「ツェル!!」
青い髪をなびかせて女がツェルのほうに駆け寄る。そしてドン!と思い切りツェルを押した。
「心配したんだからぁ!」
涙声。押されたツェルはよろよろとひるむ。
「おいおい……一応俺は怪我人だぞ?」
この一言にマントの男が呆れて
「…ったく、鈍いなお前は。フリムは一応これでも俺たちの中で、一番お前のことを心配してるってのによ」
「べべべ別に、心配なんか…。ゾ、ゾットこそ、『仇をとってやる~』とか言っていなかったっけ?」
女――フリムは、深くマントを羽織るゾットを睨む。ツェルは大笑いして
「あっはっは……俺って人気者?」
調子をこいて皆に聞こえるように呟いた。
「調子に乗るな、ツェル」
「お堅いねぇ、フォルス公爵殿」
ツェルは苦笑いして、フォルスの顔を見る。フォルスは無表情。
そこに、
『で、ツェル収穫は……?」
「敵に、あんたの名前を言っちまった。…感ずかれてないから大丈夫だろう。あと、“お嬢様”は連れて行けなかったけど、“ディルキー”のメンバー三人の能力を把握。刀男はよくわからねぇが、他は完璧。それと――」
ツェルは色々書いてある紙を、懐から取り出した。少し焦げているが文字に影響は無い。
「――アルティスタの実験評価表と実物の情報、生物実験の情報、実験成果、他数点」
『なるほど……しかし私の名前を言わないのが普通だ。それ以外はよくやった』
創生者の声。褒めているのか褒めていないのか…?本人の声ではとうてい分からない。
「だけどさ、しくじるぐらいなら『リミット』使えば良かったんじゃない?」
「いやあれ使うと、“エリウスお嬢様”も死んじゃうからね」
フリムが「なるほど」と言って座り込む。
ここでの“時”がゆっくりと過ぎる――
※
「あと、三個と」
マルクルがサイコロをフックに吊るして確認。そして走る。
すると何か違和感があった。変な……感じ?
同時に危機感を感じて振り返る。
狭い空間には空気以外なかった。気のせいと思うほど透き通っている。寒気もする。
マルクルは汗ばんで、しばらくキョロキョロと首を振って周りを見た。やはり何も無い。
気のせいか
そう思った。そして走っていった
しかしそれが……
※
しばらくして、自分の体が火照っていることに気づいた。熱があるらしい。体がそう叫んでいる。
「…あと…一個」
マルクルがそう呟いた瞬間、膝をついてしまった。だいぶ体にガタが来る。頭がボゥッとする。
「!」
その時、歩いてくる兵士の気配に感ずいた。マルクルは一瞬のうちにサッと身を隠す。
危なかった。兵士は次の一秒でここを通り過ぎていく。
マルクルは、汗ばんだ額を拭って作業に取り掛かった。次の倉庫へ走る。
「完了……はぁ…はぁ……」
最後の設置が終わった時、マルクルの体力は限界であった。動くことさえキツイ。
「ここで中断したら…」
でも、そう想像すると自然に足が進む。
そしてマルクルは敵の“工場”によろよろと足を運んでいった。
※
「おい……血が足りねぇ…帰るぞ…」
「え……!」
無責任なブリッジの一言にエリウスは驚いた。そして
「仲間を見捨てる――」
「いや……今俺たちが…行ったら…足手まといだ…死ぬかもしれない……」
叫びそうになるところを、ブリッジが止める。
「…どう言う…事ですか?」
「作戦だ。まず倉庫に…センスの悪いプラスチック爆弾を…仕掛ける。それで工場に侵入……ここでかかった時間は二十分…。で、浸入後……燃料タンクにセットして…脱出。その時に……出来るだけ情報を集めて……な」
――ドサッ
自らの弱さに、うつむいてブリッジが呟き、
倒れた。
※
「う……」
