /> 「……もう、そんな季節か」<br /> 「どうりで、寒くなりましたね……」<br />  距離的に離れすぎた2人の会話は、当然互いに聞こえていない。<br />  けれど、それは重ねて聞けば、とても親しい会話になった。<br /> 「……あんたと出会ったのも、こんな日だった」<br /> 「雪を見ると、どうしても、思い出してしまいます」<br />  <br /> 「――ねぇ、ハク。今どうしてる?」<br /> 「ネルさん。ごめんなさい。ごめんなさい……」<br /><br /><br /><br />  数年前、冬。天気は、雪。<br />  秘密結社ジャスティス前。<br />  <br />  吐く息が白い。周囲の景色や、空まで白い。<br />  辺りで聞こえる音は、携帯電話のボタンを押す硬質な音だけ。 <br />  ネルは携帯電話を猛烈に押しつづけながら、不意に顔を上げた。<br /> 「……?」<br />  奇妙なものが、視界の端で動いた。<br />  お世辞にも明るいとは言えない色のリボンが、風に揺れている。<br />  リボンが単体で、ゆらゆら、ゆらゆらと。<br /> 「なに?」<br />  目を凝らす。と、リボンがふわり揺れて、誰かが振り返った。<br /> 「……あ、こ、……こんにちは」<br />  リボンしか見えなかったのは、その女性が見事な白髪をしていたからだった。<br />  うずたかく積もった雪の前で、長い髪が迷彩効果をもたらしている。<br />  弱気な表情をした彼女は何が楽しいのか、両手を雪の中へ突っ込んでいた。<br />  ネルは相手の顔を穴があくほど見つめた。<br />  見覚えのある顔だった。味方として、記憶している。ただし、誰かは思い出せない。<br /> 「あんた、ジャスティスの奴よね。名前は?」<br />  無遠慮に問われて、その儚げな女性は雪に片手を突っ込んだまま答えた。<br /> 「あ、はい。弱音ハク、です」<br /> 「そう。あたしは亞北ネル」<br />  互いに簡単な自己紹介を済ませた時エンジン音が聞こえ、バスが滑り込んできた。ちなみに、バス停にはご丁寧にも『秘密結社ジャスティス前』と書かれている。<br />  やっと来たか、とネルはバスのステップに足をかけた。ハクは、動かない。動かしたのは足でなく両手だった。積もった雪に突っ込んで、不器用に中を探る。ただ、停車中のバスも気になるらしく、ちらちらと振り返って、様子を伺う。<br />  ネルが声をかけた。<br /> 「乗らないの?」<br /> 「あ、はい、あの、えっと……」<br />  おどおどした視線が、雪とバスを見比べる。ネルはその様子を5秒ほど眺めてから、バスを降りた。思わず零した溜息には、苛立ちが込められていた。<br />  運転手は、何も言わずバスを発進させる。ネルは苛立った早足で、ハクのところへ戻った。<br /> 「あんたね、はっきりしなさいよ! あたしは、今みたいのが1番嫌いなの!」<br /> 「ひっ……」<br />  初対面のネルの怒号に、ハクは脅えて首を竦めた。<br /> 「人の顔色うかがってんじゃないわよ! 何か困ってるなら困ってるって言えば!?」<br /> 「あ、あぅ……」<br />  声を差し挟めずに上げた声にも、ネルは過敏に反応する。<br /> 「あう、じゃないっ!」<br /> 「ご、ごめんなさいっ!」<br />  ハクは進退窮まって、必死で謝った。ネルは怒りを冷ますため、長い溜息をつく。<br />  今、誰かが通りかかったしても、彼女たちを初対面とは思わなかっただろう。はたから見れば、仲が良さそうにしか見えない光景だった。<br />  <br />  <br />  <br /> 「――つまり、転んだ拍子に、雪の中に携帯を突っ込んだわけね?」<br />  路肩に積もった雪を眺めながら、ネルはそう結論づけた。<br /> 「はい……」<br />  ハクは疲れきったように肩を落としている。</p> <p> 雪の中を探りつづけたことに疲れたのか、突然に怒りを向けられたことに疲れているのかは定かでない。<br />  ネルは一言つぶやいた。<br /> 「マヌケ」<br /> 「あ……ごめんなさ」<br /> 「別にあんた悪くないでしょ? 何に謝ってるの?」<br /> 「……」<br />  ハクは、反射的に謝ったなどと言っては、また怒られると察した。その程度のことは、知り合ったばかりでもわかった。<br /> 「あ……マヌケに生まれて、ごめんなさい、というか」<br />  半端な笑みを浮かべながら答えれば、<br /> 「バカじゃない!? 自分がどういう人間かを、誰に謝るのよ! 謝る必要なんかないでしょ!?」<br /> 「……」<br />  どうやら、また着火してしまったらしい。ことごとく、自分とは合わない人だ、と感じて、ハクは俯いた。誰彼かまわず怒りを向ける人は怖かったし、何度繰り返しても、怒られることには慣れなかった。<br /> 「ちょっと、なに黙ってんの?」