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量産型の憂鬱　９ - (2008/07/06 (日) 19:15:09) のソース

<p>続き物です。<a href="http://www7.atwiki.jp/vocaloidss/tag/koni">一覧</a><br />
ブログから転載<br /><br /><br />
（壊れた方のカイト視点）<br /><br />
『外で話すのも何だし』と言って、マスターは僕らを家に連れてきた。<br /><br />
ミク：「ここはエレベーターの中ですか？」<br /><br />
カイト：「違うよ！マスターの家だよ！<br />
そりゃ、研究所のエレベーターよりはほんの少し狭いけど、<br />
これでも一応人間の住処なんだよ！」<br />
僕は全力で否定した。<br /><br />
マスター：「うん…狭くてごめん…」<br /><br />
メイコ：「ボーカロイドのユーザーにしては、珍しく質素な暮らしね。」<br />
コノザマ君：「メイコ、失礼だよ！<br />
いくら出されたお茶の容器がプリンカップだったからって、そんなこと言っちゃ駄目だよ！」<br /><br />
マスター：「ごめんね、貧乏でごめんね…って、喧嘩売ってんのかあぁああああ？！」<br /><br />
コノザマ君：「す、済みませんっ！」<br /><br />
マスター：「…いや、良いよ本当のことだし…。<br />
自分が、カイトと一緒に居られるような人間じゃないってのも分かってる。ごめん…。」<br /><br />
ミク：「どういうことー？」<br /><br />
マスター：「…ボーカロイドって、普通はお金持ちの家に居るもんなんでしょ？<br />
なのに、カイトはうちみたいな貧乏な家に来て、しかも授業で毎日こき使われてる。<br />
夜も練習があるし。こんな使い方してるから、カイトは壊れたんだと思う。<br />
カイトが壊れた原因は、こんな貧乏人と一緒に居たからだよ。」<br /><br />
カイト：「…だから、もう必要ないなんて言ったんですか？」<br /><br />
マスター：「うん…。一緒に居ない方が良い。一緒にいたら、またカイトを壊してしまう。」<br />
マスターは僕の目も見ない。<br /><br />
・・・・<br /><br />
メイコ：「どりゃあぁああ！」<br />
コノザマ君：「メ、メイコ、落ち着いてー！！」<br /><br />
コノザマ君が、マスターを庇って、メイコのとび蹴りを受けた<br />
…頭で。<br /><br />
ミク：「お兄ちゃん！」<br />
メイコ：「何やってんのよバカ！」<br /><br />
コノザマ君：「ダメだよメイコ…これは誤解なんだから、ちゃんと話さないと…。」<br /><br />
マスター：「誤解？」<br /><br />
コノザマ君：「僕達は、毎日歌い続けたくらいじゃ壊れません。それは実験のデータで保障されて<br /><br />
ます。」<br /><br />
マスター：「…本当に？」<br /><br />
メイコ：「本当よ。開発時の耐久試験で実証済み。」<br /><br />
マスター：「じゃあどうして…？」<br /><br />
コノザマ君：「はっきりしたことは分かりません。<br />
でも、このところ毎晩アイスの棒を見つめ続けてたら、何となく分かったことがあるんです。」<br /><br />
メイコ：「毎晩遅くまで部屋の灯りついてると思ったら、何してんのよアンタは…；」<br /><br /><br />
コノザマ君：「カイトはユーザーさんのことを、特別だと思ってます。そして、誰かのことを特別<br /><br />
に思うってことは、自分もその誰かに特別だと思って欲しくなることだ、って分かったんです。<br />
僕らとカイトの違いは、その思いを持っていたかどうかだったんです。」<br /><br />
メイコ：「私達は、自分が量産型だって知った時に、自分が特別だと思われたいっていう気持ちを<br /><br />
持ってなかった。だから何とも思わなかった。…ってこと？」<br /><br />
コノザマ君：「うん」<br /><br />
カイト：「？」<br /><br />
コノザマ君：「カイトは、自分が量産型だと、ユーザーさんの特別になれないと思った、って言っ<br /><br />
てました。」<br /><br />
マスター：「…そんなこと思ってたん？」<br /><br />
カイト：「あー、うー…」<br /><br />
ミク：「カイト、頑張れー！」<br /><br />
カイト：「…はい…思ってました。」<br /><br />
マスター：「…」<br /><br />
マスターが俯いて黙ってしまった。への字口をしてる。<br />
…怒ってる…？<br />
マスターの拳が、ぎゅっと握り締められた。そして、<br /><br />
マスター：「はぁー…」<br />
大きなため息をついた。<br /><br />
マスター：「バカだね。」<br /><br />
カイト：「ばっ、バカ？！」<br /><br />
ゆっくりと、言い含めるようにマスターは言った。<br />
マスター：「あんたはもし、明日からあんたのマスターが、そっくりさんの別人と入れ替わったと<br /><br />
したら、どうする？」<br /><br />
カイト：「へ？そっくりさんですか？」<br /><br />
マスター：「そう。顔も声も、そっくりそのまま。今までのと見分けがつかない。<br />
でも、今までのあんたとの記憶はまるで持ってない。<br />
一晩中練習したことも、玄関の床で雑魚寝したことも、合唱際で一緒に喜んだことも、何も知らな<br /><br />
い。」<br /><br />
カイト：「そんなのマスターじゃありません、全く別人じゃないですか！<br />
絶対嫌です！！」<br /><br />
マスター：「でしょ？こっちだってそう思うよ。」<br /><br />
カイト：「へ？」<br />
