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電蝕 - (2008/01/07 (月) 23:50:09) の1つ前との変更点
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*電蝕とは
電蝕現象とは、2種類以上の金属製パーツが電解液(電気を通す液体)中にある時に
特定の金属が腐食していく現象。PC水冷の場合、まず冷却液が濁り、更に電蝕が進行すると、
腐食した部品から剥がれ落ちた金属片による流路の詰まり、穴あきによる水漏れ等を誘発する。
#contents()
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**電蝕の原理
基本的な原理は小学校で学ぶレモン電池と変わらない。亜鉛板と銅板を
レモン(レモン果汁が電解液)に挿すと豆電球を点ける程度の電流が流れる。
この時、イオン化(酸化)しやすい亜鉛が負極となりイオン化して電解液中に溶け出していく。
PC水冷によく使われる金属では「アルミ>>亜鉛>ニッケル>銅」といった順にイオン化しやすく、
このイオン化傾向(イオン化のしやすさ)の差が大きい組み合わせ程、反応が大きく腐食も早い。
特に、ラジエーター等に使われている事の多いアルミは非常にイオン化傾向が大きく、
電蝕によって食われやすい。CPUヘッド等によく使われる銅とは、イオン化傾向の
差が大きいので相性がかなり悪く、この組み合わせでは電蝕に十分な注意が必要となる。
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**電蝕を防ぐには
電蝕を防ぐには、電蝕の発生条件であるイオン化傾向の異なる
2種類以上の金属が電解液中にあるという状況を作らなければよい。
***2種類以上の金属を使用しない
イオン化傾向が異なる金属同士でしか発生しないので、使用する金属素材を1種類に限定してしまえばよい。
現在流通している製品は銅製ヘッドが主流なので、銅製品で統一される事になる。
但し、同じ金属同士であっても、表面上のミクロレベルの電位差によって電蝕が起こり、
ゆっくりとだが腐食して削られていくので、冷却水に精製水のみを使用する様な運用法は好ましくない。
2種類以上の金属素材を使う場合でも、特にイオン化傾向の差が大きい素材の組み合わせ(例えば銅とアルミ)
を避ける事で、ある程度は電蝕を抑える事は可能だが、イオン化傾向の大きい金属の表面積に対して、
イオン化傾向の小さい金属の表面積が大きければ大きい程、より腐食が激しくなる傾向があるので、
どうしてもアルミ製品が混在してしまう時は、むしろ銅製品の使用を可能な限り抑えた方がよい。
ただPC水冷の場合、CPUヘッド等では銅製品の使用は避けられないので、現実的には難しい。
***金属素材を使用しない
そもそも金属を使わなければ電蝕は発生しないが、CPUヘッド等の熱交換部は
熱伝導率の低い非金属素材の使用は難しい。しかし、使用する金属量を減らせば
それだけ冷却液との接触面積が減り、電蝕の発生を抑えられる。リザーバー等、
熱伝導率が余り性能に影響しないパーツはポリカーボネートやアクリル製を選ぶとよい。
***絶縁性のある冷却液を使用する
冷却液が電解液ではない、つまり電気を通さない絶縁性の液体であれば、
電蝕は発生しない事になる。クーラント液には絶縁性を売りにする製品もあるが、
経年劣化による絶縁性能の低下には注意したい。
***防蝕添加剤を使用する
上記の様な根本的対策が採れない場合、電蝕を防ぐ防蝕添加剤を使用するとよい。
コスト的にも負担は小さいので、既存のパーツ構成を変更したくない場合に向いている。
また、防蝕剤が最初から添加されているクーラント液も多い。但し、劣化や揮発によって
効果は徐々に失われていくので、定期的なメンテナンスが不可欠である。
***水冷パーツをアースに落とさない
アースを落とす事で電気が流れやすくなり、電蝕を促進してしまう場合がある。
全ての金属製水冷パーツはケース等と電気的に接触しない様に固定する事。
特に、直接ケースに取り付けられる事のあるラジエーターは注意。
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**メッキ
アルミのアルマイト処理や、ニッケルメッキ、クロムメッキ等の防錆効果に優れた
メッキ処理を行った製品があるが、これらに電蝕を防ぐ効果があるかというと余り芳しくない。
多くのメッキは酸化被膜を形成する事でメッキ対象の金属を腐食から守っているが、
アルマイトを含むこういったメッキには傷がつきものである。目視で傷が見えなくとも、
マイクロクラックやピンホールといった極小の傷がある場合があり、その部分から電蝕が進む事がある。
全般的に装飾性を重視したメッキ処理が多く、その防蝕性には疑問点が多い。