<br /> 「…………」<br /> 「とにかく、携帯番号。早く教えなさいよ」<br /> 「…………え」<br />  顔を上げると、ハクが自分の携帯を差し出していた。<br /> 「あんたの携帯、鳴らすのよ。それ以外にないでしょ。それとも、自分の番号がわからない?」<br />  だったら一度、本部に戻って連絡先聞いてあげるけど、とネルは言う。ハクは呆気にとられてしまっている。<br /> 「ほら」<br />  ネルは仏頂面で、携帯を差し出した。ハクはぎくしゃくしながらその携帯を取る。相当使い込んで、印字された数字がハゲかけているボタンを、ひとつひとつ、押していく。<br />  <br />  ぶぃー……ぶぃー……<br />  <br />  かすかな、かすかな音が、2人の耳に届く。<br />  それは携帯がバイブレーションする音に他ならず、<br /> 「マナーモードっ!?」<br />  ネルが思わず声をあげた。<br /> 「……あ、はい」<br />  まるでそれが当たり前のように、ハクがきょとんとする。<br />  亜種とはいえ、歌を生業とするボーカロイドの着信音がサイレント。ネルにとってそれは笑えない事態であったが、<br /> 「ああ、もう! どうでもいいわ、探すわよ!」<br />  もう怒りすぎて、何に怒っているのかも分からない。ネルはコール中の携帯電話を首から下げて、雪をかき分け始めた。<br />  1つわかったことがあるとすれば、この女の隣にいると、なにやら理不尽な怒りが湧いてくるということだった。<br />  <br /> 「……おかしい。このあたりなんだけど」<br /> 「見つかりませんね……あの、亞北さん?」<br /> 「ネルって呼んで。亞北とか呼ばれるのは嫌」<br /> 「ネルさん。あの、もうすぐバスがなくなりますし、あとは」<br /> 「ここまで探させておいて、帰れとでも言うわけ!?」<br /> 「ご、ごめんなさい」<br /> 「ったく…。あんた、ハクって言ったっけ」<br /> 「はい」<br /> 「同じジャスティスの仲間とは思えないわ」<br /> 「……」<br /> 「正義は、諦めたら終わりなのよ。なかったことと同じになる」<br /> 「……でも、ネルさんが手伝ってくれて、嬉しかったことは……なかったことには、なりませんよ?」<br /> 「バカ、あんたの携帯電話はなかったことになるのよ!」<br /> 「す、すみませ……」<br /> 『あ』<br />  <br />  ハクとネルの声が被った。<br />  雪を透かして光る、淡い色の小さな光が見えた。<br /> 「あったー!!」<br />  叫んで、その小さく薄い携帯電話を雪の中から取り上げたのは、ネルだった。<br />  掘り出して、雪を払って、一通りの動作確認をする。電池パックの部分を開き、ハンカチで拭う。<br /> 「良かった。問題なさそう」<br />  はい、と手渡された携帯電話を開き、ハクは何の気なしにボタンを押した。<br />  ずらっと表示される、登録されていない番号からの着信。<br />  1時間以上前から、今まで、ずっと。<br />  顔を上げると、満足げな表情のネル。<br /> 「……ネルさん、携帯電話が好きなんですね」<br />  何の気なしに言った台詞に、ネルは驚いて言葉を詰まらせた。<br /> 「ちょ、な、なんで知ってるの!?」<br />  それには答えず、ふふ、とハクは笑った。<br />  <br />  灰色に色づいた薄暗い景色のなか、白髪の少女は笑い、金髪の少女は怒りを露に。<br />  やがてバス停には、最後のバスが滑り込んでくる。<br />  <br />  <br />  <br />  そこから流れる時間を辿り、現在。<br />  距離と、組織と。あらゆる意味で離れた2人は、あの日と同じ雪を眺めて呟く。<br />  直接には出会えない相手との、会話を続ける。<br />  <br /> 「あれから。もうどれくらい、経ったんだろう」<br /> 「あなたからの着信が。登録できた名前が、嬉しかった」<br />  <br /> 「あんたとの腐れ縁は、ずっと続くんだって思ってた」<br /> 「何度も怒られて、謝って、怒られて。……楽しくて」<br />  <br /> 「私は、裏切り者のあんたを許せない。許さない」<br /> 「もう、謝っても、絶対、許してもらえませんね」<br />  <br /> 「……けど」<br /> 「……でも」<br />  <br /> 「ハク……今、何してる?」<br /> 「ネルさん……もう一度、会いたいよ」<br />  <br />  ジャスティスと、アルメリア。<br />  遠く離れた二人の会話は、繋がらない。<br />  <br />  【弱音に飽きた、雪の夕暮れ】おわり</p>

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
目安箱バナー