軍用兎(ぐんよううさぎ)とは,
大日本帝国が
日清戦争と
日露戦争の後に軍用として
家兎(家畜ウサギ)の飼育(
養兎〔ようと〕)を奨励しましたが,軍に供出する家兎のことです。
太平洋戦争中は,国は食糧量産に多忙な農家に代わって,一般家庭で家兎を飼育するこを奨励しました。家兎はおとなしい動物なので,子どもたち(
少国民)も飼育を担いました。
目次
品種改良
用途
私が2008年(平成20年)に,
太平洋戦争当時子供だった方から聞いた話では,
とのことでした。
食肉
 |
兎肉
|
明治期の
日清戦争や
日露戦争では兎肉は軍需品として扱われたので,増産が奨励されました。その後,軍用兎として家兎の飼育が奨励されました。
現在,兎肉は通販で購入できます(2010年12月10日時点)。インターネットで語句「兎肉」「販売」で検索すると,通販ショップのウェブサイトが出てきます。次のウェブサイトはその一部です。
- 長野産冷凍パック(250g)が1800円(税込)。
- 冷凍 飼育ウサギ(1羽 約1.5kg)が2310円。
右の写真は現在の兎肉です(撮影日:2007年12月)。写真撮影者はドイツ人らしいので,ヨーロッパの兎肉のようです。
毛皮
明治中期になると日本白色種が作出されましたが,
日清戦争や
日露戦争では降雪時期に迷彩色となる日本白色種の毛皮が軍服に使用されました。その後,毛皮はの
軍用機の乗員(航空兵)用軍服や手袋に使用されました。上空の気温は低いため,軽量で柔軟な兎の毛皮は航空兵の防寒を目的とする軍服に適していました。
軍用としての兎毛皮需要は多く,日本陸軍は1919年(大正8年)にオーストラリアから毛皮を約250万枚購入しました。時代が昭和になると,1931年(昭和6年)に
日本アンゴラ協会が設立され,1933年(昭和8年)には
鐘紡(株)が
アンゴラ種の毛の加工を開始します。1935年(昭和10年)には日本陸軍が毛皮を200万枚購入しました。
1941年(昭和16年)には
兎毛皮等配給統制規則が公布され,1944年(昭和19年)には毛皮用兎の緊急増殖措置がとられました。
太平洋戦争当時の米軍機は既に上空での気圧や気温の低下に対処できるように設計されていたので,乗員はTシャツ1枚でも乗務できたそうです。日本軍の航空機にはそのような設備が装備されていなかったようです。
軍用兎増産運動に関する件
- 原文は縦書きですが,横書きに書き換えています。
- パソコンで表示できない漢字が多いため,旧漢字は新漢字に書き換えています。
拝啓 時下初秋爽涼の候
愈々御
清勝奉大賀候
陳者陸海軍省並に
主務省の御指導御援助の下に当社創立後一周年も業績
好調の内に近附居候は偏に農会各位の御理解と軍用兎増産並に供出方面
に於ける積極的御協力の御陰と深く感銘罷在候
然処時局柄被服資源食料資源として軍用兎の必需性は益々増大し其の増
産は一日も忽に出来ざる事情に鑑み七月十三日附新公価の発表を見たる
次第に御座候
然れ共諸般の事情有之新価格に依るも軍用兎増産は採算の上に立ちては
到底見込薄く一に国家観念に根ざす犠牲的飼育に
俟つもの多く必然農会
各位の精神的御指導を
翹望致す次第に有之候
幸にして近来各地に養兎熱
澎湃として湧起り各農会又積極的御奨励の御
計画有之哉に承り感謝に
不堪候既に各県共御手配済の事と在候へ共九、
十月は増殖の最好期にて此の間の生産兎は本年度季節ものとして最終供
出可能に候間時局柄
御用繁多の
御事万々御察申上候へ共此の機を逸せす
軍用兎増産に拍車を掛け以て戦争遂行の一助たらしむべく深き御配慮の
程奉懇願候
敬
具
昭和十七年九月 日
府 郡 町
県 市 村
農会御中
日本兎業株式会社大阪支社
農会宛書簡『
軍用兎増産運動に関する件』日本兎業株式会社大阪支社,昭和17年9月
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軍用兎に関する文献
インターネットで検索しても「軍用兎」という文献は見けられませんでしたが,ポスターを見つけることができました。
太平洋戦争中に作成されたポスターだそうです。ポスターに書かれている標語は「
少国民みんなで飼おう軍用兎」です。
日本白色種と思われるウサギと小学生らしい少年と少女が描かれています。