***アルミアルマイト
単体では耐食・耐磨耗性に優れ、着色も容易である等の理由から、アルミ製水冷パーツの多くに施されている。
しかし、アルマイトはそもそもイオン化傾向が大きいアルミの酸化被膜なので、電蝕に対して決して強い方ではない。
多くの電蝕発生例が報告されており、この点からもアルマイトの防蝕効果は薄いと言わざるを得ない。
また、アルマイトはアルミの熱伝導率を大きく低下させる為、熱交換部への使用には適さない。
***クロムメッキ
銀色に輝くミラーフィニッシュの美しい光沢が特徴で、各種ヘッド製品で散見される。
クロムはアルミ程ではないが、亜鉛とほぼ同等の比較的イオン化傾向の大きい金属であり、
表面の酸化被膜が破れた場合は電蝕がやや進み易い金属である為、防蝕添加剤の使用が推奨される。
本場欧州でのRoHS規制の関係もあり、PC水冷業界ではニッケルメッキへのシフトが見られる。
***ニッケルメッキ
銀色の半光沢メッキで、耐食・耐磨耗性に優れているのでフィッティング等に使用されている。
また、光沢添加剤を使用して装飾用光沢メッキとして各種ヘッド製品に施される場合もある。
ニッケルのイオン化傾向は比較的小さく、電蝕の発生は穏やかとなってくるが、
やはり精製水のみといった運用法は控えた方がいいだろう。
***金メッキ
一部メーカーのヘッド製品の中には、銅製のベースに金メッキを施して、
アルミ製のトップカバーと組み合わせた製品がある。見た目が美しく
腐食に非常に強い金は、一見水冷パーツに向いている様に思われるが、
錆びないという事はイオン化傾向が極めて小さいという事を意味し、
アルミとの電蝕的な相性は一般的に用いられる金属の中では最も悪い。
使用する際は防蝕添加剤を欠かさない様に注意したい。
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**参考資料
-[[「サビ」の雑学 異種金属接触腐食>http://www.daido-sangyo.co.jp/info_401.htm]]
-[[イオン化傾向と電極電位>http://www.inv.co.jp/~yoshi/kigou/ionka.html]]
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*電蝕とは
電蝕現象とは、2種類以上の金属製パーツが電解液(電気を通す液体)中にある時に
特定の金属が腐食していく現象。PC水冷の場合、まず冷却液が濁り、更に電蝕が進行すると、
腐食した部品から剥がれ落ちた金属片による流路の詰まり、穴あきによる水漏れ等を誘発する。
#contents()
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**電蝕の原理
基本的な原理は小学校で学ぶレモン電池と変わらない。亜鉛板と銅板を
レモン(レモン果汁が電解液)に挿すと豆電球を点ける程度の電流が流れる。
この時、イオン化(酸化)しやすい亜鉛が負極となりイオン化して電解液中に溶け出していく。
PC水冷によく使われる金属では「アルミ>>亜鉛>ニッケル>銅」といった順にイオン化しやすく、
このイオン化傾向(イオン化のしやすさ)の差が大きい組み合わせ程、反応が大きく腐食も早い。
特に、ラジエーター等に使われている事の多いアルミは非常にイオン化傾向が大きく、
電蝕によって食われやすい。CPUヘッド等によく使われる銅とは、イオン化傾向の
差が大きいので相性がかなり悪く、この組み合わせでは電蝕に十分な注意が必要となる。
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**電蝕を防ぐには
電蝕を防ぐには、電蝕の発生条件であるイオン化傾向の異なる
2種類以上の金属が電解液中にあるという状況を作らなければよい。
***2種類以上の金属を使用しない
イオン化傾向が異なる金属同士でしか発生しないので、使用する金属素材を1種類に限定してしまえばよい。
現在流通している製品は銅製ヘッドが主流なので、銅製品で統一される事になる。
但し、同じ金属同士であっても、表面上のミクロレベルの電位差によって電蝕が起こり、
ゆっくりとだが腐食して削られていくので、冷却水に精製水のみを使用する様な運用法は好ましくない。
2種類以上の金属素材を使う場合でも、特にイオン化傾向の差が大きい素材の組み合わせ(例えば銅とアルミ)
を避ける事で、ある程度は電蝕を抑える事は可能だが、イオン化傾向の大きい金属の表面積に対して、
イオン化傾向の小さい金属の表面積が大きければ大きい程、より腐食が激しくなる傾向があるので、
どうしてもアルミ製品が混在してしまう時は、むしろ銅製品の使用を可能な限り抑えた方がよい。
ただPC水冷の場合、CPUヘッド等では銅製品の使用は避けられないので、現実的には難しい。
