其の七かしら~ - (2006/08/14 (月) 18:50:45) の1つ前との変更点
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<p>「久しぶりだね」</p>
<p>
・・・・・・いえ、今日昼間に、お会いしたばかりですよ。</p>
<p><br>
また俺は夢の中にいた。夢だと自覚出来る、夢の中に。<br>
今夜の夢は珍しいことに、色つきだった。<br>
風景もはっきり記憶していて、それは初めてのことだった。<br>
何処か・・・目の前に青い海の広がる、白い手摺りに手を掛けて、海を眺めていた。<br>
しかし見ている映像は鮮明なのに、意識は朦朧としていた。<br>
先生の声が背中越しに聞こえたが、俺は振り返らなかった。<br>
今にも倒れそうで、手摺りを離したら倒れてしまいそうで、<br>
先生を振り返ることが出来なかった。</p>
<p><br>
「さっきは、災難だったね」</p>
<p>・・・・・・ええ、全くです。</p>
<p>「楽しい旅の途中なのにね」</p>
<p>
・・・・・・ええ、そうですね。でも、別に構いはしません。</p>
<p>
「そうだね、どうしてお友達に、さっきのこと言わなかったのかな?」</p>
<p>
・・・・・・そんなこと。だって、普通に白けるでしょ?</p>
<p>「本当はこわかったんじゃない?」</p>
<p>
・・・・・・馬鹿にしないで下さい。随分腹は立ちましたけどね。</p>
<p><br>
先生が、さも可笑しそうにクスクス笑うのが気配で感じられた。<br>
馬鹿にしやがってこの○○○○、と心の中で少し汚い言葉で罵ってみた。<br>
それがまるで聞こえたかのように、先生は急に笑うのをやめ、<br>
ゆっくりと近付いて来た。俺のすぐ背後で、先生は足を止めた。<br>
俺の肩に先生のサラサラと長い髪が触れ、耳には吐息がかかるほど、近くに。<br>
そして、先生の躰のいい匂いがした。香水、かな・・・?<br>
でもこの匂い、何処かで・・・感覚はそれ程はっきり知覚しているのに、<br>
俺の意識はすぐにでも飛んでしまいそうだった。</p>
<p><br>
「キミ、自分の所為だって思ってるんじゃない?」</p>
<p>・・・・・・は?</p>
<p>
「自分がいるから、こんな事件が起こったと思ってるんじゃない?<br>
だからお友達にも、言えなかった」</p>
<p>
・・・・・・そんな被害妄想的な発想、僕にはありませんよ。</p>
<p>「わかってるくせに、キミは」</p>
<p>・・・・・・帰って下さい先生、僕は、</p>
<p><br>
先生の言葉を遮り、振り返ろうとして手摺りから手を離したその瞬間、<br>
俺の躰は大きくぐらりと揺れ、手摺りの向こうへ落ちた。<br>
あ、と叫ぶまもなく、意識は深い闇の底に沈んで行った。</p>
<br>
<p>「オイ、大丈夫かよ、貴桐!」</p>
<p>
その声と、自分の躰を揺さぶる手によって目を覚まし、<br>
俺は反射的に、目の前に伸ばされた手を力一杯掴んだ。</p>
<p>「なんだか、うなされてたぞ。大丈夫か?」</p>
<p>不幸にも、その手は石坂の手だった。うわ、キモ。<br>
慌てて手を離したが、石坂は特に気にしていないようだ。よかった。<br>
大丈夫だ、起こして済まなかったと謝ると、石坂はそんなこともあるさ、と言い、<br>
また自分の布団に戻って行った。・・・それにしても。<br>
夢がだんだん、近付いている。ホテルの仄白い天井を眺めながら、そう思った。<br>
もう一度目を閉じる気には、とてもなれなかった。<br></p>
<p>「久しぶりだね」</p>
<p>
・・・・・・いえ、今日昼間に、お会いしたばかりですよ。</p>
<p><br>
また俺は夢の中にいた。夢だと自覚出来る、夢の中に。<br>
今夜の夢は珍しいことに、色つきだった。<br>
風景もはっきり記憶していて、それは初めてのことだった。<br>
何処か・・・目の前に青い海の広がる、白い手摺りに手を掛けて、海を眺めていた。<br>
しかし見ている映像は鮮明なのに、意識は朦朧としていた。<br>
先生の声が背中越しに聞こえたが、俺は振り返らなかった。<br>
今にも倒れそうで、手摺りを離したら倒れてしまいそうで、<br>
先生を振り返ることが出来なかった。</p>
<p><br>
「さっきは、災難だったね」</p>
<p>・・・・・・ええ、全くです。</p>
<p>「楽しい旅の途中なのにね」</p>
<p>
・・・・・・ええ、そうですね。でも、別に構いはしません。</p>
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「そうだね、どうしてお友達に、さっきのこと言わなかったのかな?」</p>
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・・・・・・そんなこと。だって、普通に白けるでしょ?</p>
<p>「本当はこわかったんじゃない?」</p>
<p>
・・・・・・馬鹿にしないで下さい。随分腹は立ちましたけどね。</p>
<p><br>
先生が、さも可笑しそうにクスクス笑うのが気配で感じられた。<br>
馬鹿にしやがってこの○○○○、と心の中で少し汚い言葉で罵ってみた。<br>
それがまるで聞こえたかのように、先生は急に笑うのをやめ、<br>
ゆっくりと近付いて来た。俺のすぐ背後で、先生は足を止めた。<br>
俺の肩に先生のサラサラと長い髪が触れ、耳には吐息がかかるほど、近くに。<br>
そして、先生の躰のいい匂いがした。香水、かな・・・?<br>
でもこの匂い、何処かで・・・感覚はそれ程はっきり知覚しているのに、<br>
俺の意識はすぐにでも飛んでしまいそうだった。</p>
<p><br>
「キミ、自分の所為だって思ってるんじゃない?」</p>
<p>・・・・・・は?</p>
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「自分がいるから、こんな事件が起こったと思ってるんじゃない?<br>
だからお友達にも、言えなかった」</p>
<p>
・・・・・・そんな被害妄想的な発想、僕にはありませんよ。</p>
<p>「わかってるくせに、キミは」</p>
<p>・・・・・・帰って下さい先生、僕は、</p>
<p><br>
先生の言葉を遮り、振り返ろうとして手摺りから手を離したその瞬間、<br>
俺の躰は大きくぐらりと揺れ、手摺りの向こうへ落ちた。<br>
あ、と叫ぶまもなく、意識は深い闇の底に沈んで行った。</p>
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<p>「オイ、大丈夫かよ、貴桐!」</p>
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その声と、自分の躰を揺さぶる手によって目を覚まし、<br>
俺は反射的に、目の前に伸ばされた手を力一杯掴んだ。</p>
<p>「なんだか、うなされてたぞ。大丈夫か?」</p>
<p>不幸にも、その手は石坂の手だった。うわ、キモ。<br>
慌てて手を離したが、石坂は特に気にしていないようだ。よかった。<br>
大丈夫だ、起こして済まなかったと謝ると、石坂はそんなこともあるさ、と言い、<br>
また自分の布団に戻って行った。・・・それにしても。<br>
夢がだんだん、近付いている。ホテルの仄白い天井を眺めながら、そう思った。<br>
もう一度目を閉じる気には、とてもなれなかった。<br></p>
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<a href="http://www8.atwiki.jp/warakiahime/pages/41.html">続く</a>
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