“工場”の入り口に差し掛かった時、ふらっときた。
休まないとまずい……。
だが、気絶する、病気にかかる、脳震盪がする、全部違かった。何かが、内臓だろうか?モゾモゾ何かが呻いている感じで、とてつもなく気持ちが悪い。
二分ぐらい休んでまた進む。
そして兵士が見張っていることを思い出して、見つからないように脇道の木々を利用して跳びかって、そして首を手刀で兵士を気絶させた。音は風の音だけ。
しかし、息を殺すことが段々できなくなってくる。
入り口、中腹部、タンク室、実験室――
まだ入り口だ。
でも、中腹部から後ろは兵士はいないはず。
後は仕掛けて爆破、で終わる。そしたら基地で休養を取ればいい。
そう思うと、速く終わらせて休もうと言う気持ちが膨れて、体が楽(?)になった。これなら少しはマシ。
そしてマルクルは、中腹部に急ぐ。
※
中腹部は意外に兵士はいなかった。殺風景で天井がパイプで入り組んでいる。
「はは……もう終わる…」
安心感からそう呟くと、奥――タンク室へ。
だが、甘くは無かった。そのには“幹部レベル”がいた。
「浸入者ですか…仕事開始?」
十代の女だ。武器は無い。
「……誰だ?…俺の…邪魔を…するなよ…」
「一応『雇われ』なんで、仕事しないと金が貰えないんですよ」
汗だくなマルクル。何も出来ないくらい、ふらふらでやばい。
そういえばこんな事が一度あった。
「あなたを……殺しますね」
そう考えているマルクルを無視して、ニコッと笑顔を作ると、一瞬にしてに距離を詰めた。
ハッとしてマルクルは守りに入るが、遅い。
女は張り手で、マルクルを吹飛ばして追い討ちをかける。
体の熱で動かないため、はっきり言ってマルクルは無防備。
マルクルは、ぼこぼこにされた。
余裕の女、マルクルは必死に立ち上がろうとする。
「あ~、つまんない。『刻印』でさっさと……ね」
そう言って、女の『刻印』が光る。そしてこう言った。
「“黒の爪”の名の下に雹のような刃を!」
――黒の爪
その時だ。
マルクルは、女を弾き飛ばした。
熱なんて関係ない。
体の中の動いているものが出そうでも関係ない。
今のマルクルには、怒りしかない。
「お前……」
「少しはやるじゃないの」
弾かれても女は余裕だ。刻印が輝く。
マルクルは息が上がって、しかし全身に力が入っている。
「お前が…兄さんを…殺したのか…」
そして怒り混じりの声。それは呪文の様。
「訳が分からないわ。まあ、『神の村』なら崩壊させたけど」
そう言った一言に、マルクルは冷静さを失った。
体は完璧にガタがきているのに、殺意、本能だけで立っている。
体の中では、モゾモゾ動くものが激しく動いていた。
「まあ、あなたはどっちにしろ死ぬんだから」
女は、『刻印』をマルクルに向けた。マルクルの腕と脚が一瞬にして凍る、動けなくなる。
マルクルはあがいた、だが動けない。体は動かないし、脳は働かない。
「ちょっと待って、今いいものを見せてあげる」
女はそう言って、太い“根っこ”を一本持ってきた。
「『神根』これで、村一帯を崩壊させたの冥土の土産で教えとくわ」
それを見たマルクル。
ほんの少しの理性でこう思った。
うずく者が、
出る
力が、
共鳴して
そして、理性は飛んだ。吹き飛んだ。
抑えきれない力が、現れる。
「きゃあ!」
マルクルの中で全てが解放された。
“悪魔の力”
※
「はぁ~ボス無事かなぁ?」
ため息をついてミニッツ。
そして、こう続けた。
「“あの力”は出てないよね……あれは…怖いから、出ないで欲しい、な…」
空は黒くなる。
紫混じりに
最終更新:2006年09月03日 18:31