「ブリッジ…!!」
死体塗れの地に立つブリッジは、それに一瞬にして反応し、振り返った。
「……!?」
目を疑う。マルクルだった。一番来てはいけない人が、来た。動揺するブリッジ。
「何で…何で来た…?」
「お前を助けるため、後理由、聞かせてよ」
なんて執念、ブリッジは呆れつつも、刀を持つ手を緩めなかった。気配は後三つ。
「ボス……速すぎ…」
その内の一つがミニッツであった。息を切らして、ブリッジをチラッと見る。
これはいけないこと。彼らに真実を伝えたくなかったである。だから――
「お前ら……帰れ…今すぐだ」
「お前の指図は受けない。俺には“本当のことを知る権利”がある」
だからダメなのだ。本当のことを知ってしまっては――あんなこと、知らないほうが良い。
ブリッジは不意に悲しい顔をして、それを伏せた。
「く……お前――」
すると、もう一つの気配が、いつの間にかここに一瞬にして現れた。
ワープしたかのようだ。三人ともそれに驚く。
現れたのは男。大柄で、来ているローブは黒く、刀を持っている。
「……焔魔(えんま)か」
「久しぶりだな、火天(アグニ)――いや、まだ『ツクリモノ』か…」
ブリッジはそれを聞いて、焔魔を睨みつけた。赤い目が光る。
するとマルクルが、ブリッジに
「おいおい…あいつ――」
「一つ聞く、お前の目的は何だ?」
それを無視するかのように、焔魔に質問を仕掛ける、焔魔は笑いながら
「ふっ……“星を見るため”かな?」
そして、暗い空、それを見上げて焔魔は続ける。
「帝釈天(カルラ)の力で、世界を開放するのだよ。そして、『創生者』率いる我らが神となるのだ!!そのためには、邪魔なものはすべて排除しなくてはならない。“人”も、な」
「お前……自分が何してんのか分かっているのか!?」
焔魔は薄く笑った。
「火天、お前こそ人のことを言えるのか?あそこにいる小僧に何をしたのか――」
「うるさいっ!!」
無気味な笑み。見ているだけで反吐が出る。
マルクルは、その会話を不思議そうに聞いていた。同様にミニッツもである。
事実、それを隠そうとするブリッジ。焔魔は話を切り替えた。
「ところで……お前も我らと共に来ないか?」
それを聞いて、ブリッジは少し顔が変わる。
「“お前”を維持できる方法もそこにあるぞ――どうだ?来ないか?」
誘惑だ。それが頭を過ぎった。それはブリッジの考えではない。
「お断りだ。お前らと行動を共にするつもりは無い……」
ブリッジは焔魔を睨みつけた。「残念だ」焔魔はため息をついた。
「――ひとつ言うが、俺たちの中では反抗、失敗は二回まで許される。火天、お前は失敗と反抗がそれぞれ一回。つまり…」
両人、刀を構える。同時にマルクルとミニッツは後ろに下がった。
「お前は、死ぬべきものだ」
それを言うと、焔魔はブリッジの間合いに突っ込んだ。そして風のような速さで、刀を振りかざした。
一瞬遅れていたら血だまりができていたろう、ブリッジは反応して斬撃を片手で受け止める。
「くっ!!」
が、重さが異常であった。一気に崩されるところで、ブリッジはもう一方の手――『刻印』で創った炎の刀を大雑把に横に斬りつけた。焔魔はそれを軽々と後ろに跳んで避ける。
しかし、微量の安心、それがブリッジに芽生えた瞬間だった。
「……!!」
片手だ、片手でブリッジは弾き飛ばされていた。数秒コンマの出来事。反応できない。
ブリッジはアスファルトに転がった。次々に事は進む。
「殺すだけでは物足りない……何か戦利品を……」
そう言いながら焔魔はブリッジの首を掴んで持ち上げた。腕が力無く下がる。
「やめろぉ!!」
すると、マルクルである。しっかりと“腕”はついており、眼は紅く色付いていた。
そして、焔魔に向かって走り出す。が、次の瞬間、首に冷えたものを感じた。
「動くなよ?ボスさん。後お前もだよ、チビ」
銃器。聞いたことある声、気配、感覚――。あっさりと止まる足。
「ふ……ツェルか――持ち場はどうした?」
「行き違い、羅刹(らせつ)に俺の持ち場盗られたから、暇つぶし」
「嘘か本当か……まあいい。どうせ嘘であろう」
マルクルは『紋章』を解いて両手を上げた。ミニッツも眼だけを動かす。
ツェルは焔魔の言うことには反応しないで、『スプレッド』をマルクルに突きつけていた。ハンドガンだが、バレルの数が四つと多い。言い換えれば小さい散弾銃。
「ん?」すると焔魔は何か気づいた。そしてそれがわかると笑い出す。ブリッジ含め、焔魔以外には何かわからない。
「ふふふ……忘れていたな。“封印”の事を…全く歳はとりたくない。さて――その眼か」
ブリッジは血の気が引いた。自分を見る目、これは人ではない。欲望にまっすぐな怪物の目であった。
「まだ、封印は健在しているようだな……傷一つついてない」
そう言いながら、焔魔の大きい手と欲望が近づいてきた。ブリッジの額から汗が異常にでる。焔魔の口元が徐々に薄く笑い出していた。
すると、ブリッジは急に刀を落とした。そして向かってくる手を両手で捻って、焔魔と自分の両方を倒した。焔魔は叩きつけられると同時に、間合いをとる。大柄な体に似合わず、人から外れた瞬発力だ。
ブリッジはよろよろと立ち上がる。首からは血が流れ、口からも血は流れていた。
そして転がる刀を拾い上げた。
「これが…あいつらの目的……これさえなければ――」
「何をする?」
刀――『月読刃(つくよみのやいば)』の刃を、ブリッジはあっさりと折った。シュワァァと炭酸のように出て行く“魂”今までこれで殺めてきたものの魂全部。
そして、折った小さい刃を自分に向けた。
「ブリッジ!?やめろぉぉ!!」
マルクルの声が響く。その声、焔魔の薄笑いは一瞬にして消えた。
「お前…正気か!?そんなことをしたら――」
声なんて届きはしない。“信念の中の決意”には――
「……っ!!」
次の瞬間、ブリッジの視界の片方は赤で染まった。鮮血が地を汚すと共に、先程の刃がブリッジの片目を深く傷つけた。
駆け回る激痛。片目を押さえ、息を切らしているブリッジ。その顔は少し笑っていた。
「ブリッジ……そんな…」
ミニッツは泣きそうな顔をして、血塗れのブリッジを見た。背けたい光景、人が傷つくこととはここまで他人を傷つけるものなのか。悲しい、負の感情と笑っているブリッジ。
彼は強すぎた。弱いところは絶対見せない強さ。
「……ぐぁぁぁぁぁっ!!!」
そして突然の第二次の激痛。次は眼から炎が燃え盛った。
一瞬にして解かれた封印は、彼自身を焼き尽くすほどの炎をあらわにした。
ブリッジはそれを必死に片手で抑えつけ、堪えた。指の隙間から炎が漏れる。
「くそ……何でそこまで…」
マルクルはそれを見て、膝をついた。
絶望の叫び声と灼熱の炎が、宙へと広がっていく――
最終更新:2006年11月19日 13:57