マスターは勢い良くプリンカップのお茶を飲んだ。<br />
勢いが良すぎたみたい。むせてる…。<br />
カイト：「だ、大丈夫ですかマスター？！」<br /><br />
メイコ：「良かったわね、カイト。」<br />
ミク：「うんうん。これにて一件落着！」<br /><br />
コノザマ君：「え？何？どういうこと？」<br />
メイコ：「アンタはアイスの棒でも眺めて一人で考えなさい。」<br />
コノザマ君：「ええっ？教えてよ！」<br />
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（ミク視点）<br /><br />
メイコ：「と、言うわけだったわ博士。これからどうする？」<br /><br />
お姉ちゃんが電話をかけてる横で、<br />
カイトとマスターは楽譜とにらめっこ。<br /><br />
マスター：「これ明日までに歌えるようになって！」<br /><br />
カイト：「ええっ？！マスターはまたそういうことを…！」<br /><br />
マスター：「だってアンタがいない間、全然授業進まなかったんだよ。<br />
なのに今度の土曜に授業参観で、親御さんの前で合唱しなきゃならないし…！」<br /><br />
カイト：「ええぇええ？！大変じゃないですか！！」<br /><br /><br />
その騒ぎを、お兄ちゃんはにこにこして見てる。<br />
お兄ちゃんの膝の上に座ってみた。<br /><br />
お兄ちゃん：「？どうしたの？ミク」<br /><br />
ミク：「結局、カイトが壊れた原因は分からなかったねー。」<br /><br />
お兄ちゃん：「そういえば…そうだね。」<br /><br />
ミク：「あ、お兄ちゃん忘れてたでしょ？」<br /><br />
お兄ちゃん：「あは、うん。」<br /><br />
ミク：「もう、ボンヤリさんだなぁ」<br /><br />
お兄ちゃん：「でもきっと、もう心配無いんじゃないかな？」<br /><br />
ミク：「どうして？」<br /><br />
お兄ちゃん：「だって、もし何かあっても、今のあの２人なら自分達で解決しちゃいそうじゃない？」<br />
私はマスターとカイトを見た。<br /><br />
２人で楽譜を指差しながら、何か一生懸命話し合っている。<br />
大変だなんて言ってたくせに、なんだか楽しそう。<br /><br />
ミク：「ふふっ、そうだね。」<br /><br /><br /><br />
メイコ：「ええ、分かったわ。じゃあこれから帰るわね。」<br />
お姉ちゃんが電話を切ろうとしてる。<br /><br />
ミク：「待って！ミクも博士とお話するっ！」<br />
私は立ち上がって、お姉ちゃんの傍に駆け寄った。<br /><br />
メイコ：「あーハイハイ。博士？ミクが話したいってさ。代わるわよ。」<br /><br />
電話を受け取った。<br />
ミク：「もしもし、博士ですかー？ミクですよー。」<br /><br />
博士：「おーミク。元気？」<br /><br />
ミク：「元気だよー。」<br />
何だか懐かしい感じがする。変なの。<br /><br />
博士：「気をつけて帰っといでよー。」<br /><br />
ミク：「あのね、博士。」<br />
内緒話みたいに博士にささやいた。<br /><br />
ミク：「もしこれから研究所に帰るのが、ミク達じゃなくて、<br />
ミク達のふりした、別のボーカロイドさん達だったら…<br />
どうする？」<br /><br />
・・・・<br /><br />
ミク：「あれ？博士？…<br />
もしもーし？」<br /><br />
博士：「ミク…」<br /><br />
ミク：「なぁに？博士」<br /><br />
博士：「そこで待ってろ！俺迎えに行くから！<br />
勝手に動いちゃだめだぞ？！」<br /><br />
ミク：「え？ちょ、ちょっと博士ー？」<br />
メイコ：「どうしたの？」<br />
ミク：「博士が迎えに来るってー。」<br />
メイコ：「はあ？」<br /><br />
博士：「メイコとカイトも、絶対一緒に待っててくれよ？すぐ行くから！」<br />
ミク：「ふふふっ、ウソだよ博士。ちゃんと帰るよっ。」<br />
そう言って、ポカンとした顔してるお姉ちゃんに、電話を返した。<br /><br />
ミク：「お兄ちゃん！博士もミク達じゃなきゃ嫌なんだって！ふふふっ」<br />
お兄ちゃん：「？　一体、博士と何の話をしてたの？」<br />
ミク：「えへへ♪」<br /><br />
お兄ちゃん：「？？？」<br /><br /><br />
メイコ：「ちゃんと帰るわよ、何言ってるの。バカね。」<br />
お姉ちゃんは電話に繰り返してた。<br />
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（壊れた方のカイト視点）<br />
コノザマ君達が帰ってから、結局朝まで練習は続いた。<br /><br />
マスター：「上手く行くかな？」<br />
音楽室のドアの前で、マスターが呟いた。<br /><br />
カイト：「大丈夫です。僕がついてます。」<br /><br />
僕もマスターも、何だかワクワクした顔をしてる。<br />
疲れてるはずなのに、不思議。<br />
音楽室のドアを開ける。<br /><br />
「あ！カイトだ！」<br />
「やっと帰ってきたー！」<br /><br />
教室に入ると、子供達が口々に歓声を上げた。<br /><br />
マスター：「今日の授業では、新しいお歌を覚えまーす。<br />
まずカイトが見本で歌うから、よく聴いて覚えてくださいねー。」<br /><br />
生徒達：「はーい」<br /><br />
マスター：「カイト、準備は良い？」<br /><br />
カイト：「はい、マスター」<br /><br />
マスターがピアノを弾き始めた。<br />
目の前では子供達が耳を澄ましている。<br /><br />
僕は歌い始めた。</p>
<p>（終）</p>