***金属素材を使用しない
そもそも金属を使わなければ電蝕は発生しないが、CPUヘッド等の熱交換部は
熱伝導率の低い非金属素材の使用は難しい。しかし、使用する金属量を減らせば
それだけ冷却液との接触面積が減り、電蝕の発生を抑えられる。リザーバー等、
熱伝導率が余り性能に影響しないパーツはアクリル等のプラスチック製を選ぶとよい。
***絶縁性のある冷却液を使用する
冷却液が電解液ではない、つまり電気を通さない絶縁性の液体であれば、
電蝕は発生しない事になる。クーラント液には絶縁性を売りにする製品もあるが、
経年劣化による絶縁性能の低下には注意したい。
***防蝕添加剤を使用する
上記の様な根本的対策が採れない場合、電蝕を防ぐ防蝕添加剤を使用するとよい。
コスト的にも負担は小さいので、既存のパーツ構成を変更したくない場合に向いている。
また、防蝕剤が最初から添加されているクーラント液も多い。但し、劣化や揮発によって
効果は徐々に失われていくので、定期的なメンテナンスが不可欠である。
***水冷パーツ同士を電気的に接触させない
電蝕が起きる為には、異種金属同士が電気的に接触している必要がある。
レモン電池に例えるなら、銅線付き豆電球の部分がこれを担っている。
ケース等の金属部を通じてパーツ同士が導通している事はよくあるので、
全ての金属製水冷パーツはケース等と直接接触しない様に固定する事。
特に、直接ケースに取り付けられる事のあるラジエーターは注意。
導通の確認にはテスター等で水冷パーツ間の電気抵抗値を計測するとよい。
冷却液を通じて多少は導通しているので、完全な絶縁状態である事は少ないが、
非常に高い抵抗値が出ていればOK。アルミ製トッププレートと銅製ベースを
組み合わせたCPUヘッドの様に、直接異種金属同士が接触してしまっている場合は、
対策を採る事は不可能である為、こういった製品は避けたい。
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**メッキ
アルミのアルマイト処理や、ニッケルメッキ、クロムメッキ等の防錆効果に優れた
メッキ処理を行った製品があるが、これらに電蝕を防ぐ効果があるかというと余り芳しくない。
多くのメッキは酸化被膜を形成する事でメッキ対象の金属を腐食から守っているが、
アルマイトを含むこういったメッキには傷がつきものである。目視で傷が見えなくとも、
マイクロクラックやピンホールといった極小の傷がある場合があり、その部分から電蝕が進む事がある。
全般的に装飾性を重視したメッキ処理が多く、その防蝕性には疑問点が多い。
***アルミアルマイト
単体では耐食・耐磨耗性に優れ、着色も容易である等の理由から、アルミ製水冷パーツの多くに施されている。
しかし、アルマイトはそもそもイオン化傾向が大きいアルミの酸化被膜なので、電蝕に対して決して強い方ではない。
多くの電蝕発生例が報告されており、この点からもアルマイトの防蝕効果は薄いと言わざるを得ない。
また、アルマイトはアルミの熱伝導率を大きく低下させる為、熱交換部への使用には適さない。
***クロムメッキ
銀色に輝くミラーフィニッシュの美しい光沢が特徴で、各種ヘッド製品で散見される。
クロムはアルミ程ではないが、亜鉛とほぼ同等の比較的イオン化傾向の大きい金属であり、
表面の酸化被膜が破れた場合は電蝕がやや進みやすい金属である為、防蝕添加剤の使用が推奨される。
本場欧州でのRoHS規制の関係もあり、PC水冷業界ではニッケルメッキへのシフトが見られる。
***ニッケルメッキ
銀色の半光沢メッキで、耐食・耐磨耗性に優れているのでフィッティング等に使用されている。
また、光沢添加剤を使用して装飾用光沢メッキとして各種ヘッド製品に施される場合もある。
ニッケルのイオン化傾向は比較的小さく、電蝕の発生は穏やかとなってくるが、
やはり精製水のみといった運用法は控えた方がいいだろう。
***金メッキ
一部メーカーのヘッド製品の中には、銅製のベースに金メッキを施して、
アルミ製のトップカバーと組み合わせた製品がある。見た目が美しく
腐食に非常に強い金は、一見水冷パーツに向いている様に思われるが、
錆びないという事はイオン化傾向が極めて小さいという事を意味し、
アルミとの電蝕的な相性は一般的に用いられる金属の中では最も悪い。
使用する際は防蝕添加剤を欠かさない様に注意したい。
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**参考資料
-[[「サビ」の雑学 異種金属接触腐食>http://www.daido-sangyo.co.jp/info_401.htm]]
-[[イオン化傾向と電極電位>http://www.inv.co.jp/~yoshi/kigou/ionka.html]]
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