少國民みんなで飼はう
軍用兎
農林省
大政翼賛會
帝國農會
- ポスター掲載ウェブサイト:「少國民みんなで飼はう軍用兎」『戦中・戦後をともにした動物たち』〈昭和館特別企画展〉昭和館,会期 2008年(平成20年)7月26日(土)〜8月31日(日),p3/6 (PDFファイル)。2010年12月10日(金)閲覧。
このポスターの発行者は,前記ウェブサイトに掲載されているポスターの写真の文字の判別がし難いのですが,推測すると,
農林省と
大政翼賛会(大政翼賛會),
帝国農会(帝國農會)の三者のようです。
文献の検索
図書館に所蔵されている文献を検索するときは語句「軍用兎」ではなく,語句「養兎」(ようと)で検索すると見つかります(検索結果例は節「
養兎」に提示)。
国立国会図書館の蔵書検索システム「
NDL-OPAC」でタイトル名に「養兎」を入力して検索すると81件の文献が見つかります。語句「
家兎」(かと)で検索しても少しあります。次はその一例です。
明治期・大正期・昭和戦前戦中敗戦直後に出版された古い文献は
マイクロフィッシュ (microfiche) 化されているものが多いです(2010年12月10日(金)時点)。なお,国立国会図書館は成人(20歳以上)の人しか入館して利用できません。また,一般の人は館内閲覧のみです。コピーサービスがあるので有料で利用できます。
国立国会図書館へ行くことができない場合は,居住地の市町村区立図書館に国立国会図書館の書籍を取り寄せて,取り寄せた図書館内でのみ館内閲覧ができます。この場合は未成年者(20歳未満)でも利用できるのかもしれませんが,詳細は居住区の図書館で確認してください。国立国会図書館の蔵書の図書館間貸出サービスについては,
- 国立国会図書館ウェブサイト「資料の貸出」。2010年12月10日(金)閲覧。
を参照して下さい。雑誌や新聞などは貸出できないそうです。
居住地の図書館でも語句「養兎」で検索すると見つかりますが,文献数が少なく,やはり古い文献は館内閲覧のみの場合が多いようです。その場合は図書館のコピーサービスを利用することができます。
館内閲覧の場合,文献を携帯電話内蔵カメラやデジカメで撮影することや,ハンディ型コピー機を使用してコピーすることは禁止されているようです。図書館のコピー機を使用しなければならないようです。詳細は図書館へ。
養兎
家畜として兎を飼うことを「養兎」(ようと)と言うようです。
国立国会図書館の蔵書検索システム「
NDL-OPAC」で語句「養兎」で検索すると書名に「養兎」を使用した書籍がいっぱい出てきます。その一例をあげます。国立国会図書館のページに飛ぶと,画面の「書誌情報」の右側にある
全項目を表示をマウスの左ボタンでクリックすると書名の読み仮名が表示されます。
衣川義雄氏の『最新養兎法』は
1932年(昭和7年)に発行されて,太平洋戦争後の
1948年(昭和23年)にも再版されてます。1931年(昭和6年)9月に勃発した
満州事変以後は国策として毛皮の生産が奨励されていました。また,
昭和初期は満州事変とは別の理由で毛皮の需要が出てきていました。それは女性の服装の洋風化です。明治以降何度か養兎ブームが起きましたが,服装の洋風化に伴い毛皮の需要が増加傾向にあったようです。冬にウサギの襟巻をすることは当時の女性にとってはお洒落なことだったそうで。
太平洋戦争後は長野や秋田などで毛皮および食肉兼用種の家兎の品種改良が積極的に行なわれました。また,アンゴラ種の毛は輸出品としての需要が高まりました。
明治中期に兎肉と兎毛皮に着目した田村貢氏は明治25年(1892年)10月に『
兎そだて草』を発行しました。田村氏は同書の中で,
牛豚や家禽を養う人はいるが,飼養が容易で成長が早い,味はよく滋養多く,かつ毛皮もとれるのに家兎を養うものが多くないのを常に遺憾としてこの飼養法を世に出した。
—
田村貢『兎そだて草』
と述べています。
養兎の歴史
本節の参考文献:(独)家畜改良センター 茨城牧場 長野支場「ウサギ改良年表」(特記を除く)
- 明治2年(1869年):清の南部から南京ウサギを輸入。
- 明治3年(1870年):更紗種とアンゴラ種を輸入。
- 明治4〜6年(1871〜1873年):米国からメリケン種を輸入。
- 明治6(1873年):米国産の面更紗種を輸入。
- 明治8年(1875年):イタリア種を輸入。
- 明治9年(1876年):養兎取締令が発令される。
- 明治21年(1888年):日本国内初の養兎家誕生(小松氏)。
- 明治23年(1890年):得能氏が大日本養兎改良協会を創立。
- 大正6年(1917年):創業奨励規則が施行される。
- 大正8年(1919年):日本陸軍がオーストラリアから兎の毛皮を約250万枚購入。
- 大正9年(1920年):兎の毛皮と毛の輸出が活発になる。
- 大正10年(1921年):中田氏が東京に兎肉専門料理店を開業。
- 大正12年(1923年):兎毛皮の輸出量が伸びて供給不足がちになり,兎毛皮の価格が高騰。
- 大正14年(1925年):志保井ローヤルアンゴラ兎研究所が設立される。
- この年にイギリスで毛の利用を目的に飼育されていたローヤルアンゴラ種が日本に5匹輸入される。
- 昭和3年(1928年):兎毛皮の米国への輸出を開始。
- 昭和6年(1931年):日本アンゴラ協会が設立される。
- 昭和8年(1933年):鐘紡(株)がアンゴラ種の兎毛の加工を開始。
- 昭和10年(1935年):日本陸軍が兎の毛皮を200万枚購入。
- 昭和14年(1939年):家兎屠殺制限規則が公布される。
- 昭和16年(1941年):兎毛皮等配給統制規則が公布される(11月13日)。
- 昭和16年(1941年):太平洋戦争開戦(12月8日)。
- 昭和19年(1944年):毛皮用兎緊急増殖措置が実施される。
- 昭和23年(1948年):長野種畜牧場でウサギの繁殖および養兎を開始。
- 昭和25年(1950年):長野,秋田などで毛皮・食肉兼用種のウサギの品種改良が活発となり,審査標準の制定と品種登録が実施される。
- 昭和26年(1951年):「日本白色種」,「日本アンゴラ種」と命名される。
- 昭和27年(1952年):種兎の選定と改良目標が公表される。
- 昭和29年(1954年):
武田薬品工業(株)が兎の系統造成を開始。
- 昭和35年(1960年):アンゴラ種の毛が高値で取引される(1グラム当たり12〜13円)。
- 昭和36年(1961年):兎毛の輸出量が146.9トンになる。
- 昭和39年(1964年):兎の改良目標が改正される。日生研(株)がウサギ(JW-NIBS)の系統造成を開始。
- 昭和41年(1966年):長野で第1回全国種兎共進会が開催される。
- 昭和42年(1967年):長野種畜牧場で肉用兎の交雑試験が実施される。
- 昭和43年(1968年):北山ラベス(株)がウサギ(Kbl:JW)の系統造成を開始。
- 昭和44年(1969年):日本でのアンゴラ種の毛の生産が終了。
- 昭和45年(1970年):日生研(株)の NW-NIBSが閉鎖集団として確立。
- 昭和47年(1972年):北山ラベス(株)のウサギ(Kbl:JW)が SPF化される。
- 昭和48年(1973年):神戸大学で遺伝的高脂血の日本白色種(JW/HLR)が発見される。
- 神戸大学の渡辺嘉雄氏が突然変異の日本白色種を発見し,"HLR (Hyperlipidemic rabbit)" と命名。
- 昭和52年(1977年):ウサギの「アメリカ国家研究会議飼養標準 第2改訂版」が発表される。
- 昭和53年(1978年):JA長野経済連が医薬原料用兎事業を開始。
- 昭和54年(1979年):遺伝的高脂血ウサギの名称を "JW/HLR" から "WHL-Rabbit" に改称。
- 渡辺嘉雄氏(神戸大学)は翌・昭和55年(1980年)に日本国内誌に「WHL (Watanabe heritable hyperlipidemic) ウサギ」の名称で発表し,同年に国際誌"Atherosclerosis"に投稿。この際,"Atherosclerosis" の編集者から名称は "WHHL" とするべきと指摘され,正式名称が "WHHLウサギ" となる。しかし,外国人研究者には "WHHL" が発音し難いことから,通称 "Watanabe rabbit" と呼称されている。
- 昭和55年(1980年):日生研(株)の JW-NIBS が近親交配20世代に達する。
- 昭和60年(1985年):(社)日本実験動物協会が設立される。
- 昭和61年(1986年):日本白色種が農林水産ジーンバンク事業の対象動物となり,遺伝資源として収集および保存される。
- 昭和63年(1988年):長野牧場(現・家畜改良センター茨城牧場長野支場)のウサギをSPF化。
- 平成1年(1989年):長野牧場で日本白色種の中型系の系統造成を開始。
- 平成2年(1990年):長野牧場で大型系日本白色種の譲渡を開始。
- 平成13年(2001年):家畜改良センターが農林水産省から独立し,独立行政法人となる。
参考文献
(著者等の五十音順)
ウェブサイト
書籍
- 青木更吉『みりんの香る街 流山 - 根郷と宿』崙書房,2009年4月20日 第2刷,ISBN 978-4845511488。
- 大野瑞絵『ザ・ウサギ』〈ペットガイドシリーズ〉誠文堂新光社,2004年8月20日,ISBN 978-4416704516。
- 衣川義雄『最新養兎法』西ヶ原刊行会,昭和13年(1938年)5月25日,第5版。
- 衣川義雄「序」『實用養兎の新研究』泰文館,昭和16年(1941年)6月28日。(『実用養兎の新研究』)
- 門崎允昭『野生動物調査痕跡学図鑑』北海道出版企画センター,2009年10月20日。ISBN 978-4832809147。
- 長坂拓也 総監修『ウサギ - ウサギの飼育・医学・エサ・生態・歴史すべてがわかる』〈スタジオ・ムック - Anifa Books 21th〉スタジオ・エス,2006年10月19日,改訂2,ISBN 978-4921197452。
新聞
- 毎日新聞社『毎日新聞 縮刷版』2009.8月 NO.716,p379。
- 木村葉子 “子どもは見ていた - 戦争と動物 (2) - 軍用兎飼育「少国民の務め」”『毎日新聞』2009年(平成21年)8月11日(火)朝刊,13版【くらしナビ】11面。--『毎日新聞 縮刷版』2009.8月 NO.716 に収録。
書簡
- 日本兎業株式会社 大阪支社『軍用兎増産運動に関する件』1942年(昭和17年)9月。-- 戦時資料。
辞典
- 石川忠久,遠藤哲夫,小和田顕 編『福武漢和辞典』福武書店,1990年11月1日 発行,初版,ISBN 978-4828804064。
- 新村出 編『広辞苑 第五版』岩波書店〈シャープ電子辞書 PW-9600 収録〉,1998年。
関連文献
ウェブサイト
- 楳田高士,高木正憲,末包慶太(近畿大学医学部麻酔科学教室)「家兎(日本白色種)の適切な人工的換気条件の検討」『近大医誌 (Med. J. Kinki Univ.)』第6巻 4号,p561〜p565(PDFファイル),1981年。2010年12月10日(金)閲覧。
書籍
- 田村貢 編『兎そだて草』出版地:寒河江村(山形県),明治25年(1892年)10月。国立国会図書館 蔵(マイクロフィッシュ)。
- 深澤正策『實用養兎の新研究』泰文館,昭和16年(1941年)6月28日。(『実用養兎の新研究』)
(書名の五十音順)
関連項目
関連ウェブサイト
(ウェブサイト名の五十音順)
公立および民間組織ウェブサイト
- 北山ラベス株式会社。2011年1月28日(金)閲覧。-- 実験動物の生産および販売を行なっている企業。
- 「動物(家畜)遺伝資源」独立行政法人 家畜改良センター 茨城牧場 長野支場。2010年12月11日(土)閲覧。-- 日本アンゴラ種と日本白色種(大型系,中型系,小型系)の種の保存を担当している行政機関。
- 「動物たちの紹介 羊・うさぎ」神戸市立六甲牧場,2009年。2010年12月11日(土)閲覧。-- 日本アンゴラ種の飼育展示を行っている牧場で,販売できるウサギがいる場合は1匹5000円で販売しています。
- 日本実験動物協同組合。2011年1月28日(金)閲覧。
- 日生研株式会社。2011年1月28日(金)閲覧。-- 実験動物および実験動物用飼料の製造販売などを行っている企業。
個人ウェブサイト
関連ブログ
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更新日:2011年02月01日
最終更新:2011年02月01日 18:03